『カリフォルニア・ダウン』:2015、アメリカ

ロサンゼルス消防局救難隊で隊長を務めるレイ・ゲインズは、隊員のジョビー、マーカス、ハリソンが乗るヘリコプターを操縦して現場へ向かっていた。ヘリコプターにはTVリポーターのセリーナ・ジョンソンとカメラマンのディランが乗り込み、救難隊を取材していた。レイはアフガニスタンでも救難隊として活躍し、その頃からマーカスと組んでいる。救難隊はナタリーという女性が車ごと崖下へ落ちそうな現場へ到着すると、ジョビーが降下して救助しようとする。しかしジョビーの腕が挟まって動けなくなったため、レイは操縦を任せて降下した。彼はヘリが墜落する危機を回避し、ナタリーを救助した。
地震学の専門家であるローレンス・ヘイズ教授はカリフォルニア工科大学で講義し、自分たちの調査によって予知は可能になると話した。ロサンゼルスで大地震が起きる可能性を生徒に問われた彼は、サンアンドレアス断層があるので時間の問題だと告げる。地震ラボに戻った彼は共同研究者のキム・パクから、ファルコで群発地震が観測されたことを聞かされる。2人は磁気パルスが上昇した際に地震が起きるという仮説を確かめるため、その近くにあるネバダ州のフーバー・ダムへ向かった。
レイは妻のエマと別居中だが、娘のブレイクとは今でも仲良くしており、翌日は大学へ送る前にキャンプへ行く予定が入っていた。娘から電話を受けたレイは一緒に夕食を取ろうと誘うが、エマの恋人であるダニエルと先約があると言われた。電話を切ったレイは、エマから届いた離婚書類を確認した。フーバー・ダムを調査したローレンスとキムは磁気パルスの上昇を確認し、仮説が証明されたと喜んだ。その直後に激しい揺れが発生し、ダムは崩壊した。キムは逃げ遅れた少女を救い、命を落とした。
レイは消防局からのメールで、大地震が起きたので戻るよう指示された。彼はダニエルの家でブレイクと会い、明日は現地へ発つことを告げた。超高層ビルを手掛ける実業家のダニエルは、豪邸で暮らしていた。大学へ送ることが出来なくなったとレイが言うと、ダニエルは自分が送ると申し出て「サンフランシスコで会議の後、シアトルへ行く」と述べた。エマがダニエルと同居を始めることを知ったレイはショックを受けるが、平静を装った。彼は帰り際、離婚書類に署名することをエマに告げた。
ダニエルは専用ジェット機にブレイクを乗せてオークランド市営空港へ飛び、サンフランシスコの本社ビルに赴いた。ダニエルが会議に出席している間、ブレイクはロビーで待つことになった。ラボへ戻ったローレンスは、セリーナの取材要請を承諾した。彼は地震の予知が可能だと立証されたことについて、セリーナに話そうとする。そこへ助手のアレクシーとフィービーが来て、断層沿いの磁気パルスがサンフランシスコで最大になっていることを知らせた。地図を見たローレンスはプレートの境界線がLAからサンフランシスコまで続いていることを確認し、大規模な地震が発生することを断言した。
ブレイクは就職面接を受けにきたベンと、その弟であるオリーに出会った。面接の時間が来てベンが去ると、ブレイクはオリーと会話を交わす。エマはホテルの最上階にあるレストランへ出掛け、ダニエルの姉であるスーザンと会食を取った。エマがヘリの修理に向かうレイからの電話を受けた直後、大地震が発生した。レイはエマがいる場所を聞き、なるべく大勢を屋上へ避難させるよう指示して「すぐ行く」と告げた。ローレンスたちは机の下に身を隠し、地震活動がサンフランシスコへ向かっていることを知る。
ダニエルの会議が終わると、ブレイクはオリーに別れを告げた。ブレイクとダニエルが地下駐車場で車に乗り込んだ直後、地震が起きた。ダニエルは運転手に、急いで外へ出るよう指示した。しかし床が崩れて車は壁に激突し、運転手は即死した。ブレイクは脚が挟まって車から出られなくなり、ダニエルは「助けを呼ぼう。すぐ戻る」と告げて地上へ向かった。彼は警備員を発見し、「地下に女の子がいる」と告げる。しかしビルの天井が崩れるのを見たダニエルは怖くなり、そのまま逃げ出してしまった。
エマはスーザンを見つけ、屋上へ誘導しようとする。しかしスーザンが他の客と共に1階へ向かったため、エマは1人で屋上へ向かった。レイはヘリで現場に到着し、エマは崩れ落ちるホテルから間一髪で脱出した。ブレイクはレイに電話を掛け、助けを求めた。レイは詳しい状況を尋ねようとするが、すぐに繋がらなくなった。彼はエマに、「地下だと、すぐには助け出されない。地上の救助で精一杯だ。俺たちで助ける」と告げた。
ベンとオリーは地下駐車場へ行き、ブレイクを見つけた。ベンはジャッキを使って梁を持ち上げ、ブレイクを車から引っ張り出した。3人はビルから脱出し、ブレイクは両親に連絡を取るため電気店を探す。地震ラボでは揺れが収まっていたが、磁気パルスが上昇していることを知ったローレンスは「まだ終わってない」と口にした。彼は放送を使って人々に警告するため、セリーナやメディア・ラボの学生たちに協力を要請した。
ブレイクはチャイナタウンの電気店で電話機と電話線を見つけ、両親に無事を知らせた。レイは現在地を聞くと、「迎えに行く。高い場所に登れ。見つけやすい。マロリーの誕生日に行ったコイトタワーだ」と告げる。ヘリのギアボックスが損傷したため、レイはエンジンを停止させた。ヘリはベーカーズフィールドのショッピングモールへ不時着し、使えなくなった。レイは火事場泥棒を殴り押して盗難車を奪い、エマと共にサンフランシスコへ向かう…。

監督はブラッド・ペイトン、原案はアンドレ・ファブリツィオ&ジェレミー・パスモア、脚本はカールトン・キューズ、製作はボー・フリン、製作総指揮はリチャード・ブレナー&サミュエル・J・ブラウン&マイケル・ディスコ&トビー・エメリッヒ&スティーヴン・ムニューチン&ロブ・コーワン&トリップ・ヴィンソン&ブルース・バーマン&ヒラム・ガルシア、製作協力はウェンディー・ジェイコブソン、撮影はスティーヴ・イェドリン、美術はバリー・チューシッド、編集はボブ・ダクセイ、衣装はウェンディー・チャック、視覚効果監修はコリン・ストラウス、音楽はアンドリュー・ロッキングトン。
出演はドウェイン・ジョンソン、カーラ・グギーノ、ポール・ジアマッティー、アレクサンドラ・ダダリオ、ヨアン・グリフィズ、アーチー・パンジャビ、ヒューゴ・ジョンストーン=バート、アート・パーキンソン、ウィル・ユン・リー、カイリー・ミノーグ、コルトン・ヘインズ、トッド・ウィリアムズ、マット・ジェラルド、アレック・アトゴフ、マリッサ・ニートリング、モーガン・グリフィン、ブリアンヌ・ヒル、ローレンス・コイ、フィオナ・プレス、デニス・コアード、ベン・マッカイヴァー、ニック・アレン=ドゥカット、クレア・ラヴァリング他。


『キャッツ&ドッグス 地球最大の肉球大戦争』『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』のブラッド・ペイトンが監督を務めた作品。
『刑事ナッシュ・ブリッジス』や『LOST』など人気ドラマの製作総指揮を務めて来たカールトン・キューズが、長編映画の脚本を初めて手掛けている。
レイをドウェイン・ジョンソン、エマをカーラ・グギーノ、ローレンスをポール・ジアマッティー、ブレイクをアレクサンドラ・ダダリオ、ダニエルをヨアン・グリフィズ、セレーナをアーチー・パンジャビ、ベンをヒューゴ・ジョンストーン=バート、オリーをアート・パーキンソン、キムをウィル・ユン・リー、スーザンをカイリー・ミノーグが演じている。

ナタリーを救助するオープニングのシーンは、もちろん主役であるレイがいかに優秀な救難隊員であるかをアピールするために設けられている。
ところがレイはヘリコプターを操縦しており、ロープで降下してナタリーを引き上げようとするのはジョビーだ。
それだと「レイの活躍」をアピールするには弱いんじゃないかと思っていたら、ジョビーがトラブルに巻き込まれて動けなくなり、レイが行く展開が用意されていた。
ザ・ロック様の前では、仲間は所詮、引き立て役に過ぎないのだ。
これはザ・ロック様のスター映画なので、主役を輝かせるために周囲のキャラを利用するのは当然のことだ。

ナタリーの救助シーンでは、一刻を争うような事態であり、下手をすると人命が失われるかもしれないのだが、救難隊員には何となく余裕が感じられるし、ジョークまで口にしたりする。
ローレンスはロサンゼルスで大地震が起きる可能性について「時間の問題だ」と言うが、だとしたら深刻な状況なのに、なぜかニヤニヤしている。フーバー・ダムを調査した彼は磁気パルスの上昇を確認するが、ってことは地震が起きることを意味しているのに、楽しそうに浮かれている。
そういうTPOを無視した能天気なノリが、序盤では見られる。
さすがに大規模な地震が発生した後は、レイにしろローレンスにしろ真剣な態度を取るが、ただし映画全体を包む「何となく能天気なテイスト」は最後まで延々と持続している。

ヘリコプターのトラブルで不時着を余儀なくされても、レイもエマも傷一つ負わずに助かる。先へ進むために車を略奪するが、「盗難車で火事場泥棒が使っていたから奪っても悪くない」という言い訳が用意されている。
サンフランシスコへ向かう途中で大きな地割れが発生し、先へ進めなくなると、セスナ機を所有している老夫婦に出会って借りることが出来る。コイトタワーが炎上して入ることが無理なのでブレイクの居場所は分からないが、沿岸警備隊のモーターボートで走り回っていたら簡単に見つかる。
他にも大勢の市民がいたのはずだが、なぜか高層ビルに避難しているのはブレイクたちだけ。
ってな感じで、都合の良いラッキーが次々に巻き起こる。

レイはセスナ機でサンフランシスコの上空まで来るが、着陸する場所が無いってことで、パラシュートを使ってエマとタンデム・ジャンプで降下する。「パラシュート降下のアクションを見せたいだけだろ」ってのが、バカバカしい形で露呈している。
サンフランシスコでは建物の崩壊で行く手を塞がれ、モーターボートで海からコイトタワーへ向かうが、これまた「大津波に襲われるが何とか脱出する」というシーンを見せたいだけってのが透けて見える。
見せたいシーンから逆算した構成でも、別に構わないよ。
だけど、「それありき」ってことが、あまりにも不恰好な状態で見えちゃってんのよね。

この映画は災害パニック映画におけるセオリーを、ことごとく無視する。こういう道を進むべきではないかと思う選択肢を、ことごとく選ばない。
たぶん製作サイドは、セオリーを裏切ることで新鮮味を出そうとか、災害パニック映画の新たな可能性を見出そうとか、そういう意識で作っているわけではない。
細かいことは考えず、適当に作った結果だろう。
何しろ、そうやってセオリーを無視した結果が、まるで良い方向に転がっていないのだから。

例えば、大きな災害が起きる前の「ほんの小さな兆し」が用意されておらず、前兆の段階で甚大な被害が出ている。専門家が気付いたり警告したりする前に、大規模な災害が発生してしまう。
後半に入ると、セリーナが大学からの緊急放送で「今回の地震を予告したのに無視された」と言っているけど、予告なんて無かったでしょ。
そんで最終的には「警告によって大勢が避難した」ってことになり、ニュースで「家族が友人が身を寄せ合い無事を喜んでいます」と報じられ、セリーナがローレンスに「貴方のお蔭よ」と言う。
ただ、助かった市民もいるだろうけど、大規模な地震や大津波に人々が巻き込まれる様子を描いているので、「いやいや大勢が死んでるだろ」と言いたくなる。それに警告した時点では既に大地震が起きていたし、避難しようとしても間に合わなかった人が大半じゃないかと。

レイは別居中で、娘のブレイクは妻と暮らしている設定だ。そこを上手く使おうとするなら、「娘とはギクシャクしている」という形にしておいた方が、何かと便利なはずだ。なぜなら、「地震が発生し、レイがブレイクを救うことで、不和だった関係が修復される」という展開に使えるからだ。
しかしレイは、ブレイクと仲良くやっている。エマにしても、離婚書類は送っているが、レイとの関係が悪いようには見えない。
なので「災害によって家族の関係が修復される」というドラマは、おのずと弱くなるわけだ。
一応、「離婚を決意していたエマが考えを改め、レイとヨリを戻そうとする」という部分では、「家族関係の変化」が見られる。しかし、そのゴールから逆算した時に、初期設定は違うんじゃないかと。

被害に遭う複数のグループを置かず、ほぼ「ブレイクとベン&オリーの兄弟」だけに限定している。
たまにダニエルが登場するが、こいつはブレイクを置き去りにした辺りで存在意義を抹消され、いつの間にか消えてしまう。
ダニエルは完全なるレイの噛ませ犬で、だからエマが別れを決意したら、もう役目は終了なのだ。
こいつを「卑劣なクズ野郎」として扱いたいがために、「エマが離婚を考えている」という設定にしているようなモノだ。

レイとマーカスはアフガニスタンから組んでおり、救難隊の中でも特に強い絆で結ばれた「戦友」という設定なのだが、それが物語の中で全く活用されていない。
レイは次女のマロリーを事故で亡くしており、一家は3人とも心に傷を負っているという設定なのだが、これまた物語の中で全く機能していない。
レイたちがマロリーのことを思い出すシーンはあるが、それがキャラの行動やストーリー展開に大きな影響を与えることは無いのだ。

マロリーの事故死については粗筋で全く触れていないけど、そこをカットしても大した影響は無いのだ。
ホントなら「娘を救えなかった罪悪感からエマ&ブレイクと距離を置いてしまい、それが離婚の原因になった」ってことで、そこから「今回の地震で家族を救うことによって、改めて大切さに気付いて向き合おうとする」という関係修復のドラマに繋げるべきだと思うのよ。
でも、そんなのは全く描かれていないわけでね。
他にも「ブレイクが携帯番号をオリーに教える」など、充分に使えそうな設定、後で効いてくるように思える設定が、ことごとく無造作に捨てられている。

何より凄いセオリー破りが、「主人公が家族のことしか考えない」ってことだ。
主人公が被害に遭う側の人間なら、それは当然のことだ。しかしレイは救難隊員なのだから、普通に考えれば被害に遭った市民を救うために全力で取り組むべきだろう。
ところがレイは、エマとブレイクを救助することだけに全力を尽くすのだ。多くの市民が地震の被害を受けているのに、そんなことはお構い無しだ。
「自分の家族さえ助かればいい」という、ものすごく割り切った主人公なのである。

まずレイがエマのいるホテルへ向かっている時点で、既に大規模な地震が発生している。だから「エマを救助したから、もう安心」ってことじゃなくて、周辺で被害に遭っている市民を捜索したり助けたりすることを考えても良さそうなモノなのに、そんな意識は全く無い。
そしてレイはブレイクから助けを求められると、何の迷いも無く現場へ向かう。一応は本部に了解を貰っているけど、そういう問題ではない。
っていうか、許可する本部も本部だ。しかもレイはヒラの隊員じゃなくて、隊長なんだぞ。
隊長が職務を放棄し、市民より自分の娘の救助を優先するんだから、凄い映画である。

レイには「救難隊員として、一人でも多くの市民を救わなければ」という使命感や責任感など、これっぽっちも無い。
だからベーカーズ・フィールドの上空を通過する時に「最も被害が大きい」と口にするが、「そんな地域だからこそ自分が何か出来ることは無いか」という意識は全く湧かない。被害が大きいことは認識しているが、そんなことよりブレイクが大事なので、さっさと車を盗んで走り去ってしまう。
サンフランシスコで大きな揺れが起きた時は、ようやく周囲の人々に避難を指示し、座り込んでいた女性を抱えて走っている。
だけど、その行動は「何も救助活動をやっていないわけじゃないんです」という、カッコ悪い言い訳みたいなモンだ。

(観賞日:2017年9月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会