『原始獣レプティリカス』:1961、デンマーク&アメリカ

ラップランドの銅山で採掘作業中の鉱山技師たちは、ドリルに付着した血を見て驚いた。ドリルの土を剥がすと、何かの皮膚や化石らしき物が見つかった。現場監督のスヴェン・ヴィルトルフは作業を中止し、コペンハーゲン大学の古生物学者と連絡を取ることにした。肉片が動いていることに、彼らは気付かなかった。1時間後、コペンハーゲン水族館のマルテンス教授と同僚のダルビー、新聞記者のハンス・カールセンが現場に来る。肉片を調べたマルテンスとダルビーは、凍ったまま埋まっていた巨大生物の化石だろうと分析した。
次の日、コペンハーゲンに戻ったマルテンスは長女のリザに車で送ってもらい、水族館に到着した。そこへ次女のカレンが来て電報を届け、マルテンスはスヴェンが採掘現場で発見した新しい骨を持参することを知った。彼はカレンに、空港まで迎えに行くよう頼んだ。水族館に着いたスヴェンは、マルテンスとダルビーに新しい骨を見せた。凍っていた部分についてスヴェンが訊くと、巨大爬虫類の尻尾に似ていること、隣の冷凍室で保存していることをマルテンスたちは教えた。
同席していたカレンは、早くスヴェンに街を案内したいと言う。そこへリザが恋人のピーターソンを連れて現れ、マルテンスとダルビーに会わせた。彼女はスヴェンとカレンに同行し、部屋を後にした。マルテンスはダルビーに、ピーターソンを見張り役に使うことを告げた。深夜まで残って仕事を続けたダルビーは、冷凍室の肉片からサンプルを採取した。研究室に戻った彼は、作業の途中で眠り込んでしまう。冷凍室の扉が開いたままになっており、温度が上昇してしまった。研究室へやって来たマルテンスとリザは、尻尾が解凍されているのを見て驚いた。
尻尾の傷口が治癒していることを知ったマルテンスは、ユネスコのコニー・ミラー博士と国連のマーク・グレイソン准将に来てもらった。ダルビーはグレイソンに、滞在中の連絡係を務める兵士のブラントを紹介した。マルテンスは記者会見を開き、尻尾が生きていて急速に成長していること、水槽で保存していることを説明した。記者の発案を受け、彼は成長中の生物をレプリティカスと呼ぶことにした。生物の存在が新聞で大々的に報じられた後、ピーターソンは水槽で何かが動いた音を聞いて警報を鳴らす。しかし水槽を調べたマルテンスは「異常は無い」と言い、自覚症状の無い動きだと説明した。
退屈を感じ始めたグレイソンは、ブラントから観光を勧められた。彼はコニーを誘ってドライブに出掛け、観光スポットを巡った。途中でブラントと合流し、3人はチボリ公園を巡ったりナイトクラブで歌を聴いたりした。雷鳴の轟く夜、研究室は停電になり、居残りで仕事をしていたダルビーは懐中電灯を持って水槽を見に行く。驚愕した彼は電話を掛けようとするが、不通になっていた。彼はピーターソンに、警察へ行って人を呼んで来るよう指示した。
ピーターソンは警察署に行き、警官のオルセンに「怪物が逃げた。早く捕まえないと」と訴える。マルテンスやリザたちが研究室に来るとダルビーの姿は無く、レプリティカスは逃げ出していた。グレイソンは対策本部を設置し、警察署長のハッシングたちに協力を要請した。沿岸部の農場にレプティリカスが出現したという知らせが届き、すぐに軍隊が出動した。軍隊が農場に到着すると、農場主は14頭の牛が犠牲になったことを話す。レプティリカスを発見した軍隊は攻撃するが、ダメージを与えられなかった。海辺へ向かったレプティリカスは民家を襲い、グレイソンが火炎放射器を使うと、レプティリカスは火だるまになって海に逃げ込んだ。
レプティリカスは再生して戻って来ることが予想されるため、沿岸警備艇が捜索に向かった。浅瀬にいるレプティリカスを発見した警備艇は、グレイソンの指示で次々に爆雷を発射した。それを知ったコニーは、「水中で粉々になったら全てを回収できない。また再生する」と指摘する。グレイソンは慌てて攻撃の中止を命じるが、片脚が千切れて海底に残された。マルテンスは心臓発作を起こし、病院に運ばれた。レプティリカスは貨物船や漁村を襲った後、海水浴場に出現した。軍隊が待ち受ける中、レプティリカスは街へ向かう…。

製作&監督はシドニー・ピンク、原案はシドニー・ピンク、脚本はシドニー・ピンク&イブ・メルキオー、製作総指揮はヨハン・ザラベリー、撮影はアーゲ・ウィルトルップ、装置はオットー・ランド、編集はスヴェン・メスリング、音楽はスヴェン・ギルドマルク。
出演はベント・マイディング、アスビヨルン・アンデルセン、ポール・ヴィルデカー、アン・スミルナー、ミミ・ハインリッヒ、ディルシュ・パサー、マーラ・ベーレンス、カール・オットセン、オーレ・ヴィスボリ、ビルテ・ウィルケ、モーンス・ブラント、キエルド・ペテルセン他。


デンマークのSaga Studioが製作した特撮映画。現時点ではデンマークで唯一の怪獣映画であり、カルト作品としてマニアに珍重されている。
かつて『冷凍凶獣の惨殺』の邦題で放送されたことがあり、DVD化の際には『原始獣レプティリカス 冷凍凶獣の惨殺』という邦題になった。
監督は『黄金の砦』『SF第7惑星の謎』のシドニー・ピンク、脚本は『バンパイアの惑星』『火星着陸第1号』のイブ・メルキオー。
スヴェンをベント・マイディング、マルテンスをアスビヨルン・アンデルセン、ダルビーをポール・ヴィルデカー、リサをアン・スミルナー、カレンをミミ・ハインリッヒが演じている。

監督としてシドニー・ピンクの名前を表記したが、厳密に言うと、これは正しくない。
実は、本来のバージョンだと音響監督出身のポール・バングが監督を務めているのだ。
ただ、最初から英語圏での公開を目論んでいたため、デンマーク語版と同時に英語版も作られた。その英語版で監督を務めたのが、脚本にも参加しているシドニー・ピンクなのだ。
私が見たのは、っていうか日本に輸入されたのは英語版なので、彼の名前が表記されているわけだ。

冒頭、銅山の技師たちは謎の肉片を発見し、コペンハーゲン大学の古生物学者に調べてもらうと言っている。そこで名前が出ているのはナーヴィクという古生物学者だが、シーンが切り替わると「1時間後に専門家が集まった」ってことでマルテンスとダルビーとカールセンが現場に来ている。
いやいや、古生物学者はどうなったのかと。
あと、マルテンスとダルビーは肉片を調べたらしいが、ナレーションだけで片付けているのは明らかに間違い。そこは実際に肉片を調べるシーンが必須でしょ。
それと、新聞記者が1人だけ同席している意味が全く無いぞ。そいつに情報が露呈した経緯もサッパリ分からないし。

マルテンスとダルビーは肉片が化石だと断言するが、それがデタラメなのは素人でも分かる。何しろ、どう見ても化石になっていない肉片だからだ。
血液が付着していた問題についても「摩擦熱で凍っていた物が溶けた」とか「血液は技師の物」と解説するが、いや無理がありすぎるだろ。
特撮に関しては「低予算だからチープになってしまう」という言い訳が出来ても、シナリオの不備に関しては単純に「手抜き作業」ってだけだからね。
荒唐無稽な設定を持ち込む際、ディティールを丁寧に積み重ねるかどうかで作品の質には大きな差が生じるし、製作サイドの熱や本気度もハッキリと出る。この映画は、ものすごく適当に作っていたことが露骨に見える。

マルテンスはカレンから電報を受け取ると、空港までスヴェンを迎えに行くよう促す。カレンは相手がハンサムかどうか尋ね、興味津々といった様子を見せる。なので、「空港へ出向いたカレンがスヴェンと会う」というシーンに移るのが当然の流れだろう。
ところがシーンが切り替わると、スヴェンは水族館でマルテンスたちに骨を見せている。
つまりカレンが空港でスヴェンと会うシーンを省略しているのだが、だったら「マルテンスが迎えを頼む」という手順は要らないし、カレンがスヴェンに興味を示す手順も余計なだけだよね。
「撮影されたけど編集でカットになった」という可能性も考えられるけど、だったら一緒に「マルテンスがカレンに迎えを頼む」という手順もカットした方がいいわけで。

マルテンスはピーターソンを見張りに雇い、その夜から巡回を始めている。
いかにもオツムが弱そうな奴なので早々にミスをやらかしてトラブルを引き起こすのかと思いきや、ダルビーが「自分が作業をするから」と言って立ち去らせてしまう。そしてダルビーが扉をロックしないまま転寝し、冷凍室の尻尾が溶けてしまうのだ。
いやいや、失態をやらかす役目を、なんでダルビーに担当させるのかと。
だったら、何のためにピーターソンを登場させたのかと。

マルテンスは尻尾の再生能力を知った後、コニーとグレイソンを呼び寄せる。なので2人に何かしらの形で協力を要請するのかと思いきや、「記者会見を開いて実験を公開する」と説明する。
なぜ2人を呼んだのか、その理由は分からないままだ。
ちなみに記者会見は水族館と別の大きな場所で開くわけではなく、研究室でやっている。世界的な大発見のはずだが、集まった記者は8人だけ。
こういう「本来なら大勢の人々が存在するはず」のシーンで少数しか用意できない辺りに、低予算映画であることが顕著に表れる。
ただ、終盤の「人々が必死で逃げる」というシーンでは、大勢のエキストラを動員しているんだよな。それが出来るなら、なんで記者会見も大々的なモノとして描写しなかったのかと。

マルテンスは会見で成長している生物について発表し、水槽へ記者たちを案内する。そこまで進めたのなら、「水槽で保存されている生物を記者たちが見学する」というシーンも描くのは当然の流れだろう。
ただ、この映画は当然の流れを完全に無視して平気で省略するので、そこも水槽の生物は見せずに終わる。そしてシーンが切り替わると、新聞記事が画面に写し出される。
ちなみに、その新聞記事でも、生物の写真が掲載されることは無い。なので観客には、急速に成長しているらしい生物の状態が全く分からない。
ピーターソンが警報を鳴らし、マルテンスが水槽の確認に行くシーンで、ようやく中の様子が写し出される。しかし、水槽から出ている尻尾の先端がチョロッと見えるだけなので、どのぐらい成長しているのかは全く分からない。

記者会見の後も、コニーとグレイソンが仕事をする様子は全く無い。グレイソンは護衛が仕事らしいが、具体的に何をやるわけでもなく、ただ部屋で椅子に座っているだけ。
そして退屈を感じた彼がコニーとドライブに出掛ける展開になるが、そこは明らかに時間稼ぎのためのシーンである。
ドライブの途中では人魚姫の像やアマリエンボー宮殿、ゲフィオンの噴水、ランゲ橋、チボリ公園が登場し、観光映画としての一面もアピールしようとしている。でも、こんな映画に観光スポットを紹介されても、「だから何なのか」だわ。
観光の最後にはナイトクラブでビルテ・ウィルケという歌手が歌うシーンがあって、ここも完全に時間の浪費でしかない。

雷鳴の夜、ダルビーは水槽を見に行き、驚愕の表情を浮かべる。だが、部屋の外にいる彼が驚く様子を捉えるだけなので、生物がどういう状態なのかは分からない。
それでも、そこでシーンを切り替えて「ピーターソンが駆け付けたらダルビーが死んでいた」ってな感じに展開させていくのなら、その見せ方で悪くない。でも「電話を掛けるが繋がらないのでピーターソンを警察へ行かせる」というシーンに繋げるのなら、その見せ方は望ましくない。
あと、警察署に駆け付けたピーターソンは「奴が逃げた」と騒いでいるけど、彼が研究室を出る時は、まだ逃げていなかったはずだぞ。
っていうかさ、だったら「ダルビーが水槽を見たらレプリティカスが消えている」ってことにして、それを受けて彼がピーターソンを警察に行かせる流れにすりゃ良かったんじゃないのか。

レプリティカスが水槽の外へ逃げたらしき描写はあるが、ダルビーが襲われるシーンは無い。「襲われたダルビーが悲鳴を上げる」という様子を、レプリティカスを登場させずに描くこともない。
農場のシーンでも、牛が殺されたことを農場主が話し、牛の頭部のハリボテが転がっているのを見せるだけ。
開始から40分ほど経過し、ようやくレプリティカスがマトモに姿を見せる。
そこまで姿を見せなかったのは、ひょっとすると勿体ぶっていたのかもしれない。でも結果としては、早く見せても、勿体を付けても、どっちでも大して変わらない。
レプリティカスの造形はチープで、見せたところで観客に衝撃も恐怖も与えることは無いからだ。

この当時、ハリウッドの怪獣映画はストップモーション・アニメーション、日本ではスーツアクターが中に入るキグルミで表現されるのが普通だった。
しかし本作品は、そのどちらでもなく操演だけで表現している。
レプリティカスが口から吐く粘液は光学合成で表現されているが、これはアメリカ版で付け加えた効果らしい。
どれだけ粘液を吐いても、それで人間が犠牲になったり建物が溶けたりする描写が無いのは、そういう事情があるからだろう。

農場で発見されたレプリティカスが海辺に向かう途中、ようやく「民家を襲って人を食らう」という描写が訪れる。
ただ、ここの描写が酷くて、まずカットの繋がりが変。
「民家の中で怯える家族」の後、カットが切り替わるとレプリティカスの口に人間が飲み込まれるのだ。
つまり、「レプリティカスが民家に首を突っ込んで人間を捕まえる」という手順が無いので、ギクシャクしたシーンになっているのだ。
あと、レプリティカスの口に放り込まれる人間は合成バレバレで、とてもバカバカしい。

その後、海水浴場に現れるシーンでは、「人間が襲われて犠牲になる」というシーンは無い。
人間を襲わなくても、建物を壊すシーンを描けば迫力が出る可能性はある。しかし、怪獣映画で定番と言える都市破壊のシーンは皆無に等しい。
ようやく街に現れても、操演では難しかったのか、「屋根に長い首をペタンと乗せる」という感じになってしまい、ほとんど破壊せずに終わる。
そんな風にレプリティカスは何から何までチープだが、それを攻撃する軍隊は本物の戦車や武器を使っている。レプリティカスの捜索に向かう沿岸警備艇も本物だ。こんな映画なのに、なぜか軍が全面協力しているのだ。
猫に小判、レプリティカスにデンマーク軍だね。

(観賞日:2019年5月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会