『クワイエット・プレイス』:2018、アメリカ

89日目。リトル・フィールズの町は荒廃し、人の姿は消えていた。雑貨店に入ったアボット家は、なるべく音を立てないように行動した。アボット家は父親のリー、母親のイヴリン、そしてリーガン&マーカス&ボーという子供たちの5人家族だ。イヴリンは薬局で薬を見つけ、熱があるマーカスに飲ませた。リーガンはボーと手話で話し、「ロケットに乗って逃げる」と言われて悲しそうな表情を見せる。ボーは陳列棚の上に置いてあるスペースシャトルのオモチャを見つけ、それを取ろうと台に乗って手を伸ばした。オモチャが落ちそうになると、イヴリンが慌てて受け止めた。
リーは役に立ちそうな道具を集め、リュックに入れた。リーガンとボーだけでなく、家族全員が手話を使った。リーはオモチャをボーから受け取り、電池を抜いた。家族が店を出る時、リーガンは内緒でボーにオモチャを渡した。リーガンが先に店を出た後、ボーは電池を手に取った。一家は裸足で歩き、山へ向かう。橋を渡る時、ボーはオモチャに電池を入れてスイッチを入れた。電子音が鳴り響き、家族は顔を引きつらせる。リーが慌てて駆け寄ろうとするが、怪物が現れてボーを連れ去った。
472日目。アボット家が暮らす田舎の家には何台ものテレビが置いてあり、怪物に関する記事や資料が集められている。ある時、メキシコに隕石が落下し、そこから複数の怪物が出現した。怪物は盲目で、音に反応して人々を襲った。リーは無線で世界中に信号を送り続けているが、まるで反応も無かった。マーカスはイヴリンとボードゲームで遊んでいる時、誤ってランプを倒してしまった。リーは慌てて駆け寄り、布を被せて火を消した。
一家が様子を窺っていると、屋根の上で大きな音がした。しかし怪物は現れず、一家は安堵した。イヴリンは妊娠しており、出産予定日が近付いていた。リーガンが母屋の地下室に入ろうとすると、リーが来て「あそこには行くな」と制止した。彼は手作りの補聴器を差し出し、「今回はステレオのアンプを使った」と説明する。聴覚障害を持っているリーガンは「上手く行かない」と言い、「何度でも試そう」と告げる父に反抗した。
リーはマーカスに、「行く時間だ」と促す。マーカスは「行きたくない」と嫌がるが、イヴリンが「自分の力で生きて行くためには、色々と学ばないと」と諭した。それでもマーカスが「奴らが要る。行きたくない」と渋っていると、リーガンが「私が行く」と名乗り出た。しかしリーに「お前は残ってママを手伝え」と指示され、リーガンは激しく苛立った。リーガンはリュックに荷物を詰め込み、母に内緒で家を出た。
リーはマーカスを連れて川に行き、仕掛けた罠に掛かった魚を捕獲した。魚の跳ねる音にマーカスが「奴らに聞こえる」と怯えると、リーは「川の音が大きい。小さい音なら安全だ」と説いた。イヴリンは地下室を出るために階段を上がる際、飛び出していた釘に持っていた袋が引っ掛かってしまった。リーとマーカスは滝へ行き、大きな声を出した。マーカスはリーに、「なんでお姉ちゃんを置いて来たの?ボーのことで怒ってるの?お姉ちゃんは傷付いてる」と言う。リーは彼に、「誰も悪くない」と告げる。
リーガンは橋に建てたボーの墓へ行き、オモチャのライトを付けた。マーカスとリーは森を移動する途中で一軒家を見つけ、1人の老人と遭遇した。その傍らで彼の妻が死んでおり、リーは静かにするよう老人に求める。老人が絶叫したため、リーはマーカスを抱き上げて逃亡した。老人は怪物に食われ、リーはマーカスの口を押さえて黙らせた。イヴリンは破水して地下室へ向かい、釘を踏んでしまう。彼女は痛みに耐え、必死で声を押し殺した。イヴリンが外のライトを点灯させて階段の上を見ると、怪物が侵入していた。
ライトを目にしたリーとマーカスは、急いで家へ向かった。怪物が地下室へ来ると、イヴリンは目覚まし時計を囮にして逃げた。リーはマーカスに、花火を上げて大きな音を出すよう指示した。イヴリンはバスタブに隠れるが、怪物が迫ったので耐え切れずに悲鳴を発する。同じタイミングで次々に花火が打ち上がり、橋で眠り込んでいたリーガンは慌てて飛び起きた。リーはショットガンを構え、家の中に入る。するとイヴリンは出産を終え、バスタブを出ていた。
マーカスは怪物に追われ、畑を走って逃げた。リーはイヴリンと赤ん坊を連れて、地下の防音室に入った。彼は赤ん坊に酸素マスクを装着し、泣き声が漏れないよう箱の中に入れた。怪物はリーガンの背後に近付くが、補聴器の発するノイズを嫌がって逃げた。イヴリンが意識を取り戻すと、リーは「大丈夫、ここなら聞こえないから安全だ」と落ち着かせた。イヴリンはボーを守れなかったことへの罪悪感を涙で吐露し、リーガンとマーカスを必ず守るようリーに頼んだ。
リーは地上へ出るが、屋内へ水が流れ込んでいることには気付かなかった。リーガンはマーカスと合流し、サイロの屋根で火を起こした。リーは監視カメラの映像を確認し、子供たちの捜索に向かう。イヴリンは部屋が浸水している上、怪物が来ていることに気付いた。彼女は箱から赤ん坊を抱き上げ、水の音に紛れて怪物から距離を取った。マーカスは「パパが捜しに来る」と言うが、リーガンは「アンタを捜しにね」と反発する。彼女が目を離した隙に、マーカスはサイロへ転落してしまう。助けようと飛び込んだリーガンは、穀物に埋もれそうになる。マーカスが手を伸ばし、彼女を引っ張り上げた。怪物はサイロを襲撃するが、また補聴器の音を嫌って逃亡した…。

監督はジョン・クラシンスキー、原案はブライアン・ウッズ&スコット・ベック、脚本はブライアン・ウッズ&スコット・ベック&ジョン・クラシンスキー、製作はマイケル・ベイ&アンドリュー・フォーム&ブラッド・フラー、製作総指揮はセリア・コスタス&ジョン・クラシンスキー&アリソン・シーガー&ブライアン・ウッズ&スコット・ベック&アーロン・ジャナス、共同製作はデブ・ダイアー、製作協力はジェフリー・ビークロフト&アレクサ・ギンズバーグ、撮影はシャルロッテ・ブルース・クリステンセン、美術はジェフリー・ビークロフト、編集はクリストファー・テレフセン、衣装はカシア・ワリッカ=メイモン、視覚効果監修はスコット・ファーラー、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はエミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュープ、ケイド・ウッドワード、レオン・ラッサム他。


『最高の家族の見つけかた』のジョン・クラシンスキーが監督を務めた作品。
スコット・ベックとブライアン・ウッズの脚本を読んだ彼は気に入って監督に名乗りを挙げ、リライトも担当した。彼は製作総指揮にも携わり、リー役で出演も兼ねている。彼の妻であるエミリー・ブラントが、イヴリンを演じている。
つまり、実際の夫婦が夫婦役を演じているわけだ。
リーガン役に起用されたミリセント・シモンズは、本物の聾者。
マーカスをノア・ジュープ、ボーをケイド・ウッドワード、老人をレオン・ラッサムが演じている。

「音に反応する怪物がいるので、一家は出来る限り音を出さないようにして生き延びようとする」というアイデアは悪くない。音を恐怖の対象に使おうってのは、単純なモンスター・ホラーとの大きな違いを出せるアイデアだ。
ただし、そのアイデアを思い付いた時点で、ほぼ思考停止の状態に陥ってしまったようだ。
せっかくのアイデアを上質なホラーに膨らませるための作業が、著しく欠けている。
そのため、穴だらけのポンコツ映画に仕上がってしまった。

「こういう経緯で現在の状態になりました」ってのをナレーションや短い映像で説明するのではなく、現場にある新人記事や張り紙などの文字だけで処理している。
だから映画が始まった時点では、どういう事情で町が荒廃したのか、なぜアボット家しか存在していないのかは全く分からない。
怪物がボーを連れ去った後、記事や資料が写し出されるシーンで、ようやく何となくの事情が伝わるようになっている。
予算的なことも含めて、この入り方は巧妙で悪くない。

ただし、「音に反応する盲目の怪物が人々を襲う」という設定が判明した時点で、まず大きな疑問が湧く。
それは、「どれぐらいの音なら反応するのか」という基準が全く分からないことだ。
冒頭シーンでアボット一家は静かに行動しようと努めているが、それでも無音ではない。ある程度の音は出している。
それに対しては、怪物は襲って来ない。
また、アボット一家が静かに努めても、自然の中では様々な音が鳴っている。風が吹いたり植物が揺れたりすれば、音も鳴る。
それに対して、怪物は反応しないようだ。

例えばさ、アボット一家が静かに移動していても、近くで何かが落ちて大きな音がすることもあるよね。他にも、雷が落ちるとか、大雨が降り注ぐとか、色んな自然現象で音は鳴るよね。
だけど、そういう音が一家の近くで発生したとしても、怪物は現れないんでしょ。
あと、リーが屋上で何かを燃やす時に大きな音が出ているけど、怪物は出て来ないんだよね。家の中には大きな音がしそうな物は色々とあるけど、それを一家が気にしている様子は無い。ランプが倒れた時に大きな音がするけど、怪物は現れない。
なので、「怪物が反応する音の設定が超テキトー」と感じてしまうのだ。

最初のシークエンスで、ボーはオモチャに電池を入れて動かし、怪物に襲われる(直接的な描写は無いが、つまり食われたってことだ)。
一家で最も幼い人物が犠牲になる様子を最初に用意して、観客にショックを与えようとする構成は理解できる。「ボーにオモチャを渡したリーガンが罪の意識に苦しめられる」という要素で、ドラマを作ろうとするのも悪くない。
ただ、「ボーがアホすぎる」と感じてしまい、ちょっと引っ掛かるのよね。
そりゃあ、「まだ幼いなら状況を明確に理解できていない」という設定なのは分かるよ。ただ、怪物が多くの人々を食らっていることぐらい、彼も知っているはず。きっと、音を出した人が食われる様子だって見ていると思うんだよね。
そんな中で「大きな音を出しても平気」と思っちゃう感覚は、「まだ幼いから」という免罪符が効かないぐらいボンクラすぎるだろ。

アボット一家の面々は、裸足で行動している。それが「なるべく音を立てないための工夫」という設定なのは分かる。
ただ、靴を履くことによって生じる音なんて、そんなに大きくないでしょ。冒頭でシャトルをキャッチする時に出た音や、裸足で草を踏む時に出る音なんかと比べても、そんなに大差が無いんじゃないかと。
むしろ、裸足で行動することのデメリットの方が遥かに大きいでしょ。怪我をしやすくなるのは言うまでも無いし。実際、後半には怪我を負っているし。
っていうか、その「釘が出ていて足に刺さる」というシーンのためだけに「裸足で行動する」という設定を用意して、逆算に失敗しているようにさえ感じるぞ。

アボット一家は家の中でも、なるべく音を出さないように暮らしている。ってことは、怪物は屋内の音でも反応するんだよね。
それでも一家が生き残っているってのは、ちょっと不可能じゃないか。
寝ている最中に、つい音が出てしまうことだってあるだろう。入浴する場合、お湯の音を消すってのは無理だろう。料理をするにしても、色んな音が鳴るだろう。
生活を営む上で、ほぼ無音でやり過ごすのは至難の業だ。これが1日や2日ならともかく、1年以上も生き続けるってのは、「絶対に不可能」と断言したくなるぐらい無理筋じゃないかと。
「その程度の音なら怪物は襲って来ない」ってことかもしれないが、だとしたら前述した「怪物が反応する音の基準が分からない」という問題に戻るわけでね。

驚くべきことに、極端な静寂を強いられる暮らしの中で、イヴリンは妊娠する。それは意識が低すぎるだろ。
マリア様じゃないんだから、妊娠するってことはリーと性的交渉を持ったってことだ。出来る限り音を立てないように注意しなきゃいけない状況の中で、なんで呑気にセックスなんかしてんだよ。企画物のアダルトビデオじゃあるまいし、なんでサイレントセックスに励んでるんだよ。
それに出産する時は、静かにするなんて難しいだろ。ものすごく苦痛に耐えなきゃいけないし。あと出産している時は無防備になるから、怪物から逃げることも出来ないし。
それと、赤ん坊なんて絶対に静かに出来ないのに、大声で泣いたりするだろうに、なぜ平気で妊娠しているんだよ。
ホント、この夫婦はメチャクチャだな。

川へ出掛けた時、リーは「奴らに聞こえる」と怯えるマーカスに「川の音が大きい。小さい音なら安全だ」と言う。つまり、自然の音には怪物が反応しないので、自分たちの出す小さな音は打ち消してくれるってわけだ。
何とも都合の良すぎる設定である。
そして、そこにある御都合主義を強引に受け入れるとしても、別の疑問が生じる。
それは、「だったら大きな音のする場所の近くで暮らせばいいじゃねえか」ってことだ。あるいは、家の外に大きな音のする仕掛けを用意するとかさ。
自分たちが出している音じゃなければ怪物は反応しないと認識しているのに、そういう考えが思い浮かばないのは変だぞ。

イヴリンは外に洗濯物を干しているから、そういうのが風邪で揺れて音が出ても怪物は来ないってことでしょ。そもそも洗濯物を取り込む時に音が出るので、外に干している時点で危機意識が低いとは思うけどさ。
怪物が地下室へ来た時、イヴリンは離れた場所にある目覚まし時計を鳴らすことでおびき寄せ、その隙に逃げる。つまり怪物は、人間が発した音だけじゃなくて、そこに人間がいなくても音が鳴れば反応しているわけだ。
それなのに、滝や川の音には反応しない。
最初から「人間の声に反応する」という設定にでもしておけば、音に関する欠陥は解消できただろうに(別の問題は生じるけど)。

イヴリンが破水した時、家の中に怪物が入り込んでいる。
でも、今まで長く一家が住んでいて、怪物が侵入することは無かったんだよね。なのに、なぜ今回だけ侵入しているのか。
イヴリンが一瞬だけ声を出したから、それに反応したってことなのか。ただ、反応したにしても、どこから入って来たのか。
そんなに簡単に入り込まれるほど、アボット一家は外部からの侵入者を防ぐための備えをしていなかったのか。
備えをしていても入って来られる能力が怪物にあるとしたら、今まで侵入しなかったのは不自然だし。

マーカスは花火を上げた後で怪物と遭遇し、畑を走って逃げる。
でも生えている草に触れて音が鳴りまくっているので、「音を出さない鉄則はどうなったのか」と言いたくなる。むしろ、音を立てないために動かずじっとしていた方が、怪物に襲われずに済むんじゃないのか。
一方、リーはイヴリンを地下室へ連れて行き、「ここなら聞こえないから安全」と言う。
防音設備を整えた部屋があるのなら、最初から家族が住む場所はそこにしておけばいいだろうに。なんで普段は別の部屋ばかり使っているんだよ。

根本的な問題として、「あんな怪物たちが襲来したからって、世界中の都市が短期間で壊滅状態に陥るかね」という疑問がある。
怪物は超が付くぐらい巨大なサイズってわけでもなければ、圧倒的な数というわけでもない。驚異的な戦闘能力があるわけでもないし、人間の弱点を突く知能を持つわけでもない。
しかも終盤に入り、ショットガンで撃ち殺されるシーンがある。普通に銃火器で殺せるんだぜ。
だったら、各国の兵隊がその気になりゃ全滅させられるんじゃないかと。
アメリカなんて核爆弾を使うのが大好きな国なんだから、そういう方法に頼っちゃってもいいわけだし。

(観賞日:2020年2月1日)


2018年度 HIHOはくさいアワード:第10位

 

*ポンコツ映画愛護協会