『高慢と偏見とゾンビ』:2016、アメリカ&イギリス

脳を食べたゾンビは、さらに多くの脳を求める。それはネザフィールド邸にいた者が一人残らずゾンビの群れに食われた事件により、明白となった。ダーシー大佐はゾンビ感染した者がいるという情報を聞き、ネザフィールド邸へ赴いた。女主人のフェザーストーン夫人は大勢の客を集め、カードに興じていた。夫人は感染者の存在を否定するが、ダーシーは確かめるため死肉バエを飛ばした。ハエがキングストンの顔に集まったので、ダーシーは彼を始末した。「彼から感染した可能性のある身内はいないか?」とダーシーが訊くと、夫人は否定した。ダーシーが去った後、夫人の娘であるカサンドラは2階にいるキングストンの姪、アナベルの元へ行く。するとアナベルは感染しており、カサンドラは襲われた。
ベネット夫人はネザフィールド邸にビングリーという若くて金持ちの独身男性が引っ越してくること、村のパーティーに参加することを知った。ベネット夫人にはジェイン、リズ、メアリー、キティー、リディアという5人の娘たちがおり、誰かをビングリーと結婚させたいと彼女は考える。5人姉妹は中国で武術を学んで帰国しており、結婚には不利になると母は考えていた。父は「生き残る方が大事だ」と考えているが、姉妹はビングリーと会うことに前向きだった。5人はナイフを忍ばせ、ドレスに着替えた。
ビングリーはパーティー会場に、妹のキャロラインとルイーザを連れて現れた。ベネット夫人は知人のケニコット夫人から、ビングリーは父親から10万ポンドを相続したことを聞かされる。ダーシーが姿を見せると、ケニコット夫人は州の半分を所有する年収1万ポンド以上の金持ちだとベネット夫人に教えた。ダーシーは友人のビングリーに挨拶するが、パーティーを楽しむ気は無かった。リズはダーシーを意識し、ビングリーはジェインに惹かれてダンスに誘った。
ダーシーはビングリーからリズと踊ってはどうかと促され、彼女を侮辱するような言葉を口にした。それを聞いたリズは腹を立て、庭へ出た。そこへゾンビ化したフェザーストーン夫人が現れると、ダーシーが来て射殺した。邸内でゾンビの群れが暴れ始めたので、5人姉妹はナイフを取り出して始末する。その戦いぶりを見たダーシーはリズに惹かれ、ビングリーに「なんて聡明な表情だ。魅力的な女性だと認めるよ」と告げた。
ジェインはビングリー家から招待を受けて馬車を使いたがるが、母は馬で向かわせる。その途中、森でゾンビと遭遇した馬が怯えて逃走した。ジェインはゾンビを始末するが、感染した妻と赤ん坊を見て狼狽した。ジェインはビングリー邸へ辿り着くが、高熱を出して寝込む。連絡を受けたリズが赴き、医者の診察に同席した。ダーシーは死肉バエを放って感染の有無を確かめようとするが、リズが全て捕まえた。ダーシーはキャロラインの質問を受け、妹のジョージアナは多才な女性だと称賛した。リズは多才な女性の定義についてダーシーに問い掛け、嫌味っぽい口調で静かに反論した。彼女は具合の悪いジェインを抱え、半ば強引にビングリー邸を去った。
ジェインの体調が回復した頃、親族のコリンズ牧師がベネット邸にやって来た。ベネットは娘たちに、「ウチを相続できるのは男性の身内だけ。つまりコリンズは私の死後、お前たちを好きな時に追い出せる」と話した。コリンズは一家に、後援者がレディー・キャサリンだと語る。キャサリンは資産家で、ゾンビ退治に貢献した剣の達人でもある。コリンズは自分が隣家に住んでいること、キャサリンの一人娘のアンが病弱で社交界デビューしていないことを告げた。
コリンズがジェインに求婚すると、ベネット夫人は先約があることを明かしてリズを推薦した。姉妹とコリンズはメリトンへ買い物に行く途中、ペニーの馬車が転倒しているのを目撃した。馬車はゾンビに襲われ、ペニー以外は全滅していた。ペニーはゾンビ化していたが、姉妹が退治した。6人がメリトンに到着すると、新しく配属された民兵たちの姿があった。キティーとリディアは友人のデニー中尉を発見し、ゾンビ退治で入隊したウィカムを紹介された。そこへリズたちも来て、ウィカムと会った。
メリトンに来たビングリーはジェインが元気になったと知り、約束した舞踏会を開くと告げた。同行していたダーシーはウィカムに気付き、無視して立ち去った。ウィカムはリズから「ダーシーと何かあったのか」と問われ、自分の父親が彼の父の部下だったこと、家族ぐるみの付き合いだったことを話す。さらに彼は、ダーシーの父から息子のように可愛がられたこと、最高の聖職禄を残してくれたことも話す。しかしダーシーは父の死後、それを別人に与えたらしい。リズから「なせそんな酷い仕打ちを?」と問われたウィカムは、「プライドです。私を蔑んでいたから」と答えた。
舞踏会の日、リズは会場でウィカムを見つけて喜んだ。そこへコリンズが来てダンスに誘ったので、リズは応じた。コリンズはダーシーと出会うと、「君はレディー・キャサリンの甥だ」と口にした。リディアを捜しに行ったリズは、ビングリーと遭遇する。執事のエドウィンか襲われるのを目撃した2人は、すぐに後を追った。するとビーチャム夫人の子供がゾンビ化して待ち受けており、ビングリーと転倒して気絶した。そこへダーシーが駆け付け、ゾンビを退治した。リズは彼に、「貴方は立派な兵士。でも情が無い」と告げた。
ビングリーはジェインに「ロンドンへ戻ります。帰りは未定」という手紙を届け、妹たちと共に村を去った。キャロラインからも手紙が届き、そこには「兄はダーシーの妹に心を寄せているので、これから親密になるでしょう」と綴られていた。しかしジェインはリズの前で、「私への愛が本物なら引き裂けない」と自信を見せた。リズはコリンズの求婚を断り、母から「結婚しないと絶縁よ」と非難される。しかし父は味方をしてくれたので、リズは喜んだ。
リズは母に反発して森へ行き、4人の男を目撃する。そこへウィカムが現れ、目を離した間に男たちは姿を消していた。リズが「男たちを見た?」と訊くと、ウィカムは「見なかったが、棺の担ぎ人ですよ。ここは墓地だ」と述べた。彼は「秘密の場所へ案内したい」と言い、リズを馬に乗せてヒンガム橋を渡る。2人はインビトウィンへ赴き、聖ラザロ教会に入った。説法を聞く面々が全てゾンビだってのでリズは驚くが、ウィカムは落ち着くよう諭した。教会では豚の脳が提供されており、ウィカムはリズに「人の脳を食べなければ完全なゾンビにならない。ゾンビとの終戦の鍵は、ここにある。連中のリーダーと交渉するのです」と語った。
リズは友人のシャーロットから、コリンズと結婚することを告白される。彼女は呆れた思いもありつつ、それを隠して祝福した。リズはシャーロットから「キャサリンと謁見する。牧師館に泊まるので付き添いが要るの」と言われ、ウィカムを同行させる条件で介添人を承諾した。リズはキャサリンの元へ赴き、ダーシーがいたので驚いた。ウィカムはキャサリンに新種のゾンビのことを語り、友好関係を築くための資金援助を要請した。
ウィカムは強い力を持つリーダーがゾンビ兵隊を率いる計画を持っており、新種のゾンビと協定を結ぶべきだと説くが、キャサリンは相手にしなかった。ウィカムが「先代のダーシー様がいれば」と口にすると、ダーシーは憤慨して警備兵に追い払うよう命じた。ウィカムはダーシーを睨み付け、「この瞬間を忘れるなよ。ゾンビの時代は始まっている」と告げて立ち去った。リズはダーシーを嫌悪し、「貴方はゾンビのように動かない」と批判した。
その夜、庭に出たリズの前にウィカムが現れ、「ダーシーは貴方の家族に対して卑劣だ」と告げる。彼はリズに、「ダーシーがビングリーに、お姉さまと離れろと言った。家柄がふさわしくないし、金目当ての女だからと」と話す。ウィカムは駆け落ちしようと誘い、その場を去った。翌朝、リズはダーシーから、「家柄の違いを忘れるほど愛しています。私の妻になってほしい」と告白される。リズは「求婚など望んでいません。見くびらないで」と冷たく拒絶し、ダーシーの卑劣な行為を非難した…。

監督はバー・スティアーズ、原作はジェーン・オースティン&セス・グレアム=スミス、脚本はバー・スティアーズ、製作はショーン・マッキトリック&アリソン・シェアマー&ナタリー・ポートマン&アネット・サヴィッチ&ブライアン・オリヴァー&タイラー・トンプソン&マーク・バタン、製作総指揮はスー・ベイドン=パウエル&ローレン・セリグ&コンプトン・ロス&フィル・ハント&エドワード・H・ハムJr.&エイリーン・ケシシアン&ニック・マイヤー&キンバリー・フォックス、共同製作はデヴィッド・ボーゲニクト&スティーヴン・メイネン、撮影はレミ・アデファラシン、美術はデイヴ・ウォーレン、編集はパドレイク・マッキンリー、衣装はジュリアン・デイ、音楽はフェルナンド・ヴェラスケス。
出演はリリー・ジェームズ、サム・ライリー、レナ・ヘディー、チャールズ・ダンス、マット・スミス、ジャック・ヒューストン、ベラ・ヒースコート、ダグラス・ブース、サリー・フィリップス、エマ・グリーンウェル、エリー・バンバー、ミリー・ブレイディー、スーキー・ウォーターハウス、エヴァ・ベル、アシュリング・ロフタス、チャーリー・アンソン、トム・ローカン、ロバート・ファイフ、ダン・コーエン、ニコラス・マーチー、ケイト・ドハーティー、ピッパ・ヘイウッド、ベッシー・カーソンズ、モーフィド・クラーク、ドリー・ウェルズ他。


ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』を下敷きにしたセス・グレアム=スミスの同名小説の映画化。
監督&脚本は『17歳の処方箋』『きみがくれた未来』のバー・スティアーズ。
リズをリリー・ジェームズ、ダーシーをサム・ライリー、キャサリンをレナ・ヘディー、ベネット氏をチャールズ・ダンス、コリンズをマット・スミス、ジョージをジャック・ヒューストン、ジェインをベラ・ヒースコート、ビングリーをダグラス・ブース、ベネット夫人をサリー・フィリップス、キャロラインをエマ・グリーンウェル、リディアをエリー・バンバー、メアリーをミリー・ブレイディー、キティーをスーキー・ウォーターハウスが演じている。

一言で表現するなら、『高慢と偏見』にゾンビをくっ付けただけの映画である。
「タイトルのまんまじゃねえか」と思うかもしれないが、実際、そのまんまなのだ。もはや「これはパロディーとして成立しているのか」と思うぐらい、それ以上でも、それ以下でもない。
例えば「主要キャラの全員がゾンビ」みたいな設定の中で『高慢と偏見』の物語を描くぐらいの趣向があれば、面白くなったのかもしれない。しかし、この作品だと、『高慢と偏見』とゾンビが上手く絡み合っているようには到底思えないのだ。
それどころか、「これってゾンビは要らなくねえか?」と思ってしまうのだ。

例えばジェインとビングリーの恋愛劇は、ゾンビと何も関係が無い。リズとダーシーの関係にしても、同じことが言える。ダーシーが高慢な態度を取るのも、それにリズが憤慨するのも、ソンビとは全く関係が無い。
ベネット夫人が娘を金持ちと結婚させたがるのも、ダーシーがジェインとビングリーの仲を引き裂いたとリズが誤解するのも、これまたゾンビは全く絡んでいない。ダーシーとウィカムの因縁も、コリンズとシャーロットの結婚も、ウィカムとリディアの駆け落ちも、ゾンビは全く意味が無い。
大半のエピソードは、ゾンビの存在を排除しても成立するのだ。
それじゃダメでしょ。ちゃんと融合させたいのなら、『高慢と偏見』のドラマ展開に、ゾンビが大きな影響を与えるような作りにしなきゃダメなんじゃないのかと。

ジェインが母親ゾンビと赤ん坊ゾンビに狼狽した後、「敵が襲って来るのに彼女は呆然としている」という様子でカットが切り替わる。ジェインがビングリー邸で寝込んでいることが明かされるので、「こりゃ間違いなく噛まれて感染したな」と感じる。ダーシーの死肉バエはリズが邪魔するので、その時点で確定することは無いが、「きっと後で感染が明らかになるんだろう」と思う。
しかし、ジェインは回復した後、ゾンビにならないのだ。
だったら、その意味ありげな表現は何だったのかと。その肩透かしは、ホントに邪魔だわ。
っていうか、むしろジェインが感染するぐらいの形で、ゾンビを絡ませようぜ。

ゾンビだけでは足りないと思ったのか、「姉妹が中国武術をマスターしている」という設定が持ち込まれている。
これも原作通りの設定ではあるのだが、『高慢と偏見』と上手く融合しているようには全く思えない。
そもそも「『高慢と偏見』とゾンビの組み合わせ」こそが持ち込んだ仕掛けのはずなのに、欲張って余計な要素まで持ち込んでいるだけだと感じる。
ゾンビならゾンビだけに、異分子を限定しておいた方がいい。

困ったことに、姉妹がナイフ勇ましくで戦うパーティー会場のシーンを見せられると、「これだけで良くないか?『高慢と偏見』の要素って外した方が良くないか?」と思ってしまうのだ。
つまり、「英国貴族の娘たちが、上流社会でゾンビ軍団と戦う」という映画にすれば、それなりに面白くなるんじゃないかという印象を受けるのだ。
もちろん、原作が『高慢と偏見』をモチーフにした小説なので、それだと本末転倒になることは確かなのよ。でも、そういうことを思っちゃうぐらい、出来栄えに問題がある。
ただ、それ以降もアクションシーンが充実しているのかというと、そうでもないのよね。そっちはそっちで、あまり魅力は無いのよ。

諸々の問題を考慮すると、「これって原作小説はホントに面白いのか」という疑問が湧いてくる。
どうやら原作は「文章の約8割は『高慢と偏見』のまま引用している」という内容らしいけど、そういう仕掛けが受けただけじゃないのかと邪推したくなる。
少なくとも映画版だと、ゾンビが全く関係ない状態でストーリーが進んでいく時間帯も、かなり多いし。
つまりザックリ言うと、『高慢と偏見』をベースにして少し違う話を進める中で、たまに「ゾンビが出て来てダーシーや姉妹が戦う」という構成だ。

終盤に入ると、さすがに「ゾンビとの大規模戦闘」へ向けた流れが提示される。 だが、そうなると今度は、『高慢と偏見』をベースにしている部分が邪魔でしかなくなる。「そんなの完全に排除して、5人姉妹を中心とする英国貴族階級の面々がゾンビ軍団と戦う話にすりゃあいいのに」と思ってしまう。
しかも厄介なことに、流れを作ってゾンビ軍団を解き放ち、「いよいよ決戦」という期待感を煽っておきながら、リズたちとゾンビ軍団の戦闘は勃発しないままで終わるのだ。クライマックス的に用意されているのはダーシーとウィカムの一騎打ちで、それが終わると「軍隊が橋を砲撃し、ゾンビ軍団の進路を断つ」という手順で片付けてしまうのだ。
それで全てが解決するわけではないが、『高慢と偏見』の締め括りを描いてエンディングに突入してしまう。
エンドロールの途中に「ゾンビ軍団が現れる」というシーンは用意しているけど、それはゾンビ軍団との決戦を描いた上でやらないと「そういうことじゃねえんだよ」という文句しか出ないわ。

(観賞日:2018年6月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会