『恋する履歴書』:2009、アメリカ

クレストン大学を卒業したライデン・マルビーには、人生の計画があった。これまで「高校で良い成績を取る」「奨学金を貰う」「遊びを抑えて奨学金をキープする」といった計画は無事に達成してきたが、何よりも重要なのは「ロサンゼルスでトップの出版社、ハッパーマン&ブラウニング社に就職する」というものだ。卒業式には、田舎で暮らす彼女の家族もやって来た。父のウォルター、母のカーメラ、弟のハンター、そして祖母の4人だ。
卒業式の後、ライデンは親友のアダムと一緒に、家族と会食を取った。アダムは母を亡くしており、スーパーマーケットを営む父ロイは仕事の多忙さを理由に卒業式には来ていない。ライデンはウォルターから就職について問われ、H&B社の面接が決まっていることを話す。卒論の担当教師が編集長のバーバラと懇意にしており、口添えしてくれたのだ。さらに彼女は、オフィスの近くにアパートが建設中で、歩いて通えることも語った。
面接当日、H&B社への就職を確信しているライデンは、アダムの懸念を無視してアパートへの入居契約を済ませた。会社へ行く途中でトラックに当て逃げされたライデンは大事な車を壊されるが、ともかく面接へ向かう。彼女はバーバラに志望動機を問われ、小学生の頃から本に夢中だったこと、本が人生の全てであることを熱く語る。だが、バーバラは冷淡に「今日はご苦労様」と言うだけだった。そこへ学部長の推薦を受けた主席卒業生のジェシカが面接に来ると、バーバラは笑顔で歓迎した。
深夜、アダムはライデンを閉店したスーパーに入れ、彼女を元気付けた。物音がしたので行ってみると、ロイが従業員のフアニータと一緒にいた。ライデンは実家に戻り、そこで就職先を見つけることにした。ウォルターが「壊れた車は修理してやる」と言うので、ライデンは渋い顔をするが、父は自信満々だった。猫の糞を踏み付けてしまったウォルターは腹を立て、飼い主である向かいの住人に文句を言いに行く。同行したライデンは、住人のデヴィッド・サンティアゴがイケメンなので、思わず頬を緩ませた。
ライデンは次々に出版社の面接を受けるが、どこも採用してくれない。鞄会社の地域マネージャーをしているウォルターは、「ベルトのバックルを売る会社を立ち上げるから、副社長にならないか」と娘に持ち掛けた。卒業生のパーティーに出席したライデンは、ジェシカからバカにされて苛立ちを覚えた。コロンビア大学の法科に合格しているアダムは、ライブハウスに前座での出演が決まったことを彼女に告げる。「音楽の道に進むことを決めたのね」とライデンが言うと、彼は「分からない、まだ迷ってる」と口にした。
ライデンはアダムから、「君は自分のやりたいことが決まってる。それを追い続けるんだ」と告げられた。彼女が帰宅すると、ウォルターは卸業者のゲイリーから最初のバックル2箱を購入していた。「売るアイデアをくれ」と持ち掛けられたライデンは、「それよりも早く車を返して」と文句を言う。彼女は面接に苦労していることを語り、「私に努力しろなんて言わないで」と父を責めた。するとウォルターは、「理想が高すぎるんじゃないか」と述べた。
ライデンはウォルターに勧められ、鞄売り場で売り子のアルバイトをすることになった。まるで上手く行かない様子を見たウォルターは「売りたいなら本気を見せろ」と言い、手本を見せた。そこへジェシカが現れて仕事の自慢をするので、ライデンは腹が立って「辞める」と売り子の仕事を放棄した。ウォルターは修理の終わった車をライデンに見せようとするが、誤って猫をひき殺してしまう。ライデンはカーメラに指示され、デヴィッドの家を訪れる父に同行した。
デヴィッドとライデンは猫のことでデヴィッドに詫びを入れ、遺体を埋葬した。ライデンが改めて謝罪すると、デヴィッドは「パンケーキを食べに来ないか」と誘った。ライデンは彼の家を訪れ、就職活動が上手く行っていないことについて語る。「こんなはずじゃなかった。せめて就職はしてると思ってた」と漏らすライデンに、デヴィッドは「とりあえず働いてみないか。今よりはマシなはずだよ」と告げ、CMディレクターである自分の助手を務めるよう提案した。
ライデンがOKすると、デヴィッドは「そんなことより、今は君の良い所を考えよう」と言い出す。「耳が素敵だ」などとデヴィッドが話していると、我慢できなくなったライデンは唇を奪った。ライデンが服を脱いでデヴィッドの上に乗っていると、そこへマルビー家の面々がやって来た。父から「あの男とは二度と会うんじゃない」と叱責されたライデンは、「もう私は22歳なのよ」と反発した。
ウォルターの元を、ビルという男が訪ねて来た。彼は「俺の作ったバックルが盗まれ、アンタが売るという噂がある」と言い、ウォルターが付けているバックルを見て「それを返せ」と詰め寄った。ウォルターは攻撃的な姿勢を取り、脅しを掛けてビルを追い払った。ライデンはアダムに付き添ってもらって服を買いに行き、CMディレクターの助手になったことを話す。ライデンは「就職祝いとして、ライブの後でレストランに行ってディナーを取ろう」と誘い、ライデンはOKした。
ライデンはアダムが担当するCMの撮影現場へ赴き、仕事を手伝った。クライアントから「『マトリックス』みたいな絵を撮れ」などとメチャクチャな注文を付けられたアダムは、耐え切れずに「もう辞める」と告げた。彼はライデンを連れてドライブに出掛け、「長年、あんなバカな奴に耐えて来た。ついに辞めた」とスッキリした表情を浮かべる。ライデンは彼と浜辺へ出掛けて楽しい時間を過ごすが、ライブのこともディナーのこともすっかり忘れていた。
ライデンはデヴィッドに家まで送ってもらい、キスを交わして別れた。彼女が家に入ろうとすると、庭先にアダムの姿があった。ようやく約束を思い出したライデンは謝るが、アダムは険しい表情で「いいんだ、君は向かいの奴と忙しかった」と告げる。それから彼は「いつか君に愛してもらえると思って待ち続けてきたけど、もう終わりにするよ」と言い、車に乗り込んで去った。その直後、数台のパトカーが現れ、ウォルターが警官たちに連行された…。

監督はヴィッキー・ジェンソン、脚本はケリー・フレモン、製作はジョー・メジャック&ジェフリー・クリフォード&アイヴァン・ライトマン、共同製作はスティーヴン・R・マクグロセン、製作協力はアリー・ベル、製作総指揮はトム・ポロック、撮影はチャールズ・ミンスキー、編集はデイナ・コンドン、美術はマーク・ハットマン、衣装はアレクサンドラ・ウェルカー、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はパトリック・フーリアン。
出演はアレクシス・ブレデル、ザック・ギルフォード、ロドリゴ・サントロ、ジェーン・リンチ、マイケル・キートン、キャロル・バーネット、フレッド・アーミセン、ボビー・コールマン、アンドリュー・デイリー、カーク・フォックス、キャサリン・ライトマン、クレイグ・ロビンソン、メアリー・アン・マクガリー、J・K・シモンズ、ロバート・アルセ、ジニー・ハケット、オスカー・“ビッグO”・ディロン、ヴァネッサ・ブランチ、シャーリー・ジョーダン他。


TVドラマ『ギルモア・ガールズ』で注目を集めたアレクシス・ブレデルが主演した作品。
監督は『シュレック』『シャーク・テイル』のヴィッキー・ジェンソン。
単独での監督も、長編実写映画を手掛けるのも、これが初めて。
ライデンをアレクシス・ブレデル、アダムをザック・ギルフォード、デヴィッドをロドリゴ・サントロ、カーメラをジェーン・リンチ、ウォルターをマイケル・キートン、祖母をキャロル・バーネット、ハンターをボビー・コールマン、ジェシカをキャサリン・ライトマンが演じている。

冒頭、卒業式が始まると、遅れてライデンの家族がやって来る。保護者の面々が少しザワザワするが、ライデンも頭を抱えたり嫌がったりせずに笑顔を向けている。
ハンターが持っている鞄は座っている人々の頭にガンガン当たり、祖母は酸素吸入のための管を鼻に付けており、そこから繋がっている酸素ボンベをウォルターが抱えている。
祖母はお菓子をボリボリと食べ始め、注意されると睨み付けて「私は死の病なんだよ」と告げる。
でも大騒ぎに発展することはなく、それで終わりだ。
とても中途半端な処理だと感じる。
そこで「風変わりで傍迷惑な家族」を登場させるなら、もっと強くアピールすべきだろう。その程度の描写なら、登場は後回しの方がいい。

ライデンは面接に行く途中でトラックに車を壊され、そのまま逃げられてしまう。
でも、それによって面接に遅刻することは無く、普通に間に会っている。事故が原因で格好が変になってしまうとか、面接の時に上手く話せなくなってしまうとか、そういうトラブルに繋がるわけでもない。
だったら、その当て逃げには全く意味が無い。
後で「壊れた車を父が修理する」というところには繋げているけど、そこは無くても全く支障が無い。
当て逃げ事故が無くても、「ウォルターが誤って猫を死なせてしまう」という状況は作れる。

就職に失敗したライデンは実家へ戻るが、そこには良い意味での引っ掛かりが何も無く、サラッと処理されている。
「自信たっぷりだったライデンだが、まさかの不合格、しかもライバルのジェシカが合格でショック」なんてことは無い。
「面接に落ちて今後どうしようか迷っていたが、ひとまず実家へ帰ることに」なんてことも無い。
そういうところのメリハリ、チェンジ・オブ・ペースが無くて、全体的にノッペリしている。

ライデンは面接シーンで、「小学生で『ライ麦畑でつかまえて』を読み、中学生ではブコウスキーに夢中になった」などと自分が本の虫であることを熱く語る。
だが、そのシーン以外に、彼女が本好きであることをアピールするような描写が、まるで見当たらない。
面接に落ちた後、家族と一緒にいる時も、アダムと一緒の時も、デヴィッドと一緒の時も、本について語ったり興味を示したりするようなことは一度も無い。
彼女は「本が人生の全て」のはずだが、それは設定だけで終わっており、物語には全く活かされていない。

自分が死の病だと言い張る祖母は、急に高価な棺を購入しようとする。だが、それはライデンの物語には全く関与しない。
ライデンは連絡を受け、母&ハンターと共に駆け付けるが、それだけだ。ハンターの悪戯に驚いて棺を壊してしまうが、壊したところでシーンが終わる。
「だから何?」って感じだ。
その後、ガラの悪い男たちが来る目で横に付けて凝視して来るが、特に何も無いまま終わる。
これもまた、「だから何?」って感じだ。ただ無駄に脇道へ逸れているだけにしか思えない。

大きく分けると「ライデンの就職活動」「ライデンの恋愛」「ライデンの家族」という3つの要素が盛り込まれているのだが、これが全く融合せず、全てがバラバラのままで進行する。
むしろ互いが互いを邪魔し合っており、全ての要素を薄っぺらくしているとさえ感じる。
アダムが進路に迷っているという設定も余計だ。
どうせ捌くことが出来ていないんだし、アダムは「ライデンを想っており、その気持ちも何度となく伝えているが、親友として見てもらえずにいる」というポジションに絞って描写した方がいい。

ライデンが面接の苦労を語り、「努力しろなんて言わないで」と文句を言うと、ウォルターは「理想が高いんじゃないか」と告げ、鞄の売り子を体験させる。
でも、その流れで、なぜ売り子をさせるのか良く分からん。それを受けるライデンの思考回路も良く分からん。
っていうか、そこに限らず、ライデンの思考回路ってのが、イマイチ良く分からん。
分からんっていうか、すげえ薄くて浅い。

デヴィッドの扱いも中途半端。 最初にライデンと出会った後、そこから20分ほど経過しないと再登場しない。最初の出会いで好意を抱いた様子を見せていたライデンだが、再登場までは彼のことなんか全く考えていないし。
で、映画開始から45分ほど経過し、デヴィッドの勧めでライデンは彼の助手を務めることが決まる。
タイミング的に遅いなあと感じていたのだが、そこから「ライデンがCM制作の助手として奮闘する」という展開になるのかと思いきや、デヴィッドがクライアントに腹を立てて仕事を辞め、あっさりとライデンの就職も終わりを迎えてしまう。
だったら、そんなの要らんよ。

序盤の展開からして、『大学は出たけれど』をやっていくのかと思っていたら、デヴィッドが仕事を辞めたところで、一気に恋愛劇へ傾いている。
ライデンが就職活動する話はどこへ行ったのか、そもそも彼女の本に対する情熱はどこへ行ったのかと。
その後、ジェシカが辞めたことでポストが空き、ライデンはH&B社に就職するが、そこでそこで働く様子はチラッとして描かない。
なんという半端さよ。

ライデンの就職が決まった後、アダムは進学のためにニューヨークへ行くことを話し、デヴィッドは故郷のブラジルへ帰ることを話す。
何となくライデンがアダムのことで悩んでいるっぽい様子も見せつつ、なぜか終盤になって、ウォルターの作ったボックス・カーに乗ってハンターが大会に参加し、それを家族が応援するという展開が用意されている。
物語が佳境に入ったところで、何故それなのか。
で、その後、ライデンは会社を辞めてアダムに会うためにニューヨークへ行くんだが、アホかと思ってしまう。
「やっぱりアダムが好き」と気付くのは別に構わんが、仕事を辞める必要ってあんのか。仕事を続けたまま、遠距離恋愛すりゃあいいじゃねえか。
そこで急に、「仕事を選ぶか、恋愛を選ぶか」という二択にしているのは、無理があり過ぎる。
それに、そんなに簡単に辞められるのなら、やっぱりライデンの言っていた「本が人生の全て」ってのは、大嘘だったのね。

(観賞日:2013年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会