『殺しのナンバー』:2013、イギリス&アメリカ&ベルギー

アメリカ、ニュージャージー州ジャクソン。CIA局員のエマーソン・ケントは、数字化された本部からの指令を受け取った。それは裏切り者を処分せよという内容だった。エマーソンは上司のグレイを車で待たせ、静かなバーに入った。彼は経営者であるフレッチャーに、「口座を見つけた。金は何に使った?」と問い掛ける。「人生をやり直したかっただけだ」と言うフレッチャーをエマーソンは射殺するが、店にいた男に逃げられてしまった。
エマーソンは男が店に残した身分証を見つけ、ナサニエル・デイヴィスという名前や住所を知る。エマーソンは家に乗り込んで彼を始末するが、そこへ娘のレイチェルが現れる。エマーソンは拳銃を構えるが、殺すことが出来なかった。エマーソンが外に出ると、レイチェルが「どうして殺したの」と追い掛けて来た。グレイが車から出て来て、レイチェルに発砲した。エマーソンが「まだ子供だ」と止めようとするとグレイは彼を殴り倒し、「始末は付けろ」と言ってレイチェルを射殺した。
本部はカウンセラーにエマーソンの精神鑑定を行わせ、イングランド東部サフォーク州にあるブラックレグ・マイナー送信局に異動させた。人里離れた場所にある小さな暗号送信局で、公式には存在しないがヨーロッパの局員に情報を送る拠点の1つだ。赴任期間について、グレイは「回復するまでだ」と告げる。彼は送信局での仕事について、暗号作成の専門家である民間人のキャサリンと組むこと、別のペアと3日交代で勤務することを説明した。
2ヶ月後、エマーソンは送信局で働いている。エマーソンの仕事は、施設を見回ることと、キャサリンが数字を読み上げる様子を見ていることぐらいだ。72時間の勤務を終えてエマーソンとキャサリンが送信局を出ると、局員のデヴィッドと民間人のメレディスが待っている。エマーソンとキャサリンは2人に仕事を引き継ぎ、送信局を去る。長く一緒に仕事をする中で、デヴィッドとメレディスは男女の関係になっている様子だった。
エマーソンはキャサリンを車で駅まで送り、電車で帰宅する彼女と別れる。次の勤務スケジュールに合わせて彼は駅へ行き、電車から降りたキャサリンを車に乗せる。2人が送信局に行くと、交代の時間になってもデヴィッドとメレディスが出て来なかった。エマーソンが車を降りようとすると、いきなり何者かが発砲して来た。エマーソンがキャサリンを連れて逃げ出すと、狙撃者は車を撃って爆発させた。エマーソンは暗証番号を打ち込んで扉を開け、キャサリンを抱えて送信局に逃げ込んだ。
エマーソンはキャサリンを待機させ、敵と銃撃戦を繰り広げながら奥へ進む。敵を始末したエマーソンは、オペレーターに連絡して送信局が襲撃されたことを伝える。現場から撤収したいと彼が告げるとオペレーターは承認し、「応援は4時間後。それまで局を確保し、送信係は職務を退任。暗号が漏洩した」と告げる。職務の退任とは、「送信係を始末せよ」という意味だった。エマーソンは指令の意味を隠し、キャサリンには「4時間待てと言われた」とだけ伝えた。
エマーソンは送信局で何が起きたのか調べようとするが、監視カメラは破壊されていた。しかし音声は生きており、デヴィッドが殺し屋のマックス、デルニ、フィッシャーに脅される様子が録音されていた。マックスたちは彼を暴行し、メレディスのいる送信室に入れるよう要求した。送信室は中からしか開けられないので、メレディスに開けさせるようマックスは求めるが、デヴィッドは拒絶した。マックスは「番号を送信しなければならない。協力すれば2人とも逃がしてやってもいい」と持ち掛けた。
エマーソンはキャサリンが左脚から出血しているのに気付き、音声の確認を中断した。キャサリンが「何も感じないわ」と言うので、彼は「危険な兆候だ」と告げる。エマーソンはキャサリンを台に乗せ、左脚に突き刺さった金属片を抜き取った。キャサリンがショックで気絶した後、エマーソンは彼女の傷口を縫合した。意識を取り戻したキャサリンは、「私たち、何も悪いことしてないのに。なぜ狙われるの」と言う。そこへオペレーターから連絡が入り、エマーソンは「予定変更だ。2時間以内に救出する」と告げられた。
「あの仕事は済んだか」と問われた、エマーソンは「まだ済んでいない」と答えた。「何か問題でもあるのか。すぐに遂行しろ」と命令されたエマーソンは、それには答えずに受話器を置いた。エマーソンはキャサリンと共に送信室へ行き、その日の午後に侵入者たちが15件の指令を送信したことを知った。それは極秘指令であり、内容については全く分からない。また、送信に使った15件分の暗号表が無ければ、任務中止の送信も不可能だった。
監視カメラの音声には、マックスたちが送信室に入った時の様子が録音されていた。マックスは冷静な態度でメレディスを脅し、拳銃を渡させた。そしてデヴィッドを暴行し、命令に従うようメレディスに要求した。地下室の音声には、発砲音が録音されていた。エマーソンとキャサリンが地下室へ行くと、デヴィッドとマックスが拳銃を握ったまま死体になって転がっていた。エマーソンは、互いに撃ち合って死んだのだと推測した。
エマーソンはデヴィッドの目的がホストマシンに繋がっている端末だと推測し、キャサリンに調べるよう指示した。すると端末には、グレイを含む政府機関の重要人物15名のファイルが記録されていた。エマーソンは「俺が体制を破壊したければ、この15人を最初に狙う。暗殺が実行されれば、たった一晩で世界は変わる」と口にする。「送信は済んだのに、なぜ私たちを狙うの?」というキャサリンの疑問に、彼は「生かしておけば妨害される恐れがあるからだ」と答えた。
キャサリンは万が一に備えて、端末のデータをコピーした。暗号表にはパスワードが掛けられていた。キャサリンがパスワードの解読に挑む中、エマーソンは送信局での勤務が初めてであること、今までは暗号を受ける側の人間だったこと、大学時代にスカウトされたこと、裏切り者の局員を始末したことを語った。エマーソンが監視カメラの音声を改めて確認すると、「本部との連絡回線が通じない」というデヴィッドの声が録音されていた。
エマーソンは暗号を告げた上でオペレーターと連絡して話していたが、キャサリンから「相手を確認した?」と訊かれる。エマーソンは暗号を少し変えて伝えるが、それでもオペレーターが出た。エマーソンが「今のは間違った暗号だ」と告げると、敵は「そんなことより女は殺したのか」と言う。エマーソンが受話器を置いて局内を調べると、緊急電話も使えなくなっていた。本部に事実を伝える方法は、もう何も残されていなかった。
敵からオペレーター回線を使って電話が入り、エマーソンは「女を殺せばお前は逃がしてやる」と告げられる。「お前が殺さなくても誰かがやる。それが掟だろ」という言葉で、エマーソンは敵が内情に詳しいと感じる。もしもの時は殺害する決まりだと知ったキャサリンに激しく責められたエマーソンは、「殺すつもりなら、とっくに殺してる」と告げて拳銃を渡した。落ち着きを取り戻したキャサリンは、エマーソンに「私の携帯電話、貴方の車に置いてある。それで助けを呼べる。録音されていた声は3人。死体は2つ」と話す。エマーソンはキャサリンに監視室のドアをロックさせ、敵に「女は始末した」と伝える。敵の指示を受け、エマーソンは外に出ようとする。その時、キャサリンがパスワードに気付いて暗号表を手に入れる。彼女は中止指令を出すため、監視室のドアを開けて送信室へ向かう…。

監督はカスパー・バーフォード、脚本はF・スコット・フレイジャー、製作はショーン・ファースト&ブライアン・ファースト&ナイジェル・トーマス、製作総指揮はアンドリュー・スポールディング&ダグ・マンコフ&スティーヴン・シルヴァー&ニール・タバツニック&クリストファー・フィッグ&ロバート・ホワイトハウス&クリス・フェントン&クリス・カウルズ&ジェイミー・カーマイケル&エリック・クワック&シャーロット・ウォールズ、撮影はオッター・グドナソン、編集はクリス・ギル&ペール・サンドホルト、美術はゲド・クラーク、衣装はシャーン・ジェンキンズ、音楽はポール・レナード=モーガン。
出演はジョン・キューザック、マリン・アッカーマン、リーアム・カニンガム、リチャード・ブレイク、ブライアン・ディック、フィンバー・リンチ、ルーシー・グリフィス、ジョーイ・アンサー、ヴィクター・ガーデナー、ジョー・モンターニャ、ブライアン・ソニー・ニッケルズ、ランディー・マーチャント、ハンナ・マーレイ、ゲイリー・ローレンス、マックス・ベネット、ジョナサン・ジェインズ、ガブリエル・レイディー他。


『テンプル騎士団  失われた聖櫃〈アーク〉』『72時間』のカスパー・バーフォードが監督を務めた作品。
元々はビデオ・ゲームのプロデューサーだったF・スコット・フレイジャーが初脚本を担当している。
エマーソンをジョン・キューザック、キャサリンをマリン・アッカーマン、グレイをリーアム・カニンガム、マックスをリチャード・ブレイク、デヴィッドをブライアン・ディック、偽オペレーターのマイケルズをフィンバー・リンチ、メレディスをルーシー・グリフィス、デルニをジョーイ・アンサーが演じている。
DVDでは『スパイ・コード 殺しのナンバー』というタイトルが付けられている。

「殺しの仕事に手を染めている男が、目撃者である幼い子供や、関係者である若い女性を殺すことが出来なくて云々」というのは、映画の世界では何度も使われてきたパターンだ。
使い古されているネタだからダメというわけではないが、この作品の場合、その扱いが雑すぎる。
まず、エマーソンの仕事ぶりが、あまりにもボンクラだ。バーにナサニエルがいたことに気付かず、殺しを目撃されて逃げられるって、ただのアンポンタンでしょ。
つまり、エマーソンは「命じられた仕事を遂行したら、その標的に娘がいて、そいつを殺すことが出来なかった」ということではなくて、「仕事を遂行した時にヘマをやらかして、その後始末をした時に娘に見られて、そいつを殺すことが出来なかった」ということなのだ。
そもそもエマーソンがボンクラなヘマをやらかさなければ、レイチェルに目撃されることも無かった。そんで彼女を殺すことが出来ず、でも放っておいたらマズいから上司が尻拭いをしてくれたわけだから、そこでエマーソンが心に傷を負っても、なんかイマイチ同情心が湧かないんだよな。
ある意味、自業自得だからね。

レイチェルが射殺されるのを見た後、「精神分析医によるカウンセリング」→「グレイから左遷の説明」という手順を経て、2ヶ月後のシーンに移るのは、テンポが悪くてモタモタしていると感じる。レイチェルが射殺されるのを見た後、すぐに2ヶ月後へ移行しちゃってもいいんじゃないかと。
そこでの仕事内容やキャサリンのキャラクター設定に関しては、2ヶ月後のシーンで説明することも出来るし。
「レイチェルが殺されるのを目撃した」という出来事を「キャサリンの始末を命じられる」という展開と重ね合わせ、「今回は死なせたくない。だから命懸けでキャサリンを守る」というエマーソンの動機に繋げたいのは分かる。
ただ、レイチェルの死に関しては、そもそも本部から「レイチェルを殺せ」と命じられたわけではない。エマーソンがヘマをして彼女に目撃されたせいで、始末せざるを得なくなっただけなのだ。
だから、それを重ね合わせるのは、段取りとしては理解できるけど、上手く行っているとは思わない。

音声確認の途中でエマーソンがレイチェルの出血に気付き、応急処置を施してベッドに寝かせる手順が入るが、これもモタモタしていると感じる。
ずっと同じテンポで進めると退屈に繋がるから、緩急やメリハリを付けた方がいいことは確かだ。ただし、そこは緩急になっていない。ただダラダラしているだけだ。
むしろ、これは89分という長編映画としては短めの上映時間なんだし、最後まで一気に突っ走るジェットコースター・ムービーに仕上げた方がいいんじゃないかと思うんだよね。
舞台は大半が送信局、登場人物も少数、内容も地味ってことを考えても、勢いで畳み掛けた方が得策だったんじゃないかと思うんだけど、それ以降もテンポが上がらないんだよな。

改めてオペレーターからキャサリンの始末を命じられたエマーソンが拳銃を手に取り、「キャサリンを背後から射殺する」というのを妄想するシーンが入るけど、こんなのも無駄なだけ。
エマーソンは最初に仕事を命じられた時点で、キャサリンの殺害を受け入れていなかったはずでしょ。2度目の命令で「ちょっとだけ遂行する気になった」みたいな描写を入れるのは、何の意味があるのかと。
そこでエマーソンの心象風景を入れるとすれば、レイチェルの死を目撃した時の様子でしょ。
っていうか、どっちにしろ、「2度目の命令を受けて、改めてエマーソンがキャサリンの殺害命令について思考を巡らせる」という手順なんて要らんよ。
もう1度目の段階で「レイチェルのことがあるので、キャサリンは絶対に殺さない」という気持ちになっているという設定でいいよ。そして、さっさと敵の目的を突き止めて、「暗号表を見つけて暗殺を阻止する」という行動に彼を向けさせようぜ。

エマーソンが送信室でキャサリンに「15件分の暗号表が無ければ任務中止の送信も不可能だ」と喋っていると、急に音声が聞こえて来る。
それは監視カメラの音声なんだけど、なぜ急に聞こえて来るのか。キャサリンは「再生のままだった」と言うけど、再生のままだったら、ずっと聞こえているはずでしょ。
急に音が聞こえるから、「誰かが侵入して音を出したのか」と思ったじゃねえか。そして、そうじゃなく「再生のままだった」という説明が入っても、やっぱり腑に落ちないし。
なんで「キャサリンが目を覚ました後、音声の確認を再開する」という手順にしなかったのか。なぜ音声確認が途中だったのに、送信室を調べる手順に移ったのか。
そこはエマーソンたちの行動に不自然なモノを感じるぞ。

しかも、「音声が聞こえて内容を確認し、地下室を調べに行く」という展開にしたせいで、またモタついてしまうし、また行動が不自然だと感じさせるんだよな。
その直前に、2人は15件の極秘指令が侵入者によって送信されていることを知ったはずでしょ。だったら、まず何よりも優先すべきは、その指令を中止させることのはずでしょ。
つまり、15件分の暗号表を見つけ出すために、2人は必死にならなきゃいけないはずなのよ。
「暗号表を見つけ出す手掛かりを得るために」という目的で、エマーソンたちが監視カメラの音声を確認したり、地下室を調べたりするなら理解できる。だけど、話の流れからすると、エマーソンたちはそういう目的で動いているわけでは無いのよね。
だったら後回しにしろと言いたくなる。地下室で見つけた端末には暗号表が入っているけど、最初からそれを探しに行ったわけじゃなくて、結果的に見つけただけだし。

あと、エマーソンがやけに落ち着き払っているのは何なのかと。
「暗殺が実行されれば、たった一晩で世界は変わる」と彼は言うんだから、危機的状況なのは理解しているはずでしょ。だったら「何とか阻止せねば」ということで、もっと必死になれよ。
その冷静さは「プロとしての落ち着き」じゃなくて、ノンビリしているだけにしか思えない。ただ単に現実を理解していない、もしくは理解しているけど真剣に向き合っていないとしか思えない。
そこは、もっと焦った様子を表現させた方がいいよ。
エマーソンとキャサリンが落ち着き払って、互いのプロファイリングなんかを語ったりするから、緊張感や切迫感が全く伝わって来ないのよ。

序盤でレイチェルの殺害という出来事があり、それを重ね合わせて「エマーソンがレイチェル殺害命令に従わない」という展開にしているのであれば、絶対にエマーソンはレイチェルを守り通さなければならない。
それは必須事項だし、この映画の肝と言ってもいい。
ところが、完全ネタバレになるけど、終盤にエマーソンは敵の侵入を許し、レイチェルを撃たれているのだ。
幸いにも一命は取り留めているけど、そりゃダメだわ。それは「キャサリンを守り切れなかった」ってのと、ほぼ同じだぞ。
キャサリンが撃たれて意識不明の重体に陥る展開にすることのメリットがサッパリ見えんわ。ただシナリオとしてアホなだけだよ。

(観賞日:2015年2月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会