『完全犯罪クラブ』:2002、アメリカ

カリフォルニアの小さな町サン・ベニート。人気者のリチャード・ヘイウッドと秀才のジャスティン・ペンデルトンは、同じ高校の クラスメイトだ。2人は学校では仲の悪い態度を見せていたが、それは見せ掛けだった。夜になると、2人は海岸の断崖に建つ古い屋敷で 落ち合い、完全犯罪の計画を話し合っていた。そして2人は、ついに計画を実行に移すことにした。
サン・ベニート警察殺人課の刑事キャシー・メイウェザーは、風紀課から異動してきたサム・ケネディー刑事とコンビを組むことになった。 2人は、女性の他殺体が発見された川沿いの現場に赴いた。死体は薬指が切断されており、近くには吐瀉物があった。キャシーが住処で ある船に戻ると、カリフォルニア州仮釈放審議委員会からの封筒が来ていた。それは、カール・ハドソンという男に関する審問会開催の 通知だった。
被害者がオリヴィア・レイクという女性だと判明した。犯人は手袋をしていたらしく、現場に指紋は残っていなかった。殺害現場は川沿い ではなく、別の場所で殺されて運ばれていた。キャシーとサムが捜査をしていると、主任のロッドが元同僚の地方検事補アル・スワンソン を連れて現われた。アルを嫌っているキャシーは、すぐに立ち去った。ウィルモントへ赴いたキャシーは、過去に自分が関わった事件を 回想した。彼女は追ってきたサムを誘惑し、肌を重ねた。だが、セックスが終わると、そっけなく追い返した。
犯行現場に残されていた靴跡は、リチャードの購入したヴィジーブーツのものだった。だが、それはリチャードとジャスティンの筋書き 通りだ。キャシーとサムは高校に現われ、リチャードに質問した。リチャードは、ブーツが3週間前に盗まれたものであり、既に盗難届を 出していると説明した。犯行時刻のアリバイも作ってあった。だが、キャシーはリチャードに疑いを抱いた。キャシーはロッドやアルに、 ヘイウッド邸の家宅捜索を求めた。だが、リチャードの父は有名な実業家であり、何の確証も無いことから却下された。
鑑識の結果、吐瀉物からキャビアが検出された。サムがキャビアを出しているレストランをリストアップし、キャシーはリチャードが良く 行くメゾン・セント・クロワという店を訪れた。店長に質問したキャシーは、ジャスティンも良く来ていることを知った。しかも、彼が キャビアを食べたのは、犯行推定時刻の直前だった。キャシーは高校へ行ってジャスティンに会い、リチャードのことを尋ねた。彼は、 リチャードとの仲の悪さを語った。
サムはブーツを盗みそうな人物を絞り込み、聞き込みに行った翌日から姿を消している高校の用務員レイに目を付けた。レイは高校生に マリファナを売っており、自宅からも薬が見つかった。家宅捜索の結果、レイは完全に警察が想定した犯人像と一致していた。一方、 リチャードはジャスティンがクラスメイトのリサと接近しているのを知り、彼女を誘惑してセックスに持ち込んだ。リチャードは盗撮した ビデオをジャスティンに見せ、「あの女の正体を示すためにやった」とうそぶいた。
リチャードは匿っていたレイを殺害し、自殺に見せ掛けた。ロッドはレイが犯人と断定し、捜査の打ち切りを決定した。しかしキャシーは リチャードとジャスティンが犯人だと確信し、単独で捜査を続けた。彼女は2人が密会する現場を撮影し、写真をサムに見せて協力を 求めた。キャシーの説得を受けたサムは、捜査に戻った。やがて、吐瀉物のDNAがジャスティンのものと一致した。キャシーとサムは ロッドを説得し、リチャードとジャスティンを別々に取り調べ室へ呼んで事情聴取する…。

監督はバーベット・シュローダー、脚本はトニー・ゲイトン、製作はリチャード・クリスタル&バーベット・シュローダー&スーザン・ ホフマン、共同製作はフランク・キャプラ三世、製作総指揮はサンドラ・ブロック&ジェフリー・ストット、撮影はルチアーノ・トヴォリ、 編集はリー・パーシー、美術はスチュアート・ワーツェル、衣装はキャロル・オーディッツ、音楽はクリント・マンセル。
主演はサンドラ・ブロック、共演はベン・チャップリン、ライアン・ゴズリング、マイケル・ピット、アグネス・ブルックナー、クリス・ ペン、R・D・コール、 トム・ヴェリカ、ジャニー・ブレン、ジョン・ヴィッケリー、マイケル・カナヴァン、クリスタ・カーペンター、ニール・マタラッツォ、 アディラー・バーンズ、ジム・ジャンセン、ポーラ・スカーピノ、ブライアン・ステパネク、シャロン・マッデン他。


1924年にシカゴで起きたレオポルド&ローブ事件から着想を得た作品。
サンドラ・ブロックがキャシーを演じ、製作総指揮にも携わっている。
リチャードをベン・チャップリン、ジャスティンをライアン・ ゴズリング、ジャスティンをマイケル・ピット、リサをアグネス・ブルックナー、レイをクリス・ペン、ロッドをR・D・コール、アル をトム・ヴェリカが演じている。
監督は『死の接吻』『絶体×絶命』のバーベット・シュローダー。

レオポルド&ローブ事件は映画人の心を刺激する題材のようで、これまでにも何度か扱われている。
最も有名なのは、アルフレッド・ヒッチコックが1948年に撮った『ロープ』だろう。
他にも、『強迫/ロープ殺人事件』(1959年、リチャード・フライシャー監督)、『恍惚』(1992年、トム・カリン監督)という作品が ある。
レオポルド&ローブ事件とは、シカゴ大学の学生ネイサン・レオポルドとリチャード・ローブが、ニーチェの超人思想にカブれて起こした 事件である。2人は顔見知りだった13歳の少年を誘拐して殺害し、家族に対して身代金を要求する脅迫状を送り付けた。
完全犯罪を実行したつもりの2人だったが、あっさり捕まった。
なぜなら、死体遺棄現場にレオポルドがメガネを落としていたからだ。
完全犯罪とは程遠い、マヌケなミスである。

「キャシーが死体遺棄現場に赴く」というところから事件に入っていくが、この語り方に違和感を覚えた。
リチャードとジャスティンが綿密な計画を立て、冷徹に犯罪を実行し、証拠を隠蔽していく様子を描いていくべきだ。そして、2人が完璧 な計画に自信満々だというところをアピールすべきだ。そして、後半に入って崩れていくという展開に持って行くべきだ。
セリフだけで隠蔽工作の計画を語らせるなんてダメでしょ。
ただし、そのような語り方に出来なかったのも、無理は無い。
なぜなら、死体遺棄現場で嘔吐しているからだ。
つまり、もう犯罪を実行した段階で、既に完全犯罪はあっけなく崩れているのだ。
「死体遺棄や隠蔽工作は完璧だったが、警察の捜査が進む中で次第にボロが出るようになったり、2人がヘマをやらかしたりする」という わけではないのだ。

リチャードとジャスティンが犯罪を実行する展開が、後半になってから回想で描かれるというのは、いかにも間の抜けた構成だと思うが、 その犯行自体がマヌケなんだよな。
なぜ「死体遺棄の段階で既に失敗している」という筋書きにしたのか、理解に苦しむ。
そんなところでレオポルド&ローブ事件をリスペクトしなくてもいいのに。
ただ、例え現場でゲロを吐いていたという設定であろうとも、そこを隠した状態で最初に犯行の様子を描き、後で嘔吐していたことを 明かす構成なら、少しは印象も変わったとは思うけれど。

キャシーは、いかにも頭の切れる刑事として登場する。
そうなると、リチャードとジャスティンも彼女に対抗できるぐらいの知能犯でなければ困る。
ところが実際には、もうキャシーが登場する前の段階でボロが出てしまっている。
ただの自信過剰なボンクラどもに過ぎない。
キレ者デカに対して、リチャードとジャスティンが敵としては弱すぎるのだ。

そのキャシーの描写についても、首を傾げざるを得ない。
キャシーがリチャードに疑いを抱く理由が「過去に関わった事件の犯人に似たタイプだから」という何の説得力も無いもので、最初に 示した「優秀」というイメージをブチ壊してしまう。
吐瀉物からキャビアが見つかってレストランをリストアップするが、キャビアを食べるのはレストランとは限らない。
それに、いきなりリチャードの馴染みのレストランに絞り込むのは突飛としか思えない。

キャシーが過去の事件(ネタバレだが、DV夫カールに殺されそうになり、奇跡的に助かった過去がある)を引きずっている設定も、邪魔 な飾りにしか感じない。
彼女には「すぐセックスで相棒を誘惑して、終わったら冷たくする」という風変わりな性癖の設定もあるが、何の意味があるんだか サッパリ分からない。その性癖に振り回されるサムの存在価値って、皆無に等しいし。
というか、そもそもキャシーの扱いを大きくしたのが失敗だろう。
ライアン・ゴズリングとマイケル・ピットの主演では訴求力が弱いということで、サンドラ・ブロックが刑事として主演することに なったのかもしれない。
そのことでメジャー映画としての形は出来たが、映画としてのバランスは崩壊した。
事件と同じで、最初からボロは出ている。

捜査する刑事を大きく扱うにしても、最初からリチャードとジャスティンを犯人だと確信し、何の揺らぎも無いというのは、いかにも マズい筋書きだ。
最初は2人の思惑通りの方向に目を向けるけど、途中でボロが出て風向きが変わる形にすべきだろう。
一応、最後に捻りも無いわけではない。ネタバレだが、それは「リチャードが殺害の実行犯だと思っていたがジャスティンだった」という ものだ。
でも、そんなのは「どっちでもいいよ」という一言で片付けてしまいたくなるようなことだ。

(観賞日:2007年10月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会