『近距離恋愛』:2008、アメリカ&イギリス
1998年、コーネル大学。ハロウィンの夜、トムはモニカとセックスしようとするが、間違って彼女の友人ハンナのベッドに潜り込んで しまった。驚いたハンナは、トムに香水を浴びせた。ハンナは紙コップにコーヒーを入れる際、手に軽い火傷を負う。それを見たトムは、 「火傷しない物を発明した。紙コップに厚紙を巻くカップ・スリーブだ」と言う。彼は新入生に手を出しまくり、寮生の半分と寝ている プレイボーイだ。トムはハンナを口説いてセックスを拒まれるが、彼女のことが気に入り、友達になった。
10年が経過し、トムは相変わらず自由気ままな女遊びを続けていた。彼は「2日連続で同じ相手とは寝ない」というルールを作り、大勢の 女性と関係を持っていた。カップ・スリーブで儲けているトムは、悠々自適な生活を送っている。メトロポリタン美術館で働くハンナとは 、親友としての関係が続いている。トムはハンナに、父の結婚式に同席してほしいと頼む。トムの父トーマス・シニアは、クリスティーと いう若い女と再婚する。これが6度目の結婚だが、そこに愛は無い。シニアの弁護士でトムの友人でもあるデニスが、クリスティーの 弁護士と電話で話し、結婚の条件交渉を行う。それが決着して、ようやくクリスティーは式場に入った。
結婚パーティーに参加したトムは、自分の追っかけをしている厄介なブロガー女が現れたので、ハンナに恋人のフリをしてもらった。 ハンナはトムに、スコットランドの貴族が所有する名画を美術館が買い取ること、自分が派遣されて6週間の出張に行くことを話した。 ハンナがスコットランドへ行くとと、トムは寂しさを感じる。他の女性とデートをしても、ハンナとの違いが気になった。
トムは大学時代からの親友であるデニス、ゲイリー、フェリックスの3人とバスケをしても、いつもの調子が出ない。彼は「ハンナが好き なのかな。女と寝るだけが人生じゃない気がする」と呟き、「ハンナが戻ったら、結婚はしないけど一緒に暮らす」と宣言した。帰国した ハンナから夕食に誘う電話を受けたトムは、喜び勇んで指定された店へ出向いた。するとハンナは、スコットランドで出会ったコリンと いう男と一緒だった。ハンナはコリンのプロポーズを受け、2週間後には彼の別荘で結婚式を挙げることになっていた。
トムはハンナからメイド・オブ・オナー(花嫁立会人の代表者)になるよう依頼され、返事を留保した。しかしゲイリーから「立会人なら 花嫁とずっと一緒だ。ハンナに結婚を諦めさせて、取り戻せ」と言われ、引き受けることにした。彼はハンナから、他のブライズメイド (花嫁付き添い人)を紹介される。彼女の友人であるステファニーとヒラリー、それに従妹のメリッサだ。かつてメリッサはトムを本気で 好きになったが、軽い付き合いでフラれた。そのため、彼女はトムを嫌っていた。
トムはハンナから、「明日は母と祖母が来て忙しいから、コリンに付き合って」と頼まれた。トムはコリンをバスケに連れて行き、試合に 参加させる。経験の無いコリンの前で次々にシュートを決めたトムは、勝ち誇った気分になる。ところがコリンは試合途中からダンクを 何本も決め、トムと仲間たちを驚かせる。試合後、シャワールームでコリンの大きなイチモツを見たトムたちは、唖然とした。
トムはデニスの提案を受け、私立探偵にコリンの欠点を調べてもらうことにした。彼はハンナに同行し、両親も世話になったという牧師の いる教会へ行く。その道中、ハンナはトムに、コリンが帰郷していること、審議会に結婚の証人を申請していることを語る。コリンは公爵 なので、外国人と結婚するには承諾が必要なのだという。フート牧師と会ったハンナは、結婚式の相談を持ち掛ける。コリンを好きに なった理由を問われたハンナが「一目惚れ」と言うと、フートは「もっと具体的に、彼への気持ちを教えて欲しい」と求められる。ハンナ が何も思い浮かばず困っていると、トムは過去に彼女が発した言葉を挙げて助言した。
トムは自宅を解放し、ハンナの婚前パーティーを開いた。彼はスコットランド音楽を流すが、すぐにハンナが嫌がった。トムは臓物を 使ったスコットランド料理のハギスを用意し、それを口にしたハンナは顔を歪ませた。トムはメリッサから、余興で呼ぶ占い師を紹介して もらっていた。しかし実際に呼んでみると、占い師ではなくエッチなグッズの販売員だった。ハンナは不機嫌になり、「結婚を信じない人 に任せたのが失敗だったわ」とトムを責めた。
トムはゲイリーに電話を掛け、作戦の失敗を落ち込んだ様子で話した。するとゲイリーは、「メイド・オブ・オナーを完璧に務め上げれば 、彼女はお前を見直すはずだ」と言う。デニスが雇った探偵の調査では、コリンに欠点は見つからなかった。彼はギネスブックに2度掲載 され、軍の名誉勲章を受けていた。トムは彼は友人たちに協力してもらい、立会人について勉強する。エリザベス・ハッセルベックの DVDを見て、何をすべきなのかという情報を得た。
トムはハンナの買い物に付き合い、皿やランジェリーを選んだ。買い物の後、ハンナは「もうニューヨークには戻らない。スコットランド に永住する。新しい生活が始まるの」と嬉しそうに言った。トムは諦めの境地に陥り、父の前で「負けたんだ。身を引くよ」と漏らした。 すると父は、「それは腰抜けの考え方だ」と告げる。彼は自分の体験を語り、「彼女を取り戻せ」とトムの背中を押した。
スコットランド入りしたトムは、メリッサたちと共にコリンの別荘へ向かう。すると、そこは大きな古城だった。スコットランドの伝統的 な結婚式の行事に、トムは困惑した。伝統に従い、結婚式の前にはハイランダー・ゲームズという競技会が開かれた。それは花婿が男と しての技量を証明するための競技会だ。もし他の男に負ければ、花婿失格ということになる。そこでトムは張り切って参加し、コリンと 競い合う。しかし最後の丸太投げで、情けない敗北を喫した。トムはハンナと2人きりになり、自分の気持ちを打ち明けようと考える。 だが、なかなかタイミングが掴めず、2人きりになることが出来ない…。監督はポール・ウェイランド、原案はアダム・スティキエル、脚本はアダム・スティキエル&デボラ・カプラン&ハリー・エルフォント、 製作はニール・H・モリッツ、製作総指揮はカラム・グリーン&タニア・ランドー&アマンダ・ルイス&マーティー・アデルスタイン& アーロン・カプラン&ショーン・ペローネ&ライアン・カヴァナー、撮影はトニー・ピアース=ロバーツ、編集はリチャード・マークス、 美術はカリーナ・イワノフ、衣装はペニー・ローズ、音楽はルパート・グレッグソン=ウィリアムズ、音楽監修はニック・エンジェル。
主演はパトリック・デンプシー、ミシェル・モナハン、ケヴィン・マクキッド、キャスリーン・クインラン、シドニー・ポラック、クリス ・メッシーナ、ビジー・フィリップス、ケヴィン・サスマン、リッチモンド・アークエット、カディーム・ハーディソン、セルマ・ スターン、ホイットニー・カミングス、エミリー・ネルソン、ジェームズ・B・シッキング、ボー・ガレット、クリスティーン・バーガー 、リリー・マクドウェル、ケリー・カールソン、クレイグ・サスナー、コリンヌ・ライリー、トリップ・デイヴィス、ヴァレリー・ エドモンド他。
『シティ・スリッカーズ2/黄金伝説を追え』『ロザンナのために』のポール・ウェイランドが監督を務めた作品。
トムをパトリック・デンプシー、ハンナをミシェル・モナハン、コリンをケヴィン・マクキッド、ハンナの母ジョーンをキャスリーン・クインラン、シニアを シドニー・ポラック、デニスをクリス・メッシーナ、メリッサをビジー・フィリップス、ゲイリーをリッチモンド・アークエット、 フェリックスをカディーム・ハーディソンが演じている。1966年生まれのパトリック・デンプシーは1985年に『パニック・スクール/冒涜少年団』で映画デビューし、その後は『キャント・バイ・ ミー・ラブ』や『ダルク家の三姉妹』といった青春映画で主演を務めた。
そのまま順調に人気スターとしての階段を上がり続けていくかと思いきや、1993年の『バンク・ラバー』で劇場用映画の主演がストップ。
その後、テレビ映画の主演作はあるものの、劇場用映画では助演が続いた。
2002年の『Rebellion』という映画で主演しているようだが、かなり低予算で作られたインディーズ作品のようで、調べても劇場公開 された情報が見つからなかった。しかし、同じく2002年に公開されたリース・ウィザースプーン主演作『メラニーは行く!』でヒロインの婚約者役を演じるなど、長い 低迷期を脱出する兆しは見えつつあった。
だが、その後が続かず、テレビ作品の出演のみという状況に戻る。
そんな中、2005年から放送が始まったTVシリーズ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』でデレク・クリストファー・シェパードを演じ 、遅ればせながら人気がブレイク。
2007年の映画『フリーダム・ライターズ』ではヒラリー・スワンクの相手役、同年の『魔法にかけられて』ではエイミー・アダムスの 相手役を務めた。
そして本作品で、久々に主役を演じることになったわけである。まあ一言で表現するならば、「パトリック・デンプシーをご覧あれ」という映画である。
世の女性たちが、パトリック・デンプシーの魅力を堪能するための作品だ。
「素敵だわあ、セクシーだわあ、最高だわあ、あんな男性と恋に落ちたいわあ」と、ウットリした目で彼を見て、心が満たされてくれれば 、それで本作品の目的は達成される。
ある意味では、パトリック・デンプシーのアイドル映画なのだ。普通に考えると、ロマンティック・コメディーってのは主に女性がターゲットと考えられるから、主人公はヒロインの方がいいはずだ。
なぜなら、ロマコメを見る女性客は基本的に、ヒロインに自己を投影する。そして、ヒロインが魅力的な男性に恋を抱き、その男性と 結ばれて幸せになることで、自分も幸せな気分になれる。
そういうことを考えれば、男女の双方から描くのではなく、完全に男性視点から描かれたロマンティック・コメディーってのは、「どう いう観客層を狙っているのか」ってことになる。
しかし前述したように、これはパトリック・デンプシーを堪能するための映画だから、それで構わないのだ。
むしろ、ヒロイン側の描写を多く盛り込んでしまったら、そんなのは邪魔になる。しかしながら、私は残念なことに、パトリック・デンプシーにウットリできる類の人間ではない。
なので、どうしても色々なところで引っ掛かる。
まず、トムがハンナに対する気持ちに気付くタイミングが早すぎる。
そりゃあ、それ以降の展開を考えると、早い段階で気付かせないと時間が足りなくなるという問題はある。
ただ、それ以降の展開も含めて、大幅に改変した方がいいと感じる。トムはハンナがヨーロッパ出張に行ったことで本当の気持ちに気付くのだが、今まで彼女と長く離れた時期は無かったのか。
彼女が出張してから、すぐに彼女のいない寂しさを感じているようだけど、友達関係になってから10年も経つんだから、今までも何日か 会えないという状況ぐらいあっただろうに。毎日付かず離れずだったわけじゃあるまいに。他の女性とのデートで「ハンナとは違う」と 感じているみたいだけど、そういう状況も今までにあっただろうに。
これが「ハンナが結婚を決めた後、他の女とデートして、初めてハンナと一緒にいる居心地の良さを感じる」ということなら、それは 分かるんだけどさ。ハンナは出張しただけだからね。
とにかく、トムがハンナに対する気持ちに気付くのが早いってトコに、まず引っ掛かるんだよな。
そこは例えば、「ハンナから結婚を知らされ、立会人を依頼されて承諾する」という辺りで動揺や困惑の感情を抱かせて、「立会人として ハンナと一緒にいる間に、彼女に対する本当の思いに気付く。彼女の結婚を応援するつもりが、複雑な気持ちになる」というでも展開に したらどうかと思ったり。トムはハンナに結婚を諦めさせようとしているはずなんだけど、そのための行動が少ない。
婚前パーティーまでは特に何もしておらず、そのパーティーでスコットランド音楽を流すのと、ハギスを出すのと、その2つだけでしょ。
あの余興に関しては、トムが狙ったものじゃなくてメリッサにハメられただけだし。
そこまでは、ただ普通にハンナを立会人としてサポートしているだけにしか見えないぞ。
もっと結婚生活の大変さやスコットランド人の悪口を吹き込むとか、そういう行動を取っても良さそうなものだが。まだハンナに結婚を諦めさせるための行動がほとんど無い内に、トムは彼女から幻滅されてしまう。
だから、そこが淡白で薄いと感じる。
その作戦が失敗したから仕方が無いんだけど、「完璧に立会人を務めて見直してもらう」という作戦に切り替えるのが、拙速に思える。
あと、立会人を完璧に務めたところで、それは「素晴らしい友人」として見直してもらえるだけであって、「だからコリンとの結婚は中止 してトムと結婚しよう」という気持ちになることは無いと思うぞ。
それは筋書きに無理がある。いつの間にか、「完璧に立会人を務めて見直してもらう」というところから「一緒にいる間に告白する」と いうところへ目的が摩り替っているけど。トーマス・シニアの結婚パーティーでトムとダンスをした時にハンナの表情などから、彼女がトムに好意を寄せていることは明白だ。
にも関わらず他の男と付き合った経験もあるようだが、それは「トムが自分を女性として見てくれないので、他の男と交際したけど、 ホントはトムが好きなので上手く行かなかった」と解釈できる。
ただ、コリンとの結婚を決めるのは、まるで意味が違う。
運命的な出会いだったということなんだろうけど、出張するまでトムに惚れていたはずなのに、戻ったらコリンとラブラブって、なんか 違和感が強い。ずっとハンナはコリンにメロメロ状態なのだが、終盤に入ってトムとキスして、急に気持ちが彼へと傾いている。
そこまでは、トムのことなんか全く眼中に無かったのにだ。
かつてはトムに惹かれていたはずなのに、未練は皆無で、彼の前でも平気でコリンとラブラブな様子を見せ付けている。
キスによって、急にレバーを切り替える。結婚式の準備をする中での迷いや揺らぎ、葛藤や逡巡ってモノが全く無い。
だから、映画『卒業』の模倣でしかないクライマックスが訪れても、まるで気持ちが乗らない。そこで感じるのは、「コリンが可哀想」ってことだ。
コリンって何の落ち度も無いし、いい男なんだよな。
メインのカップルが掴み取ったハッピーエンドよりも、コリンの不憫さが気になってしまう。
そこは、「何もかも全て持っているヨーロッパの貴族に対して、地位も名誉も無くて全ての面で負けているアメリカ人が愛情だけで女を 勝ち取った。アメリカ万歳!」とでも受け止めればいいのだろうか。(観賞日:2013年4月7日)