『カレの嘘と彼女のヒミツ』:2004、アメリカ

ステイシー・ホルトが幼い頃、母はカーリー・サイモンさえ聴けば何とかなると思っていた。母は車内でカーリー・サイモンのカセットテープを娘に流してもらい、その歌声で気持ちを落ち着かせた。父と喧嘩した時も、父が家を出て行った時も、母はカーリー・サイモンを聴いていた。そんな母の影響で、ステイシーも困ったらカーリー・サイモンに頼るようになった。彼女は母から、「備え無くして良い人は無い」と教えられた。
放送ジャーナリズムの世界に憧れを抱いたステイシーは、やがてダイアン・ソーヤーと一緒に働きたいと思うようになった。大学に進んだ彼女は同級生のビーンと付き合い始めるが、母から「間違いないと確信できるまでは深入りしちゃダメ」と釘を刺される。ステイシーはビーンに「私たちの進む道は同じじゃないと思う」と告げ、別れることにした。ステイシーはバーでデレクと出会って恋に落ち、交際するようになった。
ステイシーはトークショー司会者のキッピー・キャンがアシスタントプロデューサーを募集していることを知り、面接を受けて採用された。転職初日、ステイシーは先輩のアイラに案内され、同僚となるバーブを紹介された。バーブは仕事の内容を簡単に説明し、トークショーが収録されるスタジオの副調整室へステイシーを連れて行く。キッピーのトークショーは、恋人を裏切った男を糾弾して痴話喧嘩を見せる内容だった。ステイシーのミスで予定外の進行になったため、キッピーはプロデューサーのカールに激怒した。
カールは番組の会議でスタッフにステイシーを紹介し、広報担当のケイティーがキッピーの新しいキャッチコピーを披露した。バーブはステイシーに小声で「こういう手法は古い」と囁くが、カールは「ノスタルジアだ。古い物が受ける」と自信を示した。そこへキッピーが来てキャッチコピーを扱き下ろし、タブロイド誌に掲載されたノーメイクの写真について「最近の写真よね?」と身内のリークを指摘した。アイラは「誰が流したのか突き止めます」と約束するが、3年前から働いているのにキッピーには顔も覚えられていなかった。
カールが企画のアイデアを募ると、アイラが最初に発言する。すぐにカールは却下するが、ラリーがアイデアを加えて提案すると採用した。アイラが「僕のアイデアだぞ」とラリーに腹を立てると、カールは「共同のアイデアとしてクレジットを出す」と告げた。他にも次々とスタッフが意見を出す中、アイラは「小さな黒い手帳」と口にする。「電子手帳を見れば自分の男が誰とどこにいたか分かる。視聴者は9割が女性だ」と彼が説明すると、納得したカールは企画を立てるよう指示した。ステイシーも負けじと発言するが、場が一気に静まり返ったのでジョークにして誤魔化した。
ステイシーから番組の仕組みを訊かれたバーブは、「とにかく過激なネタが勝つ」と答えた。アシスタントプロデューサーは1つの放送枠を取れば実績になり、それによって昇進を競い合う。現在はアイラがトップで、彼を超えるには金曜からの1週間で生番組をやるしか方法が無いとバーブは説明した。バーブはアイラに才能があると認めていたが、「昇進は無理。キッピーの顔色を窺い過ぎる」と言う。彼女はステイシーに、「もうすぐキッピーは切られる」と告げた。
ステイシーが驚くと、バーブは「誰があの写真を売ったと思う?視聴率が下がって来ているのに、あと5年も契約がある」と話す。彼女は自分が古株ではなく、1年前はウォール街で働いていたと告げる。ステイシーが「キッピーを助けてあげましょうよ」と提案すると、彼女は「かつてはニューヨークでプライムタイム。今はニュージャージーの地方局。もう逆転は無理だろうし、私たちが出来るのは視聴率を勝ち取ることぐらいね」と言う。「じゃあ勝ち取りましょうよ」とステイシーが告げると、彼女は「そういうことを私に望んでも無駄よ」とクールに述べた。
ステイシーが自宅で勉強のためにキッピーの番組を見ていると、スーパーモデルのルル・フリッツが登場した。同棲中のデレクはルルに気付き、「良く吐いてた。何度も見た」と言う。ステイシーが「どういうことか説明して」と要求すると、彼は「付き合ってたんだ。前に話しただろ?」と告げる。ステイシーが「聞いてない」と言うと、「話したと思ってたよ」と彼は何食わぬ顔で口にした。ステイシーが「ジョイスという恋人のことは話したのに」と不満を漏らすと、デレクは面倒そうに「こうなるから話したくないんだ。もう終わったことさ。俺は君の昔のことなんか訊いたりしないぞ」と述べた。
ステイシーは「昔のことは互いに話さない」と決めるが、そのことをバーブとアイラに話すと考え直すよう忠告される。2人は「彼は絶対に何か隠してる」と言い、ステイシーがデレクの家族と会ったことが無いと聞いて驚いた。デビルスのスカウントマンをしているデレクは2週間の出張に行っており、その間に調べるよう2人は勧めた。アイラはルルに電話を掛け、来月の特別番組に出てもらいたいので打ち合わせに来てほしいと嘘をついた。
アイラはステイシー&バーブを伴ってルルと会い、ステファンの前に付き合っていた相手について質問する。デレクの名前が挙がったので、ステイシーは詳しく質問した。ルルは「セックスだけの関係だった」と言うが、「あまり会話は無かったけど、色々と試せて良かった」と嬉しそうに話す。さらに質問を受けた彼女は、自分が浮気して別れたこと、デレクが付きまとったので前の彼女に戻るよう告げたことを話す。元カノのジョイスがヨリを戻したがっていたこと、デレクが同情で復縁したことも、ルルは語った。
帰宅したステイシーはデレクの荷物を勝手に調べ、元カノであるジョイスやレイチェルたちの写真を発見した。デレクの留守電メッセージを聞いたステイシーは、彼がPDAを家に忘れたことを知る。彼女はPDAを見つけて中身を調べ、ジョイスがカレイドスコープ・キッチンで働いていることを知る。翌日、その情報をステイシーか聞いたバーブは、店がオープンしてから数ヶ月であること、つまりデレクがPDAに登録してから間もないことを教えた。
バーブは「2人が連絡を取り合っているってことよ」と言い、揺さぶりを掛けてみようとステイシーに持ち掛けた。彼女はジョイスに電話を掛け、番組の企画で取材させてほしいと告げた。バーブはデレクが嘘をつく悪癖の持ち主かもしれないと言い、詳しく調べるべきだとステイシーに説く。ステイシーは消極的な姿勢を示すが、彼女は「人間には行動パターンがある」と主張する。バーブは足の専門医であるレイチェルの診察予約を取るよう促し、「ダイアン・ソーヤーと仕事がしたいんでしょ。だったらリサーチの仕事をしなきゃ」と話す。結局はステイシーも折れ、木曜日に予約を入れた。
レイチェルのクリニックを訪れたステイシーは、彼女が足の専門医ではなく産婦人科医だと知った。うろたえるステイシーだが今さら逃げ出すことも出来ず、そのまま診察を受ける羽目になった。レイチェルとデレクの愛犬であるボブのツーショット写真を見つけたステイシーは、キッピーの番組スタッフだと打ち明けて出演交渉を持ち掛けた。ボブについて質問すると、元カレの犬だが自分が育てたこと、面会権があって数週間前にピクニックで会っていることを彼女は語った。ステイシーは出勤し、バーブに報告を入れた。
夜、ステイシーはボブを散歩させながら、デレクと電話で話す。するとボブは急に自宅と異なる方向へ走り出し、着いた先はレイチェルのアパートだった。レイチェルがボブに気付いたので、ステイシーは慌てて隠れる。しかしボブがレイチェルの元へ走ったので、ステイシーはバーブを呼んで助けを求めた。バーブは犬の散歩係と偽り、レイチェルからボブを引き取った。バーブはデレクのPDAを開き、ジョイスの水着写真をステイシーに見せた。
ジョイスの写真が何枚も保存されていることを知ったステイシーは、「これ以上は無理」と顔を背ける。しかしジョイスがデレクの家族と一緒にいる写真が何枚もあることをバーブが教えると、それを見てステイシーはショックを受けた。PDAの充電が切れたので、ステイシーは慌てて帰宅した。彼女は充電を開始するが、スライドショーでジョイスの写真が次々に表示される。彼女はバーブに止めるよう頼むが、フリーズしてしまった。
コンピュータが勝手にジョイスへ電話を掛けたので、ステイシーは慌てて切る。だが、すぐにジョイスから折り返しの連絡が入ってデレクの留守電メッセージが流れた。ジョイスの「先週から電話を待ってるのよ。連絡して。そうだ、貴方のジョークは受けてたわ」という言葉に、ステイシーは腹を立てる。直後に今度はデレクが着信メッセージを確認するため電話を掛けて来たので、ステイシーは慌てて電話機を叩き壊した。彼女は「どういうことか調べる。やましいことが無いなら、なぜデレクは昔の恋人のことを隠そうとするの?」と苛立ち、ジョイスに電話を掛ける。彼女はキッピーの番組スタッフだと告げ、取材に行く約束を取り付けた。
次の日、ステイシーはコーヒーショップでジョイスと会い、話しを始める。デレクから電話が入ったので、ステイシーはキップからの連絡だとジョイスには思わせた。ステイシーはジョイスにPDAを見られるが、デレクの物だとはバレずに済んだ。ステイシーはジョイスから店に来てほしいと誘われ、行く約束をした。キッピーはアイラの企画に腹を立て、もっとフレッシュなアイデアを出すようスタッフに要求した。今シーズンの生放送ではバーブの企画が選ばれ、彼女がプロデューサーを務めることになった。
カールはステイシーの『貴方が選ぶベストシェフ大賞』という企画をキッピーが気に入ったと言い、ジョイスに取材を申し込むよう指示した。これでジョイスに嘘をつかなくて済むと感じ、ステイシーは喜んだ。彼女はレストランへ行き、ジョイスからダイアンのサイン本をプレゼントされた。ジョイスはデビルズのプレーオフのチケットを手に入れ、一緒に行かないかとステイシーを誘う。彼女が「元カレのデレクも来る。試合が終わったら一緒に飲むのが儀式なの」と言うと、ステイシーは顔を強張らせた。
ルルが来店したため、ステイシーは顔を隠す。しかし気付かれてしまい、ジョイスに質問されたステイシーは適当に誤魔化した。ジョイスはステイシーに、ルルが弟と付き合っていたこと、デレクが自分と別れた後に彼女と付き合い始めたこと、デレクとは結婚まで考えていたことを語った。さらに彼女は、デレクとは友達のままでいようと決めたが、今でも未練があることを明かした。デレクが出張から戻り、ステイシーは壊れた電話を見られて「ネズミが出たのでボブが怖がって暴れた。ホッケーのスティックで叩き潰そうとしたら逃げられた」と適当な嘘をついた。デレクはステイシーに、明日は契約があるのでスタンレー・カップは見ないと告げた。
翌朝、出勤したステイシーはバーブから番組で使うルルの映像を見せられ、「友達を傷付ける」とジョイスへの罪悪感を吐露する。バーブは「ジョイスは友達じゃない」と言い、ビデオテープを渡した。ステイシーは試合会場へ行き、ジョイスと合流した。ジョイスがデレクからの話に笑顔で話す様子を見て、ステイシーは複雑な気持ちになった。彼女はジョイスにルルの取材映像を見せるが、嫌な気分になった。デレクの裏切りにジョイスはショックを受け、ステイシーは謝罪した。泣き出したジョイスと別れたステイシーは最低な気分になり、カーリー・サイモンのレコードを聴いた…。

監督はニック・ハラン、原案はメリッサ・カーター、脚本はメリッサ・カーター&エリザ・ベル、製作はエレイン・ゴールドスミス=トーマス&デボラ・シンドラー&ウィリアム・シェラック&ジェイソン・シューマン、製作総指揮はハーバート・W・ゲインズ&レイチェル・ホロヴィッツ&ウォーレン・ザイド&クレイグ・ペリー、製作協力はローレン・キシレフスキー、撮影はテオ・ヴァン・デ・サンデ、美術はボブ・ジームビッキー、編集はジョン・リチャーズ、衣装はスージー・デサント、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はランドール・ポスター。
出演はブリタニー・マーフィー、ホリー・ハンター、キャシー・ベイツ、ロン・リビングストン、ジュリアンヌ・ニコルソン、スティーヴン・トボロウスキー、ケヴィン・サスマン、ラシダ・ジョーンズ、ジョジー・マラン、ジェイソン・アントゥーン、シャロン・ローレンス、ギャヴィン・ロスデイル、クレス・ウィリアムズ、デイヴ・アナブル、イヴェット・ニコール・ブラウン、ヴィヴィアン・バング、ロン・ピアソン、マシュー・フラウマン、ケイティー・マーフィー、エマ・セイラー、メルセデス・メルカド、リー・チェリー、ロス・ゴットステイン、アレックス・S・アルクサンダー他。


『8 Mile』『ジャスト・マリッジ』のブリタニー・マーフィーと、『ピアノ・レッスン』『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』のホリー・ハンターが共演した作品。
監督は『ガールズ・ナイト』『ヴァーチャル・セクシュアリティ』のニック・ハラン。
ステイシーをブリタニー・マーフィー、バーブをホリー・ハンター、キッピーをキャシー・ベイツ、デレクをロン・リビングストン、ジョイスをジュリアンヌ・ニコルソン、カールをスティーヴン・トボロウスキー、アイラをケヴィン・サスマン、レイチェルをラシダ・ジョーンズ、ルルをジョジー・マランが演じている。
アンクレジットだが、カーリー・サイモンが本人役で出演している。

ステイシーが面倒で厄介な女にしか見えないってのが、この映画の最大の欠点だ。
平気で「ルルは元カノ」とか言っちゃうデレクはバカだけど、そんなことを軽く言えるってことは、裏を返せば全く未練が無いし、やましいことは無いってことでしょ。なのにステイシーは、激しい嫉妬心を抱く。
でも、過去に付き合っていた相手がいるなんてのは、別に珍しくもないわけで。
「今まで知らなかった」ってことで腹を立てているけど、じゃあ教えてもらっていたら腹を立てなかったのかというと、絶対に違うでしょ。ステイシーの性格を考えると、相手がスーパーモデルってことで嫉妬していたでしょ。

ステイシーはデレクに内緒で、彼の過去を詳しく調べ始める。荷物を探り、PDAを開いて情報を調べる。
でも、彼の過去なんて調べて、何をどうしたいのかと。
これが「デレクが浮気している可能性が高い」ってことなら、そこを調べようとするのは分からんでもないよ。
でも「ルルが元カノ」「デレクの家族に会ったことが無い」というだけで「何か隠しているかも」「浮気しているかも」と疑って調べるのは、ただの面倒な奴でしかないわ。

バーブがジョイスやレイチェルについて調べるよう促すと、ステイシーは難色を示す。
「人を疑うなんて嫌なの」と彼女は語るけど、「今さら、どの口が言うのか」とツッコミを入れたくなる。
その前日に、ステイシーはデレクの荷物を調べ、PDAを見ているのだ。そんな行動を取っておきながら「人を疑うなんて」と言われても、「とっくに疑ってたじゃねえか」ってことだからね。
ステイシーが不愉快なキャラに見えないような作業が必要だと思ったのかもしれないけど、もう遅いからね。

ジョイスと何度か会う中で、ステイシーは罪悪感を抱くようになる。
でも裏を返せば、それ以外では何の罪悪感も抱いていない。
彼女は「ジョイスに嘘をついている」という行為に対して罪悪感を抱いているのであって、「デレクの荷物やPDAを使って過去を勝手に探る」という行為に対する罪悪感は全く抱いていない。そしてルルやレイチェルを欺いたことに対しても、やはり罪悪感は無い。
もちろん、デレクに対する罪の意識も皆無だ。

ステイシーは特に怪しいことなんて何も無いのにデレクを疑って、元カノを嗅ぎ回って、勝手に嫉妬心を募らせる。
全て自分の愚かしい行動が引き起こした結果なので、まるで同情心は湧かない。自分で畑を耕して、自分で種を撒いて、自分で水をやって、自分で怒りの花を咲かせているんだよね。
デレクは軽薄な部分こそあるが、そんなに酷い男ではない。元カノと今でも会っているが、浮気しているわけではないし。
でも、ひょっとするとステイシーと同年代の女性なら「女子あるあるだよね」と共感できちゃったりするのか。そして彼女を擁護し、全面的に応援できちゃったりするのかね。

ステイシーは1988年の映画『ワーキング・ガール』が大好きという設定で、ポスターを飾っている。
この映画は、そんな『ワーキング・ガール』を強く意識して作られている。
ステイシーが母の影響でカーリー・サイモンを聴く設定だが、彼女は『ワーキング・ガール』の主題歌『Let the River Run』でアカデミー賞の主題歌賞を受賞している。
また、ステイシーはダイアン・ソーヤーに憧れている設定だが、彼女は『ワーキング・ガール』を撮ったマイク・ニコルズの4番目の妻だった(後に死別)。

話の内容としても、何となく『ワーキング・ガール』を感じさせる部分はある。ヒロインが嘘をついて計画を進めるとか、近くに親切な顔をして裏切る奴がいるとかね。
しかし大きく異なるのは、物語の結末だ。
『ワーキング・ガール』のヒロインは裏切りに遭って多くの物を失うが、最終的には恋愛でも仕事でも幸せを掴んでいる。しかしステイシーは、全てを失ったままで終わるのだ。
前向きな気持ちに切り替えることは出来ているけど、ちっとも爽やかなハッピーエンドとしては受け止められない。

醜悪な裏切り女だったバーブは痛い目を見ることも無いし、スタッフも同様だ。終盤の展開では、騙された側だけが一方的に傷付けられる。そこでもモヤッとするわ。
スタッフもグルで騙していたことを知った後もステイシーが番組への出演を続けるのも、「なんでだよ」と言いたくなるし。
そこで「なぜ人生を分かち合えないの?」とデレクを責めているけど、「お前みたいな女だからだよ」と言いたくなるわ。
ステイシーが番組の件でデレクと別れた直後、ビーンと再会した途端に「全ての理由は貴方だったのかも」とヨリを戻そうとするのは、すんげえ軽薄で呆れてしまうし。
最後にカーリー・サイモンを登場させても、何もチャラにはなんねえぞ。

(観賞日:2021年9月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会