『完全なる報復』:2009、アメリカ

クライド・シェルトンが妻や娘と3人で暮らしている家に、強盗のクラレンス・ダービーとルパート・エイムスが押し入った。クライドをバットで殴り倒した彼らは、縛り上げて金品を奪う。ダービーは制止するエイムスを無視し、クライドの目の前で妻を死姦した。そこへ娘が現れると、ダービーは彼女も殺害した。犯人2人組は捕まり、地方検事のニック・ライスが裁判を担当することになった。96パーセントという高い有罪率を下げたくない彼は、そのためなら難しい案件を同僚に任せたり、司法取引で処理したりする男だった。
クライドの妻子が殺された事件は、収集方法が違法だとして、DNA鑑定を証拠として採用しないことを判事が決めた。有罪にするのは難しいと判断したニックは、ダービーと司法取引を行い、エイムスに不利な証言をさせる代わりに罪を軽減することにした。エイムスは死刑になるが、ダービーは最長でも5年の懲役刑に留まるということだ。それを知らされたクライドは抗議するが、ニックは「もしも負けたら何一つ残らない。手続きはもう済んでる」と冷徹に告げた。
ローラ・バーチ判事はダービーの裁判を終わらせ、ニックは弁護士のレイノルズと握手を交わして法廷を後にした。上司のカントレルと共にマスコミの取材を受けたニックは、離れた場所から自分を見つめているクライドの姿に気付いた。帰宅したニックは、妊娠している妻のケリーと楽しい時間を過ごした。それから10年後、ニックの娘であるデニースは10歳になった。そんなデニースのチェロ演奏会に、ニックは仕事を理由に一度も行ったことが無い。そのことでケリーから責められるニックだが、適当に受け流した。
ニックはカントレルや後輩検事のサラと共に、エイムスの死刑執行に立ち会った。拘束されたエイムスは「あの家に入ったのは悪かった。でも殺したのは俺じゃない」と言い、薬物を投与される。すると安らかに最期を迎えるはずのエイムスは、激しく苦悶してから絶命した。装置に何らかの細工が加えられた疑惑が生じたため、刑事のダニガンやガーザたちが捜査に乗り出す。薬を入れた袋には、「運命には逆らえない」という文字が刻まれていた。それは、ダービーがシェルトン家に押し入った時に口にした言葉だった。
短い刑期を終えて出所していたダービーの元に、匿名の相手から電話が掛かって来た。相手は「お前は終身刑だ。テーブルにコカイン、床に女。死ぬまでムショさ」と告げ、窓の外を見るよう促した。ダニガンやニックたちの車が近付いて来るのを見たダービーは、外に出て発砲し、携帯で話しながら逃亡を図る。電話の相手は指紋を拭いて拳銃を捨てるよう助言し、「ムショには入れたくない。閉鎖した工場がある。そこへ行け」と告げた。
ダービーは電話の男に指示された通り、警官が眠らされているパトカーに乗り込んだ。ダービーは目を覚ました警官を脅し、車を出すよう要求した。工場へ到着したところで、ダービーは警官を始末しようとする。だが、それは警官に化けたクライドだった。クライドは拳銃に仕込んでおいた針を使い、ダービーの体内に猛毒を注ぎ込んだ。ダービーの体は麻痺したものの、神経機能は正常なままだ。彼を工場に運び込んだクライドは、体を切断して惨殺し、その様子をビデオに撮影した。
ニックはダニガンからの電話で、ダービーの無残な死体が見つかったことを知らされる。ニックはカントレルから「君の考えは?」と質問され、「動機のある人物」と答える。「あの事件の父親はどんな人物だ?」と問われたニックは、「例の倉庫の所有者です」と告げる。サラは「ちょっとしたアマチュア発明家です。20以上の特許を取得して、一財産作りました。2年前に財産の大半を注ぎ込んで、空港や化学工場や工業用地を取得してます」と補足した。警官隊が来るのを予測していたクライドは、全裸になって待ち受けた。
クライドは無抵抗で拘束され、刑務所に収監された。デニースは演奏会のDVDが届いたので、母が電話で話している間に一人で見ようとする。だが、それは演奏会のDVDではなく、ダービーの惨殺を記録した映像だった。一方、「エイムスとダービーを殺したのか」というニックの取り調べに対し、クライドは「殺したかった」「死んで当然なんだ」などと語った。自白したと解釈したニックが去ろうとすると、クライドは「自白になっていない。法廷で立証できなければ何の意味も無いんだ。前にアンタはそう言った」と告げた。
クライドはニックに対し、「殺人犯と取引するんだろ。俺は自白し、動かぬ証拠をアンタにやる。見返りをくれさえすればな」と告げる。そして彼は見返りとして、高価なマットレスの差し入れを要求した。ニックが断って立ち去ると、カントレルは「プライドは捨てろ」とクライドの要求を承諾するよう告げる。しかしニックは、「からかってるんですよ」と軽く告げた。ケリーからの電話を受けたニックは、カントレルと相談してクライドの条件を飲むことにした。
ニックはサラから、クライドがこの19年間何をしていたのか全く分からないこと、しかし国防総省から口座に支払いが行われた記録があることを聞かされた。クライドは弁護士の権利を放棄し、裁判に臨んだ。ニックはバーチ判事に対し、逃亡の可能性があるので保釈を却下すべきだと要請した。事前に法律を勉強していたクライドは、検察側が有罪にするための証拠を何一つ用意できていないことから、保釈の却下は権利の侵害だと主張した。
しかしバーチが保釈を許可すると、クライドは「そういう甘さが問題なんだ。俺はアンタを忘れちゃいないぞ。俺は間違いなく2人を殺したのに保釈しようとした。見当違いもいいとこだ」と言い放った。彼が激しく罵ったため、バーチは保釈を却下した。精神異常を盾にして罪を逃れるつもりではないかと考えるニックだが、クライドは否定した。「俺に挑戦する気なら打ち負かしてやる」と強気な態度を取るニックに、クライドはダービーとエイムスの殺し方を詳しく語った。
ニックが刑務所を去ろうとすると、クライドは「別の自白がある」と言い、今度は見返りとして豪華な食事と音楽を要求した。「取り引きには材料が必要だ」とニックが告げると、クライドは「レイノルズ弁護士の命でどうだ?」と口にした。レイノルズが3日前から行方不明になっていることを、ニックやカントレルたちは知った。クライドは「まだレイノルズは生きている。彼の居場所を教えよう」と言い、1時きっかりに料理と音楽を届けるよう要求した。
ニックは約束の時間をキッチリと守るべきだと主張するが、刑務所長やダニガンは軽く考える。刑務所長が念入りに料理を調べたせいで、届ける時間が遅れてしまった。ニックとダニガンはクライドから場所を聞き出し、ヘリコプターで急行する。土を掘り返すと、レイノルズは酸素ボンベを付けられた状態で死んでいた。ニックは酸素ボンベを調べ、ランチが遅れなけれはレイノルズが助かったと知った。一方、クライドは同房の囚人を刺殺し、独房へ移されることになった。
ニックから「ランチが遅れたからレイノルズを殺したのか」と問われたクライドは、「違う。彼を殺したのは約束を破ったアンタだ」と述べた。ニックはカントレルに「国防総省からクライドに金が支払われていた件で、ある人物と会う」と言われ、彼に同行した。待っていた男は、クライドが頭脳的な殺し屋だったことを2人に教えた。男は囚人を殺して独房へ入ったのもクライドの狙いだと告げ、「次の一手を読むんだな。司法取引の関係者は全員が狙われる」と述べた。「クライドを止める方法は無いと?」とニックが訊くと、「奴の頭に弾丸を撃ち込めよ。そうするしか止める手は無い。標的は必ず消す」と彼は告げた。
ニックはサラに電話を掛け、バーチ判事と連絡を取ってクライドの拘束に力を貸してもらうよう指示する。ニックとカントレルはバーチと会い、渋る彼女を説得した。拘束の承諾を取り付けた直後、バーチの携帯電話が鳴った。バーチが携帯を取ると、それが爆発してバーチは死亡した。刑務所を訪れたニックが「世の中を相手に戦っても家族は戻らないぞ」と言うと、クライドは「俺が戦ってるのは穴だらけの司法制度だ」と話す。「こんなことをして何かが変わると思ってるのか」とニックが語ると、クライドは「アンタは何も分かっちゃいない。アンタに事の本質は掴めない」と述べた。
説明を要求するニックに、クライドは「言葉よりも行動で示してやる。最後のチャンスをやろう。朝6時までに全ての告訴を取り下げ、俺を釈放するんだ」と告げる。「断ったら?」とニックが訊くと、クライドは「一人残らず殺してやる」と宣言した。ニックは刑務所内に共犯者がいると確信し、サラに調査を指示して全スタッフを結集させた。ニックはクライドの要求を拒否し、朝の6時が訪れた。その時点では何も起きなかったが、帰宅するためにスタッフが乗り込んだ車が次々に爆発する…。

監督はF・ゲイリー・グレイ、脚本はカート・ウィマー、製作はルーカス・フォスター&ジェラルド・バトラー&アラン・シーゲル&マーク・ギル&カート・ウィマー&ロバート・カッツ、共同製作はジェフ・ワックスマン&イアン・ウォーターメイアー、製作総指揮はニール・サッカー&マイケル・ゴーゲン、製作協力はデイヴ・ゲア&グレゴリー・ヴィーサー、撮影はジョナサン・セラ、編集はタリク・アンウォー、美術はアレックス・ハードゥ、衣装はジェフリー・カーランド、音楽はブライアン・タイラー。
出演はジェラルド・バトラー、ジェイミー・フォックス、ブルース・マッギル、コルム・ミーニー、レスリー・ビブ、レジーナ・ホール、マイケル・アービー、グレゴリー・イッツェン、クリスチャン・ストールティ、アニー・コーレイ、リチャード・ポートナウ、エメラルド・エンジェル・ヤング、ヴィオラ・デイヴィス、マイケル・ケリー、ジョシュ・スチュワート、ロジャー・バート、ダン・ビットナー、エヴァン・ハート、レノ・ラクインターノ、ジェイソン・バビンスキー、リッチ・バーロウ、グレッグ・ヤング、ジム・ガッシュー、チャーリー・エドワード・アルストン他。


『トーマス・クラウン・アフェアー』『リクルート』のカート・ウィマーが脚本を書き、『交渉人』『ミニミニ大作戦』のF・ゲイリー・グレイが監督を務めた作品。
クライド役のジェラルド・バトラーは、プロデューサーも兼ねている。
ニックをジェイミー・フォックス、ジョナスをブルース・マッギル、ダニガンをコルム・ミーニー、サラをレスリー・ビブ、ケリーをレジーナ・ホール、ガーザをマイケル・アービー、刑務所長をグレゴリー・イッツェン、ダービーをクリスチャン・ストールティ、バーチをアニー・コーレイ、レイノルズをリチャード・ポートナウが演じている。

序盤で感じるのは、クライドの妻子が惨殺されるシーンの描写が淡白だってことだ。
いきなり惨殺から始まる構成からして、もう少し家族の幸せな風景を描いて、そこから惨劇へ移った邦画、その悲劇性がより強く伝わるんじゃないかと思うし。
クライドの復讐心が燃え上がる発端がそこにあるのだから、彼に同情心を寄せさせるためには、もうちょっと時間を掛けて丁寧に描いた方が良かったんじゃないか。

クライドがダービーに電話を掛け、警官に化けて接触し、工場に運び込んでジワジワと殺すという手順は、多くの時間を割いて丁寧に描写している。
だけど、そこはシンプルに短く済ませていいのよ。いっそのこと、「ダービーの死体が見つかった」という形で処理してもいいぐらいなのだ。
もちろんクライドの復讐心がダービーにも向いていることは確かだが、彼の復讐はそこで終わるわけじゃなくて、始まったばかりだ。むしろ映画としては、最も復讐すべき相手はニックなわけだし、そのニックはダービーが復讐される様子を全く知らないわけだから、そこに時間を掛けることに意味を感じない。
ニックに不安を与える材料としては、「ダービーが殺された」という事実が伝わるだけであり、その内容は全く影響を及ぼさないんだから。

ダービーが殺された後、ニックやサラがクライドに疑念を抱き、詳しく調べるという手順があるが、これも全く要らない。
なぜなら、すぐにクライドが自らの犯行であることを認めるからだ。
彼があっさりと逮捕されて、にも関わらず連続殺人が遂行されるという展開こそが本筋であり、だったら、さっさと入ってしまった方がいい。無駄な手間を掛けず、「エイムスが苦悶して死んだ後、ダービーの惨殺死体が発見され、すぐにクライドが出頭する」という風に、そこはサクサクと進めた方がいい。
そうじゃないと、どこに重点を置いているのか、ピントが絞れずにボンヤリしてしまう。

っていうか、この映画、ピントが全く絞り切れていないんだよな。
クライドが収監されると、そこからは「知能的な殺人鬼が冷徹な殺人を次々に遂行していく」という展開に突入し、復讐劇としての色はすっかり薄れる。クライドの怒りや悲しみといった復讐のモチベーションが見えなくなり、ただの頭がキレる連続殺人者に成り果てる。
何しろ、独房に入るために同房の囚人を殺し、ニックの事務所のスタッフをも殺害するのだ。
そうなると、もはや復讐鬼でも何でもなく、ただのキチガイでしかない。司法取引の関係者が全員狙われるというのは分かるけど、囚人やサラは何の関係も無いんだから。
ニックは市長に「奴は無関係の人間は殺さない」と言っているけど、その時点で既に無関係の人間が7人も殺されているでしょうに。

そもそもダービー惨殺の映像を送り付けている時点で、既にクライドの復讐に対して疑問符が付いてしまう。
送り付けたダービー惨殺の映像は演奏会のDVDに偽装しているわけで、つまり最初からデニースに見せることを狙っているということだ。
しかしクライドが憎むべき相手はニックであり、娘は何の関係も無いのだ。
「娘を怖がらせることでニックにダメージを与えよう」というのは、復讐の手口として共感を誘わない。

それと、そのダービー惨殺の映像に関してクライドは「あれは善と悪の映画だ。善が悪を打ち負かす。善は栄え、悪は滅びるんだ」と説明しているが、ここも大いに引っ掛かる。
それは、クライドが復讐のための行動を「善」と捉えていることだ。
そこは「人殺しだから善行でないことは理解しているが、悪を滅ぼすために自らも悪になる必要があるのだ」という意識で行動してほしいと思うんだよな。

そこを「我こそが正義」という設定にしてあるのは、クライドを「復讐のヒーロー」として観客に見せたくないという狙いなんだろう。
それは映画を見ていても、何となく伝わってくる。
ただ、それが映画を面白くしているのかというと、答えはノーなんだよな。
ヒーローじゃなくてもいいから、クライドの復讐劇を応援したくなるような作りにしておいた方が賢明だったんじゃないかと思うよ。
そこを外して上手くドラマを構築できればいいけど、出来ていないんだから。

この映画はクライドの行動を「復讐劇」として描きたくなかったのか、ニックが「復讐するのは気分がいいか」と言った時、クライドは「アンタはこれが復讐だと思ってるのか。復讐したければ俺には10年もあったんだ」と声を荒らげている。
で、じゃう復讐でなければ何なのかというと、それはクライド曰く「穴だらけの司法制度との戦い」らしい。
ところが、そんなのは口だけで、実際にやっていることは復讐以外の何物でもないのである。
だったら、そんな下手な理論武装なんてカッコ悪いだけだ。

1時間ほど経過した辺りで「クライドは政府機関の優秀な殺し屋だった」ということが明らかになるのだが、この時点で「そういうのを求めてるんじゃないんだよなあ」とガッカリしてしまう。
そういう設定を用意しちゃったら、もはや何でも有りじゃねえかと感じるのよ。
平凡な父親が妻子を殺されたことで変貌し、復讐の鬼になるところに意味があるはずで、そもそも殺しのプロフェッショナルであるならば、そりゃあ刑務所からの連続殺人なんて楽勝だろうよ、と思ってしまうのよ。
ただ、バーチが携帯を取った瞬間に爆死するシーンなんかは、ニックとカントレルはビビっているけど、こっちとしては笑いそうになってしまったぞ。
なんかバカっぽいんだよな、その殺し。

バカっぽいと言えば、「どうやってクライドが刑務所にいながら殺人を実行できたのか」という謎の答えもバカっぽい。
何しろ、「刑務所の独房まで通じる抜け穴を事前に掘っておき、そこに殺しのための道具を揃えていた」というのが真相なのだ。
いやいや、それで抜け出すことは出来るかもしれないけど、独房から囚人の姿が消えていたら、看守が気付くはずでしょ。
そこをどうやってクリアするのかという部分は、何の答えも用意していないんだよな。

で、なぜか最後までニックを殺さずに残しておいたクライドが、クライマックスでついに彼を標的に定めるのかと思いきや、なぜか市庁舎に潜入して爆弾を仕掛ける。
なんでだよ。クライドが最後までニックを殺そうとしない理由がサッパリ分からん。っていうか狙うべきだろ。
むしろエイムスとダービーを始末したら、次の標的をニックに定めてもいいぐらいなのに。
それをやらずに市庁舎を爆破しようとするってのは、何がやりたいんだか理解不能。市長は10年前の司法取引に関与していないんだし。

一方、野心の固まりで憎まれ役だったはずのニックは、だんだん観客から同情を寄せてもらおうとするようなキャラクター造形に変化していく。
ただし、娘が怖がるとか、仲間が殺されるとか、そういう要素を使って彼に同情させようとしても、10年前の司法取引について反省する気持ちは全く抱いておらず、贖罪もしていないので、同情心は全く沸かないけどね。
それと、そういう「キャラの色合いが少しずつ変化していく」というのを、もしも意図的にやっているんだとしても、それが効果的ではないのだから失敗だってことだ。

ニックが自分が何の反省も贖罪もしないで「仲間の死を無駄にしないためにもクライドの犯行を食い止めねば」というモチベーションで行動しても、そこに気持ちが乗らない。仲間のことを考える前に、まずは自信の行動を顧みるべきじゃないかと思うのでね。
そこに苦悩や罪悪感があって、その上で「でも仲間が殺されたのに黙って見ているわけにはいかない」ということで行動するならともかく、全面的にクライドを悪党扱いして、それこそ「善が悪を滅ぼす」とでも言わんばかりの気持ちで動いているので、それは違うんじゃないかと。
ニックがクライドとの取引を拒否しなければサラと仲間たちは死なずに済んだのだが、それに対する悔恨も無いし。
そんで最後は、何の迷いも無くクライドを爆殺するんだぜ。クソ野郎じゃねえか。

(観賞日:2014年6月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会