『キングピン/ストライクへの道』:1996、アメリカ

1969年、アイオワ州オセロット。マンソン・サービスセンターの息子である幼いロイ・マンソンは、ボウリングに夢中だった。彼は父のカルバートから、才能があると絶賛された。1979年、アマチュアの州大会で王者になったロイは、プロのツアーに参加することが決まった。カルバートは息子に懐中時計をプレゼントし、「困った時には売れば少しは生活費の足しになる」と述べた。最初の招待試合で、ロイはプロボウラーのアーニー・マクラッケンに集中を妨害されるが、彼を破って優勝した。
ロイはエンジンに砂糖を入れられて車が故障し、整備工のファティマから2000ドルの修理代を請求されて困り果てた。そこへアーニーが現れ、副業で小銭を稼がないかと持ち掛けた。気が乗らないロイだが、他に金を稼ぐ方法も無いので付いて行くことにした。アーニーは彼をボウリング場へ案内し、オーナーに辞書の訪問販売員だと自己紹介した。ロイが1ゲーム20ドルの賭けを持ち掛け、アーニーが断った。オーナーは対戦相手を紹介し、仲間と一緒に見物した。
ロイはゲームで負け続け、相手が350ドルを儲けるとアーニーが「もう帰ろう」と言う。ロイは最後に難しいスプリットでスペアを取ると宣言し、1500ドルでの勝負を要求した。オーナーと仲間たちは絶対に勝てると確信し、全員で金を用意した。ロイはスペアを取って「ロイ・マンソンだ」と名乗り、アーニーと共にボウリング場を出た。2人が車に乗ると、後部座席には砂糖の袋があった。オーナーたちが棒を持って車を殴り付け、取り囲んで出て来るよう要求した。アーニーはロイだけを車から降ろし、その場から逃走した。ロイはオーナーたちに捕まり、右手を潰された。
17年後、ペンシルヴァニア州スクラントン。義手になったロイは安アパートで暮らし、家賃を滞納して女家主から支払いを催促されている。彼は近所のボウリング場に色んな商品を売り込みに行くが、まるで相手にされなかった。イシュマエルという男がボウリングをする音を耳にしたロイはアドバイスを送り、力強い投球だと褒めた。平均スコアを問われたイシュマエルは、265から270だと答えた。イシュマエルが去ったのでロイが追い掛けようとすると、オーナーは「ブリムフィールドの住民だぞ。アーミッシュだ」と教えた。
ロイは自転車で村へ戻るイシュマエルを車で追い掛け、「お前には才能がある。俺が指導すればチャンピオンになれる」と告げる。彼がマネージャーになってやると持ち掛けると、イシュマエルは「興味が無い」と去った。アパートに戻ったロイは、家主が男にバッグを強奪される現場に遭遇した。ロイがバッグを取り戻して男を追い払うと家主は感謝し、家賃の支払いを待ってくれた。だが、それはロイが友人と示し合わせた芝居だった。それを知った家主は激怒し、「警察に通干してやる」と息巻いた。ロイが「償う方法は無いか」となだめると、家主は彼とセックスすることで許した。
ロイはボウリング雑誌の表紙を見て、リノ・オープンの優勝賞金が100万ドルと知った。彼はヘザキアというラビを装い、イシュマエルの家を訪問して家族と会った。ロイはイシュマエルに、リノ・オープンに出場して賞金を山分けにしようと提案する。イシュマエルは「帰った方がいい」と言うが、ロイは留まって村の仕事を手伝った。すぐに彼がサボろうとするので、住民のトマスは腹を立てた。イシュマエルは父親から「村は差し押さえで存続の危機だ」と聞かされ、50万ドルが必要だと知った。
イシュマエルは恋人のレベッカに「マンソンと使命を果たしに行く」と言い残し、村を後にした。ロイはリノに向かう途中でイシュマエルに勝負させるが、186のスコアで負けた。ロイが腹を立てると、イシュマエルは平然とした顔で「10ゲームだから仕方が無い。いつも祖父とは15ゲームだ」と述べた。ロイは「今のお前に勝ち目は無い」と告げ、村に帰るよう促す。しかしイシュマエルは拒否し、ロイも考えを変えて彼に指導した。
ロイはイシュマエルに、「旅費を稼ぐために賭けをする」と告げた。イシュマエルは「賭けは無理だ」と断るが、ロイが「俺が賭ける」と言うと承諾した。ロイはボウリング場に入り、アーニーに教わった方法でオーナーを巻き込もうとする。イシュマエルの芝居が下手なので詐欺だとバレるが、オーナーは「賭けボウリングがしたいなら、真夜中にここに行け」と豪邸を紹介してくれた。豪邸の主人はスタンリーという男で、クラウディアという愛人を囲っていた。
イシュマエルは1ゲーム千ドルの勝負で、スタンリーに勝利した。しかしロイが金を持っていないと知ったスタンリーは激怒して殴り付け、部下にイシュマエルの利き手である左手を潰せと命じた。スタンリーの暴力に腹を立てていたクラウディアは部屋の電気を消し、ロイとイシュマエルを逃がした。彼女は2人を車に乗せ、追って来るスタンリーを撒いた。同じ頃、イシュマエルの父親はトマスに、息子を連れ戻すよう頼んでいた。
クラウディアはロイに、金の管理を任せるよう持ち掛けた。ロイが不快感を示して拒否すると、彼女は「私が仲間になれば500ドルプラスになる。それにイシュマエルは私に惚れてる」と告げた。ロイは彼女への反感を覚えながらも、仲間に加えた。クラウディアはセクシーな格好で賭けボウリングの相手を誘惑し、イシュマエルの勝利に貢献した。モーテルに泊まった時、ロイはイシュマエルに嘘を吹き込み、クラウディアを置き去りにして出発しようとする。しかしクラウディアは見抜いており、ロイと激しい口論になった。イシュマエルはロイが私欲のために自分を利用したと知り、姿を消した。
ロイとクラウディアは車を走らせ、オセロットに入った。ロイが17年ぶりに戻った町はすっかり変化し、マンソン・サービスセンターは潰れていた。彼はクラウディアに、「大成功するはずだったのに、ダメだったから戻れなかった。10年前に父が死んだ時も、葬式に参列しなかった」と語った。ロイとクラウディアはイシュマエルを捜索し、住民に聞き込みを行った。2人はストリップバーへ行き、ステージで踊っているイシュマエルを発見した。ロイはイシュマエルを連れ戻し、クラウディアが「続ける気があるなら今後は結束しましょう」と持ち掛けると2人とも受け入れた。
3人がリノのホテルに到着すると、大会に出場するアーニーが来ていた。彼はロイに怒りを向けられても、まるで悪びれる様子が無かった。アーニーは元カノのクラウディアを見て驚き、戻って来るよう誘って拒否された。イシュマエルはロイを馬鹿にするアーニーに激怒して殴り付け、左手を骨折してしまった。クラウディアはスタンリーに見つかって「2人が酷い目に遭うぞ」と脅され、「彼らにはウンザリしてた」と嘘をついて一緒に去った。
賭けボウリングで稼いだ金の入った鞄はクラウディアが持っていたため、ロイは「あんな女を信用したのが馬鹿だった」と吐き捨てた。イシュマエルが「そもそもの狙いはボウリング大会での優勝だ。実力勝負の世界で、正々堂々と戦う」と語ったので、ロイは気持ちを切り替えることにした。するとイシュマエルは、骨折した自分の代わりにロイが出場するよう促した。長いブランクがあるロイは躊躇するが、イシュマエルに背中を押されて大会への参加を決意した…。

監督はピーター・ファレリー&ボビー・ファレリー、脚本はバリー・ファナロ&モート・ネイサン、製作はブラッド・クレヴォイ&スティーヴ・スタブラー&ブラッドリー・トーマス、製作総指揮はキース・サンプルズ、共同製作はジム・バーク&ジョン・ベルトッリ、製作協力はジェームズ・B・ロジャース、撮影はマーク・アーウィン美術はシドニー・ジャクソン・バーソロミューJr.、編集はクリストファー・グリーンバリー、衣装はメアリー・ゾフレス、音楽はフリーディー・ジョンストン、音楽監修はハッピー・ウォルターズ。
出演はウディー・ハレルソン、ランディー・クエイド、ヴァネッサ・エンジェル、ビル・マーレイ、クリス・エリオット、リチャード・タイソン、ロブ・モラン、リン・シェイ、ゼン・ゲスナー、ウィリアム・ジョーダン、プルーデンス・ライト・ホームズ、ダニエル・グリーン、ウィル・ロスハール、マーク・チャーペンティア、ブラッド・ファクソン、ビル・アンドラーデ、ポール・デウルフ、ジル・リトル、ウィリー・ボーシーン、サイド・バドレヤ、リンダ・カローラ、モニカ・シェイ、ダニー・マーフィー、デヴィッド・シャックルフォード他。


『ジム・キャリーはMr.ダマー』のピーター・ファレリー&ボビー・ファレリーが監督を務めた作品。
脚本のバリー・ファナロとモート・ネイサンは、いずれも映画デビュー。
ロイをウディー・ハレルソン、イシュマエルをランディー・クエイド、クラウディアをヴァネッサ・エンジェル、アーニーをビル・マーレイ、スタンリーをロブ・モラン、家主をリン・シェイ、トマスをゼン・ゲスナー、イシュマエルの父親をウィリアム・ジョーダン、イシュマエルの母親をプルーデンス・ライト・ホームズが演じている。

ロイがアーニーに誘われて賭けボウリングをするシーンは、まず「ロイは気乗りしない詐欺の初心者なのに、芝居をしなきゃいけない」という手口のハードルが高すぎるという問題がある。
しかも、オーナーと話している間は、どういう「副業」なのかが無駄に分かりにくいという問題もある。
ここで重要なのは、「アーニーがロイを陥れて再起不能にする」ってことであって。その目的から逆算した時に、その手口はややこし過ぎるのよ。
あと、「どこにも笑いか無い」という致命的な問題もあるし。

さらに言うと、勝った直後にロイが素性を明かしちゃったら詐欺にならないでしょ。
ロイは詐欺だと思っていないから平気で名乗ったってことなんだろうけど、「それを違法な詐欺だと思っていない」という設定の時点で無理がある。最初に素性を偽ってオーナーに話し掛け、わざと負け続けるんだから、どう考えてもインチキなわけでね。
ここを「ロイは詐欺と気付いておらず、アーニーに騙されて裏切られた」というエピソードとして描くのは無理があるのよ。
もちろんアーニーは卑劣なクズ野郎ではあるんだけど、ロイが右手を潰されて選手生命を絶たれるのは自業自得に思えるんだよね。

このエピソードだけでなく、そこまでのシーンも含めて、コメディー映画のはずなのに笑いが少ない。
そこまでの時間帯でコメディー映画を感じさせるのって、アーニーが勝手な実況でロイの競技を邪魔するシーンぐらいだ。
その後も、コメディー映画としては低調だ。家主が償いとしてロイにセックスを強要し、満足した様子を見せるシーンで、ようやく笑える程度。
最後まで見れば、ちゃんとコメディーらしい描写は幾つもあるけど、全体としては低調。

イシュマエルのプレーを見た途端、ロイがコーチを申し出るのは不可解だ。自身は卑劣な裏切りで選手生命を絶たれており、「コーチという形であっても再びボウリングの世界に 復帰したい」という意欲がある様子も見えなかったし。
むしろボウリングが嫌になって、距離を置いている方が納得できるぐらいだ。何しろ、ロイは自分が卑劣な手口で右手を潰されたのに、それと同じ詐欺にイシュマエルを巻き込むような奴なのだ。それぐらい、やさぐれて性格が曲がっているわけだから。
だから、「リノ・オープンで賞金を山分けしようと目論む」という邪念が入った時に、初めてイシュマエルにコーチ役を申し出る流れの方がいいんじゃないかと。
何の邪念も無い状態で、ただ「才能がある若者を見てコーチしたくなる」ってことになると、ロイのキャラがブレちゃうよ。

イシュマエルがアーミッシュという設定は、別に無くてもいいんじゃないかと思ってしまう。欲張り過ぎており、「ボウリングの世界を巡るコメディー」との両立が上手く行っているとは思えないのだ。
ロイがラビに化けて村に潜入する展開が訪れると、「アーミッシュが題材のコメディーにすればいいんじゃないのか」と言いたくなる。
こっちの方が、ボウリングのコメディーより面白くなりそうなのよ。
そして簡単に村を出てしまうと、勿体無いと思ってしまう。

スタンリーの屋敷を逃げ出した直後から、ロイとクラウディアは激しくいがみ合っている。
だけど初対面の時に、どちらかが嫌な態度を取ったとか、馬鹿にしたとか、何か因縁が生じるような出来事があったわけではない。
それなのに、ロイは助けてくれたクラウディアに礼も言わず、最初から嫌悪感を示している。
一方のクラウディアも、ロイに何かされたわけでもないのに、馬鹿にする態度を取る。
いつの間に、どういう理由で、相手を嫌いになったのかサッパリ分からんよ。

その後、ロイはクラウディアの提案を受け入れ、仲間に加える。彼女のセクシー作戦もあって、ロイたちは賭けボウリングで順調に金を稼げるようになる。
ところがロイはモーテルに宿泊した時、クラウディアを置き去りにしようとする。
そのタイミングで再び切り捨てようとするのは、どういうことなのか良く分からない。
っていうか、そもそも「リノまでの旅費が必要だから」ってことでロイはイシュマエルを賭けボウリングに巻き込んだのに、ホテルに着いた時点で4万2千ドルも持っているんだよね。どうなってんのかと。

ひょっとすると、「最初からロイは賭けボウリングで稼ぐことが目的だった」ってことなのか。だけど、それならリノの大会に向かう必要なんか無いし、整合性が怪しくなっている。
っていうか、もう賭けボウリングに関しては、違法行為ではあっても完全にOKってことにしちゃうのね。
ロイはアーニーの騙されて賭けボウリングに参加し、それが原因で選手生命を絶たれているわけで。
そんな危険な違法行為にイシュマエルを引き込んでいるのに、ロイが罪悪感を抱くことも反省することも全く無いけど、それは別にいいのね。

プロローグ的なエピソードとして、ロイがアーニーに騙されて右手を潰される出来事が描かれる。なので、「ロイがアーニーに復讐する」という展開があるんだろうと思っていた。
しかしロイがイシュマエルやクラウディアと行動する話が続く中で、アーニーの存在は完全に忘れ去られている。ロイがアーニーへの復讐心を抱き続けている様子は皆無だし、ボウリング雑誌や大会の情報でアーニーが出て来ることも無い。
すっかり忘れた頃になってアーニーが再登場するが、もはや「今さら」みたいなタイミングになっている。
いっそのこと、「ロイがアーニーに復讐するためにイシュマエルを騙して云々」みたいな話でもいいぐらいなのに。

リノに着くとイシュマエルが左手を骨折し、「代理でロイが大会に出場する」という展開が訪れる。
でも、「なんでそうなるの?」という気持ちにさせられる。
そりゃあ、ロイ本人がアーニーと対決する方が、図式としては分かりやすい。だけど、それだと肝心な物語の佳境で、イシュマエルの存在意義が無くなっちゃうでしょ。
試合が始まったらイシュマエルが出来ることは何も無いので、ただの傍観者になってしまうわけで。

そして最悪なことに、ネタバレになるが、ロイはアーニーとの対決に勝てないのだ。
それだけでなく、アーニーは奇跡的な逆転勝利を収め、悪事が露呈することも無く、人気選手のままで優勝するのだ。
さらに言うと、この大事な試合の現場にクラウディアはいない。トマスもチラッと出て来るだけで、ほぼ存在意義が無い。
最終的にはロイとクラウディアをカップルにしているけど、そんな予定調和のための手順を踏んでいないから不細工極まりないし。

(観賞日:2025年1月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会