『キング・コング』:2005、アメリカ&ニュージーランド&ドイツ

1933年、ニューヨーク。舞台の喜劇女優アン・ダーロウは、芝居小屋の突然の閉鎖で仕事を失った。一方、映画監督カール・デナムは、 出資者の前で撮影中のフィルムの試写を行っていた。出資者の一人ゼルマンは、その出来映えに嘆きの溜め息を漏らした。しかしカールは 平然と、「セット撮影を変更してロケをする。海図にも載っていない原始の島へ行く」と言い出した。
スタジオ関係者はカールを試写室から退出させ、呆れているゼルマンと話し合う。ゼルマンは「野心ばかりで才能が無い」とカールを酷評 し、製作の中止を宣告した。それを盗み聞きしたカールは、助手プレストンに「スタッフと出演者を船に乗せろ」と命じた。ビザも保険も 揃っていない状態だったが、カールは撮影を強行しようと考えたのだ。
主演女優のモーリーンが降板したと聞いても、カールは今夜の出発を譲らなかった。彼は代役を見つけるため、街に繰り出した。彼は万引き で店主に捕まったアンを見つけ、助け船を出した。カールは「シンガポールでロケをする」と嘘をつき、アンに映画出演を交渉する。 ロマンスを描く感動作品だと聞いたアンは、「自分は笑わせるのが仕事だから」と断った。しかし脚本をジャック・ブリコスルが執筆した と聞き、アンの態度は急変する。ちょうど彼女は、ジャックの芝居を観劇して感銘を受けたばかりだったのだ。
カールがアンを連れて港へ行くと、プレストンが「会社の通報で警察が来る」と報告した。カールはエンゲルホーン船長に、急いで出航 するよう頼んだ。ジャックは脚本を持参して船にやって来たが、わずか15ページしか無かった。「長編映画なのに」と言うカールに、 ジャックは「急かすからだ」と何食わぬ顔で告げる。ジャックが立ち去ろうとすると、カールは「金を支払う」と騙して時間を稼いだ。 その間に船は出港してしまい、ジャックは撮影への同行を余儀なくされた。
アンは撮影技師ハーブ、録音技師マイク、主演俳優ブルースたちと面会した。甲板で撮影を開始したカールは、ブルースの大根芝居に 呆れ果てた。カールはエンゲルホーンに、航路を外れて南西へ向かうよう頼んだ。船員のヘイズやジミー、コックのランピーたちは、航路 の変更に気付いてカールに詰め寄った。カールは初めて、ドクロ島へ向かっていることを打ち明けた。
ヘイズとランピーは、7年前にノルウェー船に乗っていた時の出来事を語った。彼らが助けた漂流者が、巨大な壁に守られた島に住む生物 の話をした。それは獣でも人でもない巨大な怪物だったという。「ライオンかトラだろう」と鼻で笑うカールに、ヘイズは「ドクロ島に 上陸したら、生きては帰れない」と警告した。一方、アンに弾かれたジャックは、「次回作を君のために書いている」と告げた。アンも ジャックに好意を抱いており、2人は熱いキスを交わした。
エンゲルホーンはカールに逮捕令状が出ていることを知り、彼を問い詰めた。警察からは、ラングーンに停泊してカールを引き渡すよう 要求が届いていた。カールは一週間の猶予を求めるが、エンゲルホーンは船をラングーンへ向かわせようとする。だが、船は濃い霧の中に 入り込み、方位磁石が狂って航路が掴めなくなった。それでも進もうとすると、そびえ立つ巨大な壁が出現した。船は岩に激突して止まり 、その向こう側には島が見えた。それはカールが目指していたドクロ島だった。
エンゲルホーンたちが船の修理を急ぐ中、カールは撮影クルーを引き連れてボートに乗り込み、ドクロ島へ向かった。島に上陸して奥へ 進むと、原住民の村に辿り着いた。子供を見つけたカールはチョコで懐柔しようとするが、腕に噛み付かれた。槍が飛来し、マイクは腹 を貫かれて死んだ。原住民は一斉に撮影クルーを襲撃し、殺害しようとする。そこへエンゲルホーンが船員を引き連れて駆け付け、銃を 威嚇発砲して原住民を追い払った。
船に戻ったエンゲルホーンたちは、海が荒れる中で出航する準備を進める。だが、原住民が船に潜入し、アンを連れ去ってしまった。それに 気付いたジャックがエンゲルホーンたちに報告し、皆は武器を手にしてアンの奪還に向かう。原住民はアンを縛り付け、生贄の儀式を 執り行った。そこへ巨大な怪物キング・コングが現れ、アンに手を伸ばした。
ジャックたちが村に辿り着いた時、ちょうどコングがアンを奪い去るところだった。カールはコングの姿を目撃し、呆然とした。ジャックたち はアンの捜索に向かうことを決め、カールはハーブにカメラを用意させた。エンゲルホーンはジャックたちに、「ヘイズと15人の船員を 連れて行け。24時間後には出航する」と告げ、残りの船員と共に待機することにした。
島の奥へと進んだ一行は首長竜の群れに襲撃され、数名が命を落とした。ハーブを失ったカールだが、全く落ち込まず、「必ず映画を完成 させる」と意気込んだ。ブルースは「あと9時間で出航だ、アンのことは残念だが、もう戻ろう」と口にした数名が賛同し、捜索隊から 離脱した。一方、コングの住処に連れて行かれたアンは、激しく揺さぶられて気を失っていた。
意識を取り戻したアンは隙を見て逃げようとするが、コングに発見された。アンは舞台でやっていたような踊りを披露し、コングの機嫌を 取った。コングが何度も突き飛ばしたので、怒ったアンは「もうショーは終わり」と怒鳴った。コングが激しく唸って暴れても、アンは 全く怯まなかった。コングが姿を消している間に、アンは住処から逃走した。
コングは捜索隊の前に姿を現して大暴れし、ヘイズを始めとする数名を殺した。アンは大トカゲに襲撃され、慌てて逃げ出した。身を 潜めたアンだが、今度は大トカゲをエサにしたティラノサウルスに襲われる。そこへコングが現れ、激しい戦いの末にティラノサウルスを 倒した。コングが去ろうとするので、アンは「待って」と追い掛けた。するとコングは、アンを肩に乗せた。住処に戻ったコングに、アン は親愛の情を抱き、ショーを見せた。アンはコングの隣で、一緒に夕陽を眺めた。
ジャックたちは巨大な虫の大群に襲われ、また数名が命を落とした。エンゲルホーンと船員が駆け付け、ジャックたちを助けた。「もうアンの ことは諦めろ」とエンゲルホーンが諭しても、ジャックは聞く耳を貸さなかった。カールはジャックを送り出した後、エンゲルホーンに 「彼がアンを奪還すればコングが追って来る。それを捕まえてニューヨークへ連れ帰る」という目論見を明かした。
ジャックはコングの住処に辿り着き、アンを奪還した。コングが追って来るので、ジャックはアンを連れて船へと向かう。船の前には橋が 用意されていたが、それをカールはなかなか下ろそうとしない。ギリギリまでコングを引き付けて、ようやく橋を下ろした。カールたちは コングにクロロフォルムの瓶を投げ、眠らせて捕獲しようとする。アンは必死に「やめて」と懇願し、コングは激しく暴れた。必死の格闘 の末に、何とかカールたちはコングを捕獲することに成功した。
ニューヨークに戻ったカールは、ブロードウェイでコングを見世物にしたショーを開催することにした。出演オファーを受けたアンは、 それを断った。大勢の観客が集まった劇場では、カールが得意げに挨拶した。彼が幕を開けると、クロム合金で手足を拘束されたコングが 出現した。コングからアンを奪還した英雄としてカールが紹介したのは、ジャックではなくブルースだった。ショーの最中、アンとして 別の女優が登場した。その女を見たコングは激怒し、拘束具を破壊して暴れ始めた…。

監督はピーター・ジャクソン、原案はメリアン・C・クーパー&エドガー・ウォレス、脚本はフラン・ウォルシュ&フィリッパ・ボウエン &ピーター・ジャクソン、製作はジャン・ブレンキン&キャロリン・カニンガム&フラン・ウォルシュ&ピーター・ジャクソン、共同製作 はフィリッパ・ボウエン&アイリーン・モラン、撮影はアンドリュー・レスニー 編集はジェイミー・セルカーク&ジャベツ・オルセン、 美術はグラント・メイジャー、衣装はテリー・ライアン、特殊メイクアップ&クリーチャー&ミニチュアはリチャード・テイラー、 シニア視覚効果監修はジョー・レッテリ、アニメーション・ディレクターはクリスチャン・リヴァース&エリック・レイトン、音楽は ジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はナオミ・ワッツ、ジャック・ブラック、エイドリアン・ブロディー、トーマス・クレッチマン、コリン・ハンクス、アンディー・ サーキス、ジェイミー・ベル、エヴァン・パーク、ロボ・チャン、カイル・チャンドラー、 ジョン・サムナー、クレイグ・ホール、ウィリアム・ジョンソン、マーク・ハドロウ、シェラルディン・ブロフィー、デヴィッド・ デニス他。


1933年に公開された同名映画のリメイク。
かつて1976年にジョン・ギラーミン監督がリメイクしたこともあり、これは2度目のリメイクということになる。
一等航海士だったジャックが脚本家になっているなど、幾つかの細かい変更点はあるが、基本的にはオリジナル版の内容をなぞって いる。
ピーター・ジャクソン監督の前作『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でゴラム(ゴクリ)の動きを担当したアンディー・サーキスが、 今回はキング・コングの動きを担当している。
アンをナオミ・ワッツ、カールをジャック・ブラック、ジャックをエイドリアン・ブロディー、エンゲルホーンをトーマス・クレッチマン、 プレストンをコリン・ハンクス、ランピーをアンディー・サーキス(コングと2役)、ヘイズをエヴァン・パーク、ジミーをジェイミー・ ベル、ハーブをジョン・サムナー、マイクをクレイグ・ホール、ブルースをカイル・チャンドラーが演じている。

まず最初に思うことは、「なげえよ」ってことだ。
オリジナル版は100分だったのに、今回は188分もある。ドクロ島に到着するまでも長けりゃ、到着してからも長い。
あまりにもオリジナル版への思い入れが強すぎると、削った方がスッキリするような箇所でも、なかなか削れなくなることもあるだろう。
だけど、オリジナル版より88分も長くなるってのはダメでしょ。
人間ドラマが充実したわけでも無いのに、188分にもなっちゃってる時点で、かなりのマイナスだよ。
ヘイズとジミーの師弟関係とか、そんなの要らないでしょ。

原住民を「全くコミュニケーションの取れない恐ろしい連中」として演出しているのが、バカだなあと。
ドクロ島で最も恐ろしい存在が、コングや恐竜じゃなくて原住民になっちゃってる。コングなんて、可愛いモンだよ。
まず原住民にマイクを惨殺させている時点で失敗だし。コングより原住民の方が、遥かに「未知の恐怖」になっている。
コングが暴れ出しても、どこかしら安心して見ていられる。スピード感や迫力はあっても、脅威や恐怖は感じない(ついでに重量感も無い )。
でも、理解不能の原住民は、すげえ怖い。

ピーター・ジャクソンがオリジナル版のどこに惹かれたのか、どの部分が重要だと感じたのかは分からないが、オリジナル版の肝は ウィリス・H・オブライエンによるストップモーション・アニメーションだ。
荒れ狂う海の迫力とか、全く話の通じない原住民の不気味さとか、どこに力を入れているのかと思っちゃうよ。
最初から肩の力が入ったままで、ずっと全力投球をしている感じ。
いい意味で力を抜くってことが無いのね。

前作ではストップモーション・アニメーションだったが、今回は同じ部分をVFXでやっているから、それがセールス・ポイントという ことになる。
ただ、恐竜なんかは、もう『ジュラシック・パーク』で同じようなモノを見ちゃっているし、コングにしても目新しさは無い。
『ロード・オブ・ザ・リング』の時は、「今までに無かったファンタジー世界を映像化した」「原作小説のイメージを見事に映像化した」 ということが高く評価されたが、今回は、オリジナル版の持つ映像的魅力には遠く及ばない。
そのくせ、オリジナル版でもストーリー的には要らなかったけど、ストップモーション・アニメーションを見せるために用意されていた シーンを、カットせずにそのまま使うどころか、むしろ引き延ばしている。
具体的には、大トカゲや恐竜のシーンだ。さらにオリジナル版ではカットされた巨大な虫のシーンまで加えている。
だけどストーリー的に大した意味は無いし、映像的魅力も感じないんだから、ただ長いなあと思うだけ。

カールはコングを生け捕りにするが、どうやってニューヨークへ連れ帰ったのかは分からない。
船で牽引するにしても、難しいだろう。ただ牽引するだけではコングが海中に浸かってしまうから乗せる台のような物が必要なはずだが、 そんなものを出航時に用意していたとは思えない。
オリジナル版でも輸送シーンは省略されているから、今回も描かなくて大丈夫だろうとでも思ったのか。
でも、恐竜や虫の登場シーンに時間を掛けるより、そういう部分こそ肉付けすべきじゃないのか。

アンは自分をティラノサウルスから助けてくれたコングに、親愛の情を抱く。カールたちがコングを生け捕りにしようとすると、必死で 「やめて」と懇願する。
これまでに大勢の映画スタッフと船員が殺されているのだが、そんなことは知ったこっちゃないのだ。
目の前でも大勢の船員が暴れるコングに殺されているが、それでもアンはコングの味方をする。完全に情が移っているのだ。
それって、1976年版を意識してないか。

ニューヨークでコングが暴れた時も、アンは自ら現場に駆け付けている。そして愛おしそうにコングを見つめるのだ。 アホらし。
ピーター・ジャクソンって、本当に1933年版のファンなのかよ。なんで失敗作だった1976年版のロマンスとしての方向性を、さらに強める ような演出にしてるのか。
あとCG製のコングがあまりにリアルになりすぎちゃって、「獣でも人でもない怪物」ではなく、ただの「デカいゴリラ」になってるのも マイナスだよな。
「ゴリラの美女に対する愛」と「怪物の美女に対する愛」では、印象が大きく異なってくる。

コングがエンパイア・ステート・ビルに登っても、アンは全く怖がらない。ものすごく高い場所で、しかもコングに捕獲されているのに、 ちっともビビっていない。悲鳴も上げない。
それどころか、一度はコングがビルの途中にアンを置いたのに、さらに上へ移動したコングを追い掛けてハシゴを登るぐらいだ。
最後までアンは、コングを助けようとする。複葉機がコングを攻撃しようとすると、身を挺して守ろうとするぐらいだ。
そこはオリジナル版を引き継がないのかよ。
オリジナル版のアンは、最後までコングに怯えて悲鳴を上げていたぞ。
踏襲すべき箇所、変更すべき箇所の取捨選択を、完全に間違えているんじゃないか。

最後はコングが落下した後、カールが「飛行機じゃない、美女が野獣を殺した」と呟くが、アホかと。
そのセリフ、監督はオリジナル版でアンを演じたフェイ・レイに言ってほしかったらしいが、彼女が死去したため、それは不可能に なった。
でも、だからといって、それをカールに言わせるのは愚かすぎる。
カールに言わせたせいで、「テメエがニューヨークにコングを連れてきて見世物にしたのが悪いんだよ。テメエがコングを死に追いやった んだ。美女のせいにするな」と言いたくなってしまう。

(観賞日:2009年10月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会