『キング・アーサー』:2017、アメリカ

メイジ(魔術師)のモルドレッドは、強大な軍団を率いてイングランド王のキャメロット城を攻めた。ユーサー王は弟のヴォーティガンに「この戦いは勝てません。モルドレッドは降伏を受け入れます」と言われるが、家臣のベディヴィアたちに戦いを宣言する。ユーサーは一騎打ちでモルドレッドを倒し、国を守った。ヴォーティガンはメイジの皆殺しを主張するが、ユーサーは認めなかった。ヴォーティガンは家臣のマーシア伯爵に兵隊を準備させ、ユーサーは妻のイグレインに息子のアーサーを連れて逃げるよう指示した。
ヴォーティガンは妻を地下聖堂へ連れて行き、無言で殺害して遺体を地底湖に流した。イグレインは命を落とし、アーサーだけが小舟で流された。ロンディニウムの町で洗濯をしていた娼婦たちは小舟を見つけ、アーサーが王子とは知らないまま娼館で面倒を見ることにした。ヴォーティガンは王位を継承し、アーサーは大人に成長した。キャメロット城の前を流れる川は、急激に水位が下がった。すると川底からは、岩に突き刺さった聖剣エクスカリバーが出現した。
ヴォーティガンは地下聖堂で魔物と会い、「なぜ剣が姿を現した?早すぎる。まだ塔は完成していない」と訴える。魔物が「お前の力が大きくなれば、対抗する者の力も大きくなって均衡を保とうとする」と説明すると、彼は「契約がある。この水に愛する者たちを流せば願いは叶えられるはず」と抗議する。魔物は「契約は守っている。剣とユーサーの子供を失ったのは、お前の責任だ」と告げ、「子供を見つけて殺せ。そうすれば剣はお前にだけ応じる。これ以上の助けが欲しければ代償を払え」と口にした。
アーサーが暮らす娼宿に兵隊の隊長であるジャックス・アイが現れ、国王への反乱軍に属する男が逃げ込んだ疑いがあることを告げられる。アーサーは短剣を抜いた反逆者のビルを取り押さえ、兵隊に引き渡す。ジャックスはアーサーにビルが脱獄の常習犯だと教え、「そいつがここで見つかったのは面倒だぞ」と言う。アーサーは彼から、「娼婦のルーシーと、バイキングのグレイビアードと、王を貶める落書きのことを教えろ」と要求された。
最初から話せと言われたアーサーは、仲間のウェット・スティックやバック・ラックと共に詳細を説明する。アーサーはルーシーを殴ったバイキングのグレイビアードに賠償金を要求し、脅しを掛けて承諾させたことを語る。するとジャックスはバイキングにヴォーティガンの息が掛かっていることを教え、「誰にもお前は助けられない」と告げた。ヴォーティガンはマーシアから、まだ誰も剣を抜けないこと、民の間に不満が渦巻いていることを聞かされる。メイドのマギーはヴォーティガンに「私は慕われているか」と問われ、「私はお慕いしています」と答えた。少し民を絞め付け過ぎではないかと懸念を示すマーシアに、ヴォーティガンは「塔を完成させる。後のことはどうでも良い」と告げた。
その夜、アーサーが眠っているとマックが叩き起こし、「王の軍が来る。お前を見せしめにする。早く逃げろ」と急かす。窓から脱出したアーサーは見張りの兵士たちに見つかり、これから仕事へ行く船員を詐称する。しかし腕の焼印が無かったことから、別の船に乗せられる。大勢の面々と共に城の前へ連行されたアーサーは、行列に並んで待たされる。早く済ませたい彼は順番を抜かして先頭へ行き、「何をすればいい?」と兵士のトリガーたちに尋ねる。「岩に刺さっている剣を抜くんだ」と言われたアーサーは、エクスカリバーを両手で掴んで引き抜いた。兵士たちが騒然とする中、アーサーは意識を失って倒れた。
ヴォーティガンはアーサーを牢に入れ、両手を鎖で拘束した。目覚めたアーサーに、彼は「あの剣を抜けるのはユーサーか直系だけだ」と告げる。アーサーは「俺は売春宿で生まれた。父親も知らない」と言うが、ヴォーティガンは処刑すると通告した。鍛冶職人になっていたベディヴィアの元を女のメイジが訪れ、力を貸すよう要求した。ヴォーティガンは城の前に民を集め、アーサーに「皆の前で処刑する。私の力を見せ付ける」と言う。彼はルーシーを家来に殺害させてから、アーサーを群衆の前へ連行する。
メイジはベディヴィアの仲間であるルビオやパーシヴァルたちと共にアーサーを救出し、馬に乗せて行き先を教えぬまま連行する。山奥の洞窟に辿り着くとベディヴィアが待っており、ビルも一緒だった。彼らは売春宿が壊されたことを教え、「ここが君の居場所だ」と告げる。ベディヴィアはアーサーがエクスカリバーを使いこなせるか確かめるため、ビルたちに戦わせようとする。しかしエクスカリバーを手にしたアーサーは幻覚に見舞われ、すぐに気を失った。
メイジは目を覚ましたアーサーに、「貴方は剣に抗っている。剣に触るよりも前の光景を見なかったか。その悪夢を止めることが出来ると言ったら?」と話す。彼女はアーサーにエクスカリバーを操る力を会得させるため、ダークランドへ行かせる必要があると考えた。メイジはベディヴィアと共にアーサーをダークランド連れて行き、「塔へ登り、祭壇の石に触らねばならない」と語る。祭壇の石に剣を乗せたアーサーは、ユーサーが自分を逃がして魔人に殺されたことを思い出した。
アーサーはメイジの手当てを受けながら、「メイジの塔はキャメロットの塔と同じだった」と言う。「塔が高くなるほど、ヴォーティガンの力が増す。完成すれば、彼はモルドレッドと同じ力を持つ」とメイジは言い、自分以外の魔術師はヴォーティガンに殺されたと語る。洞窟に戻ったアーサーはスティックやラックたちと会い、売春宿が全て焼かれたこと、マーシアが自分と剣を捜索していることを知った。怒りを覚えた彼は、「国王を殺す」と口にした。
アーサーはベディヴィアたちに、ヴォーティガンをロンディニウムへ引きずり出せば人員は少数で済むと言う。彼の仲間たちは、石を運ぶ舟を沈めたり奴隷を逃がしたりと、様々な妨害工作を繰り返した。エクスカリバーを操れずにいるアーサーは、メイジから「お前は答えを知っている。ダークランドで全てを見たのか。目を背けなかったか。剣にふさわしい人間になれば使える」と告げられる。ベディヴィアの間諜だったマギーは洞窟に現れ、ヴォーティガンがロンディニウムで漁師と会う情報を教えた。アーサーたちはロンディニウムへ出向き、ヴォーティガンの暗殺計画を練って準備を整える。しかしヴォーティガンはマギーの裏切りを見抜いており、ロンディニウムに影武者を差し向けて罠を仕掛ける…。

監督はガイ・リッチー、原案はデヴィッド・ドブキン&ジョビー・ハロルド、脚本はジョビー・ハロルド&ガイ・リッチー&ライオネル・ウィグラム、製作はアキヴァ・ゴールズマン&ジョビー・ハロルド&トーリー・タネル&スティーヴ・クラーク=ホール&ガイ・リッチー&ライオネル・ウィグラム、製作総指揮はスティーヴン・ムニューチン&デヴィッド・ドブキン&ブルース・バーマン、製作協力はマックス・キーン&ジェームズ・ハーバート、撮影はジョン・マシソン、美術はジェマ・ジャクソン、編集はジェームズ・ハーバート、衣装はアニー・サイモンズ、視覚効果監修はニック・デイヴィス、音楽はダニエル・ペンバートン。
出演はチャーリー・ハナム、アストリッド・ベルジュ=フリスベ、エリック・バナ、ジュード・ロウ、ジャイモン・フンスー、エイダン・ギレン、ミカエル・パーシュブラント、アナベル・ウォーリス、ピーター・フェルディナンド、キングズリー・ベン=アディル、ニール・マスケル、ジェフ・ベル、フレディー・フォックス、ケイティー・マクグラス、ロレイン・ブルース、エリーヌ・パウエル、ハーマイオニー・コーフィールド、クレイグ・マクギンレイ、トム・ウー、ザック・バーカー、オリヴァー・バーカー、ポッピー・デルヴィーニュ、ミリー・ブレイディー、ニコラ・レン、ウィル・コーバン、ブルー・ランドー、ジャッキー・エインズリー、ジョージナ・キャンベル、ロブ・ナイトン、マイケル・ハドリー、デヴィッド・ベッカム他。


『シャーロック・ホームズ』『コードネーム U.N.C.L.E.』のガイ・リッチーが監督を務めた作品。
脚本は『アウェイク』のジョビー・ハロルド、監督のガイ・リッチー、『コードネーム U.N.C.L.E.』のライオネル・ウィグラムによる共同。
アーサーをチャーリー・ハナム、メイジをアストリッド・ベルジュ=フリスベ、ユーサーをエリック・バナ、ヴォーティガンをジュード・ロウ、ベディヴィアをジャイモン・フンスー、ビルをエイダン・ギレン、グレイビアードをミカエル・パーシュブラントが演じている。
元サッカー選手のデヴィッド・ベッカムが、トリガー役で出演している。

ガイ・リッチーは『シャーロック・ホームズ』で、原作の登場人物やザックリとした設定だけを拝借し、オリジナルの物語を膨らませて大幅に逸脱する方法を取った。
この映画は世界的に大ヒットを記録し、続編も作られた。
これを受けてガイ・リッチーは、「同じやり方でアーサー王伝説もイケるんじゃないか」と思ったのだろう。
そんなわけで、これも「みんなが良く知っているアーサー王伝説」とは似ても似つかぬ内容となっている。

この映画は1億7500万ドルという高額の製作費が投入され、最初から6部作として企画されている。アーサー王の物語なのにマーリンもモーガン・ル・フェイもグィネヴィアも登場しないのは、「2作目以降に出る予定」ってことだろう。
最近では当初からシリーズ化を想定して製作される大作映画もあるが、それにしても6部作ってのは大胆な企画だ。その企画でゴーサインを出したワーナー・ブラザーズは、よっぽどガイ・リッチーを信頼していたんだろう。
しかし残念ながら興行的に惨敗を喫し、1億5000万ドルの赤字を出してしまった。
これで2作目以降が作られる可能性は、完全に消えたと言っていいだろう。

映画が始まると、いきなり巨象の群れが城へ向かっている。それはモルドレッドの軍団なのだが、なぜ彼が城を攻めたのか、どういう経緯があったのかは何も説明されない。
「いきなりド派手な戦闘シーンを描いて観客を引き付けようという狙いがあったのかもしれないし、それが間違っているとは言わない。ただ、確かに引き付ける力はあるかもしれないけど、戦いそのものは、あっという間に終わるのよね。ユーサーが刀を手にして戦いに向かったら、すぐ一騎打ちになって、それで終了。
だから映画開始から戦闘終了まで、5分ぐらいしか経過していない。
あれだけの軍勢だったのに、ユーサーが本気になったら軽く倒されるって、どんだけハリボテの軍団なのよ。

それと、大規模な戦闘シーンから入るのは別にいいんだけど、「なんか慌ただしいなあ」という印象を受けたことは事実だ。
登場人物とか、相関関係とか、状況とか、そういうのがサッパリ分からないのよね。
あと、そこからタイトルロールまでの編集もガチャガチャしており、「これってダイジェスト版なのか」と思ってしまうような状態になっているのよね。中途半端な時系列シャッフルが無駄に入っているし。
あと、どこでユーサーが弟の反乱に気付いたのか、まるで分からんぞ。

ユーサーは息子を逃がすよう妻に言うが、自分がアーサーを抱いて小舟のある船着き場まで同行する。どこからか武器が飛んできて、王妃は川に転落する。ここでタイトルロールに突入し、アーサーを乗せた小舟が町に流れ着く様子が描かれる。
つまり、ユーサーの死は描写されていないわけだ。
じゃあユーサーは生きているのかというと、死んだ設定だ。
だったら、彼が殺されるシーンも描くべきじゃないのか。王妃が川に落ちるシーンだけで済ませるのは、ただの手落ちにしか思えないぞ。

タイトルロールが終わると、アーサーが成長する様子がダイジェスト処理で処理される。
そこに多くの時間を掛けないのは理解できるけど、それにしてもバタバタしていて慌ただしい。
「アーサーがタフで腕っ節の強い奴に成長する」ってのを描きたいのは分かるけど、処理が粗くて印象付けがイマイチだし。
っていうか、2分も経たずに大人へ成長させちゃう構成は、どうかと思うぞ。もうちょっと少年時代に時間を割いてから、大人に成長させた方がいいよ。

アーサーが大人に成長している間に、ヴォーティガンが王位を継承している。
この際、「彼が兄を抹殺した」という出来事が、どのように処理されたのかがサッパリ分からない。彼がクーデターを起こしてユーサーと王妃を抹殺したことは、どこまで明るみになっているのか。
さすがに「全ての国民が知っている」ってことだと国民も付いて行かないだろうし、たぶん隠蔽工作は施しているんだろうと思うのよ。
でも、どういう方法で隠蔽したのか、国民にはどういう嘘をついているのかは全く分からない。
っていうか前述したように、ユーサーがどうやって死んだのかも全く分からないぐらいボンヤリしているのよね、その辺りは。

ヴォーティガンが魔物と話すシーンの後、カットが切り替わるとアーサーが暴行を受けて寝込んでいるルーシーの元へ来ている。彼は「今朝、例のバイキングと出くわした。せめて、これを渡してくれと。酷く後悔していた」と語り、金を渡す。
しかし、何のことだか全く分からない。その台詞で説明しているようなシーンは、そこまでに描かれていないからだ。
そのままワケの分からない状態で話が進み、ジャックスが「ルーシーやグレイビアードや落書きについて話せ」と要求したところで、アーサーが「こういう出来事がありまして」と語る。ここで初めて、先程の台詞の意味が理解できるようになる。
でも、そこを「後から説明」という形にしている意味って何なのかと。無駄に話を分かりにくくしているだけでしょ。

しかも、せめて回想シーンを入れつつアーサーが台詞で事情説明する手順ぐらいは簡潔に分かりやすく処理すればいいものを、そこも無駄にゴチャゴチャさせているのだ。
アーサーが話し始めるとジャックスが「最初からだ」と言い、回想シーンの時間がが逆戻りする。
そこで終わりかと思ったら、また途中でストップが掛かり、別のキャラが登場して別の出来事が描かれる。
ジャックスが別の質問を投げ掛けて、また別の話に移る。
アーサーが「話も質問もあちこち言って良く分かんねえな」と愚痴るが、こっちが言いたいわ。

具体的に書こう。
ジャックスから話すよう要求されたアーサーが「バイキング数名と静かに話し合った」と言うと、彼がグレイビアードに剣を突き付けて脅している様子が挿入される。ジャックスが「最初から全部だ」と求めると、アーサーは「朝、目が覚めて下に行ったらルーシーだけいなかった」と説明し、それに該当する映像が挿入される。
アーサーが友人2名と仕事をしたことを語った後、「ジョージが揉めた」と説明される。ジャックスが「その前に誰かと会ってないか?」と訊くと、マイクと会った時の様子が挿入される。ジャックスは「金はどこだ?」と質問し、それにアーサーが答えていると、今度は「マイクの毛皮は?」と別の質問が飛ぶ。
アーサーたちとマイクのやり取りが描かれた後、「何が問題だ?」と質問されたジャックスは「反乱の落書きだ」と答える。ラックの息子のブルーの落書きをアーサーたちが諌める様子が挿入され、今度はアーサーが「ジョージの話に戻っていいか?」と言う。
するとアーサーがジョージから「ルーシーがバイキングに殴られた」と聞くシーンが挿入され、グレイビアードの一味を脅して金を巻き上げ、ルーシーに渡した出来事が描かれる。
これを描く間、頻繁に回想と現在を行き来し、台詞を語るアーサー、スティック、ラック、ジャックスの顔のアップが何度も短く挿入される。

だけど、そんなに短いカットを連ねた構成にする意味なんて、何も無いでしょ。それで小気味の良いテンポ感が生じているのかというと、そんなことは全く無いんだし。
それに、そんなに色んな情報を盛り込んで散らかす必要性も全く無いのよ。そこで必要なのは、「アーサーはルーシーを殴ったバイキングを脅して金を支払わせたけど、そいつが国王の庇護を受けていた」ってことだけなのよ。
それなのに、余計な情報を幾つも盛り込んで、やたらとゴチャゴチャさせているのよね。
ガイ・リッチーって「先に結果を示し、後から回想で経緯を描く」という手法が好きみたいで、他の映画でも採用しているけど、少なくとも本作品では完全にマイナスしか無い。

マックに急かされて窓から逃げたアーサーは、見張りの兵士に「焼印は?」と問われ、「海に出てばかりで忙しくて」と釈明する。その焼印が何を意味するのか、この時点ではサッパリ分からない。
後でエクスカリバーを引き抜くようアーサーが言われた時、「剣を引いて、終わったら焼印を推して艀に戻るんだ」とトリガーが説明するので、ようやく「エクスカリバーを引き抜く作業を終えた印が焼印」という設定が明らかになる。
でも、アーサーの兵士に対する反応だと、最初から焼印の意味を理解していた雰囲気だったよね。その時点では意味が分からないのに、分かっているフリでもしたのか。
なんか無駄に分かりにくさを助長する反応だなあ。

アーサーがエクスカリバーを引き抜くシーンはスローモーションで描写され、盛り上げようという演出になっている。しかし、それが何を意味するのか全く説明しないまま描いているため、まるでピンと来ないのよね。
こっちは「エクスカリバーを抜けるのは王の印」というアーサー王の伝説を知った上で鑑賞しているが、それでも「重要なシーン」としての説得力が全く感じられない。
あと、どういう経緯でエクスカリバーが川底の岩に突き刺さったのかも、分からないままなんだよね。
後で「アーサーが記憶を取り戻した」ってトコで描かれているけど、順番を間違えているとしか思えない。

アーサーはメイジやベディヴィアたちの前で、軽薄なチンピラみたいな言動を見せる。
「反抗心が強い生意気な青年」というキャラ造形なのかもしれないが、それが成功しているとは言い難い。そもそもアーサーが「青年」には見えないからだ。
実際、チャーリー・ハナムは青年と呼べるような年齢じゃないし。
なので、「いい年をしてグズグズ言ってるカッコ悪い奴」になっている。
目の前でルーシーが惨殺されたのに、軽薄な態度を取ったり、ヴォーティガンへの怒りを見せなかったりするのも引っ掛かるし。

メイジが「アーサーがエクスカリバーを操るには、ダークランドに行かねばならない」と言うと、ベディヴィアは「それは有り得ない」と反対する。その1秒後にカットが切り替わり、ベディヴィアはアーサーをダークランドへ船で案内している。
「一度は反対するが、結局は受け入れる」というのは色んな映画で使われるベタベタなパターンだが、この映画の場合、反対から賛成に回るまでの時間が短すぎる。
わずか1秒で翻意するぐらいなら、最初からOKさせておけよ。その後から「他の方法を」とか「ダークランドを1人では生き抜けない」と反対していた様子を回想として挿入するけど、そんな時系列シャッフルはマイナスしか無いぞ。
で、そこからは「アーサーがダークランドでサバイバルする」という様子が描かれるのだが、まるでダイジェストのような処理になっている。しかも、相変わらず「ダークランドへ行く前にメイジがベディヴィアと話しているシーン」を何度も挿入するような構成が続くため、ますますダイジェスト感覚が強くなっている。
そのせいで、「アーサーが過酷な鍛錬を積んで成長した」という印象は皆無。

ヴォーティガンを殺すと決意したアーサーは、「ロンディニウムへ引きずり出せば大量の兵隊は要らない。ここにいる面々だけで済む」と説明する。
だけど、その理屈は良く分からない。どんな場所であろうと、ヴォーティガンが軍勢を率いて現れた場合、「多勢に無勢」となる可能性は高いわけで。「ロンディニウムなら少数で済む」という根拠が、まるで説明されていない。
あと、ロンディニウムを引きずり出すために何をするのかというと、「塔の完成を妨害するため、石を運ぶ舟を沈める」「奴隷の供給を断つため、移動日を狙って逃がす」「別荘の宮殿を焼く」という行動なんだけど、その関連性もサッパリ分からない。
そういう行動を取ることで、なぜヴォーティガンがロンディニウムへ誘い出されると思ったのか。結果的にはヴォーティガンがロンディニウムへ来ることになったけど、それは敵の策略を見抜いて仕掛けた罠だし。

「時系列をシャッフルして、短いシーンで過去と現在を何度も行ったり来たりさせる」という手法は、前述した幾つかのケース以降も使用されている。その全ては不要に感じるし、疎ましいだけだ。
とにかく、最後までガチャガチャした映像表現が邪魔になる映画だった。
それがガイ・リッチーの特徴だから仕方がないんだろうけど、彼の映像演出が完全に裏目に出ているってことだよ。
実際に酷評を浴びて興行的に惨敗しているんだから、その事実が全てを物語っている。

(観賞日:2018年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会