『キラー・エリート』:1975、アメリカ

サンフランシスコ。民間諜報機関“コムテッグ”のエージェントであるマイク・ロッケンと相棒のジョージ・ハンセンは、亡命した政治家のヴォロドニーをビルから救出した。その後、2人は大勢の娼婦たちを家に呼び、パーティーで盛り上がる。娼婦の一人と寝たマイクは、翌朝、ジョージに起こされた。2人はヴォロドニーを匿っている隠れ家へ赴き、同僚と見張り役を交代した。マイクがシャワーを浴びている間に、ジョージはボロドニーを射殺する。さらに彼はロッケンの左肩と左膝を射ち抜ち、その場を去った。
病院で手術を受けたマイクの元を、コムテッグの局長ウェイバーンと主任のコリスが訪れた。コリスはマイクに、医者から聞いたことを話した。マイクは1年ほどで歩けるようになるが、以前のような運動機能は回復しないという。マイクは看護婦エイミーの協力を得て、リハビリテーションを開始した。彼はエイミーと同棲するようになり、やがて普通の杖を使えば歩ける程度にまで回復した。
ある日、街を歩いていたマイクは、中国人の老師が屋外で生徒たちに太極拳を教えている現場に遭遇する。生徒の中には、マイクの同僚もいた。マイクが練習に参加して老師から太極拳を教わろうとすると、その様子を車内から見ていたコリスが彼を呼んだ。コリスは「君の脚は、もう役に立たない。他の仕事を世話する」とマイクに引退を勧告した。マイクは老師の道場に足を運び、太極拳を習った。
CIAのオリアリーがコムテッグ本部へ現れ、ウェイバーンとコリスに今朝の出来事を語る。空港に降り立ったアジアの政治家ユアン・チャンが暗殺団に襲われたが、何とか無事だったという。オリアリーは「チャンが国外に出れば全く関知しないが、米国内にいる間は、殺されては困る」と口にした。襲って来たのは日本から来たニンジャ部隊で、新たにジョージも加わったという。オリアリーはコリスたちに、コムテッグで対処するよう要求した。
ウェイバーンはコリスに、「マイクに仲間を集めさせ、全責任を与えろ」と命じる。コリスはマイクの元へ行き、チャンを船まで無事に送り届けて国外に脱出させる任務を依頼する。依頼を引き受けたマイクに、コリスはジョージが敵の一味に加わっていることを教える。マイクは仲間として、射撃のエキスパートであるミラーと運転の得意なマックを雇うことにした。マイクはコリスからチャンのいる場所を聞き、ミラーとマックの3人でチャイナタウンへ赴いた。
コリスはジョージと相棒、ニンジャ部隊の元締めとストリップ・クラブで会い、チャンの情報を流す。彼はジョージに、失敗しないよう釘を刺した。コリスの銀行口座には、組織から金が振り込まれていた。マイクはミラーとマックを外で待機させ、チャンと娘のトミーが避難しているイー氏の住まいに入った。不審な清掃車に気付いたミラーは、それをマイクに知らせた。マックは屋上で監視しているジョージと相棒に気付いた。マイクたちは銃撃戦を展開しながら、チャンとトミーを車に乗せて逃亡した。マックは車に仕掛けられた爆弾を発見し、それを取り外した。
マイクはがコリスに連絡を取り、「警察にバレた、車は使えない。船でベツレヘム鉄鋼の旧埠頭へ8時に行く。引き渡しは3時だ」と連絡した。コリスはジョージに電話を入れ、その情報を教えた。夜、マイクたちは旧埠頭の建物で待機し、襲撃に警戒する。しかしトミーが警告を無視してが出資、ジョージに捕まってしまう。ジョージはトミーに銃を向け、マイクにチャンを引き渡すよう要求した。さらに彼は、自分もコリスに雇われていることを明かし、協力を持ち掛けた…。

監督はサム・ペキンパー、原作はロバート・ロスタンド、脚本はマーク・ノーマン&スターリング・シリファント、製作はマーティン・ボーム&アーサー・ルイス、製作総指揮はヘルムート・ダンティーネ、撮影はフィル・ラスロップ、編集はトニー・デ・ザラガ&モンテ・ヘルマン、美術はテッド・ハワース、衣装ははレイ・サマーズ、音楽はジェリー・フィールディング。
出演はジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァル、ギグ・ヤング、ティアナ、アーサー・ヒル、ボー・ホプキンス、マコ(マコ岩松)、バート・ヤング、トム・クランシー、ケイト・ヘフリン、ソンドラ・ブレイク、ウォルター・ケリー、ビリー・J・スコット、ハンク・ハミルトン、ヘルムート・ダンティーネ、キャロル・マロリー、ジェームズ・ウィン・ウー、ジョージ・キー・チェン、ヴィクター・セン・ヤン、タク・クボタ、リック・アレマニー、ジョニー・バーレル、サイモン・タム、アーノルド・フォートギャング、トム・ブッシュ、マシュー・ペキンパー他。


ロバート・ロスタンドの小説『キラー・エリート』(原題は『Monkey in the Middle』)を基にした作品。
監督は『ゲッタウェイ』『ガルシアの首』のサム・ペキンパー。脚本は『オクラホマ巨人』『ブレイクアウト』と『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』のスターリング・シリファント。
ペキンパーの撮ったポンコツ映画として、カルト映画好きの間では有名な作品だ。
ロッケンをジェームズ・カーン、ハンセンをロバート・デュヴァル、ウェイバーンをギグ・ヤング、トミーをティアナ、コリスをアーサー・ヒル、ミラーをボー・ホプキンス、チャンをマコ(マコ岩松)、マックをバート・ヤングが演じている。
老師を演じたクオ・リエン・インは、実際に太極拳と少林拳をマスターしている武術家。イーを演じたジョージ・キー・チェンも武術家で、アメリカン・ケンポーの創始者であるエド・パーカーに大きな影響を与えた人物だ。

冒頭シーンから、既にヤバそうな雰囲気は漂っている。亡命政治家を救出するという緊迫感に満ちたシーンのはずなのに、その救出シーン自体はあっさりと終わらせ、マイクとジョージは冗談混じりでバカ笑いする。
で、すぐさま大勢の女たちを自宅へ呼んでパーティーを開き、浮かれポンチな様子を見せ付ける。
本来なら、導入部ではマイクのエージェントとしての優秀なスキルをアピールしておかなきゃならんはずなのに、単なる女好きで軽いパーティー野郎にしか見えない。
「やる時はちゃんとやる」というエージェントとしての優秀さを見せて、その上で女好きでパーティー好きってのを描くなら一向に構わんが、後者しか見せてないからね。

マイクだけじゃなくて、ジョージも軽いんだよなあ。
マイクが寝た女のバッグから、膣が病気に感染してるという医者のメモを見つけたことを指摘し、すげえ笑うんだよ。
その笑い方がハンパじゃない。甲高い声で20秒ぐらい笑い続けるんだぜ。
しかも、それはジョークだということを後からバラすんだけど、なんだよ、その軽すぎるノリは。
始まってから10分ぐらいは、マイクもジョージも、ずっとテンションが高くて、やたらと笑っている印象がある。ヤクでもやってるのかと思うぐらいだ。

ジョージはヴォロドニーを射殺するシーンで、ようやくマジになる。
ひょっとすると、そこの落差を付けるために軽いキャラにしていたのかもしれんが、だとしても失敗だ。
それと、なぜマイクを殺さずに再起不能の怪我を負わせただけで立ち去るのか。「友達だから」という説明では納得しかねるぞ。
ホントに友達だと思っているなら、裏の仕事を明かして仲間に誘えば良かっただろ。
もしくは、ヴォロドニーを殺せば仕事は完了なんだから、それで逃げちゃえばいいだろうに。

マイクが入院してからのシーンが、ものすごく長いのね。医者が処置をするシーンとか、ギプスを外して糸を切るシーンとか、リハビリのシーンとか、そういうのを丁寧に描く。
で、苦しいリハビリの最中も、マイクはエイミーへのセクハラを忘れない。いきなり抱き付いたりする困った患者だ。
そもそもリハビリに長く時間を使っている時点で「この映画はどこにピントを合わせているのか」と思ってしまうが、懸命にリハビリに励んで再起しようとする姿を描くことで主人公に感情移入させようとしているのかと思ったら、そういうセクハラ行動をやらせちゃうんだから、シオシオのパーだ。
で、いつの間にか2人は、同棲するようになっている。
あと、そんなに頑張って早く復帰しようとするマイクのモチベーションが良く分からん。それほどコムテッグの仕事に対する使命感や情熱があったようには見えなかったし。ジョージへの復讐心に燃えている様子も無いし。
っていうか、彼の感情がまるで見えんのよね。

なぜ太極拳を学ぼうと思ったのかも良く分からん。
それが回復に効果があると誰かから聞いたとか、そういうシーンがあるわけでもないし。老師がジジイとは思えないスゴ技を披露し、そこに東洋の神秘を感じるとうシーンがあるわけでもないし。老師や同僚の言葉で、魅力を感じるというシーンがあるわけでもないし。
そもそも、太極拳を習ったからといって脚部の機能が回復するわけではないし、片脚が不自由だと太極拳をやる上でもハンデになるはずだし。
だったら太極拳を練習するより、普通のリハビリを頑張った方がいいんじゃないかと。
どうしても東洋の武術を持ち込みたかったんだろうけど、その持ち込み方に無理があり過ぎる。

いきなりマックが見舞いに来て、マイクは差し出された花束に「要らん」と冷たく言って追い返すのだが、そこが初めての登場なので、マックが何者なのか、マイクとどういう関係性なのか、サッパリ分からん。
追い払った後、マイクがエイミーに問われてマックのことを
説明するとか、そういうシーンがあるのかと思ったら、何も無いまま先へ進む。
結局、次にマックが登場するまで、彼が何者なのかは全く分からず、しばらくは謎の人物になってしまっている。

チャンは明らかに中国系(アジアの政治家としか紹介されないが、中国か台湾だろう)の政治家なのに、なぜか襲って来るのは日本のニンジャ部隊。
で、空港でチャンを見つけたニンジャ部隊は、まず遠くから狙撃し、それに失敗するとな大勢が素手で襲い掛かる。
狙撃の時に銃を使うなら、その後も銃を使った方がいいように思うが、それだとニンジャらしくないわな。
ただ、襲撃する時の動きも、あまりニンジャっぽさを感じさせない。まあカラテかな。しかも、かなりモタモタしている。
そのモタついた格闘アクションを、ペキンパーが得意のスロー映像を交えて撮っているので、ますますモタモタした印象になっている。

仕事を依頼されたマイクが仲間に選ぶのが、銃が大好きな狂犬のミラーと、整備工場を営む小太りのオッサンであるマック。
ちっともキラー・エリートに見えない。
「そう見えないけど実は凄腕」というギャップを狙ったのかもしれんが、やっぱりその後も狂犬とオッサンという印象は変わらない。
少なくとも「エリート」じゃねえよな。まあマイクだけを指している言葉なのかもしれんけど。
ただ、マイクにしても、そんなにエリートとしての活躍を見せるわけじゃないんだよな。

ニンジャ部隊がチャンを狙っているという設定なのに、すぐにジョージと相棒が参加し、チャイナタウンでは銃撃戦が繰り広げられる。
おいおい、ニンジャ部隊はどうなったんだよ。
その後はパトカーとのちょっとしたカーチェイスと爆弾騒ぎがあり、ますますニンジャの存在感が薄くなる。
で、その爆弾シーンに関しては、「白バイ警官が来たけど、取り外した爆弾を渡したら焦って捨てに行く」という喜劇として描いてしまう。
そこは緊張感で見せるべきシーンじゃねえのかよ。なんで逆に緩和させちゃってんのよ。

旧埠頭のシーンでは、トミーは狙われているのに、「闇を使いに行く」とワケの分からんことを言って外へ出ようとする。
「外では銃を持った奴らが狙ってる」とマイクが注意しても、なぜか「見えないわ」と自信満々。父親のチャンも「娘は慣れてる」と全く止めようとしない。
そんな身勝手な奴らなので、ちっとも助けてやりたい気持ちになれん。
で、やっぱり娘は拉致される。危険を冒して外へ出たんだから死ぬ覚悟が出来ているのかというと、そうじゃないんだよな。
もうさ、さっさと始末されて、そのまま退場してしまえと。
どうせ演じているティアナって、シリファントが公私混同してキャストにねじ込んだテメエの嫁さんだし。

ジョージがトミーを捕まえて姿を現し、マイクと対峙する。
そこから2人の戦いに突入していくのかと思ったら、マイクが銃を捨てて去ろうとしたことに狼狽したジョージが気を取られている隙に、ミラーが彼を射殺してしまう。
おいおい、マイクってジョージとしばらく喋っていただけで、肝心な終盤にきて、何もやってねえじゃん。
あと、そこでもジョージと仲間たちが襲って来るから、空港のシーン以降、ニンジャ軍団の存在感が皆無だぞ。

最後のシークエンス、スイザン湾になって、ようやくニンジャ軍団が登場する。黒装束の「いかにも」なニンジャの格好になるのは、そこが唯一のシーンだ。
で、そいつらは刀を持って襲い掛かろうとするんだけど、離れた場所から拳銃やサブマシンガンで撃たれ、何も出来ずに次々と殺されていく。
それをペキンパーがスロー映像で見せるんだけど、ただ一方的にニンジャ軍団が殺されていく様子をスローで演出されても、マヌケなだけ。
銃を持った連中に離れた場所から走って近付こうとしているんだから、実際、ボンクラな連中だしね。

それでも何人かのニンジャは接近に成功するが、マイクのにわか仕込みの太極拳で軽く倒される。
それは仕方が無いにしても、何も格闘の能力が無いはずのマックに、なんでステゴロで退治されてるんだよ。
で、ニンジャ部隊の首領であるトクが出て来たので、マイクが撃ち殺そうとすると、チャンがタイマンでチャンバラ対決をする。
ラスボスと戦う最後の対決に、主人公のマイクが参加しないのだ。しかも、ただ見物しているだけでなく、どっちが勝つか賭けまで始めちゃう。
やる気がねえなあ。
そのマイクのやる気のなさには、ペキンパーのやる気の無さと重なるものを感じる。
ところで、序盤でマイクに大怪我を負わせ、その機能が完全には回復しないという設定にしたのは、何の意味があったんだろうか。それ以降の展開で、その設定が活用されている様子は全く見られないんだけど。

スターリング・シリファントはブルース・リーからジークンドーを教わった弟子だが、何を学んだのかと言いたくなる。
ただ、冷静に考えると、これは原作付きの映画なのだ。
ってことは、シリファントが勘違いした東洋思想でクルクルパーなシナリオを作ったのではなく、原作そのものがシオシオのパーな内容だったのではないか。
ただし、それを確かめるために原作小説を読みたいという気持ちは、さらさら無いけどね。

(観賞日:2013年3月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会