『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』:2013、アメリカ&イギリス

デイヴ・リゼウスキがキック・アスとして最初に戦ってから、3年が経過した。共に戦ったミンディーは、亡き父の親友であるマーカスに引き取られていた。ミンディーはマーカスの車で学校まで送ってもらうが、登校中の偽装工作を施してトレーニングに励む。一方、デイヴはキッス・アスの活動を停止していたが、普通の高校生としての生活に退屈を感じていた。テレビを付けると、キッス・アスに刺激された大勢の人々がスーパーヒーロー活動を始めたことが報じられていた。
テレビ報道に影響を受けたデイヴは、再びキック・アスとして活動することを決めた。彼はミンディーに声を掛け、チームを組みたいと告げる。ミンディーがレベルの違いを理由に断ろうとすると、デイヴは自分を鍛えてほしいと頼む。デイヴが何でも言うことを聞くと約束したので、ミンディーは承諾した。デイヴは恋人のケイティーや親友のマーティー&トッドに何も言わず、トレーニングを積んだ。一方、キック・アスに恨みを抱くクリスはレッド・ミストのコスチュームを母に捨てられ、怒りに任せて殺してしまった。
ミンディーはマーカスに学校を抜け出していることを知られ、遊びに出掛けたのだと嘘をついた。彼女はデイヴを派手な格好に着替えさせ、実地訓練として街を歩かせる。チンピラたちに目を付けられた彼は必死に戦うが追い詰められ、そこへヒット・ガールが駆け付けて救出した。警官が駆け付けたので、ミンディーは慌てて逃亡した。マーカスは目撃証言から、ミンディーがヒット・ガールとして動いたと確信する。先に帰宅して誤魔化そうとしたミンディーだが、マーカスにバレてしまった。
マーカスはミンディーを説得し、ヒット・ガールを辞めて学校に通うことを約束させた。モンディーはデイヴに、もう全て終わりにすることを話した。クリスは新しいコスチュームを着用し、世話係のハヴィエルに「やっと分かった。俺は悪党として進化する。これからはマザー・ファッカーだ」と告げた。キック・アスとして街へ出たデイヴは、仲間を集めることにした。デイヴは物理学教授のドクター・グラヴィティーと連絡を取り、コンビで街に出た。デイヴが暴漢に襲われて窮地に陥ると、グラヴィティーが助けに入った。
クリスはマザー・ファッカーの格好でコンビニへ行き、店員に拳銃を向けて自分の存在をアピールした。彼は店内で銃を乱射して逃走し、待機させていたハヴィエルの車に乗り込んだ。興奮した様子で心地良さを叫んだクリスは、自分を鍛えるための専門家を見つけ出すようハヴィエルに命じた。デイヴはグラヴィティーの仲介で、チーム結成に関係する面々と会うことになった。デイヴから来てほしいと連絡を受けたミンディーは、悩みながらも断った。
デイヴがグラヴィティーの案内で倉庫に入ると、スターズ・アンド・ストライプス大佐と彼の率いる組織「ジャスティス・フォーエバー」の面々が待ち受けていた。一方、ミンディーはマーカスに促され、嫌々ながらも同級生であるブルック、ドルチェ、ハーロウのパジャマ・パーティーへ行く。いかにも若い女子らしいブルックたちの言動やアイドル・グループへの陶酔に困惑するミンディーだが、パジャマに着替えて順応しようとする。
ジャスティス・フォーエバーのメンバーは大佐の他、息子を捜しているトミーズ・ダッド&トミーズ・マム、姉を殺されたナイト・ビッチ、同性愛者でイジメられていたインセクトマンという面々がいた。さらにマーティーも、バトル・ガイという名前で参加していた。デイヴは驚いて声を掛け、自分の素性を明かした。大佐はデイヴたちに、奥の部屋に用意した組織の本部を披露した。デイヴはチームへの参加を促され、喜んで承諾した。
ハヴィエルは格闘家のチャック・リデルを雇い、クリスのコーチを引き受けてもらった。クリスは練習で黒人選手に叩きのめされるが、彼に大金を渡して「ブラック・デス」という子分にする。ミンディーはブルックたちに誘われ、ダンス・チームの練習へ連れて行かれる。ブルックはミンディーを見下していたが、表向きは「自分が代表になるため、親友として協力してほしい」と言う。しかし戦闘をイメージしたミンディーが見事な動きを披露して喝采を浴びたため、ブルックは不機嫌になった。
デイヴはジャスティス・フォーエバーの仲間と共に自警団として活動し、充実感に浸る。ナイト・ビッチはデイヴを逆ナンし、熱烈なキスをする。デイヴは改めてミンディーをチームに誘うが、やはり断られた。ジャスティス・フォーエバーは事情で来られないトミーの両親&グラヴィティーを除くメンバーで出動し、ジミー・キムの率いる売春組織のアジトを襲って壊滅させた。キック・アスたちの活躍を知ったクリスは憤慨し、ハヴィエルの協力でザ・トゥーマー、チンギス・カーネイジ、マザー・ロシアという面々を集めた。
ジャスティス・フォーエバーはパトロールを続ける中で仲間が増加し、トッドも加わることを希望する。しかしデイヴとマーティーから馬鹿にされた彼は腹を立て、アス・キッカーとして別のチームを作ると宣言した。ミンディーは同級生のサイモンと初めてのデートに行くが、待ち受けていたのはブルックと仲間たちだった。全ては罠だったのだ。ブルックはミンディーを嘲笑し、辺鄙な場所に置き去りにしてサイモンたちと立ち去った。
ミンディーはデイヴの元へ行き、泣きながら弱音を吐く。「明日、どうやって彼女たちと会えばいいの?」と漏らす彼女をデイヴは慰め、「マスクをしていなくても、君はヒット・ガールだ。君らしくやればいい」と告げた。翌日、ミンディーはドレスアップしてブルックたちの前に現れた。高飛車な態度で勝ち誇るブルックたちに冷たい視線を向けたミンディーは、嘔吐と下痢を起こす特殊な装置を使って大勢の前で恥をかかせた。
デイヴは父親にキック・アスのコスチュームを発見され、厳しく注意される。デイヴは反発し、コスチュームを持って家を出た。クリスは刑務所にいる叔父のラルフに呼び出され、悪党としての活動を中止するよう促される。クリスが反発するとラルフは「本物のワルを教えてやる」と言い、子分にハヴィエルを殺害させた。それは甥に恐怖を与えるための行動だったが、クリスは「ありがとう、俺に必要な物が分かった」と言って刑務所を去った。
クリスは仲間を引き連れてジャスティス・フォーエバーの本部へ乗り込み、1人でいた大佐を殺害する。ナイト・ビッチの情報を見つけたクリスは、彼女がキック・アスに好意を寄せていると知った。クリスたちはナイト・ビッチの家へ乗り込み、キック・アスへのメッセージとして彼女を襲った。警官が駆け付けると、マザー・ロシアが始末した。警察は総力を挙げて逮捕に動き出すが、標的にはジャスティス・フォーエバーの面々も含まれていた。デイヴの家にも警察が押し掛けるが、彼の父親が身代わりとして出頭した…。

監督はジェフ・ワドロウ、原作はマーク・ミラー&ジョン・S・ロミタJr.、脚本はジェフ・ワドロウ、製作はアダム・ボーリング&タルキン・パック&デヴィッド・リード&マシュー・ヴォーン、共同製作はジェーン・ゴールドマン、製作協力はレオニー・マンスフィールド、製作総指揮はスティーヴン・マークス&クローディア・ヴォーン&マーク・ミラー&ピエール・ラグランジェ&トレヴァー・デューク・モレッツ&ジョン・S・ロミタJr.、撮影はティム・モーリス・ジョーンズ、美術はラッセル・デ・ロザリオ、衣装はサミー・シェルドン・ディファー、編集はエディー・ハミルトン、音楽はヘンリー・ジャックマン&マシュー・マージェソン。
出演はアーロン・テイラー=ジョンソン、クリストファー・ミンツ=プラッセ、クロエ・グレース・モレッツ、ジム・キャリー、クラーク・デューク、モリス・チェスナット、ドナルド・フェイソン、ジョン・レグイザモ、オーガスタス・プリュー、ギャレット・M・ブラウン、イアン・グレン、リンディー・ブース、ロバート・エムズ、スティーヴン・マッキントッシュ、モニカ・ドラン、アンディー・ナイマン、ダニエル・カルーヤ、トム・ウー、リンジー・フォンセカ、オルガ・クルクリーナ、ヤンシー・バトラー、クローディア・リー、ベネディクト・ウォン、エラ・パーネル、タニア・フィアー、チャック・リデル、ソフィー・ウー、ウェズリー・モーガン、アンジェリカ・ジョプリング他。


2010年の映画『キック・アス』の続編。
前作の監督を務めたマシュー・ヴォーンは、今回は製作だけに留まっている。
今回の監督&脚本は、『ネバー・バックダウン』のジェフ・ワドロウ。
デイヴ役のアーロン・テイラー=ジョンソン、クリス役のクリストファー・ミンツ=プラッセ、ミンディー役のクロエ・グレース・モレッツ、マーティー役のクラーク・デューク、デイヴの父役のギャレット・M・ブラウン、ケイティー役のリンジー・フォンセカは、前作からの続投。
大佐をジム・キャリー、マーカスをモリス・チェスナット、グラヴィティーをドナルド・フェイソン、ハヴィエルをジョン・レグイザモ、トッドをオーガスタス・プリュー、ラルフをイアン・グレン、ビッチをリンディー・ブースが演じている。

序盤で引っ掛かるのは、デイヴが「高校生活は退屈だ」と考え、キック・アスに感化された人々を見たことで、またスーパーヒーロー活動を始めようと決めることだ。
つまり、デイヴは「刺激が欲しい」とか、「みんなに注目されたい」とか、そういう気持ちでキック・アスの活動を復活させるのだ。
その軽薄さは、これが1作目の序盤であれば、「最初は軽いノリだったけど現実を知って気持ちが変化する」という展開を用意することで、受け入れることも出来る。
だが、前作で「スーパーヒーローの現実」を体験しているはずなのに、その軽薄なノリでキック・アスに復帰するってのは、ちょっと不愉快だわ。前作で芽生えたはずの自覚を、もう忘れたのかと。

ミンディーがマーカスの説得でヒット・ガールの活動から足を洗うのが、すんげえ簡単なのよね。
「父親のメモには、マーカスの言うことを聞くと書かれていたから」というだけで、あっさりと彼の指示に従う。
だけど、そのメモの内容は、父親が死んだ時点で分かっていたわけで。それでも今までは、ヒット・ガールとしてトレーニングを積んでいたわけで。
そのタイミングでマーカスの指示に従うようになるには、それだけではなく、何か別の大きな引き金が欲しいなあ。

前作から3年の月日が経過し、それが続編の評価を下げる最も大きな要因となっている。
なぜならば、3年が経過したことでクロエ・グレース・モレッツが成長してしまったからだ。
前作の彼女は11歳であり、「小学生の女児が放送禁止用語をバンバンと喋り、冷徹な態度で容赦なく悪党どもを殺していく」という荒唐無稽さに面白さがあった。それが作品の面白さの大半を占めていたのだ。タイトルは『キック・アス』だが、実質的には『ヒット・ガール』だったのだ。
しかしクロエ・グレース・モレッツの成長によって、そこの魅力が失われてしまった。

とは言え、やはり続編でも相変わらず、実質的に『ヒット・ガール2』であることは間違いない。今回はキック・アスがチームとして活動する話と、普通の女の子として生きようとするヒット・ガールの話が並行して描かれるのだが、圧倒的に惹き付けられるのは後者だ。
この2つだけでなく、クリスが仲間を集める話も同じぐらいの比率で扱われるので、3つの話を並行して進めるような構成になっている。だが、クリスの話も含め、やはり惹き付けられるのはヒット・ガールのエピソードなのだ。
しかしヒット・ガールのエピソードはスーパーヒーロー活動から完全に離れているわけだから、ホントはキック・アスが大佐たちと共に活動する様子や、それに対してマザー・ファッカー軍団がヴィランとして暴れ回る様子、その2つの組織が対立する構図ってのがメインのはずだ。
だが、そっちの話が冴えないもんだから、「早くミンディーがヒット・ガールとして復活しないかなあ」と思ってしまう。

そもそも自警団「ジャスティス・フォーエバー」に関しては根本的な問題があって、それはリーダーのスターズ・アンド・ストライプス大佐に全く魅力が無いってことだ。
もはや魅力が云々という以前に、中身がペラペラなのだ。
「いかにもリーダーらしい感じのオッサン」ということ以外に、この男の存在意義も見当たらない。「別にジム・キャリーじゃなくても良くね?」と言いたくなる。
ジム・キャリーが一切の宣伝活動を拒否したのは全く別の理由らしいけど、「こんな扱いだったら嫌になるよなあ」と思ったりしてしまったよ。

今回もキック・アスは全く魅力を感じさせないし、彼を主役とするストーリーは退屈だ。
キック・アスがジャスティス・フォーエバーとして活動している時間帯には、ヒーローが活躍する高揚感も楽しさも全く無い。アクション映画としての迫力や醍醐味も無い。
話のリズムも全く生まれておらず、色んなことが描かれているけど一言で言えば「退屈」に尽きる。
結局、終盤になってミンディーがヒット・ガールとして暴れ始めて、ようやく物語に活気が持ち込まれるのだ。

ジャスティス・フォーエバーとマザー・ファッカー軍団の戦いは、単に陰惨で殺伐としているだけだ。
まず悪党軍団が優勢に立っている間は、もちろん爽快感なんて皆無だ。しかも、その内容は、「スーパーヒーローが逆転する展開に向けて、怒りを溜めておくための時間」として受け入れられるレベルを超えている。
だから予想した通り、後でスーパーヒーローがヴィランを倒しても、そこに爽快感なんて無い。
なぜなら、それまでに悪党によってもたらされた犠牲が大きすぎるからだ。
先に受けた鞭の痛みが強すぎるから、後で飴を貰っても、その痛みは消えないのだ。カタルシスも皆無だしね。

ジャスティス・フォーエバーとマザー・ファッカー軍団には大勢のメンバーがいるのだが、マザー・ロシアが孤軍奮闘しているだけで、他の連中は紹介シーンでほとんど終了している。
キック・アスに惚れる役割を与えられているナイト・ビッチでさえ、その中身は薄っぺらい。
第2作で新たに登場するスーパーヒーロー&ヴィランの魅力が乏しいため、ますます「そこにヒット・ガールがいない」ということの大きさが浮き彫りとなる。
ヒット・ガール不在を補うような存在は、そこに存在しない。

前作はアメコミ映画としては過剰な暴力描写があったし、悪趣味だったが、陰惨ではなかった。まあ危ういところがあったのは否めないが、まだ余裕があった。
しかし本作品は、ただ陰惨なだけの映画になってしまった。
その理由は簡単で、ここにも『ダークナイト』の悪影響が出ているのか、マジな苦悩を入れたり、重厚なテーマをリアリティーの中で描こうとしたりしているからだ。
だけどね、そんな方向性なんて全く要らないわ。
そういう余計なモノは、ジャンル映画への愛やリスペクトを全く持っていない(もしくは考え方が間違っている)クリストファー・ノーランに任せておけばいいのよ。

前作も「あえてスーパーヒーロー物のモラルを破っている」という傾向はハッキリと見られたし、それは全面的に賛同できるモノではなかった。
しかし、ヒット・ガールの魅力によって、その問題を覆い隠している部分はあった。
だが、今回はヒット・ガールの魅力が減退している一方で、モラル・ハザードのレベルが上昇している。
そのせいで、全面的気に賛同できないどころか、不愉快極まりない部分まで生じている。

最も不愉快なのは、マーティーがマザー・ファッカーにデイヴの父親のことを教えてしまう展開だ。そのせいで、デイヴの父は殺されてしまうのだ。
つまり、マーティーは間接的に、デイヴの父親を殺しているわけだ。
幾らデイヴにバカにされたからって、それは絶対にダメな行為でしょ。
そこに情状酌量の余地なんてゼロだ。なぜなら、既にマザー・ファッカー軍団が平気で人を殺す集団ってことは分かっているからだ。
そんな奴らにデイヴの父の情報を教えるってことは、つまり「殺して下さい」と言っているようなモノだ。

その重すぎる罪は、例えば「キック・アスを庇って命を落とす」というぐらいのことをやらないと償えない。
ところが、この映画ではクライマックスの戦いでキック・アス側に寝返って戦い、そのままチームに加入している。
デイヴの父親を死なせたことへの罪悪感なんて全く感じていないし、だからデイヴに謝罪することも無いままだ。
そりゃ謝罪して許されることではないけど、そういう最低限のことも無いのよ。だから、すんげえ不愉快でモヤモヤした気持ちが残ったままになってしまう。

(観賞日:2015年9月3日)


2014年度 HIHOはくさいアワード:第3位

 

*ポンコツ映画愛護協会