『カーマ・スートラ 愛の教科書』:1996、インド

16世紀のインド王国。召使いの娘マヤは王家の娘タラと幼馴染みで、姉妹のように育てられた。だが、タラは自分よりも女性としての魅力を持つマヤに意地悪な態度を取り、マヤは身分の違いをひけらかすタラに対して妬みを抱くようになる。
成長したタラはラジャ国王と結婚することになるが、マヤは彼を誘惑してタラよりも先に一夜を共にする。マヤはラジャの兄ビキ王子からの求婚を断るが、彼にラジャとの密通を暴露されてしまう。そのことにより、マヤは国から追放されてしまう。
旅に出たマヤは若き彫刻家ジャイと出会い、彼の知り合いで前国王の愛妾だったラサの元で暮らすようになる。ラサは女性達を集めて、カーマ・スートラを教えていた。互いに惹かれ合うようになったマヤとジャイは、やがて肌を重ね合わせる。
だが、ジャイはマヤのことばかり考えて仕事が手に付かなくなったことに悩み、彼女への拒絶反応を示す。ラサからカーマ・スートラを学んだマヤは、彼女のことを忘れられずにいたラジャの愛妾となる。ラジャはタラに冷徹な態度を取っており、タラはマヤへの憎しみを抱く。ジャイと再会したマヤは、再び彼との愛の炎を燃やすようになる…。

監督はミラ・ナイール、脚本はヘレナ・クリエル&ミラ・ナイール、製作はリディア・ディーン=ピルチャー&ミラ・ナイール、共同製作はキャロライン・バロン&ディナス・スタッフォード、製作総指揮はミチヨ・ヨシザキ、撮影はデクラン・クイン、編集はクリスティナ・ボーデン、美術はマーク・フライドバーグ、衣装はエドゥアルド・カストロ、音楽はマイケル・ダンナ。
出演はインディラ・ヴァルマ、ナヴィーン・アンドリュース、サリター・チョウドリー、ラモン・ティカラム、レカー、パール・パダムシー、アルンドハティー・ラオ、ハーリド・チャブジ、ハリッシュ・パテル、ランジット・チョウドリー他。


男女の性愛について説いたインドの古典“カーマ・スートラ”をモチーフにした作品。
マヤをインディラ・ヴァルマ、ラジャをナヴィーン・アンドリュース、タラをサリター・チョウドリー、ジャイをラモン・ティカラム、ラサをレカーが演じている。
『サラーム・ボンベイ!』で社会派監督として名を上げたミラ・ナイールだが、この2本目にして一気に名を下げるシロモノを作り上げてしまったようだ。
ドロドロした男女の愛憎ドラマとカーマ・スートラを組み合わせようとしているようだが、その組み合わせに失敗しており、しかもカーマ・スートラの教えは大して出てこない。

まず、カーマ・スートラをどういうモノとして扱いたいのか、その段階からして良く分からない。
カーマ・スートラは性愛の教典のはずだが、ここでは性と愛が完全に別物として扱われている。だから、カーマ・スートラを学んでも、愛について学ぶことになっていない。
性愛の教典として出て来たはずのカーマ・スートラだが、単なるセックス教則本になっている。しかも、そのカーマ・スートラの教えが劇中でほとんど役に立っていない。
マヤがラジャを虜にするのも、ジャイと惹かれ合うのも、カーマ・スートラとは全く無関係だ。

肝心のカーマ・スートラの扱いさえ半端な状態の今作品は、いったい何が表現したかったのか、サッパリ分からない。エロが目当ての男性に対する訴求力も、官能劇が目当ての女性達に対する訴求力も、どちらも物足りない作品に仕上がってしまった。

マヤは「運命を自分で切り開きたい」と言うが、強い独立心を持つ女というより、妬みで心が歪んだ女にしか見えない。
で、彼女の行動や言動が意味不明。良い意味で掴みどころが無いのではなく、ただデタラメなだけで、同調や理解を拒絶している。
とにかくマヤというヒロインは、コロコロと態度を変える。
「ジャイに身も心を捧げたい」と言っておきながら、すぐ後には「学んだカーマ・スートラの教えを、ジャイがダメなら他の男で試したい」と言う。
前述のように「運命を自分で切り開きたい」と言いながら、当たり前のように国王の妾になる。
“矛盾”という言葉は、彼女の辞書には無いらしい。

で、王宮に入ったマヤはタラを見下すような態度を取るのだが、後で「どうして憎しみ合うようになったの」と言い出したりする。
で、自分から妾になっておいて、「自由になりたい」とか言い出す始末。
いったい彼女は、どうしたいのやら。
そんで、この2人が取り合ってるラジャって奴がどれだけイイ男かと思えば、単なるダメ男なんだよなあ。

結局、ほとんど関わりを示すことの無かったカーマ・スートラだが、形としては「セックス教本であり、復讐の道具として使われ、災いをもたらした」ということになっている。
で、最終的にはジャイが処刑され、マヤが画面の向こうに消えつつ、「私の心は解放された」と言ってオシマイ。
なんじゃ、そりゃ。
アンタの心は理解不能だよ。

 

*ポンコツ映画愛護協会