『恋するベーカリー』:2009、アメリカ
サンタ・バーバラで暮らすジェーン・アドラーは結婚30周年を迎えたサリーとテッドのパーティーに出席し、元夫のジェイクを含めた4人で楽しく会話を交わした。ジェーンとジェイクは10年前、結婚20年で離婚している。ジェイクはアグネスという若い女性と再婚し、連れ子のペドロと3人で暮らしている。一方のジェーンは再婚しておらず、女手一つで長女のローレン、次女のギャビー、長男のルークを育てた。ルークは大学の卒業式が2日後で、ニューヨークで家族全員が揃うことになっている。ジェイクと話したジェーンは、どちらも宿泊先がパーク・リージェントだと知った。
ジェーンが帰宅すると、ローレンと婚約者のハーレイがギャビーの出発準備を手伝っていた。明日が出発だと思っていたジェーンが驚くと、ギャビーは「アパートに友達が集まってるの」と述べた。ジェーンはローレンから「1人で寂しくない?」と問われて「まさか、そんなことは無いわ。子供は出て行くものよ」と笑顔で答えるが、本当は寂しかった。ギャビーが車で出発した後、ローレンとハーレイも去った。ジェーンは家に入り、1人ぼっちになったことを感じた。
ジェーンが経営するベーカリーで働いていると、増築を頼んだ建築家のピーターが来て相棒のアダム・シェーファーを紹介した。ジェーンが増築を考えてから、10年が経っていた。設計図を見せられたジェーンが気に入った箇所は、全てアダムのアイデアだった。ジェーンはアダムに、「洗面台のシンクに夫婦用は要らない」と要望を出した。次の打ち合わせについてアダムから問われた彼女は、火曜日に自宅で行うことを告げた。
ジェーンは表向きは歯医者へ行くと称し、美容整形外科医のモスを訪ねた。「左の瞼が垂れているので何とかしたい」と彼女は告げるが、モスから睫毛リフト手術の方法について説明されると不安になった。エレベーターに乗ったジェーンはジェイクとアグネスに遭遇し、2人が不妊治療センターに行っていたことを知った。夜、彼女は親友のジョアン、トリーシャ、ダイアンを招いて会食した。ジョアンたちはジェイクとアグネスについて、陰口を叩いた。ジェイクはアグネスと浮気し、ジェーンと離婚した。アグネスは半年後に他の男に走ってペドロを妊娠し、またジェイクとヨリを戻したのだった。
次の日、ジェーンはニューヨークでローレン、ギャビー、ハーレイと会い、ルークも合流した。パーク・リージェントのスタンダード・ダブルにチェックインした彼女は、ジェイクたちがスーペリア・スイートに宿泊することを知った。ジェーンは子供たちと夕食を取る予定で予約を取っていたが、ルークは申し訳なさそうに「今夜はアパートでパーティーだ。姉貴たちも手伝いに」と話す。「大学生活で最後の夜だから」と言われ、ジェーンは受け入れた。
ジェーンはバーでジェイクと遭遇し、「ペドロがお腹を壊して、今夜は1人だ」と言われる。2人は酒を飲んで踊り、部屋でセックスした。ジェーンが「馬鹿な男女が過ちを犯した」と後悔すると、ジェイクは「そんなことない。素晴らしくホットだった」と告げた。次の日、ジェーンたちはルークの卒業式に出席し、レストランに移動した。ジェイクはテーブルの下で、ジェーンの足に触れた。彼はジェーンが子供たちを立派に育てたことを称賛し、家族で乾杯した。ギャビーが「元の家族で集まれて幸せ」と言うと、ルークも同調した。
火曜日、車を運転していたアダムはジェーンを目撃し、声を掛けた。彼が2年前に離婚して未だに傷が癒えないことを明かすと、ジェーンは「あと2年もしたら平気になるわ」と述べた。ジェーンは車に乗せてもらい、自宅に戻ってアダムと打ち合わせをする。住んで何年かと問われたジェーンは、「10年よ。離婚してすぐに買ったんだけど、増築を実行に移すまでに10年掛かった」と話す。そこにジェイクが来ると、アダムは「次回は杭とロープを使って実際の広さを見よう」とジェーンに告げて立ち去った。
ジェーンはジェイクから「なぜ僕の連絡を無視する?」と言われ、「勘違いしないで。あんなこと二度とすべきじゃないわ。貴方は浮気男、私は不道徳な女。夜も眠れない」と語る。しかし口の立つ弁護士であるジェイクが「運命が再び僕らを結び付けた。あの夜の悦びは否定できないはず。身を任せてみないか」などと語ると、ジェーンは再び彼とセックスした。ジェイクは彼女に、「離婚した夫婦も、10年後にヨリを戻せば上手く行くよ」と述べた。
ジェーンは親友たちに「最近はエネルギーに満ちてるの。セックスしてるせいね」と言い、ジェイクと会っていることを楽しそうに話した。また打ち合わせの約束を忘れた彼女はアダムから電話を受け、慌てて家に戻った。ジェーンはアダムから増築のイメージについて説明を受け、ジェイクから携帯に着信が入ると無視した。気になったジェイクは、ジェーンの家へ向かった。ジェーンはクロックムッシュを作り、アダムと一緒に夕食を取った。2人が楽しく話す様子を、ジェイクは家の外から観察した。
ジェーンはアダムに、なぜ離婚したのかと尋ねた。アダムは妻が自分の親友と浮気したことを語り、「2人は再婚、僕は今も立ち直ってない」と口にした。アダムが去った後、ジェイクはジェーンの家へ赴いた。「君がいなくちゃ僕はダメなんだよ」と彼が言うと、ジェーンは笑顔で受け入れた。アグネスとの関係を問われたジェイクは、「僕の再婚は思ったほど幸せじゃない。最初、アグネスは心から僕を尊敬し、喧嘩もしなかった。でも最近は子供の進学がどうだ、大きな家やメイドが必要だと。仕事を減らしたいのに、とてもじゃない。彼女はもう一人、子供をと言うが、喧嘩ばかりでは」と不満を吐露した。
ジェーンが「若妻が子供を欲しがるのは当然よ」と言うと、ジェイクは「彼女は一日おきに不妊治療センターに通って、ホルモン注射で異常に興奮する。今に悪魔祓いが必要になる」と愚痴った。彼は持参したマリファナを見せ、かつて一緒に吸った時のことを口にした。彼は最後に吸ったのが27年前だとジェーンに言われ、「置いて行くよ。今度、一緒に吸おう」と告げた。彼はアダムについて、「あのダサい男は君のことが好きだ。ずっと君を見ていた」と語った。
次の日、ジェーンはサンダバーバラ・メディカル・ビルへ出掛け、8年前から通っている精神科医のアレン医師にジェイクとの関係を相談する。「止めるべきか、続けてもいいか、どっちか決めて」と彼女は話し、「心のままに」というアレンの助言に喜んだ。彼女はジェイクに電話を掛け、五番街のホテルでランチを取ろうと誘った。ハーレイとローレンはウェディング・プランナーと打ち合わせをするため、五番街のホテルのロビーに来ていた。ハーレイは部屋の鍵を受け取るジェイクを目撃し、ローレンに気付かれないように誤魔化した。直後にジェーンが来てエレベーターでジェイクとキスをしたので、ハーレイは驚いた。
しばらくすると医師が来てジェイクとジェーンの部屋へ向かったので、ハーレイは動揺した。セックス後にジェイクが眩暈を起こしたため、ジェーンが医師を呼んだのだ。医師はジェイクを診察し、「前立腺の薬のせいでしょう。しばらくは飲まない方がいい」と告げた。医師が戻って来てフロント係に合図を送る様子を見て、ハーレイは「これで打ち合わせに戻れる」と安堵した。ジェーンはジェイクに、「今だから言うけど、私たちの離婚は貴方だけのせいじゃない。たぶん私は、夫婦の関係を諦めたのね」と語った。
ジェーンはアダムから電話を受け、明日のフランス映画祭に誘われた。ジェイクが「断れよ。アグネスは留守だ。君の家に行ける」と言うと、彼女は理由を付けてアダムの誘いを断った。翌日、ジェーンはジェイクの好きな料理を用意し、彼の来訪を待った。しかしアグネスが外出を取り止めたため、ジェイクは外出できなくなった。彼はジェーンに電話を掛けようとするが、アグネスに怪しまれたので断念した。ジィエクがペドロを寝かし付けると、掴んだ腕を離してくれなかった。
次の日、ジェーンの家に子供たちが集まり、会食することになった。ジェイクがルークを車で送り届けると、ジェーンは当て付けるように「明日のパーティーにアダムを連れて行く」と語った。ジェイクはジェーンを外に連れ出し、昨日の件で弁明した。するとジェーンは、「責めてるわけじゃないの。ただ、踏ん切りが付いた。貴方の愛人になるつもりは無い。やっぱり間違った方向に進もうとしてた」と話す。ハーレイはジェーンと2人になり、ホテルで目撃した出来事を伝えた。次の夜、ジェーンは迎えに来たアダムの車でパーティー会場に向かい、マリファナを吸ったことを明かす。彼女はパーティー会場に着いてからも、アダムと一緒にマリファナを吸った…。脚本&監督はナンシー・マイヤーズ、製作はナンシー・マイヤーズ&スコット・ルーディン、製作総指揮はイロナ・ハーツバーグ&スザンヌ・ファーウェル、撮影はジョン・トール、美術はジョン・ハットマン、編集はジョー・ハッシング&デヴィッド・モリッツ、衣装はソニア・グランデ、音楽はハンス・ジマー&ヘイター・ペレイラ、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はメリル・ストリープ、スティーヴ・マーティン、アレック・ボールドウィン、ジョン・クラシンスキー、レイク・ベル、メアリー・ケイ・プレース、リタ・ウィルソン、アレクサンドラ・ウェントワース、ハンター・パリッシュ、ゾーイ・カザン、ケイトリン・フィッツジェラルド、ノーラ・ダン、ブルース・アルトマン、ロバート・カーティス・ブラウン、エムジェイ・アンソニー、ジェームズ・パトリック・スチュアート、ピーター・マッケンジー、パット・フィン、ヘイター・ペレイラ、ラミン・ジャワディー、ライランド・アリソン、ショーン・ハムリン他。
『恋愛適齢期』『ホリデイ』のナンシー・マイヤーズが脚本&監督を務めた作品。
ソフト化の際は『恋するベーカリー 〜別れた夫と恋愛する場合〜』という邦題に変更された。
ジェーンをメリル・ストリープ、アダムをスティーヴ・マーティン、ジェイクをアレック・
ボールドウィン、ハーレイをジョン・クラシンスキー、アグネスをレイク・ベル、ジョアンをメアリー・ケイ・プレース、トリーシャをリタ・ウィルソン、ダイアンをアレクサンドラ・ウェントワース、ルークをハンター・パリッシュ、ギャビーをゾーイ・カザン、ローレンをケイトリン・フィッツジェラルドが演じている。ジェーンは冒頭の結婚記念後のパーティーで、ジェイクと楽しそうに話している。それは「友人夫婦の前だから芝居をしている」というわけではなく、本当の笑顔で話している。ところがアグネスが来た途端、それは作り笑顔に変わる。
この様子を見る限り、彼女は離婚から10年が経過しても全く吹っ切れていない。
ここの描写が無ければ、ジェイクとセックスしてヨリを戻そうとするのは「子供たちが家を出て1人ぼっちになり、寂しさを感じている心の隙間にジェイクが入り込んだ」という形になる。
でも冒頭の描写があることによって、そうとは言い切れなくなる。どちらにしても、ジェイクがジェーンとセックスしてヨリを戻そうとするのは、決して「誠実な本物の愛」ではない。ジェーンへの愛を取り戻したとか、最近になってジェーンの素晴らしさに気付いたとか、そういうことでもない。
彼はプレイボーイであり、たまたま浮気心が近くにいジェーンに向けられただけだ。
なので、そのままジェーンがヨリを戻したとしても、そのまま平穏な関係が長く続くとこは無いだろう。
またジェイクは、何かのタイミングで他の女性に目を向けるだろう。ジェイクが「運命が再び僕らを結び付けた」などと語った時、ジェーンは「忘れてたわ、貴方が口の立つ弁護士だってこと」と言う。相手が口八丁ってことは充分に理解しているはずだが、それでも甘言に乗せられてセックスし、その後も不倫を続ける。
彼女はポジティヴで楽しく暮らすようになるのだが、バカな女にしか見えないんだよね。
結婚詐欺師みたいな男の口車に、簡単に乗せられてるなと。
ジェイクが分かりやすいプレイボーイなのもあって、彼との交際でジェーンの人生が充実しても、それを応援する気にならないのよ。五番街のホテルのシーンは、ちょっと意味が分からない。ジェイクが部屋の鍵を受け取っただけでハーレイが焦るのは、ちょっと早計じゃないかと。
その後、ジェーンとジェイクのキスに驚くのは分かるけど、医師を見ても同じく「ローレンに気付かれないように」と焦っているのは意味が分からん。「ジェーンかジェイク、どちらかが緊急事態」ってことならともかく、医師は落ち着いた様子で部屋に向かっているわけだし。
だから医師が戻って来てハーレイが安堵するのも、ちょっと意味が分かりにくくなっている。
っていうか、医師が来る手順って全く要らないだろ。それが無ければ「アタフタしていたハーレイが安堵する」という区切りは付けられなくなるけど、そんな区切りが無くても別に問題は無いし。もっと根本的な問題に触れると、そこで急にハーレイをフィーチャーするパートを挿入する構成自体が、いびつじゃないかと感じるのよね。
そんなギャグ・パートを用意するぐらいなら、いっそのこと「ハーレイが婚約者の両親のことで振り回される」という物語にした方がいいんじゃないかと感じるし。
その後にも「ハーレイがジェーンに目撃した内容を語る」など、しばらくホテルでの出来事を引っ張るけど、そのエピソードもハーレイというキャラも上手く扱えていないし。アダムが登場した時点で、ジェーンとの間に恋愛模様を作ろうとしていることは簡単に予想が付くだろう。しかし三角関係の一辺を担うキャラクターとしては、あまりにも弱すぎる。
まずジェーンの焼け木杭に火が付いた時点では、アダムは「増築を頼んだ友人の知人」に過ぎない。ジェーンがジェイクと再びセックスは、完全に「彼との情事を楽しもう」というモードに突入した後も、アダムとの関係性は全く変わっていない。
なので、「ジェーンがジェイクとアダムの間で揺れ動く」なんてことは皆無だ。
むしろ、何の恋心も無いはずなのに、夕食を用意して自宅で一緒に食べる行動が不自然に思えるほどだ。ジェーンはジェイクとの情事について親友たちに楽しそうな様子て話し、精神科医の助言で完全に前向きな態度になっていたはずだ。
だが、あれだけ燃え上がっていたのに、たった一日のドタキャンで一気に「やっぱり間違ってた」と関係を断とうとするのは、ものすごく極端だなと。
で、ここでアダムをパーティーに誘うので、ただの当て馬でしかないんだよね。ジェーンが本気で恋心を抱く相手からは、完全に外れている。
ジェーンにとっての恋愛は「ジェイクとヨリを戻すか、それとも関係を終わらせるか」という二択であり、「ジェイクにするか、それともアダムを選ぶか」という二択ではないのだ。実質的に、三角関係は全く成立していないのだ。パーティーからの流れで一気にジェーンとアダムの距離を詰めようとしているけど、それも無理がある。
ジェーンがジェイクへの面当てでアダムに近付いているようにしか見えない。
そのために必要なルートを全く通過していないため、アダムと交際することを匂わせてる結末も、ハード・ランディングにしか感じられない。
軽薄なナンパ男でしかなかったはずのジェイクを、最終的に「本気でジェーンを愛した真っ直ぐな男」として好意的に描いているのも、甚だ疑問だし。ジェイクがジェーンとヨリを戻す考えを明かした時、子供たちは露骨に不快感を示して大反対する。
この反応は、ちょっと良く分からない。元の家族で集まったことを喜んでいたけど、「それはそれ」ってことなのか。
で、その後でジェーンが「ヨリは戻さない」と宣言するが、これだと「ジェーンは子供たちのことを考えて決断した」という風にしか見えないのよね。自分の意志で決めたようには見えないので、ちよっと引っ掛かるぞ。
そんでジェーンの宣言を受けて子供たちは大喜びして抱き合うが、これをハッピーエンドとして描いているのは「なんか違う気がする」と言いたくなるぞ。(観賞日:2024年8月20日)