『奇跡の旅2/サンフランシスコの大冒険』:1996、アメリカ

アメリカン・ブルドッグのチャンスがサンフランシスコで暮らし始めて、2年が経過した。ボブ・シーヴァーと妻のローラ、ピーター&ホープ&ジェイミーという3人の子供たちはチャンスの他に、ヒマラヤンのサシーとゴールデン・レトリバーのシャドウを飼っている。2年前の冒険を経て、チャンスは「ジェイミーは僕が守る」という強い使命感を抱くようになった。しかし最近のジェイミーは、チャンスに冷たくすることが増えていた。サシーは「収容所へ送り返されるのよ」と、チャンスをからかった。
その日、一家はカナダへキャンプに行くため、支度を整えていた。ジェイミーは遊びに行きたがるチャンスに残るよう指示し、野球の練習に赴いた。チャンスが勝手にグラウンドヘ行くと、スパーキー、ラッキー、トリクシーという犬たちが実況と解説をやっていた。チャンスがボールを奪って走り回ったので、ジェイミーが注意した。1人の女子が「犬なんて連れて来ないでよ」と怒鳴ったので、チャンスは彼女のグローブを奪って走り回った。
ジェイミーはチャンスに苛立ちを覚えつつ、出発の時間に合わせて家に戻った。彼は「どうしてキャンプに行かなきゃならないの?大事な試合に2つも出られない」と不満を吐露した。空港で檻に入れられたチャンスは、収容所へ送られると誤解してパニックに陥った。彼が檻を抜けて走り出したので、サシーとシャドウは慌てて後を追った。チャンスはジェイミーの元へ戻ろうとするが、一家は飛行機に登場した後だった。職員たちに追われた3匹は、空港から脱出した。
シャドウは「歩いて家へ帰ろう」と告げ、チャンスとサシーも同行した。町に入った3匹は、ダンボールに入って野宿した。カナダの空港に到着したボブたちは、3匹が逃げ出したという連絡を受けた。ピーターとホープが「みんなで捜しに戻ろう」と言うので、一家は翌日の飛行機でサンフランシスコへ戻ることにした。翌朝、チャンスたちが空腹を覚えて歩いていると、タッカーという男児が子猫のタイガーを玄関先で可愛がっていた。サシーは彼に歩み寄り、餌を貰おうと目論む。しかしチャンスがサシーの真似をして近付くとタッカーは怖がり、母親が出て来て2匹を追い払った。
チャンスたちが歩いていると、野良犬のアシュカンとピートに絡まれた。そこへライリーの率いる野良犬グループが駆け付け、アシュカンとピートを追い払った。チャンスは「囮になる」と言って走り出していたため、ライリーたちに救われたことを知らなかった。ライリーは仲間のデライラに、彼を見つけて連れ戻すよう指示した。ライリーのグループには他に、バンドー、スパイク、スレッジ、ストーキーという犬たちがいた。赤い車を発見したライリーたちは、慌てて身を隠した。その車には、ドッグ・ハンターのラルフとジャックが乗っていた。シャドウの質問を受けたライリーは、「奴らは犬を見境無しに捕まえる。危機は実験場だろう」と説明した。
シャドウから大きな橋の場所を問われたライリーは、「知ってるが、そこは人間が大勢いる。人間に近付くと危険だ」と案内を拒否した。そこでシャドウとサシーはライリーたちと別れ、橋を探しに行く。一方、デライラはチャンスを捕まえ、事情を説明した。チャンスは彼女に好意を抱き、町案内を依頼した。デライラは公園へ連れて行き、「こんな場所に住むのが夢」と口にした。いつも自然の多い場所で生活しているチャンスには、まるで理解できなかった。
チャンスが公園で遊んでいる人々に興味を抱くと、デライラは「人間を信用してはいけない」と警告した。彼女は「ライリーも子供の頃は、人間を信用していた。でも引き取られた一家の子供に気に入られず、引っ越しの時に捨てられた」と話す。デライラ自身は産まれた時から野良犬で、人間に飼われた経験が無かった。ジャックは火の付いた煙草をポイ捨てし、タッカーの家が火事になった。通り掛かったシャドウとサシーは、タッカーが逃げ遅れて取り残されていることを知った。シャドウは家に突入し、タッカーを引っ張り出した。サシーも中に入り、タイガーを連れて戻った。
シャドウとサシーの様子を見ていたライリーは、住処にしている倉庫へ案内して「好きなだけ泊まっていってくれ」と告げた。一行が中に入ると、チャンスとデライラがいた。「随分と捜したんだぞ」とシャドウが言うと、チャンスは何食わぬ顔で「ここにいたよ」と述べた。デライラがチャンスとカップルになったことを知ったライリーは、「何を考えてる?相手はペットだぞ」と責めるように告げた。デライラは「何を言っても無駄なようね。行きましょう」と述べ、チャンスを連れて外へ出た。
シャドウはライリーから「これは問題だぞ」と言われ、「ああ」と同意した。デライラから「明日も一緒に楽しみましょう」と言われたチャンスは、ジェィミーのことを気にする。しかしデライラから愛を告げられたチャンスは、自分も同じ気持ちだと述べた。シャドウはデライラに、「チャンスは都会で生き延びられない。冷たく突き放してくれ」と頼んだ。ドッグ・ハンターの車が来たので、彼らは急いで身を隠した。しかしチャンスだけは呑気に餌を漁り、チーズバーガーに釣られて捕まってしまった…。

監督はデヴィッド・R・エリス、キャラクター創作はシーラ・バーンフォード、脚本はクリス・ホーティー&ジュリー・ヒックソン、製作はバリー・ジョッセン、共同製作はジェームズ・ペンティコスト&ジャスティス・グリーン、製作協力はジーナ・デスクロス&エンジェル・パイン、撮影はジャック・コンロイ、美術はマイケル・ボルトン、編集はピーター・E・バーガー&マイケル・A・スティーヴンソン、衣装はステファニー・ノリン、音楽はブルース・ブロートン。
出演はロバート・ヘイズ、キム・グライスト、ヴェロニカ・ローレン、ケヴィン・チェヴァリア、ベンジ・タール、マックス・パーリック、マイケル・リスポリ、キーガン・マッキントッシュ、サンドラ・フェレンズ、アンドリュー・エアリー、クリスティーナ・ルイス、エイドリアン・カーター、アーニー・プレンティス、ロスガー・マシューズ、ゲイリー・ジョーンズ、ジェフ・シヴァース他。
声の出演はマイケル・J・フォックス、サリー・フィールド、ラルフ・ウェイト、カーラ・グギーノ、シンバッド、スティーヴン・トボロウスキー、ロス・マリンジャー、ティシャ・キャンベル、マイケル・ベル、ジョン・ポリト、アダム・ゴールドバーグ、アル・マイケルズ、トミー・ラソーダ、ボブ・ウェッカー、トレス・マクニール他。


1993年に公開された『奇跡の旅』の続編。『奇跡の旅2/エアポート大脱出』というタイトルでテレビ放送されたこともある。
スタント・コーディネーターとして活動していたデヴィッド・R・エリスが、初監督を務めている。
脚本担当者の内、クリス・ホーティーは本作品がデビュー。ジュリー・ヒックソンはティム・バートンのTVドラマ『Hansel and Gretel』に続く2作目。
ボブ役のロバート・ヘイズ、ローラ役のキム・グライスト、ホープ役のヴェロニカ・ローレン、ジェイミー役のケヴィン・チェヴァリア、ピーター役のベンジ・タールは、前作からの続投。
他に、ラルフをマックス・パーリック、ジャックをマイケル・リスポリが演じている。

声優陣は、チャンス役のマイケル・J・フォックス、サシー役のサリー・フィールドが前作からの続投。
1作目でシャドウの声を担当していたドン・アメチーが1993年に死去したため、ラルフ・ウェイトが後任を務めている。
他に、デライラをカーラ・グギーノ、ライリーをシンバッド、バンドーをスティーヴン・トボロウスキー、スパイクをロス・マリンジャーが担当している。
また、スパーキーをスポーツ実況アナウンサーのアル・マイケルズ、ラッキーを元ロサンゼルス・ドジャース監督のトミー・ラソーダ、トリクシーをスポーツ実況アナウンサーのボブ・ウェッカーが担当している。

『奇跡の旅』の続編を作ろうとするなら、「3匹が一家と離れて旅をする」という部分は絶対に踏襲する必要がある。
そこを使わなければ、続編の意味が無い(そもそも続編を作ろうってのが間違いなんだけど、それはひとまず置いておくとして)。
ただし、前作で一家は3匹を一時的に手放したことを後悔しており、だから今度も「一家が3匹を誰かに預けて」などという形は使いにくい。それは前作の物語を台無しにしてしまう。
それでも、「何らかのアクシデントによって3匹が一家と離れてしまう」とか、「悪党によって3匹が連れ去られる」とか、「3匹が一家と離れ、戻るために旅をする」という展開を作るための方法は色々と考えられる。

だが、この映画が採用した方法は、「それはダメだわ」という感想しか抱かせないモノだ。ぶっちゃけ、そこまで豊富なアイデアがあるわけじゃないけど、それでも考え付く方法の中では最悪に近いんじゃないかとさえ思うぐらいだ。
この映画が採用したのは、「チャンスが収容所へ連れて行かれると誤解して空港から逃げ出す」というアイデアだ。
そこまでにサシーが「収容所へ連れ戻されるのよ」と脅かしたり、ジェイミーがチャンスに冷たく接したりしているので、一応の伏線は張ってある。
しかし、「チャンスの愚かしい行動が原因でトラブルが発生する」ってのは、賛同しかねる。そこは「自業自得」ってことじゃなくて、外部に責任を求めた方がいい。

前作のチャンスも慌て者でバカだったけど、決して好感度を下げるような要素にはなっていなかった。
だけど今回のチャンスは、「テメエのせいでトラブルが起きてるじゃねえか」と言いたくなる奴になっちゃってるのよ。
空港から逃げ出したのもそうだけど、ラルフたちが来た時に自分だけ隠れずにエサを漁り、チーズバーガーに釣られて捕まってしまう。
シャドウやライリーたちが車の前に立ちはだかって助けてくれるけど、デライラは前脚に怪我を負ってしまう。幸いにも軽傷だったけど、そこも迷惑を掛けているわけで。
それなのに、チャンスは最後まで「自分が迷惑を掛けている」という自覚が全く無いままで、だから精神的成長も皆無なのよね。

前作では存在意義が乏しかったジェイミーだが、今回は導入部で「チャンスに冷たくしている」「野球がしたいのでキャンプ行きに不満を吐露する」という自己主張を見せている。
ナレーションを担当するのがチャンスで、そのパートナーがジェイミーなので、家族の中でも彼を重視するってのは賢明な判断だ。
ただし、前作と全く印象が違うのは「年齢が上がって変化した」ってことなんだろうけど、「飼い犬に冷たい」「反抗的な態度を取る」といった設定は、いかがなものかと。あまり上手く行っているとは言い難い。
むしろ、導入部における印象が悪くなるというデメリットの部分が、かなり大きくなっている。

最初に「ジェイミーがチャンスに冷たく接している」ってのを見せておいて、「チャンスの失踪を受けてジェイミーが後悔し、彼への態度を変化させる」という展開へ持って行きたいんだろうってのは分かるのよ。
ただ、どうせ前作で「ジェイミーとチャンスの絆」なんてのは全く描写できていなかったのよ。
だから、ジェイミーは普通にチャンスを可愛がっている設定で良かったんじゃないかと。
そこから話を始めて、「ジェイミーとチャンスの絆」を描いても、まるで問題は無いよ。

どうせ、前述した「チャンスの失踪でジェイミーが後悔して云々」という部分のドラマも、まるで膨らまないのよね。
3匹が逃亡したという連絡を受けた時、ピーターとホープは「みんなで捜しに戻ろう」と主張するけど、ジェイミーの反応は全く描かれない。
そこは上の2人よりも、むしろジェイミーの反応こそが何よりも大事なはずでしょ。「捜しに戻ろう」と主張しなくてもいいけど、「自分が冷たくしたせいだ」と責任を感じるとか、何かしらのリアクションを示すべきだよ。
そこが無反応だと、「チャンスに冷たくしていた」という描写が前フリとして死んでしまう。

チャンスは檻から逃げ出した時、すぐにジェイミーの元へ戻ろうとする。しかし都会に入ると、「急いで帰っても、ジェイミーに冷たくされるだけだ。それよりも今を楽しもうと思った」というナレーションを語る。
強がりが入っているのかと思ったら、ホントに「一刻も早くジェイミーの所へ帰りたい」という気持ちを全く見せないのよね。
オープニングで「ジェイミーを守るのが自分の役目」と使命感を口にしていたのに、もう忘れちゃったのかよ。そこは「ジェイミーを守るため、一刻も早く戻らねば」と思わせるべきでしょ。
そういう意味でも「ジェイミーが冷たく接する」ってのは邪魔だし、なんか色々と失敗しているなあ。

チャンスが囮になって走り去ったままなのに、シャドウとサシーは「大きな橋を探しに行く」ってことでライリーたちと別れる。
チャンスは放っておいていいのかと思っていたら、シャドウたちはライリーと再会して倉庫へ案内され、そこで「チャンスを見つけるまでは町を出られない」と言い出す。
だったら、とりあえずはデライラがチャンスを連れ帰るまで待つべきだったんじゃねえのか。たまたまライリーと再会して倉庫へ案内されているけど、そうじゃなかったら大変だっただろ。
ただしチャンスの方も、すぐにシャドウたちの元へ戻ろうとせずにデライラとデートを楽しんでいるわけで、バラバラじゃねえか。

前作では山岳地帯を冒険したので、今回の舞台を都会にするってのは悪くない考え方だ。
っていうか、まあベタに考えれば、すぐに思い付くアイデアだ。
ただし、そこからが大いに問題なのだ。
今回は「野良犬たちと出会う」「チャンスがデライラと恋をする」「ドッグ・ハンターに狙われる」という要素を持ち込んでいるのだが、これによって何が起きるのかというと、「もはやアドベンチャー映画でも何でもなくなってしまう」ってことだ。

何しろチャンスたちは町に到着した後、そこから全く移動しない。
チャンスに至っては、そもそもジェイミーたちの元へ戻ろうという意識さえ抱いていない。すっかりデライラに入れ込んでしまい、その町で楽しんでいる。たまにジェイミーのことは口にしているが、明らかにデライラへの意識が強くなっている。
前作は何日にも及ぶ冒険だったが、今回は一日だけの物語だ。町を出たところで、ほぼ旅は終わる。
前作はシャドウが「一刻も早く一家の元へ戻る」という目的で行動し、そこにチャンスとサシーも同行していた。しかし今回は、行動目的がボンヤリしている。話の焦点が定まらず、フワフワしている。

チャンスはデライラに惚れたことで、ジェイミーの元へ戻りたいという意識が薄弱になる。
一方のジェイミーも、「この頃、チャンスに意地悪ばかりしてた」と漏らすシーンはあるが、チャンスへの思いをアピールする部分は弱い。
本来なら、「チャンスがジェイミーの元へ戻ってハッピーエンド」という着地になるべきなのに、そこへ向けての道筋を全く辿ろうとしない。
それどころか、「チャンスはデライラと離れることを寂しく感じている」という状態のまま、一家と再会してしまう。

チャンスは「ジェイミーや一家の元へ戻りたい」というモチベーションを全く持っておらず、離れ離れになった後は「デライラが好きで、一緒にいたい」という感情ばかりが強くなっている。
終盤になって一家の元へ戻っても、それを全く喜んでいない。
だからジェイミーが「最近は冷たくしていたけど、チャンスが行方不明になったことで反省する」という気持ちを示しても、それは一方通行な思いになってしまう。
チャンスとデライラの恋愛劇を持ち込んだことで、全てが上手く回らなくなっているのよ。

(観賞日:2016年2月23日)


第19回スティンカーズ最悪映画賞(1996年)

ノミネート:【誰も要求していなかった続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会