『銀河ヒッチハイク・ガイド』:2005、イギリス&アメリカ

地球人のアーサー・デントが目を覚まして紅茶を飲もうとすると、外では工事が始まっていた。それはバイパスを建設するための工事で、アーサーの家は立ち退き区域に入っていたのだ。アーサーはブルドーザーの前に寝そべって抗議するが、現場監督は「とっくに申し立ては出来たはずだ。計画書は1年前から役所に掲示されていた」と言う。そこへ友人のフォード・プリーフェクトが来て、アーサーに「大切な話があるんだ」と言う。アーサーは知らなかったが、フォードは異星人だった。
アーサーが「家を壊されるんだ」と告げると、フォードは「もう知ってるのか」と口にする。しかしフォードは工事の作業員たちを見て、「この連中のことを言ってるのか」と理解した。フォードは作業員たちにビールを提供し、アーサーをパブに連れて行く。彼はアーサーに「世界が終わる。残り時間は10分」と言い、自分が異星人だと明かす。初めてフォードがアーサーと会ったのは、向こうから走って来る車に握手を求めていた時だった。アーサーはフォードが酔っ払っていると思い込み、慌てて助けた。
アーサーは恋人のトリシアから電話が掛かって来ると、フォードに「彼女とは仮装パーティーで知り合った」と言う。アーサーはデート中にトリシアからマダガスカルに行こうと誘われた時、本気だと知って困惑した。アーサーが「最初は近い場所で様子を見ないか」と提案していると、ゼイフォード・ビーブルブロックスという男ががトリシアに「そいつ、つまらないだろ」と声を掛けた。彼が「他の惑星から来た。宇宙船を見たくないか?」と話すと、トリシアは興味を示した。
アーサーの話を聞いていたフォードは時間を確認し、「あと2分しか無い」と焦った。アーサーがパブを飛び出して家に戻ると、既に解体されていた。そこへ巨大宇宙船が飛来したので、作業員たちは逃げ出した。アーサーが驚いていると、フォードが駆け付けて「ヴォゴン人の建設船団の宇宙船だ。今朝、信号を探知した。彼は「拾ってもらわなきゃ」と言い、信号を送った。銀河系超空間開発審議会のヴォゴン・ジェルツ大尉は地球人に対し、「開発計画に基づいて超空間高速ルートを建設するので惑星は取り壊される予定です」と話し掛けた。企画書は50年前からケンタウルス座アルファ星の事務所に掲示されており、地方行政に関心を持たなかったのが悪いのだと彼は告げた。フォードはアーサーを抱えて宇宙船に拾ってもらい、崩壊する地球から脱出した。
フォードはアーサーに、自分が執筆した電子本『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読ませた。彼は「地球は破壊された。君を救って、借りは返した。銀河は厳しい。生き延びたければ、これを無くすな」と語り、アーサーにタオルを渡す。フォードは「見つかる前に船を降りる。ヴォゴン人はヒッチハイクが嫌いだ」と述べ、ヴォゴン人について『銀河ヒッチハイク・ガイド』で調べるよう促した。ガイド本によれば、「ヴォゴン人は宇宙で最も不快な種族で、邪悪ではないが冷酷だ」と記されていた。
フォードはバベル魚をアーサーの耳に入れ、あらゆる言語が理解できるようにした。フォードとアーサーは監視カメラで発見され、審問官の元へ連行された。審問官が詩の朗読を始めるとフォードは苦悶するが、アーサーは困惑するだけだった。アーサーが詩を褒めて機嫌を取ろうとすると、審問官は宇宙空間へ放り出すよう命じた。フォードとアーサーは船外へ放出されるが、球形の白い宇宙船「黄金の心」号に救出された。それは銀河帝国大統領のゼイフォードが式典の最中に、盗み出した物だった。
ゼイフォードは最も知性に欠ける人物として有名だが、選挙でハーマ・カヴーラを破って大統領に就任していた。ゼイフォードが自分のニュースを見て楽しんでいると、宇宙船に同乗しているトリシアが「重要なことが起きてる。コンピュータがヒッチハイカーを拾った」と知らせる。ゼイフォードはトリシアのことを、トリリアンと呼んでいた。トリリアンはロボットのマーヴィンを呼び、密航者をブリッジに連れて来るよう指示した。
ヴォグスフィア星のヴォゴン本部にいるクウォルツ司令官は、ジェルツからゼイフォードと「黄金の心」号を発見したという連絡を受けた。クウォルツは超空間出動許可を出し、銀河系副大統領のケストゥラー・ロントックに報告した。マーヴィンはフォードとアーサーを発見し、ブリッジまで案内した。フォードはゼイフォードの親族で、再会を喜び合った。アーサーがトリリアンと話していると、ゼイフォードが邪魔をした。そこへジェルツの宇宙船が襲来し、ケストゥラーからメッセージが届いた。ケストゥラーは船を明け渡さないと作戦行動に出ると通告し、ゼイフォードに戻って来るよう呼び掛けた。
ゼイフォードはケストゥラーの言葉を無視し、超空間通行で逃亡した。彼は2つの頭を持っており、フォードに「1つじゃ大統領は無理だから2つに分けた」と説明した。ゼイフォードは「今から見せる物を見て大統領になると決心した」とフォードに言い、マグラシア星のアーカイブ映像を見せた。遥か遠い昔、高次元生物は生命の意味について討論することに飽きた。彼らは2人の賢人に依頼し、スーパーコンピュータを設計させた。ディープ・ソウトと名付けられたスーパーコンピュータに対し、賢人たちは全ての疑問に対する簡潔な答えを求めた。するとディープ・ソウトは、この場へ750万年後に戻って来るよう指示した。
指示に従った賢人たちが改めて答えを求めると、ディープ・ソウトは「生命と宇宙と全てに関する答えは42」と告げた。納得できない聴衆が騒ぎ、賢人はディープ・ソウトに「究極の疑問だ」と抗議する。ディープ・ソウトが「疑問が分かれば答えの意味も分かるでしょう」と言うと、賢人は「ならば疑問を出してくれ」と訴える。するとディープ・ソウトは「それを出すのは私ではありません。究極の疑問を計算できるコンピュータの構造は複雑であるため、生命そのものが制御基板の一部となるのです。そして貴方がたは、より原始的な生命体に姿を変え、コンピュータの内部で1千万年掛かるプログラムを操作することになります。私がコンピュータを設計しましょう」と語った。ディープ・ソウトがコンピュータの名前を言おうとしたところで、映像は終わっていた。
ゼイフォードはフォードとアーサーに、疑問を発見して名誉を手に入れたいのだと語った。彼は無限不可能性ドライブを使い、マグラシアへ向かった。しかし到着したのはマグラシアではなく、ビルトヴォードル第6惑星の軌道上だった。するとゼイフォードはハーマの名を口にして、「マグラシアは後回しだ。この星で恨みを晴らしてやるぞ」と告げた。ビルトヴォードル第6惑星に降り立ったゼイフォードはトリリアンとアーサーを連れて聖堂に足を踏み入れ、ハーマの元へ赴いた。
ゼイフォードが選挙の時に馬鹿だと罵られたことを口にすると、ハーマは「そんな恨みを言いに来たのか」と冷笑する。彼が部下たちにゼイフォードを捕まえさせると、トリリアンは「マグラシアに行こうとしたら、ここに着いてしまった」と釈明した。ハーマはマグラシアの座標位置が分かる道具を持っており、コンピュータが設計した特殊な銃を持って来る取引を持ち掛けた。ゼイフォードが必ず戻ってくる保証は無いため、頭の1つを切除して人質にした。
トリリアンとアーサーがゼイフォードを連れて外へ出ると、ヴォゴン人の軍隊が攻撃してくる。そこへ別行動を取っていたフォードが駆け付け、「ちょっと取材してた」と告げた。トリリアンはゼイフォードを人質に取ったと見せ掛けるが、あっさりと捕まった。残る3人は銃撃を受け、宇宙船で脱出した。アーサーはトリリアンを救うため、ヴォゴン人の船団を追い掛けようとする。しかし船内コンピュータのエディーは、誘導システムが停止していることを告げた。
フォードが他の方法を尋ねると、エディーは緊急用の脱出ポッドがあることを教えた。ゼイフォード、フォード、アーサー、マーヴィンは脱出ポッドに搭乗し、ヴォグスティア星に降り立った。彼らは地中から出現した謎の生物に襲われ、慌てて逃げ出した。ゼイフォードたちはウォゴン人の役所へ行き、囚人の釈放を要求した。トリリアンは尋問を受け、地球が破壊されたこと、ゼイフォードが許可を出したことを知った。アーサーは所員の指示を受け、釈放申請書を提出した。しかし大統領誘拐犯の釈放は無理だと言われたので、「ここに大統領がいる」とゼイフォードの存在を教えた。すると所員は、大統領用の釈放申請書が必要だと告げた。アーサーが急いで申請書を提出したため、トリリアンは処刑寸前で釈放された。
トリリアンはゼイフェードに平手打ちを浴びせ、地球破壊命令書に署名したことを指摘して激怒した。ゼイフォードたちが星から去るとクウォルツは部隊を率いて追い掛けようとするが、ランチの時間になったので休憩に入った。ゼイフォードたちはマグラシアに到着するが、録画された商工会議所のメッセージが「この星は休業中です」と告げる。ゼイフォードが船を近付けると、メッセージは2基のミサイルを発射したと知らせた。ゼイフォードたちはミサイルを回避してマグラシアに降り立ち、異次元への入り口を発見する。ゼイフォードたちは入り口を通って異次元へ移動するが、アーサーだけが取り残されてしまう。そこへ超空間工業社のスラーティバートファーストという男が現れ、「友達は無事だ。案内する」と告げる…。

監督はガース・ジェニングス、原作はダグラス・アダムス、脚本はダグラス・アダムス&キャリー・カークパトリック、製作はゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム&ニック・ゴールドスミス&ジェイ・ローチ&ジョナサン・グリックマン、製作総指揮はダグラス・アダムス&ロビー・スタンプ&デレク・エヴァンス、共同製作はトッド・アーナウ&キャロライン・ヒューイット&レベッカ・ラッド、撮影はイゴール・ジャデュー=リロ、美術はジョエル・コリンズ、編集はニーヴン・ハウィー、衣装はサミー・シェルドン、音楽はジョビー・タルボット。
出演はサム・ロックウェル、モス・デフ、ズーイー・デシャネル、ジョン・マルコヴィッチ、マーティン・フリーマン、ビル・ナイ、ワーウィック・デイヴィス、アンナ・チャンセラー、ケリー・マクドナルド、アルビー・ウッディントン、サイモン・ジョーンズ、マーク・ロングハースト、スー・エリオット、ジャック・スタンリー、ドミニク・ジャクソン他。
声の出演はアラン・リックマン、ヘレン・ミレン、スティーヴン・フライ、トーマス・レノン、イアン・マクニース、リチャード・グリフィス、マック・ウィルソン、ビル・ベイリー、ザ・リーグ・オブ・ジェントルマン。


ラジオドラマから始まり、小説やゲームなど様々な媒体に広がる人気となったSFシリーズの映画版。
ミュージックビデオやCMを演出していたガース・ジェニングスの映画監督デビュー作。
脚本は原作者のダグラス・アダムスと『チキンラン』『リトル・ヴァンパイア』のキャリー・カークパトリックの共同。
ゼイフォードをサム・ロックウェル、フォードをモス・デフ、トリリアンをズーイー・デシャネル、ハーマをジョン・マルコヴィッチ、アーサーをマーティン・フリーマン、マーヴィンをワーウィック・デイヴィス、ケストゥラーをアンナ・チャンセラーが演じている。
マーヴィンの声をアラン・リックマン、ディープをヘレン・ミレン、ナレーターをスティーヴン・フライが担当している。

スラップスティックなSFコメディーのはずなのだが、この映画の面白さが私には全く分からなかった。
いや、面白さが分からなかったというのは、ちょっと表現が違うかもしれない。
コメディーとして作っていることはハッキリと分かるし、どの辺りで笑いを作ろうとしているのかも何となく分かる。ただ、笑いの作り方を失敗しているようにしか思えなかったのだ。
もしも「いかにも英国的な喜劇」ってことなのだとしたら、単純に私には合わなかっただけだろう。

で、ひょっとしたら個人的な感覚が合わなかっただけかもしれないが、それはひとまず置いておくとして、気になったことを挙げていこう。
まず序盤、地球がヴォゴン人によって破壊される。
ここは「物語の序盤で、あっさりと地球が消滅する」というトコに面白さがあるはず。
確かに、地球は一瞬で消滅している。ただ、スケール感のある音楽を流してシリアスな雰囲気を高めることによって、喜劇としての味は皆無になっちゃってんのよね。普通に「恐ろしい出来事」みたいになっちゃってんのよね。

フォードとアーサーはヴォゴン人の裁判により、宇宙空間への放出が決まる。
しかし審問官が「外に放り出せ」と命じても、すぐに宇宙船の外へ放り出されるわけではない。
まず別の部屋に監禁され、そこでフォードはボタンか何かを見つける。助かるかと思って彼は調べるが、すぐに「やっぱりダメだ」と諦める。警報が鳴り響き、床が開いてフォードとアーサーは宇宙空間へ投げ出される。
つまり、命令が出てから船外へ放出されるまでに少し時間が掛かるし、警報が鳴るので「これから放出される」というタイミングも分かる。

だけど、そこは「命令が出た途端に放出される」とか、「気を抜いていたら床が開く」とか、そういう見せ方の方が笑いは生まれるはずで。
この映画の見せ方だと、喜劇としての味は皆無なのよ。
「あっさりと地球が消滅する様子を強調する」ってのも、「観客にタイミングを分からせずに宇宙へ放出する」ってのも、笑いの作り方としてベタっちゃあベタではあるのよ。ただ、少なくとも笑いを全く生み出そうとしないよりは遥かにマシでしょ。
前者はともかく後者に関しては、絶対にコメディーとして描かなきゃいけないシーンだし。

ナンセンス・コメディーのように見える部分もあるが、哲学的だったり社会風刺を匂わせたりする部分もある。また、シュールを思わせる部分もある。
例えば、「ちゃんと計画書を掲示していたのに無関心だったから、地球人は地球の消滅を直前まで知らなかった」ってのは、何となく風刺を感じさせる。その前には、同様のことがバイパス工事のシーンで語られていたしね。
マグラシア星のアーカイブ映像で説明される内容は、正直に言ってワケが分からないが、何となく哲学チックではある。
無限不可能性ドライブを使ったら宇宙船が毛糸の玉になってゼイフォードたちは毛糸の人形になるってのは、ナンセンスだ。

ナンセンスだろうとシュールだろうとシニカルだろうと、どれが正解でどれが間違いってことは無い。どういう味付けであろうと、それをコメディーとして上手く消化することは出来る。
コメディーの中でどういう方針を採用するのかは、その監督次第だ。
ただ、作品の方向性は、どれか1つに絞ってハッキリさせてほしい。その場によってコロコロと変わると、こっちの意識を無駄に混乱させて、喜劇への没入を妨げる。
まあ「どれか1つ選ぶとしたら」と問われたら、迷わずナンセンスを選ぶけどね。ナンセンス・コメディーとして演出している部分が、シュールやシニカルな味付けの部分よりも遥かに面白いのでね。

劇中、何度も『銀河ヒッチハイク・ガイド』の内容を解説するナレーションと補足のための簡易なアニメーションが挿入される。何しろ「ガイド」と付いているぐらいだし、それが本作品を見る観客にとって大いに助けとなるはずだ。
しかし実際には、あまり役に立っているとは言えない。
その場に応じた情報を説明しているので、決して「まるで無関係で要らない解説」というわけではないはずだ。
だが、新たな情報が提供される度に、「私は何を聞かされているんだろう」という気持ちになってしまう。

仮に詳しい解説が無かったとして、どれぐらい影響があるのかと冷静に考えた時、「そんなに重要でもないんじゃないか」と思ってしまう。
例えば無限不可能性ドライブの方法とか、ビルトヴォードル第6惑星の種族の特徴とか、そういうのを知らなかったとしても、「そのせいで内容が理解できなくなったり、物語の進行に付いて行けなくなったりする」なんてことは全く無いんだよね。
じゃあ大半が無駄知識だとして、そこに笑いの種があるのかというと、それも見当たらないからね。
なので、ただ物語の流れを分断して、テンポを悪くしているだけじゃないかと感じてしまう。

ゼイフォードたちがヴォグスティア星に降り立つと、地中から出現する謎の生物に攻撃を受ける。最初はアーサーが攻撃を受けるが動きが素早くて良く見えず、ゼイフォードたちには信じてもらえない。しかしゼイフォードたちも次々に攻撃を受け、慌てて逃げ出す。
こう書いて分かるかもしれないが、「だから何なのか」というシーンになっている。
「アーサーが攻撃されるが他の2人は気付かない」という部分に、笑いがあるわけではない。全員が謎の生物に気付いてから、笑いが生じるわけでもない。そして、その生物を退治することもなく、謎のままで逃げ出してしまう。
だったら、そのシーンは何のために用意されているのかと言いたくなる。

ヴォゴン人の軍隊がトリリアンを連行したのでゼイフォードをおびき寄せる罠にでも使うのかと思ったら、申請書が出て簡単に釈放される。
そこに笑いの種があるのかというと、特に何も無い。
その釈放申請書を出す時は、いかにもお役所仕事で無駄に時間が掛かる。
そこに現実社会を風刺する意味合いはありそうな気もするが、判然としない。彼に風刺の狙いがあったとしても、全体を通しての方向性じゃないから中途半端なだけ。

地球が破壊されてからは「宇宙のロード・ムービー」的に話が進行するのかと思ったが、一応は「究極の疑問を発見する」という目的が提示される。
ただ、それはゼイフォードだけの目的だし、「それが分かったからって何なのか」と感じる。そして巻き込まれ型の話として引き付ける力があるのかというと、それも無い。
終盤に入ると「高次元生物であるネズミが地球の建設を超空間工業社に依頼していた」という事実が判明するが、「だから何なのか」としか思わない。最終的に地球は元の状態へ戻るようだが、それを目指してアーサーたちが行動していたわけでもないし、そういうのも「だから何なのか」としか思えない。
しつこくなるけど、ようするに「だから何なのか」という言葉が本作品を端的に言い表しているんだよね。

(観賞日:2021年1月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会