『ガンシャイ』:2000、アメリカ

18年に渡って麻薬取締局(DEA)の覆面捜査官を務めて来たチャーリーは、空港のトイレで個室に閉じ篭もっていた。彼は目の前に上司のロニーがいるかの如くブツブツと喋り、清掃員は怪訝そうな表情を浮かべながら仕事を続けていた。チャーリーはロニーから14ヶ月を準備に費やした仕事を指示された時、「もう降りる。引退したい。怖いんだ」と訴えた。彼は前回の仕事で失敗し、組織のボスであるガンザに捕まった。チャーリーはテーブルに上半身裸で押し付けられ、手下のチーモに拳銃を突き付けられた。特殊部隊が突入したことで命は助かったが、今も不安が消えないのだ。飛行機に搭乗した彼は腹痛に苦しむ中、セラピストのジェフと知り合った。
DEA長官のデクスターと幹部のロニーたちは会議を開き、コロンビアの麻薬カルテル「バイラール」を壊滅させる作戦について話し合う。バイラールはフルヴィオというマフィアの仲介によって、金融市場を使った資金洗浄を行っていた。フルヴィオはマフィアのドンであるカーマイン・ミネッティーの娘、グロリアの夫である。バイラールの潜入捜査を続けてきたチャーリーは、「俺一人でやらせろ。誰も首を突っ込ませるな」と苛立ちを示した。上層部はジュニパーという若手と組ませようとするが、チャーリーは拒絶した。ロニーはデクスターに「前回の捜査でチャーリーは失敗し、仲間が死んだ」と懸念を示され、「彼は必ず敵を壊滅させます」と告げた。
チャーリーはジェフの診療所を訪れ、心の不安を訴えた。するとジェフはグループ・セラピーに参加するよう勧め、「君に必要なのは、支えと励ましだ」と述べた。チャーリーはエリオットやデクスターら4名の男性陣が参加しているグループ・セラピーに出席し、自身の悩みを吐露した。チャーリーは顔馴染みであるカルテルのフィデルと手下のエストゥヴィオに会い、新たな取引について語り合う。彼らはクラブへ赴き、金融屋であるジェイソンとフルヴィオに会って取引の内容について交渉した。
フルヴィオはトイレでエストゥヴィオにからかわれ、睾丸に銃弾を放った。チャーリーは激昂するフィデルをなだめ、「奴はケダモノだ。俺も怖いよ」と口にした。帰宅したフルヴィオは、グロリアから「誰を殺そうと勝手だけど、調子に乗って失敗したらナニを引っこ抜く」と凄まれた。チャーリーはジュニパーの尾行に気付いて捕まえ、「敵に知れて俺の命がヤバくなる。二度と尾行するな。報告する義務があるんだろ。毎晩、バーで会おう。俺の行動記録を渡してやる」と告げた。
チャーリーは病院を訪れ、バリウムを飲んで看護婦のジュディーに浣腸してもらう。フルヴィオはカーマインと会い、改めて嫌悪感を露骨に示される。カーマインは息子がゲイだと知った時に激怒して追放したこと、自殺した息子の葬儀でゲイの恋人と遭遇したことを語った。彼はフルヴィオに、「お前はイカれたサイコキラーだが、娘のために金の話を任せてる。おかげて皆の笑い者だ。お前に金のことが分かるはずがない」と言い放った。フルヴィオは頑張る意欲を訴えるが、カーマインは冷たく突き放した。
ジュディーはチャーリーを車で送り、使っている薬を見せるよう指示する。チャーリーが薬を渡すと、ジュディーは窓から投げ捨てた。チャーリーが慌てると、彼女は「体がボロボロになる。私なら薬を使わず、2週間で治せる。貴方の病気の原因は恐れよ」と言う。「君の治療法は?」という質問に、ジュディーは「楽しい時間と健康的な食事」と答えた。彼女はチャーリーに、ガーデニングを手伝わせる。2人は耕した土に寝転び、キスをして抱き合う。一方、フルヴィオは畑でトマト栽培を始め、グロリアに呆れられた。
チャーリー、フィデル、エストゥヴィオはジェイソンのオフィスへ出向き、フルヴィオと会う。前回の交渉では1千万ドルを用意することになっていたが、フィデルは二百万ドルだけを渡して「まずは、これで試す。文句があるなら帰る」と強気に告げた。証券取引委員会の監査役が来たという知らせが入り、フルヴィオ、フィデル、エストゥヴィオは一斉に拳銃を構えた。チャーリーは「新設の投資会社は必ず会計監査を受ける決まりだ」と説明し、銃を片付けさせた。彼は監査役を部屋に通し、帳簿と書類を見せた。
チャーリーは停めた車で張り込んでいるジョニパーに気付き、密かに歩み寄る。しかし居眠り中だと思っていたジョニパーは、殺害されていた。驚いたチャーリーの背後から、チーモの手下であるガンザがナイフを突き付けた。特殊部隊が突入した時、ガンザは逃げていたのだ。ガンザはチャーリーに「金を寄越せ」と凄むが、そこへフルヴィオが現れて彼を殺害した。チャーリーは彼に、「ガンザから分け前を寄越せと言われた」と嘘をついた。ジョニパーの服を探ったフルヴィオが捜査官だと知ると、チャーリーは「ガンザと一緒にいたから始末した」と述べた。フルヴィオはバーでチャーリーに酒をおごり、「証券取引委員会の件は見事だった」と礼を述べた。
ジョニパーが殺されたことで、チャーリーの不安は一層高まった。しかし彼から「降りたい」と求められたロニーは、潜入捜査の続行を指示した。ジュディーとデートしたチャーリーは自分の仕事を明かし、抱えている不安を吐露した。するとジュディーは、「生きてることを楽しんで。貴方は二度も命拾いしている。世界一の幸運な男よ」と告げた。チャーリー、フルヴィオ、フィデル、エストゥヴィオはジェイソンのクルーザーに招かれ、「我が投資会社は80万ドルの契約を結んだ。大豆の先物だ」と告げられる。得意満面で祝杯を挙げようとするジェイソンだが、フィデルは「気は確かか?」と怒りを示した。
フィデルがジェイソンに「全額を返せ」と要求すると、フルヴィオは彼を批判して挑発的な言葉を浴びせた。2人が拳銃を抜いたので、チャーリーは仲裁に入って「豆でも何でも、金儲けできればいい」と告げる。しかしフィデルは「豆は貧乏の象徴だ。親父は豆を絶対に食わない」と納得せず、チャーリーはジェイソンに「豆はやめろ」と言うしか無かった。彼はデクスターやロニーに報告し、「逮捕して手を引こう」と申し入れるが続行を命じられた。
フルヴィオはカーマインの元へ行き、フィデルが激怒した話し合いの内容について報告する。カーマインは「コロンビア人を殺して金を奪え」と要求するが、フルヴィオは「チャーリーなら上手くまとめる」と説得した。絶対に損失を出すなと命じられた彼は、大豆を打って20%の儲けを出した。ジュディーとデートに出掛けたチャーリーは、フルヴィオ、ジェイソン、フィデル&エストゥヴィオを次々に見掛け、慌てて逃げ出した。しかし彼がレストランに入ると4人が食事を取っており、同席する羽目になった。ジェイソンは「商品市場の3分の1を買い占めれば価格操作できる」と説明し、フィデルに4000万ドルの出資を要請した。フィデルは激昂し、半分はフルヴィオが出すよう要求した…。

脚本&監督はエリック・ブレイクニー、製作はサンドラ・ブロック、共同製作はマーク・S・フィッシャー、撮影はトム・リッチモンド、美術はメイハー・アーマッド、編集はパメラ・マーティン、衣装はメアリー・クレア・ハンナン、音楽はロルフ・ケント。
出演はリーアム・ニーソン、オリヴァー・プラット、サンドラ・ブロック、ホセ・ズニーガ、リチャード・シフ、アンディー・ラウアー、ミッチ・ピレッジ、ポール・ベン=ヴィクター、メアリー・マコーマック、フランク・ヴィンセント、マイケル・デロレンツォ、テイラー・ネグロン、ベン・ウェバー、マイケル・マンテル、ルイス・ジャンバルヴォ、グレッグ・ダニエル、リック・ピータース、ダスティー・ケイ、ジェリー・スタール、マイケル・ウェザリー、ハンク・ストラットン、フランキー・レイ、ジョー・マルッツォ、アーロン・ラスティグ他。


サンドラ・ブロックが出演と製作を兼ねた作品。
人気TVシリーズ『21ジャンプ・ストリート』でsupervising producerを務めていたエリック・ブレイクニーが、初監督&初映画脚本を担当している。
チャーリーをリーアム・ニーソン、フルヴィオをオリヴァー・プラット、ジュディーをサンドラ・ブロック、フィデルをホセ・ズニーガ、エリオットをリチャード・シフ、ジェイソンをアンディー・ラウアー、デクスターをミッチ・ピレッジ、ハワードをポール・ベン=ヴィクター、グロリアをメアリー・マコーマック、カーマインをフランク・ヴィンセントが演じている。

この映画はコメディーのはずだが、オープニングから失敗している。
本当ならば、そこは笑えるシーンになっていて、「これはコメディーですよ」とアピールするべきだろう。っていうか、そのつもりで作っているんだろうけど、失敗しているのだ。
「チャーリーがトイレの個室で誰か相手がいるかのように物騒なことをブツブツと呟き、清掃係が怯える」という形なのだが、チャーリーの様子はシリアスだ。また、「チャーリーが不安を抱くきっかけとなった出来事」の回想シーンも、普通にシリアスだ。
なので、ギャップで笑いが生じるという現象は起きない。

もしも「リーアム・ニーソンなのに情けない様子でビビっている」というギャップを狙うのであれば、オープニングから不安を訴える様子を描写するのは間違っている。
っていうか、それはリーアム・ニーソンかどうかに関わらず、構成として間違いだ。
まずは「チャーリーが有能な捜査官であり、凶悪な組織への潜入捜査をクールに成功させてきたタフガイ」ってことを示して、それから「そんな男が一度の失敗でヘタレな弱腰野郎へ変貌してしまった」というギャップを付けるべきだろう。

なぜチャーリーが組織に捕まって危険な目に遭った出来事をシリアスなテイストで描いてしまうのか、そこは大いに疑問が湧く。
主演のリーアム・ニーソンが積極的に笑いを発信するような芝居をしていないってことは、周囲で喜劇としての雰囲気を作るべきだろう。
そしてその中で「マジな主人公が浮き上がる」という形を取らないと、笑いなんて生じないでしょ。
主人公はシリアス、ドラマとしてもシリアスだと、どう転んだってコメディーにならないでしょ。

グループ・セラピーでチャーリーが潜入捜査の失敗談について語るシーンは、「彼が物騒なことを言うので他の参加者が唖然とする」という形を狙っているんだろうが、笑いは起きない。
まず他の参加者たちも、本人なりに深刻な悩みを語っている。そして、それは「深刻に話しているけど、すんげえバカバカしい」という程でもない。
なので、「軽いお喋りの中に、急に重くてヤバすぎる話が飛び込んで来た」という落差の笑いになりにくい。
そもそもチャーリーが喋る前の段階も、それほど重々しくは無いが、コメディーとしての軽やかさには欠けている。

あと、そこで笑いを作るのなら、チャーリーのお喋りは、もっと重々しくハードなタッチにした方がいい。
そこだけじゃなくて、全体を通しても、チャーリーというキャラの見せ方が中途半端。
コメディアンのようにリアクションを大きくすることで、笑いを取りに行くわけではない。「クールなタフガイを気取っているが、ホントはヘタレ」という落差の笑いを徹底しているわけでもない。
どういう風に主人公を扱い、どういうアプローチで喜劇を構築しようとしているのか、サッパリ見えて来ないのである。

チャーリーは前回の仕事で失敗し、精神的に不安定な状態になっている。それをロニーは分かっているはずなのに、無理に潜入捜査を命令する理由がサッパリ分からない。
麻薬カルテルの壊滅を狙う重大な作戦なんだから、どう考えたって精神のヤバくなっている男を使うのは避けた方がいいでしょ。
そもそも前回の捜査で特殊部隊は突入したものの、ガンザには逃げられているわけで。そしてフィデルたちは、ガンザと繋がりがある。
だったら、ガンザに顔バレしているチャーリーを使い続けるのはリスクが高すぎるだろ。

チャーリーだけでコメディーにするのは厳しいとでも思ったのか、フルヴィオの方でも笑いを作ろうという意識が見える。
フルヴィオはサイコキラーと呼ばれており、外ではケダモノ扱いされる恐ろしい男だ。しかし家に帰ると極度の恐妻家で、グロリアからは馬鹿にされて罵倒されている。フルヴィオはストレスを解消するため、食器を洗ったり台所をピカピカに磨いたりする。また、カーマインからは嫌悪されており、「頑張ります。孫の顔を見せたい」と言って「人類のために子供は作るな」と止められるシーンもある。
出演者表記だとトップがリーアム・ニーソンで次がオリヴァー・プラットなので、この2人は「ほぼ同列」という扱いなのかもしれない。しかし、それは焦点をボンヤリさせているだけであり、もっと「チャーリーの周辺で喜劇を描く」という意識を徹底すべきだ。
しかも皮肉なことに、チャーリーに比べればフルヴィオの方が喜劇の登場人物としては遥かに上手く描かれている。
ぶっちゃけ、こいつを主役にして、マフィアの世界を舞台にしたコメディーにした方が良かったんじゃないかと思うぐらいだ。

ジュディーはチャーリーに浣腸する看護婦として登場すると、すぐに「2週間で病気を治す」と言い出す。そしてガーデニングの場所へ連れて行き、「まずは前戯から。セクシーな道具がたくさんあるわ」と口にする。で、「チャーリーはエロいことを期待するが、実際は土を耕す仕事をさせる」というネタに持って行くわけだ。
ところが、そこで終わらずにチャーリーとジュディーはキスして抱き合うので、笑いの仕掛けは死んでしまう。
それだけでなく、「なんで出会った直後に惚れ合ってんだよ」と言いたくなる。ジュディーがチャーリーに惚れる要素なんて、どこにも無かったでしょ。
そんなに雑な形でカップリングしてしまうのなら、昔馴染みとか元カノの設定にでもしておけよ。どっちにしろ、そこに笑いは無いけどさ。
そんなボンヤリしたガーデニングのシーンに比べれば、本を読んで真面目にトマト栽培を始めるフルヴィオを描くシーンの方が、遥かにコメディーとして機能しているぞ。

チャーリーがグループ・セラピーの面々と話すシーンを何度も挟んでいるが、これが何の効果も持っておらず、ただの道草になっている。
ひょっとすると緊張に対する緩和を狙ったのかもしれないが、だとしても完全に外している。特に笑いも起きず、ただダラダラと時間を無駄遣いしているだけだ。
「潜入捜査では自分を偽って緊張の連続を強いられるチャーリーが、グループ・セラピーの面々に対しては素の自分を出せる」というトコでの面白さも無い。
そもそも、セラピーで気持ちが晴れるなら、ジュディーは要らなくなってしまう。
そしてジュディーを「チャーリーの安らぎ」として使うのなら、グループ・セラピーを何度も挟むのは余計だ。もっとジュディーの出番を増やし、「彼女と会う時だけはチャーリーがリラックスして素の自分でいられる」という見せ方にした方がいい。

「フルヴィオとフィデルが何かに付けて揉めるので、その度にチャーリーが仲裁を余儀なくされ、ストレスで下痢になる」という天丼は、ベタっちゃあベタだが、コメディーとして充分に使える仕掛けだ。しかし全く弾けておらず、モッサリした仕上がりになっている。
そうなってしまった最大の要因は、チャーリーの反応にある。
そういうネタで笑いを取りに行くなら、もっと大きなリアクションを取って、「いかにも」な喜劇芝居をすべきなのだ。しかしリーアム・ニーソンの演技は、そういうアプローチが乏しい。
そういう仕掛けを使って喜劇を構築するなら、彼はミスキャストでしょ。典型的なコメディー俳優を使った方が、絶対にスウィングするでしょ。
「チャーリーがデート現場でフルヴィオやジェイソンたちを次々に目撃し、アタフタと逃げ回る」とか、「安堵してレストランに入ったら、フルヴィオたちが揃って食事を取っている」とか、「それだけでも大変なのに、別のテーブルにエリオットがいたので殴って昏倒させ、タクシーに連れ込む」とか、そこの畳み掛けなんかは、本来ならばコメディーとして印象に残るようなシーンになるはずだ。
それなのに全く盛り上がらないのは、リーアム・ニーソンの演技(もしくは彼に対する監督の演出)が間違っているからだ。

終盤に入ると、カーマインとデクスターが裏で手を組んで金儲けを企み、フルヴィオを始末しようとしていることが明らかになる。
だけど、そんな捻りなんて、どうでもいいわ。サスペンスやミステリーとして策を講じるのは結構だが、その前にコメディーとしての質を高めることに神経を使ってほしいわ。
あと、後半に入るとチャーリーとフルヴィオが次第に仲良くなり、「フルヴィオが足を洗いたがっていると知り、チャーリーがシンパシーを抱く」という展開になるけど、だったら早い段階から始めた方がいいのに、と思ってしまう。
ただし、そうなるとジュディーの存在意義は、ますます弱くなるけど。

(観賞日:2016年10月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会