『ガーディアン 森は泣いている』:1990、アメリカ

シェリダン夫妻は、幼い赤ん坊をベビーシッターのダイアナに任せて家を出た。メガネを忘れて家に戻った妻モリーは、赤ん坊がいないことに気付くが、既に遅かった。その頃、赤ん坊を連れ出したダイアナは、森の老木に彼を捧げていた。悪しき生命の宿っている老木は、赤ん坊の生気を吸い取って自らと同化させてしまった。
それから3月後、広告カメラマンのフィルは大会社に就職するため、妻のケイトと共にシカゴからロサンゼルスへとやって来た。2人は有名建築家ネッド・ランシーの建てた家に住み、新しい生活を始める。妊娠していたケイトは、やがて男の子を出産する。
フィルとケイトは共稼ぎをするため、生まれた息子ジェイクの世話をするベビーシッターを雇うことにした。ガーディアン・エンジェルという会社に連絡を入れて何人かを面接した結果、2人はアーリーン・ラッセルという女性を雇うことに決めた。しかし彼女が亡くなったため、次の候補だったカミーラという女性を雇うことにした。
優しくジェイクに接するカミーラを、フィルとケイトは完全に信用する。しかし、カミーラはシェリダン夫妻から赤ん坊を連れ去ったダイアナと同一人物であり、ジェイクも老木に捧げようと企んでいた。正体を知ったフィルとケイトはカミーラを家から追い出すが、本性を現した彼女はジェイクを奪うため、2人に襲い掛かって来た…。

監督はウィリアム・フリードキン、原作はダン・グリーンバーグ、脚本はスティーヴン・ヴォーク&ダン・グリーンバーグ&ウィリアム・フリードキン、製作はジョー・ワイザン、共同製作はトッド・ブラック&ミッキー・ボロフスキー&ダン・グリーンバーグ、製作総指揮はデヴィッド・サルヴェン、撮影はジョン・A・アロンゾ、編集はセス・フラウム、美術はグレッグ・フォンセカ、衣装はデニス・クローネンバーグ、音楽はジャック・ヒューズ。
出演はジェニー・シーグローヴ、ドワイヤー・ブラウン、キャリー・ローウェル、ブラッド・ホール、ミゲル・フェラー、ナタリア・ノグリッチ、パメラ・ブラル、ゲイリー・スワンソン、ジャック・デヴィッド・ウォーカー、ウィリー・パーソンズ、フランク・ヌーン、テレサ・ランドル、レイ・ラインハード、ザンダー・バークレイ、ジェイコブ・ゲルマン、アイリス・バス、リタ・ゴメス他。


ダン・グリーンバーグの小説を、原作者も脚本に携わって映画化した作品。
カミーラをジェニー・シーグローヴ、フィルをドワイヤー・ブラウン、ケイトをキャリー・ローウェル、アーリーンをテレサ・ランドルが演じている。

序盤、シェリダン夫妻の家におけるシーンでは、音楽とカメラワークによって恐怖感を生み出そうとしている。階段を上がるシーンや哺乳瓶をゴミ箱に捨てるシーンなど、何でもないシーンでも、カメラワークによって何かありそうな雰囲気を作っている。
ところが、カミーラが赤ん坊を樹木に捧げるシーンになると、まるで花見大会のようなライティングでチープな雰囲気を作ってしまう。
また、赤ん坊がカミーラの手からパッと消えるシーンも、いかにも陳腐だ。
滑り出しはそんなに悪くなかったのに、台無しだ。

そして、恐怖感を生み出そうとしていた音楽とカメラワークは、その序盤のシーンだけで終わってしまう。そこを過ぎてフィルとケイトの物語が始まると、まるで演出家が交替したのかと思うぐらい、完全に音楽とカメラワークの頑張りは消えてしまう。

悪しき魂の老木が立っている場所が「子供達が秘密基地でも作りそうな裏山の場所」みたいな場所でロケを行っており、「普通の人が入って来れないような奥深く」というイメージが無い。そこには、森の神秘性はゼロである。
しかも肝心の老木は、「いかにも作り物です」というようなチープな造形。

とにかく、これっぽっちも怖くないのだから、どうしようもない。
カミーラがジワジワと少しずつ恐ろしさを見せていくような展開は全く無い。
何度か訪れる軽い地震、フィルが見る樹木の影と奇妙な夢、それだけでは全くゾクゾクるすような恐怖は生まれない。

フィルがカミーラのヌードに見とれるシーンがあるので、そこから2人の関係やケイトの嫉妬心を絡めれば新たな展開でも生まれたのかもしれない。
だが、そういうことに興味は無いらしい。
だからといって、代わりに何があるわけでもないのだが。

やがて都合良く野原にいたカミーラに、そのためだけに登場したチンピラ3人組が絡むという安っぽい展開が待っている。「私を怒らせると怖いわよ」とカミーラが言うので、何か怪しげなパワーでも使うのかと思ったら、逃げ出してしまう。
で、都合良くカミーラに逃げられた3人組は、彼女を追い掛けて老木を見て驚くが、そんなに驚くようなシロモノでもない(見た感じは普通の木だ)。
そして、作り物の木の枝が3人に巻き付いたり殴ったりするというチンケな特撮が見られる。夜中なら少しは誤魔化せたかもしれないが、御丁寧に真っ昼間の撮影だ。

この作品で怖いのは、「カミーラが古木に赤ん坊の生気を捧げようとする狂った考えに取り憑かれていて、ジェイクを狙っている」という彼女の精神にあるはず。
だが、カミーラを本当に化け物にして、心理的恐怖よりSFXを見せようとしている。

スッポンポンのカミーラが老木に寝そべっているシーンを見せられても、別に怖さは無い。カミーラが樹木と同化するシーンを見せられても、別に怖さは無い。コヨーテがネッドを襲うシーンに長々と時間を割いたりするが、完全にピントがズレている。

終盤に入ると、カミーラが空中を浮遊して追い掛けて来るというコケ脅しもある。
それでケイトがカミーラを倒して話を終わりにすればいいのに、「警察に説明するが信用してもらえない」となって、まだ話を続けてしまう。

完全に蛇足となった中、特殊メイクで完全に妖怪に変身したカミーラを登場させる。
しかし、そこにフィルはいない。
フィルはチェーンソーで老木と戦い、枝に殴られる一人芝居を披露している。
老木からは真っ赤な液が吹き出るが、もちろん恐怖感はゼロ。
森はちっとも泣いていないが、観客は泣いたかもしれない。
こんな映画を見てしまったことが悔しくて。

 

*ポンコツ映画愛護協会