『グリンゴ/最強の悪運男』:2018、アメリカ

イリノイ州シカゴ。プロメチウム製薬のリチャード・ラスク社長は秘書のミアから、ハロルドが急用で電話を掛けて来たことを知らされる。会議中だと嘘をついて無視しようと考えたリチャードだが、結局は電話を取り次がせた。共同経営者のエレーン・マーキンソンも部屋に来る中、ハロルドは焦った様子で「誘拐された」と叫ぶ。彼はリチャードたちに、「メキシコで拳銃を向けられている。500万ドルを送金しないと殺すと言ってる」と説明した。
2日前。ハロルドは大雪が積もる中で家を出ると、友人で会計士のステューに会った。彼が「妻のボニーから、もう一台、車を買うよう言われてる」と言うと、ステューは「君の奥さんは疫病神だ。ローンに賃料が高い事務所。彼女の客は1人だ。事務所はガレージでいい。このままだと破産だぞ」と忠告した。ステューはプロメチウム製薬がパウエル社に買収される噂を教え、失職する恐れがあると告げる。初耳だったハロルドは驚くが、「俺は大丈夫。リチャードは友達だ」と言う。するとステューは、「彼は信用できない。上辺ばかり信じていると裏切られるぞ」と忠告した。
ハロルドが業務管理部長として勤務するプロメチウム製薬に着くと、リチャードは在庫品紛失の件で時分とエレーンもメキシコへ同行すると告げる。ハロルドは自分だけで工場長のサンチェスと交渉するつもりだったが、リチャードは「自分も行った方がいい。話したいこともある」と述べた。ハロルドが買収の噂について訊くと、リチャードは「俺を信じろ」と告げた。彼はハロルドから仕事が欲しいと頼まれて業務管理部長に据えただけでなく、ボニーに新居の内装の仕事も任せていた。
ギター・ショップを営むマイルズは、訪ねて来たネリーに「例の件の返事は?」と言われる。恋人で店員のサニーが近くにいたので、彼は慌ててネリーを奥へ連れて行く。「危険すぎる」とマイルズが難色を示すと、ネリーは「同じ物を作れるように、モンティーの友達のヤクを預かって運ぶだけ。タダでメキシコ旅行も出来る」と語る。マイルズは「捕まったら刑務所行きだ」と渋るが、ネリーが報酬が1万ドルから2万ドルに上がったことを教えると顔色が変わった。ネリーから「可愛い店員も誘っていいのよ」と言われたマイルズは仕事を承諾し、旅行と嘘をついてサニーを連れて行くことにした。
その夜、ハロルドが多額の借入金を気にしていると、この後に体育館で一緒にバスケをする約束をしているリチャードから電話が掛かって来た。リチャードは「会議が長引いた。デスクの下にあるバッグを持って来てくれ」と頼むが、実際は自宅で女性と一緒にいた。バッグを取りに行ったハロルドは密かにパソコンを操作し、2日後にパウエル会と会合の予定が入っていることを知る。彼はUSBメモリを取り出し、パソコンのファイルをコピーした。彼はエレーンに話を聞こうとするが、冷たく追い払われた。
翌日、マイルズはサニーを連れて、メキシコ国際空港に到着した。トイレから出て来たハロルドは、マイルズとぶつかって謝罪した。彼はリチャード&エレーンの元へ戻り、運転手のエンジェルと会った。工場を訪れたハロルドは、サンチェスと助手のヴェガをリチャードたちに紹介した。リチャードはハロルドとヴェガに席を外させ、エレーンとサンチェスの3人で話をする。ブラックパンサーのヴィリェガスに売って在庫が減っていることをサンチェスが話すと、リチャードは取引の中止を要求した。サンチェスが「彼に売らないと将来が無い」と言うと、「金が必要ならハロルドに内緒で裏ルートで売れと言ったでしょ」とエレーンが語る。リチャードは「外部から調べが入る。ボロが出ると困る」と言い、命令に従うよう要求した。
夜、ハロルドはリチャードとエレーンの3人でレストランへ行き、仕事について苦言を呈された。ハロルドは携帯電話を密かに残したまま、席を外した。その間にリチャードとエレーンは、ハロルドを扱き下ろす会話を交わした。戻って来たハロルドは、リチャードたちが席を経ってから携帯で盗聴した音声を確認し、買収が事実で自分が解雇されることを知った。ヴェガはマイルズに「メキシコに着いたか?」とメールを送り、すぐに「ホテルにチェックインした」と返信が来た。
ホテルの部屋に戻ったハロルドはボニーに連絡し、知ったばかりの情報を教えてショックを吐露した。するとボニーは不倫していることを打ち明け、離婚を告げるメールを送ったことを泣いて詫びた。驚いたハロルドは不倫相手を教えるよう求めるが、ボニーは通話を切った。サンチェスはヴィリェガスの屋敷を訪れ、「ウチのボスが取引の中止を言って来た」と伝える。ヴィリェガスはヤクの調合法が入った金庫がハロルドの指紋認証で開くと聞き、「だったら奴がボスだ」と言うが、サンチェスはリチャードたちがボスだと説明した。ヴィリェガスはサンチェスの左足の親指を手下たちに切断させ、ハロルドを連れて来るよう命じた。
ハロルドは荷物の大半を部屋に残し、タクシーでホテルを去った。翌朝、リチャードとエレーンはハロルドが不在で電話も繋がらないと知るが、放置してメキシコを去った。ハロルドはロナルドとエルネストのゴンザレス兄弟が営む安ホテルにチェックインし、向かいの部屋に泊まっているサニーとマイルズの姿を目にした。リチャードとエレーンはパウエル社のジェリーとマーティーに会い、医療用大麻の開発を進めていること、合法化されたらメキシコの工場で生産を始めることを説明して交渉をまとめようとした。
ハロルドはゴンザレス兄弟に協力を要請し、リチャードに電話を掛けて誘拐されたように装った。彼は保険に加入していないことを聞き、腹を立てた。リチャードは「後で掛け直す」と告げ、電話を切った。ハロルドから金を渡されたゴンザレス兄弟は、額の少なさに不満を抱いた。リチャードはエレーンから面倒を避けるための対処を求められ、「兄に頼む」と述べた。彼は半年前まで傭兵だった兄のミッチに連絡を入れ、ハロルドの救出を要請した。
オープン・カフェにいたサニーは、近くの席に来たハロルドに気付いた。彼女が「きっと麻薬取締局の人間よ」と言うと、マイルズは早々に店から立ち去った。カフェを後にするハロルドを、ロナルドが尾行していた。エレーンはリチャードが自分を裏切って他の女を部屋に連れ込んでいると知り、怒って乗り込んだ。エレーンは部屋にいたボニーへの敵対心を露骨な示し、リチャードと関係があることを明かす。ボニーは腹を立て、リチャードに平手打ちを浴びせて部屋を去った。
屋台で悪酔いしていたハロルドは、店主の知らせで駆け付けたヴィリェガスの手下たちに声を掛けられた。ハロルドは誘われるままに車へ乗り込むが、拉致されたと気付いて助手席の男に襲い掛かった。運転手は誤射を受けて死亡し、車は道を外れて横転事故を起こした。翌朝、エンジェルは安ホテルを訪れ、ゴンザレス兄弟にハロルドのことを尋ねる。彼がヴィリェガスの名を出して「金が貰えるぞ」と言うと、兄弟は怯えて「力になれない」と告げた。
マイルズがサニーを乗せて車を走らせていると、ハロルドが道路脇で手を挙げるのが見えた。マイルズは無視しようとするが、サニーは停止するよう求める。ハロルドが気絶したたため、サニーはマイルズに手伝わせて車へ運んだ。マイルズとサニーが安ホテルに到着すると、監視していたミッチがリチャードに報告した。サニーは部屋のベッドでハロルドを休ませ、マイルズは薬を買いに出掛けた。エレーンはジュリーからの電話で「買収後は君とリチャード、どちらかが不要になる」と言われ、飲みに誘った。ヴィリェガスから届いた封筒を彼女が開けると、切断された指が入っていた。
ハロルドとサニーが話していると、覆面を被ったゴンザレス兄弟が部屋に乗り込んできた。兄弟はサニーを浴室に閉じ込め、ハロルドを連行しようとする。そこへミッチが現れ、兄弟を昏倒させた。彼は買い物から戻ったリチャードも殴り倒し、「リチャードに頼まれた」とハロルドに告げて連れ出した。空港に着いた彼が搭乗手続きをしていると、ハロルドが逃げ出した。ミッチは後を追い、ハロルドを昏倒させて捕まえた。ハロルドがホテルで意識を取り戻すと、ミッチは誘拐が狂言だったことを指摘した。ハロルドは彼の言葉で、ボニーの不倫相手がリチャードだと知った。ミッチの報酬が20万ドルだと聞いた彼は、「もっと儲かるぞ」と協力を持ち掛けた…。

監督はナッシュ・エジャートン、原案はマシュー・ストーン、脚本はアンソニー・タンバキス&マシュー・ストーン、製作はレベッカ・イェルダム&ナッシュ・エジャートン&シャーリーズ・セロン&ベス・コノ&A・J・ディックス&アンソニー・タンバキス、製作総指揮はトリッシュ・ホフマン&マシュー・ストーン、共同製作はステイシー・パースキー、撮影はエドゥアルド・グラウ、美術はパトリス・ヴァーメット、編集はデヴィッド・レニー&ルーク・ドゥーラン&タチアナ・S・リーゲル、衣装はドナ・ザコウスカ、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はダナ・サノ。
出演はデヴィッド・オイェロウォ、シャーリーズ・セロン、ジョエル・エジャートン、アマンダ・サイフリッド、シャールト・コプリー、ユル・ヴァスケス、タンディー・ニュートン、ハリー・トレッダウェイ、アラン・ラック、ケネス・チョイ、カルロス・コロナ、エルナン・メンドーサ、ディエゴ・カターニョ、ロドリゴ・コレア、パリス・ジャクソン、バシール・サラハディン、エクトル・コツィファキス、メロニー・ディアス、ビル・マー、ヒカルド・エスケラ、ハヴィエル・エスコバル、マルコ・アントニオ・アギーレ、オルファ・マスムーディー、チャールズ・タイジェ、テオ・タプリッツ、グレン・クボタ他。


短編で幾つもの賞を獲得しているオーストラリア出身のナッシュ・エジャートンが、2008年の『The Square』に続いて手掛けた2本目の長編映画。
脚本は『ウォーリアー』『ジェーン』のアンソニー・タンバキスと『チアガールVSテキサスコップ』『ソウルメン』のマシュー・ストーンによる共同。
ハロルドをデヴィッド・オイェロウォ、エレインをシャーリーズ・セロン、リチャードをジョエル・エジャートン、サニーをアマンダ・サイフリッド、ミッチをシャールト・コプリー、エンジェルをユル・ヴァスケス、ボニーをタンディー・ニュートン、マイルズをハリー・トレッダウェイ、ジェリーをアラン・ラック、マーティーをケネス・チョイが演じている。

序盤、ハロルドはステューと会った時、「君の奥さんは疫病神だ。ローンに賃料が高い事務所。彼女の客は1人だ。事務所はガレージでいい。このままだと破産だぞ」と言われている。
しかし、その時点では、ボニーが何の仕事をしているのか分からない。ボニーの浪費癖に関しても、ステューが台詞で軽く触れているだけだ。でも、ここは先に、ボニーが悪妻であることを明確に示しておくべきだ。
また、彼女はリチャードと不倫しており、ハロルドがバッグを持って来るよう頼まれた時も一緒にいる。そのシーンでリチャードと一緒にいる女性は後ろ姿で顔が見えないのだが、どうせボニーなのはバレバレだし、隠している意味が全く無い。
「良き妻と見せ掛けておいて、実は」という狙いも見えないし、さっさと観客にはバラしちゃった方がいい。

ハロルドはステューに「リチャードと友達」と言うが、その時点では関係性が全く描かれていない。冒頭で「誘拐された」と電話を掛けるシーンがあるだけだからね。
ここも前述した要素と同じで、先に示した方がいい。
リチャードは買収の噂を訊かれた時に「仕事が欲しいと頼まれ、いい暮らしをさせると仕事を与えた。ボニーには俺の新居の内装をやらせてる」と話すが、これも先に描いておいた方がいいし。
っていうか、仕事が欲しいと頼まれてハロルドを雇っているんだから、リチャードは「いい奴」みたいになっちゃうぞ。

ハロルドは「お人好しで人を信じすぎるせいでバカを見てきた男」という設定なのだが、ステューから買収の噂を聞かされると簡単に疑念を抱いている。そしてリチャードのパソコンを内緒で調べ、ファイルをコピーしている。
ハロルドは「リチャードは自分を雇ってくれた親友」と思っているはずなのに、そんな彼を疑って、探りを入れているわけだ。
つまりハロルドのキャラ設定は、序盤で完全に破綻しているのだ。
その後も、彼はリチャードとエレーンの会話を盗聴するし、ちっとも「お人好しで馬鹿を見る男」には感じない。

本来の狙いを考えれば、ハロルドは会社が買収される噂を聞いても微塵も疑っちゃダメだし、決定的な証拠が出てくるまではリチャードを信じるべきなのだ。
真実を突き止めようとするために、探りを入れるような行動は取っちゃダメなのだ。
偶然にも事実を知ってしまうとか、たまたまファイルを手に入れてしまうとか、そういう形にしておくべきなのだ。
そうじゃないと、裏切りを知った彼が復讐に出る展開に入っても、そこを素直に応援できなくなってしまう。

ボニーは離婚のメールを送ったことをハロルドに明かした時に泣いて詫びているし、リチャードと一緒にいる時も罪悪感を吐露している。
そうなると、ボニーは「ハロルドにとって疫病神で、彼を裏切る悪妻」という印象が削がれてしまうでしょ。そして当然のことながら、コメディーとしても成立しなくなっちゃうし。
じゃあサスペンスとして面白いのかというと、そう捉えても雑味が多くて低品質なのだ。
エレーンとボニーの対決とか、どうでもいいし。そこで揉めても、ハロルドには何の影響も無いし。

ハロルドがサニーの前で「善人が損をする」と嘆くシーンがあるが、その時点で既に彼は「憐れむべき正直者の善人」ではなくなっている。
いや、かなり早い段階で彼は「親友を怪しんで調べる」というモードに突入しているので、やりたいことと話の中身が合致していないと言わざるを得ないのだ。
やりたい内容の核の部分からすると、いっそのことハロルドは最後まで利用されたり騙されたりしていることに気付かないお人好しのままでもいいぐらいなのだ。

ハロルドは何も変わらないが、周囲が勝手に動いた結果として巻き込まれていた事件から解放され、不幸にならずに済むという展開にした方が、面白くなった可能性はあったんじゃないかと思うんだよね。
ハロルドを「親友を怪しんで行動し、復讐に乗り出す」というキャラにした時点で、かなり厳しくなっている気がするんだよね。
ハロルドがリアクションで笑いを発信するタイプではないので、そのキャラ設定でコメディーの主人公にするのは難しいんじゃないかと。

終盤、エンジェルが実は麻薬局の潜入捜査官だったことが明らかにされる。
でも、その要素を上手く使いこなせているとは到底思えない。
さらに問題なのは、サニーとマイルズのカップル。
この2人は序盤から登場してメキシコへ向かうし、ハロルドを助けるし、マイルズはヴェガと関係がある。そういうポジションに配置しているにも関わらず、実は存在意義が薄いのだ。
このカップルのエピソードが本筋とは上手く絡んで来ないので、いっそのこと全カットでいいんじゃないかと思うぐらいだ。

あと、根本的な問題として、これって一応はコメディーのはずなのに、まるで笑える要素が見えないってことがあるんだよね。
笑わせようとして外しているわけではなくて、そもそも笑いを作ろうとする意識が乏しいのだ。
そんな中、終盤に入ると幾つもの殺人が起こり、完全にシリアス一辺倒となってしまう。でも、そのまま決着を付けられても、爽快感も満足感も無いのよね。
むしろ、もっと弾けたコメディーに振り切った方が可能性はあったんじゃないかと思うんだけどねえ。

(観賞日:2021年10月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会