『グリーンランド―地球最後の2日間―』:2020、アメリカ

建築技師として高層ビルの建設現場を仕切るジョン・ギャリティーは、仕事を部下たちに任せて早退した。車で帰宅する途中、ラジオでは恒星間天体のクラークに関するニュースが報じられた。クラークは数週間前に発見され、史上最も地球に接近する彗星と言われていた。帰宅したジョンは、妻のアリソンに声を掛けた。夫婦仲は円満とは言えず、アリソンは「もう少し時間が。お互いに努力も必要よ」と話す。息子のネイサンは帰宅すると、興味津々のクラークについてジョンに語った。ネイサンは小児糖尿病を患っており、体には医療器具を取り付けている。夜、ジョンは夫婦の寝室に入らず、客室で就寝した。
翌朝、テレビのニュースでは、クラークの大きな破片が大気圏に突入することが報じられた。しかし破片は地球には落下せず、大気圏で燃え尽きると説明されていた。ジョンは仲間とのバーベキューを準備するが、アリソンからワインとビールが足りないので買ってくるよう頼まれた。彼はネイサンを車に乗せ、大型スーパーへ出掛けた。車を降りたジョンは、上空を飛んで行く大量の軍用機を目にした。買い物の最中、携帯電話に国家安全保障省からの大統領アラートが届いた。ジョンが困惑しながら電話に出ると、一家が避難者に選ばれたことを示すメッセージが流れた。さらに音声は、「これは訓練ではない。携帯品はバッグ1つのみだ。次の指示を待て」と告げた。彼の自宅では、テレビに同じメッセージが表示されていた。
ジョンが帰宅すると、近所に住むエドやデブラ、ケニーと子供たちが来ていた。彼らは隕石落下の生中継を、呑気に見ていた。ジョンは アリソンに大統領アラートが来たことを伝え、訓練ではないと述べる。テレビでは隕石の落下地点を、バミューダだと報じていた。しかし落下の直後、ジョンの家にまで激しい衝撃波が届いた。するとテレビでは、隕石がフロリダの中心部に落下したことが明かされた。新たな大統領アラートが届き、ジョンたちはジョージア州ロビンス空軍基地へ9時45分までに来るよう指示される。識別用QRコードが送られ、基地で提示するよう指示された。
エドたちはテレビに大統領アラートが届いているか確かめるため、それぞれの家に戻った。ジョンたちは荷物をまとめ、車に乗り込んだ。デブラは幼い娘のエリーだけでも連れて行ってほしいと頼むが、ジョンは「無理なんだ」と告げて去った。大渋滞が起きていたため、彼は別の道を選んだ。ラジオのニュースでは、クラークの破片が世界中に落ち続けていること、地球壊滅レベルの隕石が48時間以内に到達すると推定されていることが報じられた。
一家が基地に着くと、大勢の人々が押し寄せていた。ジョンたちは警備の兵士にQRコードを見せて通してもらい、格納庫に向かう。彼らは身分証代わりのリストバンドを受け取り、荷物をバッグ1つにまとめるよう指示された。リュックにインスリンの薬が入っていないことを知ったジョンは、車へ取りに戻った。アリソンは近くにいた兵士に事情を説明し、夫と同じ飛行機にしてほしいと頼む。すると兵士はルイーズ軍曹を呼び、アリソンとネイサンは奥の司令室に連れて行かれた。司令官のブリーン少佐は、病人は乗せられないことを通告した。ジョンと連絡が取れないため、アリソンはネイサンを連れて捜しに向かった。
ジョンはアリソンが見つからないので、仕方なく輸送機に乗り込んだ。彼は携帯で連絡しようとするが繋がらず、メールも送信に失敗した。彼はインスリンを持っていると気付いた避難者の男性から、病人は搭乗を拒否されると聞く。ジョンが輸送機から降ろしてもらうと、選抜されていない大勢の市民が基地に乗り込んで暴れていた。兵士が襲われて燃料が漏れたため、ジョンは搭乗していた選抜者に逃げるよう叫んだ。ジョンたちが急いで逃亡した直後、輸送機は大爆発を起こした。
アリソンが車に戻ると、インスリンの切れたネイサンの具合が悪くなった。アリソンは車を探すがインスリンが見当たらず、薬局へ向かうことにした。彼女はジョンに、「父の家で待つ。迎えに来て」とメールを送信した。ジョンはネイサンの病気が理由で搭乗拒否されたことを知り、車に戻る。すると車の窓には、「父の家で待つ。迎えに来て」と書いたアリソンのメモが挟んであった。ジョンは電話を掛けるが、アリソンには繋がらなかった。
アリソンが薬局に行くと、大勢の市民が暴徒化して略奪に来ていた。アリソンがインスリンを入手して去ろうとすると、武装した強盗団が店に押し掛けて発砲した。アリソンはネイサンに姿勢を低くするよう指示し、射殺された女性の脇を通って去ろうとする。強盗団の黒人青年に見つかったアリソンは、「この子は7歳よ」と命乞いする。青年はアリソンとネイサンを撃たず、逃げるよう指示した。駐車場に出たアリソンは車で出ようとするラルフとジュディーのヴェントを見つけ、「北へ行きますか」と呼び掛けた。レキシントンまで連れて行ってほしいと彼女が頼むと、ラルフは「ノックスビルまでなら」と承諾した。
ラルフは車を発進させ、ノックスビルから飛行機に乗るつもりだと話す。「2人だけ?」と訊かれたアリソンは「夫とはぐれたの」と言い、ネイサンは「空港にいる」と告げた。ジュディーはリストバンドに気付き、なぜ乗らないのかと問われたアリソンは病気を理由に拒否されたことを説明した。ジョンは携帯が繋がる場所を見つけ、アリソンに連絡する。しかしアリソンが呼び掛けても、その声はジョンに聞こえなかった。
ジョンは荷台に男たちを積んでカナダへ向かうトラックを目撃し、運転手に「レキシントンの近くまで乗せてくれ」と頼んで同乗させてもらった。荷台に乗っていたコリンという男がジョンのリストバンドに気付き、職業を尋ねた。彼は「職業で選別してるだろ」と言い、母が医師で選ばれたと述べた。ジョンが「妻子とはぐれたので合流したい」と話すと、コリンは「運転手はカナダに知り合いの操縦士がいて、オスグッドから飛行機でシェルターに向かう」と明かす。彼はシェルターがグリーンランドにあると分かっているのだと言い、一緒に来るよう誘った。ジョンはグリーンランドにシェルターがあるという情報に懐疑的で、その誘いに乗らなかった。
ラルフは「その子は私が飛行機に乗せる」と言い出し、アリソンにネイサンを引き渡すよう要求した。ジュディーが反対しても彼は聞く耳を貸さず、車を停めてアリソンを引きずり出した。ラルフはリストバンドを奪い、アリソンを置き去りにして去った。ジョンは1人の男にリストバンドを譲るよう要求され、拒否すると襲撃された。2人は揉み合いになり、運転手は衝突事故を起こした。放り出されたジョンは男に反撃し、成り行きで殺害してしまった。道路に戻った彼は、コリンが事故で死んでいるのを目にした。
アリソンはノックスビルの空港へ向かう車に乗せてもらい、ネイサンの奪還に向かった。ラルフはジュディーにリストバンドを付けさせ、ネイサンには自分たちを両親だと言うよう命じた。ラルフたちが基地に着くと、ネイサンは憲兵に「本当の両親じゃない。ママから引き離された」と訴えた。ラルフとジュディーは連行され、ネイサンは保護された。アリソンは大渋滞に巻き込まれたため、車を降りて基地へ向かった。彼女は憲兵に事情を説明し、保護施設を調べるよう促された。
アリソンは係員の案内で保護施設のテントを調べ、ネイサンを発見した。そこへ女医が来て、ネイサンにインスリンを投与したことを話す。アリソンが父の家へ行くことを告げると、女医は「軍のバスに乗せてあげる」と言い、1週間分の薬品の提供も約束した。ジョンは無人の家に侵入して水を飲み、テレビのニュースで状況を確認した。彼は車を盗み、義父であるデイルの家へ向かう。その途中、ようやく彼の元にはアリソンからの「父の家で待つ。迎えに来て」というメールが届いた。
ジョンがデイルの家に着くと、見守り役の仲間たちが来ていた。デイルはアリソンたちが一緒でないことから非難の態度を示すが、ジョンが「お互いに望んでるのは2人の無事だ。協力しよう」と提案すると承知した。ジョンが「固定電話は?」と訊くと、デイルは1時間前に掛けたが政府のメッセージが流れるだけだと語る。ジョンが試しに掛けてみるが、やはりアリソンには繋がらなかった。しかし公衆電話を見つけたアリソンがデイルの家に掛けると、無事に繋がった。ジョンはデイルと車で迎えに行き、アリソンとネイサンに再開した。デイルの家に戻った彼らは、テレビのニュースで状況を確認した…。

監督はリック・ローマン・ウォー、脚本はクリス・スパーリング、製作はベイジル・イヴァニク&セバスティアン・レイボー&ジェラルド・バトラー&アラン・シーゲル、製作総指揮はブレンドン・ボイア&ジョナサン・ファーマン&フランソワ・カレンズ&ジョン・ゾイス&カーステン・H・W・ロレンツ&ロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&ジョン・フリードバーグ&ダニエル・ロビンソン&ニック・バウアー&ディーパック・ナヤール、共同製作はビル・ウォーケン、製作協力はダニエル・カスロウ、撮影はダナ・ゴンザレス、美術はクレイ・A・グリフィス、編集はガブリエル・フレミング、衣装はケリー・ジョーンズ、音楽はデヴィッド・バックリー、音楽監修はローラ・カッツ。
出演はジェラルド・バトラー、モリーナ・バッカリン、スコット・グレン、ホルト・マッキャラニー、デヴィッド・デンマン、ホープ・デイヴィス、ロジャー・デール・フロイド、アンドリュー・バイロン・バチェラー、メリン・ダンジー、ゲイリー・ウィークス、トレイシー・ボナー、クレア・ブロンソン、スコット・ポイスレス、マディソン・ジョンソン、ランダル・ゴンザレス、ジョシュ・ミケル、ジェームズ・ローガン、ランドール・アーチャー、マイク・シニア、トミー・ロザレス、ケンドリック・クロス、スハイラ・エル=アター、アル・ミッチェル、マーク・ゴーワン、カルロス・ロペス他。


『オーバードライヴ』『エンド・オブ・ステイツ』のリック・ローマン・ウォーが監督を務めた作品。
『追憶の森』『ダーク・スクール』のクリス・スパーリングが脚本を担当している。
ジョンをジェラルド・バトラー、アリソンをモリーナ・バッカリン、デイルをスコット・グレン、パイロットをホルト・マッキャラニー、ラルフをデヴィッド・デンマン、ジュディーをホープ・デイヴィス、ネイサンをロジャー・デール・フロイド、コリンをアンドリュー・バイロン・バチェラー、ブリーンをメリン・ダンジーが演じている。

冒頭、ジョンは携帯電話で妻子の写真を見ているし、かなり気にしている様子だ。わざわざ仕事を早退するぐらいだし、何か大切な用事があるんだろうと思った。
ところが、特に何も無いのだ。アリソンと話して、ネイサンと話して、それで終了なのだ。
だったら、「ジョンが仕事を早退して帰宅する」という手順を冒頭に用意した意味は何なのか。
ただ単に「家族の紹介パート」として帰宅させるだけなら、普通に「仕事を終えて帰宅する」ってことでいいだろ。もしくは、いきなり家庭のシーンから入ってもいいだろ。
どうせジョンが高層ビルの仕事を仕切っている設定なんて、以降のストーリー展開に何の影響も与えないんだから。

なぜジョンとアリソンの関係がギクシャクしているのか、その理由がサッパリ分からないまま話が進む。デイルがジョンに「君らの結婚は破綻してた」と言うが、破綻の原因までは触れない。
その後、どうやらジョンの浮気が原因らしいってことは何となく見える。でも、その設定を全く活用できていない。
たぶん、「危機的状況に陥る中で改めて互いの大切さを感じ、破綻していた夫婦関係が修復される」というドラマを描きたかったんだろう。
でも、そんなドラマは皆無なので、だったら夫婦関係は円満にしておけばいい。

数週間前に出現した彗星に関して、政府や専門機関は衝突2日前になるまで重大な危機を全く予測できていない。
2日前に慌てて大統領アラートを出して一部の人間だけを避難させようとするが、その選抜基準は全くの不明。
ネイサンの糖尿病が判明すると基地の軍人たちは搭乗を却下するが、選んだ避難者の病歴についてはデータを持っていなかったのか。そういう情報も把握した上で、避難者を選んだんじゃないのかよ。
搭乗の直前になって病人と判明したら拒否するって、裏を返せば秘密にしておけばシェルターに移動できるわけで、幾ら緊急措置だからって管理体制がユルすぎるだろ。

彗星が落下するまでは嘘の場所が報じられており、落下した後になって初めて「実は」と明かされる。大統領アラートも当事者以外には知らされず、その当事者にも詳しい事情は何も説明されない。
パニックを避けるために政府が情報を出さず、選抜者を避難させようとしている設定らしい。
だけど、大統領アラートが知らされた場所に友人や知人があることもあるだろうから、すぐに情報は広まるだろう。実際、ニュースでは「一部市民が大統領アラートを受信し、秘密のシェルターへ移される」ってことが報じられている。街では暴動が起きているし、基地にも大勢の人々が押し寄せている。
なのでパニックは全く防げておらず、やり方がアホすぎると感じる。
グリーンランドにシェルターがある情報まで漏れているんだから、情報統制が全く出来ていないんだよね。

ネイサンが毛布を欲しがってリュックを開けたせいで、インスリンの薬を外に出してしまう。アリソンは兵士に薬のことを喋り、ネイサンの病気を知られてしまう。
どっちの行動も、もちろん仕方がないことではあるのだが、ボンクラすぎると感じる。
それが原因でピンチが発生し、緊迫感が起きるのだから、必要な作業とは言えるのだろう。
ただ、一家にピンチを与えたり、物語に緊迫感を持たせたりするための仕掛けによって、観客が余計なストレスを感じる状態になっている。

ラルフは車を発進させた後、「アラートを受け取った連中は運がいい。政府は危機を察知し、金持ちを運びやがった」と憎々しげに話す。
その言葉を聞いているのに、アリソンはリストバンドが見える状態で放置しているし、ネイサンはジョンが飛行機にいることを平気で喋る。
それは警戒心が無さすぎるだろ。まだネイサンは7歳だからってのが言い訳になるけど、アリソンの警戒心の薄さは擁護できない。
ただ、そう思っていたらジョンもリストバンドが見える状態にしているので、家族揃ってボンクラにしか見えない。

コリンは職業で選別者が決められたと思っており、ジョンに職業を尋ねて「建築技術者だ。高層ビルを造ってる」という言葉に「確かに必要だ」と納得している。
でも、こっちは全く腑に落ちない。
建築技術者が必要だとしても、ジョン以外にもアメリカ国内には同じ職業の人間が大勢いるだろ。まさか、建築技術者を全て選別したわけでもあるまい。
もし全員を選んでいるとしたら、逆に軍人を全く選ばない理由は何なのか。その基準は、やっぱり良く分からない。

ラルフはアリソンから「ネイサンが病人だから搭乗を拒否された」と聞いたのに、「別の家族なら大丈夫かもしれない」と言い出す。
だが、彼がネイサンを拉致して基地へ向かうのが、アホにしか見えない。
何をどう解釈したら、「別の家族なら大丈夫かも」と思えるのか。
特殊な状況で冷静な判断力を欠いているという事情はあるかもしれないが、それにしても無理があるだろ。自分のリストバンドは無いのに、それをどうするのかも全く考えちゃいないし。

そのリストバンドは本人証明の唯一の道具としてアメリカ政府が用意した物であり、決して他人は使えないはずだ。
ところが、ジュディーがアリソンのリストバンドを提示した時、憲兵は別人だと気付いていない。それどころか、ラルフが「自分のリストバンドは盗まれた」と嘘をつくと、憲兵は「上官に話す」と言う。
つまり、その嘘で通れる可能性もあるってことなのだ。本人確認のシステムがグダグダなのよ。
そんなユルユルなら、もうリストバンドじゃなくて普通の身分証で確認すればいいだろ。
リストバンドが「それを巡って争いが起きる」という展開だけのモノになっており、選別システムとしては完全に機能不全を起こしている。

基地には多くのテントが並び、ネイサンだけでなく大勢の人々が保護されている。だが、保護施設が何のためにあるのか全く分からない。
ネイサンは女医の治療を受けているが、その必要性も全く分からない。
どうせシェルターに収容されない人間は、2日後の隕石衝突で死ぬことが確定的な状態にあるわけで。
そこでの人類滅亡を防ぐために、政府は選別した人間の保護を決めたんでしょ。だったら、避難者を確実に守ることに全精力を注いだ方がいいでしょ。
医者にしても、そこで仕事をさせずにシェルターに運んだ方がいいし。

言うまでもないだろうが、もちろんジョンたちは無事にシェルターまで辿り着く。そして映画の最後は隕石衝突の9ヶ月後に飛び、外に出た避難民が世界各地のシェルターと交信する様子を描く。
その9ヶ月間を、避難民は何も揉めず平和に過ごしたのね。なんて都合のいい省略だこと。
あと、隕石衝突から9ヶ月で放射線はゼロ、太陽が当たって普通に暮らせる状態になっているって、どんだけ回復が早いのか。
そこはさ、9ヶ月後に飛ばず、シェルターに避難して隕石衝突を無事にやり過ごした直後で終わらせれば良かったんじゃないの。そんで「俺たちは戦いはこれからだ」みたいなトコでエンディングにしておけば良かったんじゃないの。

(観賞日:2022年12月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会