『グレートウォール』:2016、中国&アメリカ

傭兵のウィリアムやトヴァールたちは、欧州を去って中国にやって来た。彼らの目的は、空気を炎に変えて一瞬で大勢の兵を殺すという魔法の黒い粉を見つけることだった。しかし盗賊団の襲撃で20名以上が犠牲となり、食料も底を突いていた。残り5名となった一行が野営していると、謎の怪物が密かに近付いた。ウィリアムとトヴァールが気付かない内に、仲間3人は姿を消した。ウィリアムたちは相手が何か分からないまま戦い、腕を切り落とした。怪物は岩の裂け目に落下し、ウィリアムは腕を持って移動することにした。
翌朝、ウィリアムとトヴァールは盗賊団に追われて逃亡し、万里の長城に辿り着いた。そちらの方が助かる可能性が高いと考えた2人は、警護の禁軍に降伏した。怪物の腕を見た司令官のリンは、どこが見つけたのか質問する。ウィリアムは自分が切り落としたと説明し、中国へ来た理由については「交易を求めて」と嘘をつく。バラードという西洋人が様子を見守る中、シャオ将軍やウー隊長、チェン隊長、ドン隊長たちが話し合った。兵士の報告が入ると、彼らは話し合いを中止した。
ワン軍師はウィリアムとトヴァールに、怪物の正体が饕餮(とうてつ)であり、腕を切り落とされたのは斥候だと教えた。ワンは「敵が攻めてくる。お前たちの体験談は貴重だ。すぐには殺さない」と言い、ウィリアムたちを監禁しようとする。しかし牢の鍵が無かったため、城壁へ連行させた。怪物の大群が城壁に迫り、禁軍は戦闘を開始した。拘束されていないバラードが物陰から怯えた様子で見ているのに気付いたウィリアムとトヴァールは、逃げられるかもしれないと考えた。
ウィリアムは見張り役のポンに、戦うよう要求した。ポンが怪物に向かって走り出すと、ウィリアムはバラードに「縄を解け」と叫んだ。拘束を解かれたウィリアムとトヴァールは、危機に陥っているポンを助けて怪物と戦う。2人は確実に怪物を仕留め、群れは咆哮を合図にして一斉に退却した。ウィリアムとトヴァールはシャオに戦いを評価され、賓客として滞在することになった。バラードはウィリアムたちの狙いが黒い粉だと聞き、自分も25年前に同じ目的で中国へ来たことを明かした。
バラードの言葉から、ウィリアムとトヴァールは彼が火薬のありかを知っており、逃げ出すことが出来ずに留まっていると推察した。彼らはバラードと組んで火薬を手に入れ、国に帰ろうと考える。会食の席に呼ばれた2人は、万雷の拍手で迎えられた。弓の腕前を見たいと言われたウィリアムは、トヴァールの投げた皿を矢で柱に固定する芸当を披露した。ウィリアムはリンと話し、彼女がバラードから英語とラテン語を学んだことを聞く。バラードはトヴァールに、「逃げたい気持ちを悟られないようにしろ。黒色火薬を求めて訪れた西洋人は多い。今夜、話し合おう」と告げた。
リンが孤児だと知ったウィリアムは、「同じだな。物心付いた頃から軍隊にいた」と話す。「祖国のため?」と問われた彼は、「いや、金で雇われる傭兵だ」と答えた。リンは「私とは違う」と言い、見せたい物があると告げて城壁に誘う。彼女はウィリアムに、ロープを腰に結んで城壁から飛び降りるよう持ち掛けた。リンが「長城の兵士は金や食べ物では戦わない。いかなる時も互いを信じ合っている」と語ると、ウィリアムは「俺は遠慮させてもらう。今日まで生き延びたのは、誰も信じなかったからだ」と述べた。「誰かを信じなければ、誰からも信頼されない」というリンの言葉に、彼は「アンタが正しい。俺たちは似てない」と口にした。
バラードは自分の部屋にウィリアムとトヴァールを招き、ワンから特別に分けてもらった黒色火薬の威力を見せた。彼は2人に、禁軍が饕餮と戦っている隙に抜け出す計画を語った。ワンはウィリアムとトヴァールを呼び、2人が持っていた磁石に関心を示して「この石には強い力がある。我らの助けになるだろう。試す価値はある」と語った。「どこから饕餮は湧いてくる?」という質問に、彼は「二千年ほど昔、強欲な皇帝に民が苦しんだ。天は隕石を降らせて一帯を緑に変え、饕餮を放った。それ以来、60年おきに饕餮が現れ、暴れるようになった。奴らは女王に餌を運ぶ。女王は兵隊に食事を委ねており、次々と子を産んで数を増やす」と説明した。
その夜、饕餮が壁を登って姿を現し、シャオはリンを伴って兵隊に指示を出す。背後からも別の饕餮が襲い掛かり、シャオはリンを守って瀕死の重傷を負う。彼はリンを後継者に指名し、息を引き取った。宮廷から来たシェン特使は、900年前の戦いを記録した巻物をリンたちに見せた。そこには饕餮が動きを止めた隙に皆で仕留めたことが書かれており、磁石が女王への指示を妨げて力を削いだのではないかとシェンは推測を語った。
話を聞いたウィリアムは、銛で饕餮を捕まえて磁石の降下を確かめようと提案した。トヴァールは彼を連れ出し、「戦いの間に逃げる計画だぞ。手を貸すな」と釘を刺した。しかしウィリアムは禁軍と共に、長城で饕餮を待ち受ける。トヴァールはバラードからウィリアムを諦めて逃げるよう促されるが、「あいつを待つ。あいつの弓が必要だ」と同意しなかった。群れが現れたため、禁軍は眠り薬を塗った銛を放つ。鎖に繋いだ銛が1頭の腹に突き刺さると、ウィリアムは城壁から飛び降りた。
禁軍が援護する中、ウィリアムは眠りに落ちた饕餮を引き上げようとする。そこへ他の饕餮が襲い掛かると、トヴァールが文句を言いつつも助けに駆け付けた。ウィリアムとトヴァールは群れと戦い、禁軍は火薬を結んだ矢を放って援護する。ウィリアム爆風で怪我を負い、意識を失った。目を覚ましたウィリアムは、リンから饕餮の生け捕りに成功したことを知らされる。「なぜ城壁から飛び降りた?」と質問された彼は、「信念」と答えた。本当は黒色火薬を使いたくなかったとリンは言い、「ここで見たことは忘れろ」と告げた。
檻に閉じ込めた饕餮は激しく暴れたが、ワンが磁石を近付けると静かになった。シャオは饕餮を皇帝に献上するよう命じ、護衛の部隊と共に都へ向かった。ウィリアムはトヴァールに、「黒色火薬を国外へ持ち出すべきではない」と説く。彼はトヴァールからから「英雄にでもなりたいのか。だが、お前は泥棒で人殺しだ。過去を消すことは出来ない」と言われ、激怒して詰め寄った。トヴァールはウィリアムを見限り、バラードと共に逃げることを決めた。トヴァールとバラードは、武器庫の扉を爆破する。駆け付けたウィリアムが制止しようとするが、トヴァールは彼を昏倒させて逃走した。ウィリアムは禁軍に捕縛され、「止めようとした」という弁明は聞き入れられなかった。ポンが無実を証言したためウィリアムは死刑を免れたものの、牢に収監されてしまう…。

監督はチャン・イーモウ、原案はマックス・ブルックス&エドワード・ズウィック&マーシャル・ハースコヴィッツ、脚本はカルロ・バーナード&ダグ・ミロ&トニー・ギルロイ、製作はトーマス・タル&チャールズ・ローヴェン&ジョン・ジャシュニ&ピーター・ローアー、製作総指揮はジリアン・シェア&アレックス・ガートナー&E・ベネット・ウォルシュ&ラ・ペイカン&チャン・チャオ、共同製作はエリック・ヘダヤ&チャン・ワン&アレックス・ヘドランド、撮影はスチュアート・ドライバーグ&チャオ・シャオティン、美術はジョン・マイヤー、編集はメアリー・ジョー・マーキー&クレイグ・ウッド、衣装はマイエス・C・ルベオ、視覚効果監修はフィル・ブレナン&ベン・スノー&サミール・フーン、アニメーション監修はジャンス・ルビンチック、音楽はラミン・ジャヴァディー。
出演はマット・デイモン、ペドロ・パスカル、ジン・ティエン、ウィレム・デフォー、アンディー・ラウ、チャン・ハンユー、ルハン、エディー・ポン、ケニー・リン、ワン・ジュンカイ、チェン・カイ、ホアン・シュアン、チーニー・チェン、ピルー・アスベック、ヌーマン・アチャル、ジョニー・シッコ、ユー・シャンティアン、リウ・ビン他。


『単騎、千里を走る。』『王妃の紋章』のチャン・イーモウが監督を務めた作品。
脚本は『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』『魔法使いの弟子』のカルロ・バーナード&ダグ・ミロ、『ボーン・アルティメイタム』『消されたヘッドライン』のトニー・ギルロイの共同。
ウィリアムをマット・デイモン、トヴァールをペドロ・パスカル、リンをジン・ティエン、バラードをウィレム・デフォー、ワンをアンディー・ラウ、シャオをチャン・ハンユー、ポンをルハン、ウーをエディー・ポンが演じている。

この映画を製作した会社は、レジェンダリー・ピクチャーズだ。
映画情報に詳しい人なら、アメリカの映画会社だったレジェンダリー・ピクチャーズが中国の大連万達グループに買収されたことは知っているだろう。
買収されたのは2016年であり、その直後に作られたのが、この映画。ってなわけで、中国が舞台になっているわけだ。
あと、ジン・ティエンが主要キャストに起用されているのは、恋人が大連万達グループの大株主だからだ。いわゆる強力なコネってやつね。

大連万達グループやレジェンダリー・ピクチャーズアジアとしては、中国を舞台にした作品であっても世界の映画市場、特にアメリカ市場でヒットさせたい。しかし中国人俳優しか出演していない映画をアメリカでヒットさせるってのは、かなり難しい。
マット・デイモンを主演に起用したのは、当然と言えば当然のことだろう。
今の時代なら、中国に西洋人がいてもそんなに変ではないだろう。しかし昔の話なので、「火薬を手に入れるために欧州から遠征してきた」という言い訳を用意している。
ちなみにヘイデン・クリステンセンとニコラス・ケイジが出演した2014年の『ザ・レジェンド』では、「十字軍の騎士が離脱して中国に辿り着いた」という設定にしてあった。
どんな風に頑張っても、やはり無理を通すことになってしまうようだ。

チャン・イーモウはエンタメ映画も手掛けるが、芸術性の高さで評価される作品を撮っている。
カンヌ国際映画祭で3度もパルム・ドール候補になり、ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞と銀獅子賞と国際映画批評家連盟賞、ベルリン国際映画祭では金熊賞と審査員特別賞とアルフレード・バウアー賞を受賞している。
それ以外にも、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞や全米映画批評家協会賞外国語映画賞など、数々の映画賞を獲得してきた。
映画の仕事以外でも、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』の演出を手掛けたり、北京オリンピック開会式と閉会式の演出を担当したりしている。

つまりチャン・イーモウは、芸術的に素晴らしい映画を撮る人物として世界的に評価されている巨匠なのだ。スケールの大きなポンコツ映画を作りがちなマイケル・ベイやローランド・エメリッヒとは、まるでモノが違うのだ。
そんな偉大なる芸術家であるチャン・イーモウが、自分の持つセンスと能力を全て注ぎ込んで、壮大なスケールのポンコツ映画を撮った。
それこそが、この『グレートウォール』なのだ。
ポンコツ映画しか撮れない人によるポンコツ映画ではなく、芸術性の高い名作を送り出してきた巨匠が撮ったからこそ、これがポンコツであることには大きな意味があると言ってもいいだろう。
具体的にどんな意味かと問われたら、それは知らんけど。

チャン・イーモウ作品では、深みのあるテーマや崇高なメッセージが込められているケースもある。繊細な心理描写や、濃密な人間ドラマが含まれているケースもある。
しかし本作品には、そんな物は微塵も無い。各種の映画祭で高く評価されてきたような作品群とは、一線を画している。隅から隅まで、徹底してポンコツ仕様になっている。
頭をからっぽにして、バカになって見ることが適している映画だ。いや、適しているっていうか、そういうことを強いられる映画と言った方がいいだろう。
「チャン・イーモウだから」ってことで変な深読みしたり、真面目に捉えたりすることは避けた方が賢明だ。

裏を返せば、チャン・イーモウ監督が苦手な人でも、この映画なら大丈夫ってことになる。
普段はハリウッドのアクション映画しか見ないような人でも、これなら問題ない。例えば『ワイルド・スピード』シリーズが大好きな人でもOK。『シャークネード』シリーズが好きな人でもOKだ。
ただし、それは「気軽に見られる」という意味であって、決して「そういう人は楽しめる」ってことではない。
ポンコツであることは事実なのでね。

チャン・イーモウは色使いに特徴のある監督なので、禁軍は役割によって甲冑の色が違う。
城壁から発射武器を構える連中は、赤い甲冑。城壁で接近戦を担当する面々は紫の甲冑。一斉に太鼓を叩く面々は女性兵士で、青い甲冑。
ロープを腰に結んで両手に槍を持つ女性たちも、同じ格好をしている。彼女たちは怪物の群れに向かってダイブし、槍で突き刺しては再び城壁へ戻り(ロープで引っ張ってもらう)、また新たな槍を受け取ってダイブする。
この攻撃が、いかに効率が悪くて愚かしいかは、実際に映画を見てもらえれば良く分かる。
次々に怪物の餌食となっており、ほとんど役に立っていない。

ザックリ言うと、これは「人間の兵隊がモンスター軍団と戦う」という話である。それ以上でも、それ以下でもない。
中身は見事なぐらいスッカラカンであり、極端に言ってしまえばアクションシーンとVFXだけを見る映画である。
チャン・イーモウほどの巨匠が、こんな映画を引き受けたことを意外に思う人もいるかもしれない。
しかし、彼ほどの巨匠なので、もちろん「単なる雇われ仕事」というわけではない。本人が希望して、積極的に取り組んだ結果が、この仕上がりなのだ。

ウィリアムたちが野営中に襲われるシーンでは、まだ怪物の姿を観客に明かしていない。なので、しばらくは隠したまま引っ張るというモンスター・ホラー映画のセオリーを使うのかと思ったが、開始から20分も経たない内に「怪物の群れが長城を襲撃する」というシーンが描かれる。
そこで怪物の姿を隠すわけにはいかないので、堂々と見せている。それも1匹じゃなくて、無数の群れだ。
だったら、先に1匹の姿を見せておき、それから群れによる戦闘シーンに入った方が良かったんじゃないかと。そうすれば、「怪物としての衝撃」と「大群としての衝撃」は、別々で与えることが出来るんだから。
つまり、1つ損をしている形になるのよね。
怪物は1種類じゃなくて複数なので、1匹を最初に見せたとしても他の種類は残っている。ただ、1つの種類を見せておけば、そこで「怪物としての衝撃」は、ほぼ消化できてしまうんじゃないかと。

「牢屋に監禁しようとしたら鍵が見つからないから城壁へ連行する」という展開があるが、どんだけボンクラなのかと。なんで牢屋の鍵が無いのよ。そして鍵が無いにしても、なんで城壁へ連行するのよ。
メチャクチャだ。「ウィリアムとトヴァールが戦闘の様子を目にする」という状況を作りたいからって、筋書きがデタラメすぎる。
でも、このシーンが本作品のテイスト(っていうかレベルっていうか)を顕著に表していると言っていい。
この映画は全体を見回しても、ほぼ混じりっ気無しのデタラメ成分のみで出来ている。

火薬を手に入れて逃げ出すつもりだったウィリアムだが、長城に留まって禁軍に手を貸す。彼は何の恩義も無い禁軍のため、命懸けで戦う。
そこには熱い人間ドラマがあってもいいはずだが、そんな物は何も無い。
例えばポンとの間に友情が芽生えるとか、シャオの自己犠牲の精神に心を打たれるとか、ワンの崇高な精神を知って正義感に目覚めるとか、何だっていいのだが、使えそうな要素さえ見出せない。
その結果、バラードが指摘するように「ウィリアムはリンに惚れただけ」ってことにしか見えない。
「惚れた女のために戦う」ってのが、必ずしも悪いってわけではない。ただ、この映画では、それが「陳腐で浅薄な理由」になっている。

終盤、饕餮が抜け穴を掘って領内に侵入していたことが判明する。大勢の兵士がいて警備もしているだろうに、今まで全く気付かないんだから、どれだけ禁軍がボンクラかってことだ。
で、既に磁石が動きを制することは判明しているので、それを使った作戦でも始めるのかと思いきや、ワンが「1つだけ方法がある。女王を殺せば他は全て死ぬ」と言い出す。
いやいや、それなら最初から女王を殺すための作戦を考えれば良かったでしょ。
っていうか「女王を殺せば群れは全滅」って、どんだけ都合の良すぎる種族だよ。

バラードはトヴァールと共に逃げた後、火薬を持ってトンズラしてしまう。そんな奴なので、ベタに考えれば「饕餮に襲われて死ぬ」という結末がふさわしい。
しかし、彼は盗賊団に捕まり、「何も知らない盗賊団が火を火薬に近付けたので大爆発で全滅」というオチになる。
そりゃあ冒頭シーンで盗賊団が登場していたし、その後は完全に放り出されていたので、一応は「ちゃんとフォローした」ってことになるのかもしれない。
でも、そいつらも饕餮の餌食にしておけば良かっただけだしね。

一方、バラードに騙されたトヴァールは、駆け付けた禁軍に捕まってしまう。そして全ての戦いが終わった後、ウィリアムは「黒色火薬を持ち帰るか、トヴァールを救うか」という二択を皇帝に迫られ、後者を選ぶ。
表面的に見れば、「絆の深さを示すシーン」ってことになるだろう。
だけど、トヴァールはウィリアムを見捨てて逃げたんだぜ。下手すりゃウィリアムは処刑されていたんだぜ。
ウィリアムが彼の命を救うのなら、トヴァールは「やっぱり思い留まってウィリアムを助けようとする」という動かし方にしておかなきゃダメでしょ。
完全に裏切って見殺しにしようと企んだ奴を助けて「俺たちは親友じゃないか」ってな結末にされても、ちっとも腑に落ちねえよ。

(観賞日:2019年8月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会