『グレート・レイド 史上最大の作戦』:2005、アメリカ&オーストラリア
1941年、日本軍は真珠湾を奇襲し、アメリカ艦隊の戦力を奪った。10時間後にはフィリピンを攻撃し、島々を征服していった。ルソン島では1万のアメリカ人兵士と6万のフィリピン人兵士がバターン半島に退却した。海軍の救援は無く、後方を海に塞がれて追い詰められた。公約を破って参戦を決めたルーズベルト大統領はヨーロッパ戦線に集中し、バターン半島の兵士たちは後回しにされた。命令を受けたマッカーサー大将はオーストラリアへ脱出し、バターン半島には物資の供給が無いまま4ヶ月が過ぎた。
飢えたアメリカ兵とフィリピン兵は日本軍に降伏し、7万人の捕虜はバターンから移されることとなった。衰弱した兵士は列から外れると射殺されて死者は1万人を超えた。生き残った者は収容所に入れられたが、降伏を恥とみなす日本軍は捕虜を冷遇した。そのため、数千人が飢えや病気や虐待で死亡した。戦況の変化で敗戦を重ねた日本軍は、証拠を残さず捕虜を皆殺しにする方針を発表した。パラワンの捕虜収容所にも通告が届き、日本軍は捕虜たちを防空壕に閉じ込めて焼き殺した。
1945年1月27日。フィリピン奪還のためルソンに上陸した兵士たちの中に、第6レンジャー大隊に所属するプリンス大尉の姿があった。彼は職業軍人になるつもりなど無く、早く任務を終えて妻も元へ帰りたいと望んでいた。指揮官であるムッチ中佐は誰よりも意欲に満ちており、実戦経験の乏しい兵士たちで精鋭部隊を作るという任務も積極的に引き受けた。新しい地図を完成させたプリンスはトップ曹長にムッチの居場所を訪ね、ポーカーをしている彼に届けた。
プリンスたちは何ヶ月も訓練ばかりしており、ムッチの個人的な部隊と見られていた。クレーガー中将はムッチを呼び、ホワイト大佐とラッファム少佐を紹介した。ラッファムはバターン陥落の前に前線を離れ、ルソン島でゲリラ隊を指揮していた。ラッファムはムッチに、カバナチュアン収容所に大勢の捕虜がいること、兵を進めれば彼らが日本軍に殺されることを語る。続いてホワイトは、マッカーサー上陸を受けてパラワンの捕虜が殺されたことを話した。
クレーガーはカバナチュアンに3万人の日本軍がいることを告げ、朝までに作戦を考えるようムッチに命令した。プリンスはムッチから、奇襲作戦の立案と指揮を任された。情報が少ないため、プリンスは頭を悩ませた。一方、カバナチュアンで収容されているギブソン少佐やレディング大尉たちは、マッカーサーが南方諸島を制圧してルソンに上陸したという情報を得た。しかしマッカーサーが助けに来てくれるという確実な情報は無く、まるで安心は出来なかった。脱走を図ったヒューイットは捕まり、仲間の前で吊るされた。
捕虜たちは日本兵の監視を受け、カバナチュアン市内での肉体労働に赴いた。ギブソンはコルヴィン中尉に見張りを任せ、売店のミナと接触した。ミナはギブソンたちに協力するレジスタンスの一員であり、以前から密かに薬や情報を与えていた。ミナが監視されていることを明かすと、ギブソンは「マーガレットに危険を冒すなと伝えてくれ」と言う。「無駄よ言っても聞かない」とミナが告げると、ギブソンは用心するよう伝えてくれと頼んだ。
コルヴィンはレディングにマーガレットのことを訪ね、アメリカ人看護師であること、マニラの地下組織で活動していること、元部隊長の夫は1年前にマラリアで死んだこと、ギブソンは彼女を想い続けていることを聞いた。ムッチは部隊の面々を集め、五百人の捕虜を救出する奇襲作戦を宣言した。オルドリッジやルーカスたちが準備に入る中、トップは自分が名簿に含まれていないことについてプリンスに尋ねる。プリンスは妻帯者を除外したことを説明するが、トップは懇願して同行を許可された。
収容所の日本兵たちが一斉に退去するのを見たレディングは、マッカーサーが来るので逃げ出したのだと考える。ギブソンは「これは罠だ。こっちが門の外に出れば処刑の理由になる」と語るが、レディングは外へ出ると言い出した。「どこへ行くんだ。外へ出てもジャングルだ」とレディングが反対すると、ギブソンは「心配するな。アンタの許可が無きゃ逃げないよ」と言う。彼はヒューイットの遺体を下ろし、仲間のデュークに牧師を呼ぶよう指示した。捕虜たちは日本軍の兵舎へ入り、食事を口に放り込む。レディングは倉庫の鍵を開け、保管されていた食料を見つけて配布した。
ムッチたちは収容所へ向かう日本軍の隊列を目撃し、偵察兵を差し向けた。マーガレットやミナたちはレジスタンスの拠点である教会に集まり、カバナチュアンの捕虜が解放されるまで戦う意志を再確認する。ミナはギブソンと会ったことをマーガレットに教え、マラリアを患って具合が悪そうだったと告げる。収容所には日本軍の秘密警察が現れ、兵舎からラジオを持ち出そうとしていた捕虜をヒコベが射殺した。秘密警察を指揮するナガイ少佐はギブソンを呼び出し、「あと数週間でアメリカ軍はフィリピンを奪還するだろう。秩序を守れば、ここで過ごす残りの時間を悪いようにはしない。だが、誰かが逃げ出そうとすれば他の捕虜10人を殺す」と述べた。
奇襲部隊はリサール橋の近くに身を潜め、日本軍の動きを観察した。収容所への移動は予定より遅れており、彼らは隙を見て先を急いだ。ギブソンは悪性のマラリアで寝込み、レディングが看病に当たった。マーガレットは勤務するマニラ病院の倉庫から薬を持ち出そうとするが、日本軍が来て全ての職員が拘束された。彼らは捕まえた女の面通しでレジスタンスを指名させ、数名が連行される。マーガレットは指名されずに済んだが、仲間のコーラは射殺された。ミナはマーガレットと合流し、尾行されていることを教えた。マーガレットは「私が何とかする」と言い、ミナに薬を渡して逃亡を指示した。
ムッチの部隊はパゴタ大尉が率いるゲリラ部隊と接触し、日本軍によって大勢の村人たちが殺されたことを知る。そこへ偵察部隊が合流し、ムッチたちは収容所に関する報告を受けた。しかし情報が足りないとプリンスは言い、ムッチは偵察部隊のエイブルに奇襲までの12時間で詳しく調べるよう指示した。プリンスは作戦決行を延ばして偵察に時間を割くよう進言し、今のままでは捕虜の安全が保証できないと告げる。パゴタは日本軍の部隊が北へ向かっていること、今夜に収容所の前を通ることを話し、作戦を遅らせるべきだと述べた。
ムッチはエイブルに、「何人か連れて行け。出発は今夜だ」と告げる。パゴタはプリンスに、「あの収容所を襲撃しようと何度も思ったが、ほとんどの捕虜は病気か怪我で歩けない」と話す。彼は「捕虜を運ぶ手段が水牛車だ。24時間で用意できる」と言い、ここへ連れて来ることは危険なので他の場所へ移るようムッチを説得する必要があると話す。ムッチはプリンスに、「24時間遅らせる。クレーガー中将に知らせろ」と命じた。
マーガレットの動きを見張っていた憲兵のヤマダは、彼女を司令部へ連行して尋問する。マーガレットはレジスタンスとの関係を否定するが、聖書に挟んでいたギブソンの写真を発見された。捕虜たちは理由の説明も無く、防空壕を掘らされていた。ヤマダからの情報を受け取ったナガイはギブソンを呼び出し、「マーガレットに自白させて仲間の名前を教えれば、2人を安全にフィリピンから脱出させてやる」と持ち掛けた。「断ったら死ぬだけだ」と言われたギブソンはマーガレットが脅しに屈しなかったと確信し、取引を拒絶した。
ヤマダは「探していた奴らが見つかったよ」と言ってマーガレットを解放し、射殺したミナと仲間たちの姿を見せ付けた。マーガレットは教会へ戻り、マクファーソン神父の前でギブソンを救うため仲間を犠牲にしたことへの後悔を口にした。マクファーソンは「みんなが彼を救おうとしていた」と言い、アメリカ軍が来るまで仲間が匿ってくれると告げる。日本軍が教会へ来たため、マクファーソンはコナー神父に指示してマーガレットを裏口から逃亡させた。
ギブソンはレディングが逃亡を図っていると推理し、コルヴィンに「デュークたちに見張らせろ」と指示した。ムッチはパゴタから救出作戦におけるゲリラ部隊の役割を問われ、「脇を固めてもらおうと思っている」と答えた。パゴタは「我々の戦いでもあります。ウチの兵は規律を守る」と訴えるが、ムッチは「側面を強化できて有り難い」と告げた。プリンスは軍医のフィッシャーに、「ムッチ中佐のことが理解できるか?前は何の疑問も持たなかったが、今は全く意見が合わない」と語った。
収容所では警備が強化され、捕虜を始末する準備が進められた。見張りのデュークが眠り込んでいる内にレディングは逃亡するが、すぐに捕まって連れ戻された。ナガイは捕虜たちを集め、「1人が言い付けに背いたので、他の10人に罰を受けてもらう」と告げる。レディングを含む10人の捕虜を選んだ彼は、ギブソンたちの前で銃殺させた。ムッチは収容所の動きを知らされ、カブー橋を偵察して千人を超える日本軍の集結を知った。彼はパゴタの提案を受け、ゲリラ部隊がカブー橋を爆破して戦車を止める作戦を承諾した。
レディングはコルヴィンに、マーガレットへの手紙を代筆するよう頼んだ。プリンスはゲリラが日本の援軍を食い止め、レンジャー部隊が収容所を攻撃する作戦をムッチたちに説明した。陽動作戦が必要かもしれないと彼が告げると、パゴタは飛行機を飛ばすことを提案した。ムッチは時計の時刻を合わせ、それぞれの小隊は役割を与えられた場所へ向かう。飛行機が収容所の上空を飛び回ると、ナガイは見張りを厳重にするよう部下たちに命じた。救出部隊は深夜になるのを待ち、ついに行動を開始した…。監督はジョン・ダール、原作はウィリアム・B・ブリューアー&ハンプトン・サイズ、脚本はカルロ・バーナード&ダグ・ミロ、製作はローレンス・ベンダー&マーティー・カッツ、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ジョナサン・ゴードン&ミシェル・レイモ・アブア、共同製作はアンソニー・ウィンレー、撮影はピーター・メンジースJr.、美術はブルーノ・ルベオ、編集はスコット・チェスナット&ピエトロ・スカリア、衣装はリジー・ガーディナー、音楽はトレヴァー・ラビン。
出演はベンジャミン・ブラット、ジェームズ・フランコ、コニー・ニールセン、マートン・ソーカス、ジョセフ・ファインズ、マーク・コンスエロス、マックス・マーティーニ、ローガン・マーシャル=グリーン、ロバート・マモーネ、シーザー・モンターノ、ジェームズ・カルピネロ、クレイン・クロフォード、小林元樹、綱島郷太郎、クレイグ・マクラクラン、サム・ワーシントン、ケニー・ダウティー、ナタリー・メンドーサ、パオロ・モンタルバン、マサ・ヤマグチ、ポール・ナカウチ他。
第二次世界大戦中に日本軍のカバナチュアン刑務所から捕虜を救出した米軍の作戦を題材とする作品。
監督は『レッドロック/裏切りの銃弾』『ロードキラー』のジョン・ダール。
脚本のカルロ・バーナード&ダグ・ミロは、いずれもデビュー作。
ムッチをベンジャミン・ブラット、プリンスをジェームズ・フランコ、マーガレットをコニー・ニールセン、レディングをマートン・ソーカス、ギブソンをジョセフ・ファインズ、グティエレスをマーク・コンスエロス、トップをマックス・マーティーニが演じている。
日本からもナガイ役の小林元樹やヤマダ役の綱島郷太郎、タケダ役の泉原豊たちが参加している。冒頭、プリンス大尉のナレーションにより、1945年1月27日を迎えるまでの経過が説明される。様々な映像が写し出され、フィリピンにおける米軍捕虜の置かれている状況が示される。
「バターン死の行進」は有名な史実だが、知らない人もいるだろう。それ以外の情報は、さらに知らない人も多いだろう。なので捕虜奪還作戦の前に、「どういう経緯を経て、どういう状況にあるのか」を説明しておく必要性は、充分に理解できる。
ただ、理解は出来るが、「冒頭で観客を掴む」ということを考えた時、大きなマイナスだとも感じる。
そのクドクドとした説明で、のっけから退屈が襲って来る。ちっとも「この映画を見てみたい」という意欲を掻き立てない。説明は大事だけど、それよりも「今すぐに捕虜を救出しないと全員が殺される」という危機的状況にあることを、もっと強くアピールした方がいいんじゃないかと。
説明が終わった後に焼き殺されるシーンは用意してあるけど、そこまでが長すぎるのよね。もうちょっと簡単に済ませて、「米軍捕虜が日本軍によって捕虜が無残に惨殺されている」という危機的状況を示すことに重点を置いた方がいいんじゃないかと思うのよ。
ぶっちゃけ、そのためなら、ある程度は説明不足になっても有りかなと。
正直なトコロ、戦争が始まったきっかけとか、戦況が変化して日本軍の捕虜惨殺指令が下ったとか、そこまで重要な情報とも思えないのよ。そういうのって、物語を先に進めて、途中で説明を入れても事足りるだろうし。そこまでの経緯や状況の説明には丁寧にやっている一方で、プリンスたちの部隊に関する情報は乏しい。
彼らは実戦経験が未熟な兵士の集団という設定だが、そんな連中が捕虜奪還という重要な任務を任される理由は何なのか。
絶対に成功させなきゃいけない作戦なんだから、もっと経験豊富な部隊に任せようとするのが普通じゃないのか。
それについて誰も疑問を提示する奴がいないし、だから何の引っ掛かりも無くスルーされてしまい、「こういう理由で選ばれた」という説明は無いままになっている。ムッチの部隊は実戦経験が無い連中ばかりという設定だが、奇襲作戦に不安を示す奴はいない。初めての実戦だから緊張したり、パニックに陥ったり、大きな失敗をやらかしたりということがあっても良さそうなモノだが、そういう描写が出て来ない。
そうなると、「だったら実戦ゼロで未熟な連中の集まりという設定は無意味だよね」と言いたくなる。
何のために、そういう設定を使っているのか。
それが史実の通りだったとしても、わざわざ言及した以上、そこに大きな意味を持たせるべきじゃないかと。捕虜の救出作戦を描く映画だが、奇襲部隊の動きだけを追っていくわけではない。ムッチ&プリンスを中心とする奇襲部隊、ギブソン&レディングを中心とする捕虜たち、マーガレットがメインのレジスタンスという、3つのグループの動きを並行して描いている。
複数の視点を用意することで話に広がりを持たせ、壮大なスケール感を表現する意図があるのかもしれない。
実際、長尺の戦争映画ということを鑑みても、その方針が間違っているとは思わない。
しかし残念ながら結果が出ていないので、失敗と言わざるを得ない。それぞれのグループには、前述した面々以外のキャラも大勢いる。何人かのキャラには、それなりの役割が与えられている。
しかし、その全てを充分に描写し、ちゃんと捌いているとは到底言えない。
レジスタンスに関しては、マーガレット以外は基本的に「殺されるために出てきた奴ら」という扱いなので、そこは薄くても大して問題は無い。捕虜については、どうせギブソン&レディングの他はコルヴィンが少し存在意義を示す程度なので、そこも構わないだろう。
厄介なのは、救出部隊である。部隊の中心はムッチとプリンスだが、それ以外にも大勢の面々がいる。
そいつらを十把一絡げで「部隊の面々」という扱いに割り切っているのなら、特に気にする必要は無いだろう。しかし、何名かは個人として粒立てようとしており、そのためのシーンも用意されている。
では、それに見合う存在感を発揮しているのかというと、答えはノーだ。中途半端にキャラを勃てようとしているが、誰が誰なのか判然としないままで映画は終わってしまう。
オルドリッジやルーカスなど、名前が出た時に「たぶん個人として何かしらの役割や見せ場を与えてもらっているんじゃないか」と感じる連中はいるが、存在意義は見えないままに終わってしまう。そもそも、メインであるムッチやプリンスでさえも、充分な人物描写やドラマが用意されているとは言い難いのだ。
プリンスはムッチと意見が合わずに悩むとか、ムッチは自身の判断が正しいのか苦悩するとか、一応の設定だけは見える。だが、そこを上手く取り扱うことが出来ておらず、何もかもが生煮えのままで放り出されてしまう。
救出作戦が始まるとマーガレットの関わる余地は無くなるから、すっかり存在が消えてしまう。
彼女とギブソンの恋愛ドラマも、盛り上げるための余裕は全く無い。そもそも、捕虜のパートやレジスタンスのパートって、ホントに必要なのかと思ってしまう。
「殺されるかも」「捕まるかも」みたいなトコで緊張感を煽ろうとしているんだろうとは思うけど、捕虜の大半は救出されると分かっているし、マーガレットが助かるのも余裕で予想できる。
捕虜が全員で脱走計画を練るとか、マーガレットが救出作戦に協力するとか、そういうことも無い。
救出部隊の一員と捕虜の誰かに、兄弟や親友といった特別な関係性があるわけでもない。
だから救出部隊と並行して捕虜やレジスタンスの様子を描いても、そこが上手く連動していない。(観賞日:2018年11月30日)