『原子力潜水艦浮上せず』:1978、アメリカ

アメリカ海軍の原子力潜水艦ネプチューンは、出航して11日目に浮上した。これが最後の航海となるポール・ブランチャード艦長は、部下のダニー・マーフィーに「12ノットで進め。昼にはニューイングランドに着く」と告げて指揮を任せた。ブリッジで周囲を観察していたマーフィーは、レーダー室から「前方に反応有り」という連絡を受けた。彼は双眼鏡を覗くが霧で何も見えず、距離3千ヤードで改めて報告するよう指示した。
マーフィーは気付いていなかったが、レーダーが探知したのはノルウェーの大型貨物船だった。貨物船ではレーダーが故障したが、修理できる電気技師が乗っていないことから、そのままニューヨークへ向かうことにした。ブランチャードと船員のウォーターズたちは、次の艦長であるデヴィッド・サミュエルソン副長のために内緒でパーティーを計画していた。彼らは偽の喧嘩でサミュエルソンを呼び出し、皆で選んだプレゼントを渡した。
マーフィーは距離3千ヤードでも「反応有り。接近中」という報告を受け、操舵室に舵を切るよう命じた。彼はブランチャードをブリッジに呼び、船舶が接近していることを伝えた。貨物船が針路を変更したため、ブランチャードは危険信号を出して面舵を切るよう指示した。貨物船も潜水艦に気付くが回避行動は間に合わず、正面から衝突した。ネプチューンは機関室が浸水し、ブランチャードは乗員が残っていることを知りながら管制室のドアを閉めさせた。
ネプチューンは制御不能となって沈み、深度1400フィートの岩棚に激突した。水圧には耐えたネプチューンだが、原子炉は停止してしまう。ブランチャードは乗員たちに、「衝突した船が無線で知らせるだろう。落ち着いて救命艦が来るのを待とう」と呼び掛けた。頭に軽傷を追って管制室に戻ったサミュエルソンは、ブランチャードを睨んで「大したお手並みですね」と皮肉を浴びせた。大西洋連合司令部には事故の報告が入り、当直士官は衝突地点の50マイル東に揚陸艦ナッソーがいることを知らされた。
当直士官はバーンズ提督に連絡し、事故を知らせた。すぐにバーンズは、ベネット大佐に電話を掛けた。ブランチャードは艦首の様子を見に行き、怪我人の状況を確認した。軍医が浸水した艦尾にいたため、医療の心得があるペイジが手当てを担当していた。ブランチャードはペイジから、リチャーズが重傷で一刻も早く病院へ運ぶ必要があると告げられた。チーフのファウラーはブランチャードに、艦尾は全ての区画が浸水したことを報告した。
バーンズはベネットを呼び、ネプチューンの救出は可能かと尋ねた。ベネットは海図を見ながら、ネプチューンが沈んだ峡谷は溝のような形をしていること、斜面は垂直に近いこと、大きな地滑りが起きれば海底まで落ちることを解説した。彼はバーンズから、2時間後に到着するナッソーへ赴いて指揮を執るよう指示された。バーンズはベネットに、DSRV(深海救難艇)も現場に送ると告げた。ベネットは妻のリズに電話を掛けてネプチューンの事故を告げ、ブランチャード夫人のヴィッキーに「何があっても彼は助ける」と伝えるよう頼んだ。カリフォルニア州サンディエゴの潜水艦救難隊では、DSRVの出発準備が始まった。
峡谷では地滑りが発生し、ネプチューンの状況は悪化した。乗員のハリスは無線で必死に呼び掛けるが、まるで応答が無いので冷静さを失って喚き散らす。彼は任務を外されて管制室から運び出され、ピートが代役に指名された。管制室のドアに触れたブランチャードは、水が押し寄せていることを知った。ピートが呼び掛けを続けていると、ようやくナッソーとの交信が繋がった。ナッソーに着いたベネットは、乗員のフィリップスやブルームたちと挨拶を交わした。彼は友人であるブランチャードと話し、「バッテリー残量90%、空気残量は残り36時間、生存乗員は41名」といった現状を聞いた。
ベネットはブランチャードに、DSRVが14時に向かうことを教えた。その声を聞いたネプチューンの乗員たちは、安堵して大喜びした。ブランチャードはファウラーに、要員を除く面々を管制室から退去させるよう命じた。ベネットはフィリップスたちと話し、救助活動について確認を取った。再び地滑りが発生し、ブランチャードは防水ドアを閉めてバラストタンクに注水させることで艦を落ち着かせた。彼はベネットに連絡を入れ、「大きな地滑りで埋まったようだ」と知らせる。ベネットは彼に、脱出用ハッチを叩いて音を調べるよう告げる。ハッチを叩いて確認したブランチャードは、埋まっていることをベネットに伝えた。
海軍長官はバーンズたちを呼び、状況を報告させる。彼はネプチューンの脱出用ハッチを塞いでいる岩を取り除くため、まだ実験段階にある小型潜水艇スナークを出動させる許可を出した。スナークの開発者であるゲイツ大佐はナッソーに到着し、助手のミッキーたちと共に準備に取り掛かる。するとベネットは、ブルームと乗るようゲイツに指示した。ゲイツは「ミッキーと一緒に開発した。彼が一番分かっている」と反論するが、ベネットは「話し合う余地は無い」と命令に従うよう要求した。
ゲイツはブルームに操縦方法を教え、スナークで潜航した。2人はソナーの反応を探知し、慎重に現場へ向かう。しかし接近すると、そこにあったのはソナーテスト用の廃車だった。ゲイツはナッソーに戻り、ベネットに「ミッキーと潜る。廃車を見つけるために潜るのは勘弁してもらいたい」と言う。ゲイツとベネットが口論していると、DSRVのピジョンが到着した。ベネットはネプチューンに知らせるようフィリップスに指示し、ゲイツにミッキーと潜ることを許可した。
ネプチューンの無線は故障してしまい、ナッソーと交信できなくなった。ファウラーは急いで修理しようとするが、全く交信できないので苛立った。ミッキーの操縦で再び潜航したスナークは、激しく損傷しているネプチューンを発見した。スナークは甲板に着艦し、DSRVが救助に来ることをモールス信号で伝えた。ゲイツとミッキーが障害物の除去作業を開始した頃、ブランチャードは管制室のドアから水が漏れ出しているのに気付いた。
スナークは動力不足に陥り、ミッキーは再充電が必要だとゲイツに告げる。ゲイツが補助電力を使うよう指示すると、彼は「30分以内に終えないと危ない」と言いながらも従う。また地滑りが発生し、ネプチューンは大きく横に傾いてDSRVが連結できなくなってしまう。ブランチャードはサミュエルソンたちに、「バランスが変われば傾きが戻って脱出用ハッチを使える。緊急バイパス弁を引いて下のタンクを排水すれば、上の水の重みで回転する」と説明した。あくまで理論上の話だが、他に策が無いこともあって部下たちは彼の作戦に乗った。モールス信号で作戦を知らされたゲイツは、ベネットに報告した。ベネットから戻って来るよう指示されたゲイツは「1300フィートまで上昇して見守る」と言い、一方的に交信を切った…。

監督はデヴィッド・グリーン、原作はデヴィッド・ラヴァリー、脚本はジェームズ・ウィテカー&ハワード・サックラー、翻案はフランク・P・ローゼンバーグ、製作はウォルター・ミリッシュ、撮影はステヴァン・ラーナー、美術はウィリアム・タンケ、編集はロバート・スウィンク、音楽はジェリー・フィールディング。
出演はチャールトン・ヘストン、デヴィッド・キャラダイン、ステイシー・キーチ、ロニー・コックス、ネッド・ビーティー、スティーヴン・マクハッティー、ドリアン・ヘアウッド、ローズマリー・ヘアウッド、ヒリー・ヒックス、チャールズ・シオフィー、ウィリアム・ジョーダン、ジャック・レイダー、アントニー・ポンシーニ、マイケル・オキーフ、チャーリー・ロビンソン、クリストファー・リーヴ、メレンディー・ブリット、ローラソン・ドリスコル、デヴィッド・ウィルソン、ロバート・シモンズ他。


デヴィッド・ラヴァリーの小説『原潜919浮上せず』を基にした作品。撮影には国防総省とアメリカ海軍が全面協力している。
監督は『太陽の爪あと』のデヴィッド・グリーン。
脚本は、これがデビューのジェームズ・ウィテカーと『夏の夜の夢』『ボクサー』のハワード・サックラーによる共同。
ブランチャードをチャールトン・ヘストン、ゲイツをデヴィッド・キャラダイン、ベネットをステイシー・キーチ、サミュエルソンをロニー・コックス、ミッキーをネッド・ビーティー、マーフィーをスティーヴン・マクハッティー、ファウラーをドリアン・ヘアウッド、ヴィッキーをローズマリー・ヘアウッド、ペイジをヒリー・ヒックス、バーンズをチャールズ・シオフィー、ウォーターズをウィリアム・ジョーダンが演じている。

サミュエルソンは沈没事故が起きた途端、ブランチャードに反感を抱いて皮肉を浴びせる。プレゼントされた笛を捨て、「浮上するなんて。最後の雄姿を見せたいがために」と批判する。
でも、事故が起きるまでは、普通に仲良くやっていたでしょうに。プレゼントも喜んでいたし、サプライズのパーティーにも笑顔だったでしょうに。
そして浮上したことについても、何も気にしていなかったでしょうに。
ここて対立の構図を作りたいのなら、事故の前からサミュエルソンがブランチャードを敵視している設定にしておくべきだよ。

あと、事故が起きてからサミュエルソンはブランチャードへの敵意を示すけど、そんなにドラマとして膨らまないんだよね。
地滑りが発生して状況が悪化して以降は、サミュエルソンはブランチャードに何も反発せず指示に従っているし。彼のやり方に抗議したり、自分の案を主張したりすることも無いのよね。
なので、後付けとして無理に対立の構図を持ち込んでおいて、それを全く活用できていないのよ。
それなら、もう半端な対立構造なんて要らないわ。

映画業界には「潜水艦映画にハズレ無し」という言葉があるのだが、それが間違いであることを明確に証明してくれる作品だ。
そうなってしまった原因は色々とあるのだが、何よりも扱っている出来事に対して内容が地味すぎる。
ネプチューンは序盤で沈没し、それ以降は自力では動けない状態になる。
ただ、そうであっても、色んなピンチで物語を盛り上げることは幾らでも出来るはず。
でも実際には、たまに地滑りを繰り返すぐらいのことしか出来ていない。そっち方向でのアイデアが著しく不足している。

ネプチューンの船員が、救助が来ると知って呑気に映画を観賞するシーンがあったりするけど、「要らないなあ」と強く感じる。
その直後に地滑りが発生するので、ひょっとすると「緩和からの緊張」という落差を狙ったのかもしれない。でも、その緩和が行き過ぎているし、方向性としても「ちょっと違うなあ」と感じる。
そりゃあ、ずっと緊張感が張り詰めていたら精神的に疲れるし、途中で休憩ポイントを設けるってのは大きく間違った判断とは言えない。
でも、この映画の場合、そこの判断は完全に外している。

バーンズはベネットに「DSRV(深海救難艇)も現場に送る」と言い、カリフォルニア州サンディエゴの潜水艦救難隊でDSRVの出発準備が始まる様子も描かれる。だが、そんなDSRVが出動する前に、スナークが出動する様子が描かれる。
岩を取り除かないと救助活動も始められないので、そういう流れになるのは仕方がないことではある。ただ、それならDSRVの出発準備のシーンは描かない方が良くないか。
そこを描いたら変に期待しちゃうから、先にスナークが出動すると「なんだかなあ」と思っちゃうのよね。
後にDSRVが現場に到着するシーンがあるけど、ここも全く盛り上がらないのよね。ベネットとゲイツが口論していて、「気が付いたら到着していた」ってな感じなのよ。

ネプチューンで起きる問題ってのは、厳密に言えば地滑りだけではない。他にも、「無線が故障する」「管制室のドアから水が漏れる」「多くの重傷者がいる」といった要素もある。
ただ、それらが緊張感を高めたり、物語を盛り上げたりするために貢献している力は、微々たるモノだ。
無線が故障するのは、むしろ「会話によって人間ドラマを描き、苦悩や葛藤、友情や信頼を表現する」という道具を失うというマイナスの方が圧倒的に大きい。ドアから水が漏れるのも、タイムリミット的な盛り上げ方も出来そうだが、そういう活用は無い。
多くの重傷者がいるってのも、たまにチラッと手当の様子が写るだけで、こちらも「一刻も早く病院に運ばないと」みたいな形で緊張感を高めるような描写は無い。

じゃあ「危機的状況における人間ドラマ」が充実しているのかというと、それも前述したサミュエルソンの反発ぐらいしかネタが無い。他のキャラは、大半が誰が誰なのか良く分からない程度の存在に留まっている。
もしかするとネプチューンを軽く扱っている分、救助する側でドラマを盛り上げようとしているのかもしれない。実際、ベネットやゲイツが登場すると、ナッソーやスナークの描写が増えるわけで。
ただ、こっちも緊迫感に欠けているし、例えば「ネプチューンだと思ったら廃車でした」ってのもバカバカしいだけ。
それよりは、さっさとネプチューンを発見し、「除去作業で想定外の事態が発生して」みたいな形で話を膨らませた方がいいよ。

ブランチャードがタンクの排水を開始すると、ドアから水が勢いよく溢れ出す。
ブランチャードは全員に退避を指示するが、マーフィーは弁を開け続けるため小部屋に留まる。さらにサミュエルソンも「ドアは重い。外からは閉められません」ってことで、こちらも残る。
でも、そこでブランチャードとサミュエルソンの対立のドラマを完結させるのは、あまりにも雑。
そもそも前述したように、サミュエルソンの反発はすぐに萎んでいたけど、それにしてもだ。

サミュエルソンがマーフィーと一緒に残るから、「自己犠牲」としての印象も半減するというマイナスがある。そういう意味でも、そこでサミュエルソンを退場させるのは得策じゃない。
あとさ、「ドアは重くて外から閉められない」と言うけど、どう見てもブランチャード側から閉められるのよね。潜水艦の構造としても、そうじゃなかったら変だし。
それだけでも問題だが、しかもサミュエルソンとマーフィーが犠牲になっても、まだ傾きが元に戻らないのだ。
なので、完全に「無駄死に」になっちゃってるのよね。

傾きを元に戻すため、ベネットはスナークで爆薬を仕掛けて岩を破壊する作戦を思い付く。爆破による除去作業は成功し、DSRVが救助に向かう。
しかし作業の途中で地滑りが起きてネプチューンが落ちそうになるので、ゲイツがスナークを下に滑り込ませる。それによってネプチューンは助かるが、ゲイツは犠牲になる。
でも、もう本編の残りも3分程度というタイミングなんだし、新たな犠牲なんて要らんわ。「ギリギリで何とか救助に成功した」ってことでいいじゃねえか。
犠牲になる寸前のシーンでゲイツの様子を全く描いていないから、悲劇としての印象が弱くて盛り上がりに欠けるし。

(観賞日:2021年3月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会