『ゴシカ』:2003、アメリカ

郊外の森に立つウッドワード女子刑務所精神科病棟で、ミランダ・グレイ博士は精神を病んだ女囚の治療に当たっている。病棟の幹部を しているダグラス・グレイ博士は、彼女の夫だ。現在、ミランダは義父を斧で惨殺したクロエという女囚を担当していた。クロエは悪魔に レイプされたと訴え続けており、その話を全く信用しないミランダに対して拒絶反応を示した。
嵐の夜、ミランダは車で自宅に戻る途中、保安官のボブと遭遇した。その先の道が陥没しており、通行不可能な状態になっているのだと いう。迂回路に入ったミランダは、橋の真ん中で突っ立っている少女に気付いた。慌ててハンドルを切ったミランダは、何とか大怪我を 負わずに助かった。木立に車を降りたミランダは、傷を負っている少女に優しく声を掛けた。
ミランダが意識を取り戻した時、そこはウッドワード女子刑務所の監視独房だった。担当医として現れた同僚のピートは、ミランダが ダグラスを惨殺した犯人として逮捕されたことを告げた。ミランダには全く覚えが無いが、少女と遭遇して以降の鮮明な記憶も無い。 ミランダはクロエから、「違うと言っても信じてもらえない。だって精神異常だから」と挑戦的に告げられた。独房に戻ったミランダは、 ガラス壁が曇って「一人じゃない」という文字が浮かぶのを目撃した。
他の女囚と共にシャワーに赴いたミランダは、クロエの鋭い視線に気付いた。さらに彼女は、あの少女の姿にも気付いた。ミランダは 35箇所を切られるが、自傷行為とされた。誰も、彼女を傷付けた相手を目撃していないのだ。ピートは「力になる」と言うが、ミランダ には信じられなかった。彼女は病棟の責任者フィルに担当替えを要求するが、認められなかった。弁護士のテディーが面会に訪れ、検事が 翌週に法廷審問を開く要求をしていることを告げた。
ミランダが帰宅する姿を保安官が見ており、凶器には指紋が付着していた。圧倒的に不利な状況だ。テディーは「心神喪失を訴えるしか 無い」と勧めるが、ミランダは激怒した。ダグがミランダの元を訪れ、現場の写真を見せた。ダグは斧で殺され、無残な死体となっていた。 怒りに満ちたダグから「なぜ愛する夫を殺したのか」と詰問されても、ミランダには答えられなかった。
現場写真の中には、壁に血文字で「一人じゃない」と書かれているものもあった。それを見た途端、ミランダの左腕の包帯にも、同じ文字 が浮かび上がった。ミランダは怯えるが、他の人々に見えていない様子だった。ミランダはフィルに会い、「自分は殺人現場にいたが、 一人じゃなかった」と証言した。フィルの部屋にあった娘レイチェルの写真を目にしたミランダは、それが橋で見た少女だと告げた。だが、 フィルは「有り得ない」と首を横に振った。レイチェルは4年前に死んでいたのだ。
その夜、独房にいたミランダは、「あなたがレイチェルの幽霊なら、ここから出して」と口にした。すると、施錠されている独房の扉が 開いた。ミランダは独房を抜け出し、ピートの部屋に侵入した。するとパソコンが立ち上がり、レイチェルの自殺を伝える新聞記事が 表示された。さらに、クロエのいる監視独房を捉えたモニターの映像も示された。
ミランダがクロエの独房に急行すると、小窓に男のタトゥーが見えた。悲鳴を上げて逃げ出そうとしたミランダは、守衛に拘束された。 彼女はピートに、「クロエはタトゥーの男にレイプされていた」と告げた。独房に戻されたミランダの前に、少女が現れた。モニターを 見ていた守衛達は、ミランダが独房で激しく暴れている姿を目撃し、自殺を図っていると思い込んだ。
守衛たちが独房に駆け付けると、ミランダは床に倒れていた。だが、彼女は急に立ち上がり、独房から脱走した。ミランダは友人の守衛 ジョーに匿ってもらい、彼の車の鍵を借りて刑務所から脱走した。車を暴走させるミランダに、またも超常現象が襲い掛かる。ミランダは レイチェルの幽霊に対し、「何が望みなの」と叫んだ。レイチェルに導かれるように、ミランダは自宅へと向かった。家に入ったミランダ は、自分が斧でダグラスを惨殺する姿を目にした…。

監督はマチュー・カソヴィッツ、脚本はセバスチャン・グティエレス、製作はジョエル・シルヴァー&ロバート・ゼメキス&スーザン・ レヴィン、共同製作はリチャード・ミリシュ、製作総指揮はスティーヴ・リチャーズ&ゲイリー・アンガー&ドン・カーモディー、撮影は マシュー・リバティーク、編集はヤニク・ケルゴー、美術はグレアム・“グレース”・ウォーカー、衣装はキム・バーレット、 音楽はジョン・オットマン。
主演はハル・ベリー、共演はロバート・ダウニー・Jr、ペネロペ・クルス、チャールズ・S・ダットン、ジョン・キャロル・リンチ、 バーナード・ヒル、ドリアン・ヘアウッド、ブロンウェン・マンテル、 キャスリーン・マッケイ、マシュー・G・テイラー、マイケル・パーロン、アンドレア・シェルドン、アナナ・リドヴァルド、ローラ・ ミッチェル、エイミー・スローン、ノエル・バートン他。


ジョエル・シルヴァーとロバート・ゼメキスがホラー専門プロダクションとして設立したダーク・キャッスル・エンタテインメントの 第4回作品。
ミランダをハル・ベリー、ピートをロバート・ダウニー・Jr、クロエをペネロペ・クルス、ダグラスをチャールズ・S・ ダットン、ボブをジョン・キャロル・リンチ、フィルをバーナード・ヒルが演じている。
監督は『クリムゾン・リバー』のマチュー・カソヴィッツで、これがハリウッド・デビュー作となる。

ダーク・キャッスルと言えば、元々「古典的なB級ホラーを現代に蘇らせよう」という感じで始まった会社なわけで、視覚効果を全面に 押し出して、コケ脅しで見せようという意識が強くあったように解釈している。
だが、第3作までが思ったようなヒットに繋がらなかったことを受けて、ちょっと「このままじゃヤバい」という意識が芽生えたのかも しれない。
だからなのか、もちろん視覚効果なコケ脅しもあるんだが、一方で心理的サスペンスのような類の表現も感じられる。
ただ、ヒットさせるためにポリシーを曲げた時点で、もうプロダクションの存在意義が失われているような気もするんだけどね。
でもまあ、大きく言えば「恐怖映画を専門とするプロダクション」ことだから、別にいいのかもしれないけどさ。
だけど監督にマチュー・カソヴィッツを起用している時点で、なんか違う気がするんだよな。

オスカー女優のハル・ベリーを主演に起用しているのも、「そろそろ儲かる映画を作らないとマズい」という意識の表れだろう。
で、まあ製作サイドの意向は分かるとしても、ハル・ベリーがオファーを受けているのは、どうなのかと思うけどね。
この頃のハル・ベリーは、どうやらエージェントが愚か者で、作品選びのセンスが著しく欠けていたようだ。
この翌年には、あの『キャットウーマン』にも出演しているぐらいだからね。

ペネロペ・クルスは、御世辞にも美しいとは言えない容姿で出演しているんだが、それは「体当たりの演技」ということではなく、無駄に すっぴんをさらしただけ。彼女のキャリアにとっては、何のプラスにもならないと思う。
っていうか、クロエというキャラの存在意義が薄弱。レイチェルの事件や犯人とクロエの関わりに無理がある。
倒錯的セックスを好み、少女趣味だった犯人その2が、なぜ少女ではないクロエを狙い、しかも彼女だけは監禁せずに放置しておくのか 分からん。
一応、「クロエの言葉を信じていなかったミランダが、自らも超常現象に見舞われる」という仕掛けの部分で、クロエの存在意義を見出す ことが出来なくも無い。
ただ、そもそも「唯物論者が得体の知れないものに襲われる」というところの恐怖を、上手く表現できていない。なし崩し的に、早い段階 からミランダが超常現象を超常現象として認識し、その上で怯えている感じが強いのだ。

ミランダは橋で少女と遭遇したフラッシュバックを見ているのに、直後に「殺人現場にいた」と証言する。
だが、ミランダが記憶を辿る中で、その段階では、帰宅してダグラスと会ったフラッシュバックは描かれていない。
他にも、ミランダを襲う不可思議な現象と、その後の彼女の言動・行動が、スムーズに結び付かない箇所が幾つもある。
意味ありげに、深みを持たせるために、あえてボカした表現にしているつもりなのかもしれないが、単に説明不足だとしか感じられない。

レイチェルの幽霊がやっていることは、ただミランダを怖がらせているだけだ。
ミランダを発狂させたい、周囲から狂人だと思わせたい、復讐したいという目的をレイチェルが持っているのなら、まだ分からないでも ない。
だが、違うのだ。
レイチェルの目的は、ミランダに自分を殺した犯人を伝え、「犠牲者は自分一人ではない」と訴えたかったのだ。
だったら最初から、そう言えよ。

レイチェルは、なぜかミランダを怯えさせ、分かりにくいヒントしか出さない。
それどころか、ミランダを殺人犯に仕立て上げるのだ。
真相を誰にでも分かるような形でミランダに伝えたら危険だとか、それが許されない事情があるとか、そんな設定は無い。
何の納得できる理由も無く、レイチェルはハッキリと言わずにミランダを怖がらせるのだ。
なんともタチの悪い幽霊だぜ。

「一人じゃない」というメッセージには、「犯人は一人じゃない」という意味も含まれているのだが、その部分は蛇足にしか思えない。
あと、なんで1年後にミランダとクロエが無罪放免になっているのか、良く分からない。
ミランダはレイチェルに憑依されていたとは言え、ダグラスを殺したことは確かなんだし。
クロエに関しては、全く理解不能。

(観賞日:2008年10月30日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の助演女優】部門[ペネロペ・クルス]
<*『ゴシカ』『ボブ・ディランの頭のなか』の2作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会