『ゴーン・フィッシン’』:1997、アメリカ
少年のガス・グリーンは海辺で釣りをしながら、親友のジョー・ウォーターズと話していた。ジョーは父の葉巻を盗み出しており、ガスが「体に悪い」と言っても構わずライターで火を付けた。葉巻を吸ったジョーが咳き込んだので、ガスは「だからやめろって言ったろ」と注意する。彼は葉巻を取り上げ、後ろへ投げ捨てた。すると葉巻から引火して大きな炎が発生し、パイプラインを通ってマンションに到達した。48時間に渡って大規模な停電が発生し、ジョーとガスは犯人として新聞に大きく取り上げられた。
それから36年後。ジョーとガスは親友関係が続いており、隣同士に暮らして家族ぐるみで仲良くしている。ジョーは妻のドナ&娘のジーナ&息子のマックの4人家族、ガスは妻のクッキー&娘のトレイシー&息子のグレゴリーの4人家族だ。2人は釣り大会に参加するためにフロリダへ行くことになり、家族が荷作りを手伝う。その間、ジョーとガスは釣り名人であるビリー“キャッチ”プーラーのビデオを観賞した。ドナとクッキーは、彼らが木曜の感謝祭までに帰って来るかどうか心配していた。ジョーとガスが釣り大会に参加するのは毎年の恒例行事だが、去年は大怪我を負い、一昨年は事件を起こして留置場に入れられているのだ。
ジョーとガスは早朝の4時半に起床し、車でボートを繋いで出発した。ガイドブックを読んだガスは、「アリゲーターが執念深くて自分を襲った相手に復讐する」という解説に驚いた。フロリダに着いた2人は、食堂に立ち寄った。彼らが釣りの話をしていると、1人の男が声を掛けて来た。彼は2人の隙を見て車の鍵を盗み、店を出て行った。男は車を運転し、ボートを店に突っ込ませて逃走した。リタは母の全財産を奪った男を見つけ出すため、親友のアンジーを同乗させて車を走らせていた。食堂に立ち寄った2人は、車泥棒が店にボートをぶつけたことを女店主から聞く。リタがデッカー・マッシーという男の写真を見せて「こいつじゃなかった?」と尋ねると、「こいつよ」と店主は即答した。店主はリタとアンジーに、車を盗まれた2人組を捜すのは簡単だと告げた。
ジョーとガスがボートを運びながら海へ向かっていると、リタとアンジーの車が追い付いた。2人はジョーとガスに、乗って行くよう持ち掛けた。彼女たちは事情を明かさず、車種とナンバーを聞き出した。リタが「車を盗んだ男がスーツケースか何かを持ってなかった?」と尋ねると、ジョーとガスはバッグを持っていたことを教えた。ボートに積んであったビールが落ちそうになったので、ガスは慌てて押さえに行く。繋いでいたロープが緩んでいるのに気付いたジョーは、誤って荷台から落ちそうになる。彼は必死でボートにしがみ付き、ガスが引っ張り上げた。しかしリタとアンジーはボートが外れたのに気付かず、そのまま去ってしまった。
ボートは線路で立ち往生し、列車と激突しそうになる。ジョーとガスは何とかボートを押して危機を脱し、安堵のため息を漏らす。しかし錨が列車に引っ掛かり、ボートはジョーとガスから遠ざかっていった。そこへ釣り大会に参加するババとJPが通り掛かり、ジョーとガスを車に乗せてくれた。ジョーはガソリンスタンドに自分の車が停まっているのを見つけ、降ろしてもらった。運転していた男がトイレに入っていることを従業員から聞いたジョーは、仕返しを目論んで個室を覗き込む。しかしデッカーが拳銃を持っていたので、慌てて逃げ出した。その際、彼は宿泊するグローリー・グレーズ・ロッジのクーポンを落としてしまい、それをデッカーが発見した。
ジョーはガスに男が拳銃を持っていたことを伝え、車に乗って発進させる。従業員が給油している途中だったため、ガソリンが地面に散乱した。引火して火事が発生するが、ジョーとガスは全く気付かなかった。車内を調べたジョーとガスは、血の付着したナイフを発見した。しかし彼らは全く動じず、「魚の鱗を取るのに使おう」と決めた。ジョーとガスは夜になってグローリー・グレーズ・ロッジに到着するが、パンフレットの写真とは全く違うので困惑した。
オーナーはジョーとガスに、ハリケーンの直撃でロッジは潰れたのだと話した。最もランクの高い宿泊施設でも古いキャンピングカーしか無かったが、ジョーとガスは仕方なく中に入る。『犯罪白書』というテレビ番組を見た彼らは、デッカーが43人もの女性を騙して金品を奪った結婚詐欺師であること、殺人まで犯していることを知った。警察がデッカーと凶器のナイフを捜索していること、懸賞金が10万ドルであることを聞いたジョーとガスは、あのナイフが凶器だと確信した。奪った金品は既に逮捕された弟が隠したと推測されており、未だに見つかったいなかった。「大儲けできる。あのナイフを警察に渡せば金持ちだ」と喜んだ2人は、慌てて電話番号をメモした。
翌朝、デッカーはロッジを訪れ、ジョーとガスが宿泊していたが既に出発したことをオーナーから聞き出した。さらに彼は、ジョーとガスがボートを買える場所を教えてほしいとオーナーに頼んだこと、フィル・ビーズリーの元へ向かったことを知った。ジョーとガスはフィルのボート商会へ行くが、予想より遥かに高額なので貸しボートにしようかと考える。そこへフィルが現れ、ボートを売り込む。セールストークには騙されないつもりのジョーたちだったが、助手のジュリーを紹介されると途端に鼻の下が伸びた。
ジョーとガスはフィルのペースに乗せられ、ボートを購入した。彼らは試し釣りを始めようとするが、誤ってボートを暴走させてしまう。止め方が分からず大勢の釣り客に迷惑を掛けた上、2人は証拠品であるナイフを海に落としてしまった。陸地に突っ込んでボートは破損し、ジョーとガスはフィルに「やっぱり返すよ」と告げて去った。釣り大会は諦めて家に帰ろうとした2人だが、車のタイヤがパンクしてしまう。ボンネットを開いた彼らは手書きの地図を発見し、金の隠し場所が示されていると確信した。
ガスが「これで懸賞金が手に入る」と喜ぶと、ジョーは「懸賞なんて要らない。この金を頂こう」と持ち掛けた。デッカーたちが隠した金は250万ドルであり、大金持ちになれるからだ。ガスが「だけど43人の女が騙されてるんだぜ」と言うと、ジョーは「そうだな。やっぱりダメだ」と告げる。しかしガスは「43人ってことは、礼金もたっぷりだ」と話し、2人は「礼金と懸賞金で今度こそ大金持ちだ」と喜んだ。彼らは高級ホテルにチェックインし、レストランへ行く。慣れない2人が立ち尽くしていると、気付いたウェイターのカークが席へ案内した。リタとアンジーは車を見つけて中を探り、フィルのペンを見つけた。
ガスはカークに地図を見せ、「この場所を知ってるか?」と森を指差した。南へ30キロの場所だと聞き、ジョーとガスは楽勝だと考える。リタとアンジーはレストランへ行き、ジョーとガスを発見した。リタが「車に何か残ってなかった?」と質問すると、「ナイフがあったが無くした」とジョーたちは答える。懸賞金が狙いだと思い込んでいるジョーとガスに、リタは「あいつが捕まってほしいだけよ」と母がデッカーに騙されて財産を奪われたことを明かした。
その夜遅く、ガスが急に起きてドライヤーを使い始めたので、気付いたジョーは「どうした?また夢遊病が出たのか」と尋ねる。ガスは何も反応せず、枕に火を付けた。ジョーは慌てて火を消そうとするが、ガスが部屋を出て行ったので後を追う。部屋は爆発炎上し、ジョーは正気に戻ったガスに「お前のせいで地図も燃えた」と告げる。ジョーはリタとアンジーに伝言を残し、ガスと共に車で逃げるように去った。車が壊れて動かなくなったため、ジョーは修理しようと工具を持ち出した。ジョーは落雷を受けて失神するが、そのショックで地図の内容をハッキリと思い出した…。監督はクリストファー・ケイン、脚本はジル・マザースキー・コーディー&ジェフリー・エイブラムス(J・J・エイブラムス)、製作はロジャー・バーンバウム&ジュリー・バーグマン・センダー、共同製作はリチャード・H・プリンス&ルー・アーコフ、製作総指揮はジル・マザースキー・コーディー、撮影はディーン・セムラー、美術はローレンス・ミラー、編集はジャック・ホフストラ、衣装はリジー・ガーディナー、音楽はランディー・エデルマン。
出演はジョー・ペシ、ダニー・グローヴァー、ロザンナ・アークエット、リン・ウィットフィールド、ニック・ブリンブル、キャロル・ケイン、ゲイリー・グラブス、エディス・デイヴィス、ウィリー・ネルソン、ジェナ・バリー、サマンサ・ブラウン、ジェフ・ディルッカ、ジャミール・アキム・オクイン、フランク・ナッソー、レイナー・シェイン、ロビン・ハケット、ジェームズ・R・グリースティーヴ・ワイズ、クローディア・ハロ、ジョナサン・アヴィルドセン、ボブ・ノーブル、ジェフ・プリティーマン、ジュディー・クレイトン他。
『ヤングガン』『ベスト・キッド4』のクリストファー・ケインが監督を務めた作品。
脚本は『ファイロファックス トラブル手帳で大逆転』のジル・マザースキー・コーディー&ジェフリー・エイブラムス(J・J・エイブラムス)。
ジョーをジョー・ペシ、ガスをダニー・グローヴァー、リタをロザンナ・アークエット、アンジーをリン・ウィットフィールド、デッカーをニック・ブリンブル、ドナをキャロル・ケイン、フィルをゲイリー・グラブス、クッキーをエディス・デイヴィスが演じている。
アンクレジットだが、食堂の女店主の役でルイーズ・フレッチャー、カーク役でモーリー・チェイキンが出演している。冒頭、少年時代のジョーとガスが大規模停電を起こす出来事が描かれる。このエピソードから話を始めた意味があるのかというと、答えはノーだ。
少年時代から始めたことによって、「子供の頃から仲良し」ってことは観客に伝わる。でも、それだけじゃなくて「子供の頃から釣りが大好き」ってのをアピールしておく必要があるはずで。
でも実際のところ、釣りをしているのはガスだけで、ジョーは大して興味も無さそうだ。しかも、ガスにしても釣竿を握っているだけで、「釣りが大好き」という印象は無い。そして釣りよりも「2人がヘマをして騒ぎを起こした」という印象の方が遥かに強いし。
っていうか、そもそも「子供の頃から仲良し」とか「子供の頃から釣りが好き」という情報にしても、全く重要じゃないし。現在のシーンに切り替わると、建設現場で働くガスの元へジョーが来る様子が描かれる。ここでガスはクレーンの操作を誤り、コンテナを落下させている。
たぶん「大人になっても相変わらずガスは慌てん坊」ってのを見せる狙いがあるんだろう。
ただ、このシーンでガスは、自分のヘマに全く気付いていないのよね。
オープニングではすぐに気付いていたんだから、そこも気付かせた方がいいでしょ。あるいは、停電も気付かなかったことにしてもいいけど、どっちかに統一した方がいいでしょ。大人になったジョーとガスが家に戻ると、すぐに「釣り大会に向かおうとする」という展開になる。ロードムービーがメインなので、そこへ早く辿り着きたいという意識が強かったんだろう。
ただ、家族はザッと出て来ただけでマトモな紹介も無いし、「ジョーとガスがいかに釣りキチなのか」ってのをアピールするための手順も無いのだ。
出発する前に、その程度の作業を消化するぐらいの時間はあるでしょ。そんなに焦らなくてもいいでしょ。
そりゃあ、旅に出ちゃったら家族なんて全く出て来ないから、紹介しても意味は薄いかもしれないよ。ただ、それならいっそのこと、独身設定でもいいわけで。少なくとも子供たちは要らないわけで。出発の準備が整うと、ドナとクッキーは「去年は大怪我、一昨年は留置場」と感謝祭までに戻って来るかどうかを心配する。
ここは笑いを取りに行けるチャンスだよね。どういう経緯で大怪我を負ったのか、どういう事件を起こして留置場に入れられたのかを回想シーンとして挿入すれば、そこで笑いを取れるはずだよね。
ところが、ここを台詞だけで片付けてしまうのだ。
だったら、むしろ大怪我や留置場という情報は変に気になっちゃうから余計だわ。「一度も無事に戻って来たことが無い」というだけで済ませた方がマシだわ。ジョーとガスはリタとアンジーから車に乗って行くよう誘われると、「向こうもまんざらじゃない」「俺たちの魅力にグッと来てる」などと年甲斐も無く浮かれまくる。
そんな風に「若い女に逆ナンされたと思い込み、アバンチュールを期待する」という様子を見せることは、こいつらのキャラをブレさせることに繋がっている。
それまでに「オッサンなのに言動が幼稚」というキャラは見せていたけど、だからこそエロ方面は入れない方がいい。「オッサンなのにガキみたいな釣りバカたち」というトコに集中した方がいい。
それに、序盤で家族と仲良くやっているシーンもあるんだから、変な浮気心なんて起こさせない方がいいよ。それが喜劇としての面白さや作品の魅力に繋がっている部分なんて皆無だよ。ジョーはガソリンスタンドでデッカーを見つけるが、拳銃を持っていたので慌てて逃げ出す。この時点で、デッカーが危険な男であることは分かったはずだ。
それなのに、ジョーとガスは車内で血の付着したナイフを見つけても「もしかして人を殺したんじゃないか」とは全く思わない。そして、落ち着き払った様子で「魚の鱗を取るのに使おう」と言い出す。
それは整合性の取れている描写とは到底言い難いぞ。
あと、「ガソリンスタンドの火事に気付かない」ってのも、タイミングの違うギャグシーンだと感じるし。
そこは「デッカーが拳銃を所持していたので慌てて逃げる」という部分に集中した方がいい。何かギャグを入れるにしても、そこに関連付けた方がいい。ジョーとガスは釣りバカの設定なのに、旅が続く中で「釣りへの愛や情熱」がどんどん見えなくなっていく。釣りが大好きなはずなのに、オタク的な言動もそんなに多くないし。
「全ては釣りのため」であるべきだろうに。懸賞金を知った時の「大儲けできる」という反応も、「それは違うたろ」と言いたくなる。
そりゃあ、「懸賞金で金持ちになれる」ってのは、ごく当たり前の反応だよ。だけど、当たり前じゃ困るわけで。そこにも「釣りバカ」としての部分が見えなきゃ困るわけで。
だから「大金が手に入る」ってことで喜ぶにしても、「高い釣り具やボートが買える」ってことを言わせるべきなのよ。
もちろん、そこは具体的な商品名を挙げることが望ましいし。フィルの元へ赴いたジョーとガスの反応には、大いに違和感がある。
彼らが新しいボートを買いに出掛けたのは、「懸賞金が入って金持ちになれる」と確信したからでしょ。それなのに、実際にボートを見ると「高すぎる」ってことで難色を示し、フィルが売り込んでも迷っている。
2人とも「懸賞金で金持ちになれる」ってことで、気持ちがデカくなっているはずでしょうに。
それなのに、なんでケチ臭いことばかりに言っているのよ。まるで筋が通ってないぞ。前夜のことを忘れたのか。地図を見つけたジョーとガスは、「これで今度こそ金持ち」と喜ぶ。
ここでも、やはり「金持ちになる」ってことだけを考えており、金を手に入れて釣りライフを充実させるってことには全く考えが及ばない。
高級ホテルとレストランで豪遊しており、その金を釣りに向けようとする気配は皆無だ。
ジョーとガスにとって釣りってのは、「人生で何よりも大事」「釣りが無ければ生きている意味が無い」ぐらいの存在であるべきだろうに、そうでもないんだよね。高級ホテルで宿泊したガスは、夜中に起きてドライヤーを使い始める。ここでジョーが「また夢遊病が出たのか」と尋ね、ガスは枕に火を付ける。
実際にガスが夢遊病で行動しているのだが、「また夢遊病が出たのか」と言われても「またって何だよ」とツッコミを入れたくなるぞ。
そこまでに「ジョーは夢遊病」という設定、一度でも出て来たか。出て来てないでしょ。そこが初めての描写でしょ。
自宅で就寝した時も、キャンピングカーで寝た時も、夢遊病の描写なんて無かったわけで。そりゃあ、振り返ってみれば、レストランでガスがステーキを注文しようとした時にジョーは「夜中にフラフラ歩き回るゾンビと泊まるなんてゴメンだぜ」とは言っていたよ。ガスは「今度平気だって」と言っていたよ。
だけど、それで納得するのは無理だぞ。
どう考えても、前半の内にガスが夢遊病なのを見せておくべきでしょ。肉を食べて症状が出るのなら、それも見せておいた方がいいし。
そのチャンスは、序盤にあったしね。
「これまで無事に大会から戻ったことが無い」と説明するシーンがあったけど、そこで「夢遊病のせいでトラブル」という回想を挟めば良かったでしょ。映画の途中から、ジョーとガスの目的は完全に「釣り大会で優勝する」ってことから「金を手に入れる」ってことに移っている。最終的に「デッカーの隠した金と宝石を見つけ、それを奪った彼を追跡して」という展開を用意し、そこをクライマックスにする。
これが「釣りに興味は無いけど何らかの理由で仕方なく大会に行く」ってことなら、それでも別にいいよ。
だけど、「釣りバカコンビが、ずっと楽しみにしていた大会に行く」という形で話を始めておきながら、大会から大金に目的を移すってのは、どう考えても構成として失敗してるでしょ。
タイトルは「ゴーン・フィッシン’」なのに、そこを二の次にしちゃダメでしょ。(観賞日:2020年10月26日)
第20回スティンカーズ最悪映画賞(1997年)
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ジョー・ペシ]
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門