『ゴースト・イン・ザ・シェル』:2017、アメリカ

ハンカ・ロボティクス社のオウレイ博士たちはプロジェクト2571を進め、ミラ・キリアンという女性の脳を摘出して義体に移植した。目を覚ましたミラに、オウレイは救命ボートにいたところをテロリストに襲われた難民であること、体の損傷が激しかったので義体に移植したことを説明する。混乱する彼女に、オウレイは「貴方のゴーストは残っている」と告げる。オウレイはミラを新種の人類と捉えていたが、社長のカッターは兵器として利用する考えだった。彼はミラに少佐の階級を与え、公安9課に配属しすることを決定した。
1年後、ハンカ社のオズモンド博士とアフリカ某国の大統領は、ホテルの日本式レストランで会食していた。少佐は部長である荒巻の指示を受け、ホテルの屋上で張り込んでいた。武装グループが店に乗り込んで銃撃し、ハッキングされた芸者ロボットはオズモンドを捕獲した。少佐は荒巻の制止を無視し、同僚の応援を待たずに店内へ飛び込んだ。彼女は武装グループを次々に抹殺し、「ハンカ社と手を組む者は滅びる」と口にした芸者ロボットも始末した。
公安9課のバトーは現場に駆け付け、手榴弾を使おうとした武装グループの男を射殺した。少佐は左手を負傷し、傷口からは機械の部品が見えた。彼女が芸者ロボットと自分の傷口を見比べていると、バトーは「お前とは違う」と告げた。少佐は公安9課のオフィスへ赴き、捜査官のトグサ、イシカワ、サイトー、ボーマン、ラドリヤたちと会う。芸者ロボットはハンカ社のダーリン博士が分析中で、その報告を待っている状況だった。
ホテルの襲撃だけでなくハンカ社の科学者3名も殺されており、全員にハッキングの痕跡が残されていた。現場に残されていたメッセージから判明した犯人は、クゼという男だった。荒巻は少佐とバトーに、ダーリンのレポートを取って来るよう命じた。ハンカ社へ向かう途中、バトーから「過去のことを話したがらないな」と言われた少佐は断片的な記憶しか無いのだと告げた。少佐はハンカ社に着くとオウレイの修理を受け、バグが生じて幻覚が見えることを明かす。オウレイは彼女に薬を飲んでいるかどうか確認し、バグの映像を消去した。彼女は悩みを吐露する少佐に、「人間であるかどうか決めるのは記憶の有無ではなくて、これから何をするかよ」と述べた。
ダーリンが芸者ロボットの調査に手間取っていることを聞いた少佐は、自身がメモリーにダイブすると言い出す。バトーやダーリンは危険だと考えて反対するが、少佐は問題が起きたら中断するよう告げてダイブした。少佐はナイトクラブの看板を目撃し、ハッキングの危機を回避して脱出した。少佐とバトーは素性を隠し、別々にナイトクラブへ潜り込んだ。2人は店を仕切るヤクザたちに怪しまれ、戦闘に発展した。敵を倒した少佐が店の奥へ進むと、フードを被ったクゼの幻影が見えた。
バトーが部屋に現れた時、少佐は爆弾が仕掛けられていることに気付く。彼女がバトーを突き飛ばした直後、大爆発が起きた。ハンカ社に回収された少佐はオウレイの修理を受け、バトーは両目をやられて義眼となった。荒巻はカッターから少佐のダイブを非難されるが、「私はハンカではなく総理の指示に従うだけです」と告げた。芸者ロボットを調べていたダーリンは、プロジェクト2571のデータを発見した。そこへクゼが現れ、ダーリンを殺害して立ち去った。
ダーリンは芸者ロボットのデータを引き抜いており、現場に急行した少佐とバトーはそれを見つけて再生した。少佐はクゼがプロジェクト関係者の皆殺しを企んでおり、次にオウレイを狙うと確信した。オウレイはハッキングされた清掃作業員たちに襲われ、プロジェクト2571のことを全て話すよう要求される。そこへ公安9課の面々が駆け付け、オウレイを救出した。少佐は逃亡を図った作業員のリーを捕まえるが、相手が無抵抗になっても殴り続けたのでバトーが制止した。
取調室に連行されたリーは、何も知らないと主張する。彼は脳をハッキングされて偽の記憶を与えられ、クゼに操られていたのだ。9課は偽の記憶を逆探知してクゼの居場所を特定するが、リーは自殺に追い込まれた。少佐たちが判明した建物へ乗り込むと、ケーブルを頭部に接続された大勢の人々が車座になっていた。少佐はバトーに、クゼがネットワークを作らせているのだと教えた。彼女は敵に襲われて拘束され、クゼの前に連行された。
クゼは自分がプロジェクトの失敗作だったことを明かし、処分されそうになったから正当防衛で殺害したのだと主張した。クゼの刺青を見た少佐は、かつて自分が見た幻覚と同じ絵だと気付く。それが何なのか尋ねる少佐に、クゼは薬の服用を止めるよう忠告した。バトーが駆け付けて発砲すると、クゼは逃走した。少佐はクゼを追わずにオウレイの元へ行き、プロジェクトについて問い詰めた。オウレイは98人の失敗作があったこと、少佐の記憶はカッターが用意した虚偽の内容であることを打ち明けた。
バトーは連絡を遮断した少佐を発見し、なぜクゼを逃がしたのか質問する。少佐は「誰も信じられなくて」と言い、「俺もか?」というバトーの問い掛けに「信じてる。仕方なく」と告げた。カッターは保安部隊を差し向け、少佐を捕まえた。カッターはプロジェクトの真相を知った少佐を失敗作と判断し、廃棄するようオウレイに命じた。オウレイは少佐に「本当の記憶よ」と言い、ハイリという女性の住むアパートの場所を教えて逃亡させた。カッターはオウレイを始末し、少佐が殺したと荒巻に伝える…。

監督はルパート・サンダーズ、原作は士郎正宗、脚本はジェイミー・モス&ウィリアム・ウィーラー&アーレン・クルーガー、製作はアヴィ・アラッド&アリ・アラッド&スティーヴン・ポール&マイケル・コスティガン、製作総指揮はジェフリー・シルヴァー&藤村哲哉&野間省伸&石川光久、共同製作はホリー・バリオ&ジェーン・エヴァンス&マキ・テラシマ=フルタ(寺島真樹子)、撮影はジェス・ホール、美術はヤン・ロールフス、編集はニール・スミス&ビリー・リッチ、衣装はカート・アンド・バート、視覚効果プロデューサーはフィオナ・キャンベル・ウエストゲート、視覚効果監修はギヨーム・ロシェロン&ジョン・ダイクストラ、音楽はクリント・マンセル&ローン・バルフェ。
主演はスカーレット・ヨハンソン、共演はビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・カルメン・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハン、ピーター・フェルディナンド、福島リラ、ダニエル・ヘンシャル、泉原豊、アナマリア・マリンカ、桃井かおり、ラザラス・ラトゥーリー、ダヌーシャ・サマル、タワンダ・マニーモ、マナ・デイヴィス、エロール・アンダーソン、カイ・ファン・リエック、アンドリュー・シュテーリン、マティアス・ルアフューチュ、山本花織、アンドリュー・モリス、アドウォア・アボア、クリス・オビ、マコト・ムラタ、ナターシャ・オースマン他。


士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』を基にした作品。押井守監督の長編アニメーション映画『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』がアメリカで高い評価を受けたので、そこから映画化の企画が始まっているのだろうと思われる。
監督は『スノーホワイト』のルパート・サンダーズ。
脚本は『フェイク シティ ある男のルール』のジェイミー・モス、『ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男』のウィリアム・ウィーラー、『トランスフォーマー/ロストエイジ』のアーレン・クルーガーによる共同。
少佐をスカーレット・ヨハンソン、オウレイをジュリエット・ビノシュ、クゼをマイケル・カルメン・ピット、バトーをピルー・アスベック、トグサをチン・ハン、カッターをピーター・フェルディナンド、リーをダニエル・ヘンシャル、ダーリンをアナマリア・マリンカ、イシカワをラザラス・ラトゥーリーが演じている。
日本からは、荒巻役でビートたけし、芸者ロボット役で福島リラ、サイトー役で泉原豊、草薙素子の母親のハイリ役で桃井かおり、素子役で山本花織、ヤクザ役で村田真、キンサナ役で生藤眞二が参加している。
アンクレジットだが、オズモンド役でマイケル・ウィンコットが出演している。

まずキャスティングの部分で、かなりの弱さを感じる。
トップビリングはハリウッドの超売れっ子であるスカーレット・ヨハンソンだけど、2番手がビートたけしだからね。
日本だと「世界のタケシ」と言われているし、確かにフランスやイタリアでは知名度も高いだろうが、アメリカにおいては、それほどでもないでしょ。しかもヨーロッパでの評価にしても、あくまでも「監督としての北野武」であって。役者としてのビートたけしって、アメリカだと無名に近いんじゃないかと。
で、そこからマイケル・カルメン・ピット、ピルー・アスベック、チン・ハンと続くわけだから、役者の訴求力だけで考えると、相当に厳しいモノがある。
「and」でジュリエット・ビノシュが表記されるけど、もう1人ぐらいはハリウッドの人気俳優が欲しいところでしょ。

原作漫画や『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』では「草薙素子」という名前を持つヒロインを白人のスカーレット・ヨハンソンが演じることについて、アメリカでは「ホワイト・ウォッシングではないか」という批判も起きた。
しかし日本では特に批判も起きなかったし、個人的にも全く気にならなかった。
そもそも、ハリウッド大作で「草薙素子」を演じるに適した日本人女優がいるのかと考えた時に、変な人を使われるぐらいならスカーレット・ヨハンソンの方が遥かに納得できる。
ただ、たぶん「スカーレット・ヨハンソンだから」ってことでヒロインに「ミラ・キリアン」という名前を用意したんだから、それで最後まで通せば良かったのだ。それなのに、終盤に入って「実はミラの本名が草薙素子でした」という設定を明らかにするもんだから、「いや全く要らないわ」と言いたくなる。
そんなトコで中途半端に原作へ寄せる必要なんて無いのよ。「原作とは異なるヒロイン」ってことでも、別に構わなかったのよ。

あと、ヒロイン役に白人のスカーレット・ヨハンソンを起用したのなら、荒巻だって外国人でも一向に構わないのよ。
少なくとも、そこにビートたけしは無いぞ。
この人は、なぜか役者としても日本だと重用されているけど、お世辞にも芝居が上手とは言えない人だからね。
おまけに、この人だけ最初から最後まで台詞が日本語なので、余計に芝居の下手さが日本人からすると分かっちゃうし。滑舌が悪いから、何を言っているのか聞き取りにくいし。

っていうか、なぜビートたけしだけ台詞が全て日本語なのかと。そのせいで、「日本語と英語なのに、なぜか荒巻と部下たちの会話が成立する」という珍妙な状態になっているし。
そんなヌルい使い方をするなら、ちゃんと英語の話せる役者を使って、英語の台詞を喋らせろよ。そういうのは「原作漫画やアニメ映画が日本生まれであることへのリスペクト」でも何でもないぞ。
むしろ日本人からすると、とても恥ずかしくなっちゃうような演出だからね。
もしもビートたけしの起用が日本市場を意識してのことだとしたら、それは考え方が完全に間違っているし。
日本市場で受けるための配役を考えるのなら、「原作やアニメ版の荒巻に似ている役者」を起用することの方が遥かに大きな意味を持つからね。

『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』は、「分かりにくいことを小難しく描く」という押井守監督の特徴が出まくっている作品だ。
だから「どういう意味だかサッパリ分からない」「どういう設定だかサッパリ分からない」「そういう行動を取る理由がサッパリ分からない」といったことがのオンパレードだった。
特殊な用語に関する説明も、まるで用意されていなかった。
また、これまた押井守監督の特徴である、「哲学的なテーマを台詞による問答で表現する」ということもやっていた。

そういう「小難しさ」が大きな要因となって、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』がカルト的な人気を得たことは間違いない。
しかし、この映画では押井守監督の演出とは真逆で、「出来る限り分かりやすく」ということを心掛けているように感じられる。
カルト的な人気を得ようとしているわけではなく、もっと万人に愛される大ヒット映画を目指すためなら、そういう方針が間違っているとは思わない。
そのことが『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の反感を買ったことは確かだろうが、その分、他の客層を取り込めば問題は無い。

ただ、「分かりやすくする」のと「薄っぺらくする」のは全く別物なのに、そこが混同されているとしか思えない状態に陥っている。
それだけでなく、押井作品の小難しさを排除したにも関わらず、説明が不足していたり下手だったりすることで、分かりにくさが色んな所で出ている。
また、原作漫画を読んだり『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』を見たりしていないと、どういうことか良く分からない箇所もある。
私は押井守の熱烈な信者ではないし、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』が傑作だとは爪の先ほども思っちゃいない。
なので、「あの映画と比べて云々」という形で、この作品を酷評する気は毛頭無い。
でも、これが駄作であることは断言できる。

(観賞日:2018年6月15日)


2017年度 HIHOはくさいアワード:第4位

 

*ポンコツ映画愛護協会