『ゴースト&ダークネス』:1996、アメリカ

1898年、ロンドン。橋梁建技術者のジョン・パターソン大佐は、政府高官ボーモンから東アフリカのツァヴォ河に橋を架ける仕事を命じられた。ボーモンはパターソンに、自分が歪んだ性格であり、今回の建設が失敗するのを望んでいると告げた。パターソンは妊娠している妻ヘレナをロンドンに残し、アフリカへと旅立った。
ツァヴォに到着したパターソンは、助手のスターリングや医師ホーソン、作業員のサミュエルやアブドゥーラ、マヒナ達と会った。ホーソンはパターソンに、ライオンが作業員を襲撃したことを告げた。その夜、パターソンはライオンをライフルで仕留めた。
パターソンはスターリングとマヒナを基礎工事の監督に任命し、作業を進めさせる。しかし7週間が経過した頃、マヒナがライオンに殺害される。ライオンはマヒナの皮を剥ぎ、血を飲んでいた。それは、普通のライオンがする行為ではなかった。
次の夜も、さらに1人の作業員がライオンに殺された。パターソンはサミュエル達に防護用の垣根を作らせ、怯える作業員達を落ち着かせようとする。しかし警戒心を強める中、作業場に2頭のライオンが現れ、スターリングを殺害して姿を消した。その2頭はゴーストとダークネスと呼ばれ、原住民から悪魔として恐れられる存在だった。
やがてボーマンが視察に訪れ、パターソンは30人の作業員がゴーストとダークネスに殺されたことを報告した。パターソンは仕掛けを作って待ち伏せるが、作戦は失敗に終わった。ボーマンは問題解決のため、ハンターのレミントンを現地に向かわせた…。

監督はスティーヴン・ホプキンス、脚本はウィリアム・ゴールドマン、製作はゲイル・アン・ハード&ポール・ラディン&A・キットマン・ホー、共同製作はグラント・ヒル、製作総指揮はマイケル・ダグラス&スティーヴン・ルーサー、撮影はヴィルモス・ジグモンド、編集はロバート・ブラウン&スティーヴ・ミルコヴィッチ&ロジャー・ボンディリ、美術はチュアート・ワーツェル、衣装はエレン・ミロジニック、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はマイケル・ダグラス、ヴァル・キルマー、ジョン・カニ、バーナード・ヒル、トム・ウィルキンソン、ブライアン・マッカーディー、エミリー・モーティマー、オム・プリ、ヘンリー・セレ、カート・エゲルホフ、サッチュ・アナマライ、テディ・レディー、ラキーム・カーン、ジャック・デヴナレイン、グレン・ガベラ、リチャード・ンワンバ、ニック・ロレンツ、アレックス・ファーンズ他。


脚本家ウィリアム・ゴールドマンがアフリカで聞いた実話を基にした作品。
レミントンをマイケル・ダグラス、パターソンをヴァル・キルマー、サミュエルをジョン・カニ、ホーソンをバーナード・ヒル、ボーモンをトム・ウィルキンソン、スターリングをブライアン・マッカーディー、ヘレナをエミリー・モーティマー、アブドゥーラをオム・プリが演じている。

まず冒頭、ボーモンが悪役としての自分をアピールする。自ら歪んだ性格だとニヤニヤしながら語り、憎々しげな態度を示す。しかしながら、彼は陰湿でイヤな男かもしれないが、パターソンやレミントンが戦う敵ではない。ゴーストとダークネスを彼らに差し向けるわけでもないし、そもそも出番が少ないので悪役になりようもない。
その部分、例えばパターソンが期待されて現地に派遣されたとしよう。ボーモンを、とても心の優しい人格者という設定にしてみよう。だとしても、それ以降の展開に大きな変化は無い。だから、ボーモンの最初の悪役アピールは、無駄な行為と言える。

さて、舞台がアフリカに移動して、本当の悪役であるゴースト&ダークネスが登場する。とは言っても、すぐに全体像を見せるわけでは無い。最初は、体の一部分だけをチラッと見せるのである。その見せ方は、いかにもモンスター映画の演出である。
最初に普通のライオンが簡単に殺された後、今度はゴースト&ダークネスの姿を完全には見せずに引っ張る。そして、食い殺された死体から、相手が普通のライオンではなく、大きな恐怖を与える存在であることを印象付けようとする。チラッと見える姿からは普通のライオンとしての全体像が予想されるが、やり方としては間違っていない。

さて、前半の内に、ゴースト&ダークネスは全体像を観客の前に現す。ここで、ちょっとしたサプライズがある。それは、2頭が異形だからではない。「ただのライオンではない」と言われていた2頭が、ただのライオンにしか見えないというサプライズだ。
しかも、ゴースト&ダークネスは、どちらもオスである。確かライオンで狩りをするのはメスだったようにも思うのだが、私の記憶違いだろうか。まあしかし、オスかメスかは関係無い。なぜならゴースト&ダークネスは、普通のライオンではないはずだからだ。

姿形がライオンそのまんまであろうとも、映像を加工したりカメラワークを駆使したりしてオーラや神秘性を醸し出せば、ただのライオンではないことをアピールできるだろう。しかし、そういう演出は無い。サミュエルのナレーションが、必死で「ゴースト&ダークネスは普通のライオンではない」とアピールしようとするが、虚しく響くだけだ。
見た目が普通であろうとも、能力が特殊だと示せば、相手がモンスターだということは示せる。しかしゴースト&ダークネスは、やたら凶暴とか、やたら人を襲うという態度は見せるが、それは「異質な行動」であって「特殊な能力」ではない。

パターソン達はなかなかゴースト&ダークネスを退治できないが、それはパターソンがライフルを取り替えて試射もせずに狩りに出掛け、肝心な時に弾丸が出ないなどの人為的なミスや愚かさが主な原因だ。ゴースト&ダークネスが悪魔や怪物としての凄さを発揮するからではない。天地が逆立ちしても、2頭はライオン以外の何物でもない。
つまり、ゴースト&ダークネスは「ライオンを超えた悪魔のような存在」ではなくて、「頭のイカれた暴れん坊のライオン」に過ぎないのである。たぶん大雑把に言うと『ジョーズ』のライオン版をやりたかったのだろうが、海と陸では勝手が違いすぎたのか。


第17回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低助演男優賞[ヴァル・キルマー]
<*『ゴースト・アンド・ダークネス』『D.N.A.』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会