『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』:2014、韓国&日本
石神武人はデザイン会社の公募展で入賞し、イラストレーターとして働いていた。石神が誕生日を迎えた日、会社にプレゼントが届いた。添えられた写真にはハングル文字が書かれていたが、石神は韓国語など知らないはずなのに「再び巡って来た誕生日。貴方も帰って来ることが出来たのね。妻より」という内容を読むことが出来た。箱の中には、ルービック・キューブのキーホルダーとジョニー・エースのレコードが入っていた。
仕事を終えた石神は1年前に結婚した妻の美由紀に電話を掛けるが、彼女は出なかった。石神は駅で不審な男に気付くが、そのまま帰路に就く。家に着くと玄関の鍵が開いており、室内は真っ暗で、火の付いたロウソクが何本も置かれていた。床には結婚式の時に撮影された妻との写真が落ちていた。妻が壁にもたれて眠っていたので、石神は「美由紀」と声を掛ける。しかし違和感を覚えた彼が体を揺さぶると、妻は力無く倒れ込んだ。彼女は血を流して死んでいたのだ。
石神が驚愕していると、電話が掛かって来た。その相手は、目の前で死んでいるはずの美由紀だった。困惑しながら確認する石神に、彼女は実家にいること、母の具合が悪いから一泊することを説明した。石神は詳しく訊こうとするが、電話は切れてしまった。部屋を見回した石神は、奇妙な感覚に捉われた。その直後、鍵の開いている玄関から2人の男が入って来た。1人は警視庁捜査一課の玄崎だと名乗り、近所で殺人事件が起きて聞き込み中だと述べた。石神は焦るが、いつの間にか死体と血痕は消えていた。
石神が怯えた態度を取っていると、玄崎は警察署への任意同行を求めた。石神は車に乗り込むが、発進してから行き先が警察署でないことに気付いた。すると運転席の玄崎は「オ・ジヌという男を覚えていますか」と問い掛け、助手席の相棒は韓国語を呟いた。石神が困惑していると、助手席のヤン・ギテクが拳銃を突き付けて「ホントに知らないのか」と詰め寄った。石神は拳銃を掴んで抵抗し、車は衝突事故を起こした。石神が逃走すると、玄崎とギテクは後ろから来た車の仲間たちに後を追うよう命じた。
韓国のテレビ局でディレクターをしているカン・ジウォンは情報提供者と会うため来日したが、相手は指定場所に現れず、連絡も取れなくなった。ジウォンは車を走らせながら上司に電話を入れ、自分のネタが放送できないと言われて激しく反発した。そこへ石神が飛び出して来たので、慌てて彼女はブレーキを掛けた。拳銃を握った石神は車に乗り込み、「早く出して下さい」と頼んだ。石神が助けを求めると、ジウォンは警察へ行こうとする。石神は「妻が生きてるか確かめたい。もう少し協力して」と口にした。
石神は美由紀の実家へ行き、インターホン越しに義母と話す。しかし石神が「妻が来ているはずです。電話で言ってました」と告げると、彼女は「間違えてますよ」と述べた。石神が表札に目をやると、「西原」と彫られていた。しかし美由紀の旧姓は久保田だったため、石神は当惑した。石神が急に電話番号も家も思い出せなくなって狼狽していると、ジウォンは「コーヒーでも飲みますか」と持ち掛けた。
石神はコーヒー店でジウォンと話している最中、ギテクたちが来るのを目にした。石神はトイレの窓から脱出し、車を盗んで逃走した。彼は大学の研究室へ忍び込み、薬品を調合して傷を手当てした。そこで石神は急に、「ここはどこなんだ?」と戸惑った。ジウォンは石神の元へ行き、彼のジャケットに追跡装置が入っていたことを教えた。彼女は「一緒にいましょう。朝まで生きていたければ」と告げ、石神を連れてラブホテルに入った。
ジウォンは「記憶があいまいなら記録でもしておかないと」と言ってカメラを回し、石神に詳しい事情を語らせた。翌朝、彼女はホテルで待機するよう石神に指示し、外出した。転寝していた石神が目を覚ますと、テレビ番組にゲノム医薬品研究所の佐藤英輔所長が出演していた。佐藤は司会者に対し、長年の研究で脳細胞の一部に組み込まれた遺伝子ウイルスを発見したこと、休眠状態だったウイルスが何かのきっかけで目を覚ますこと、それが脳細胞を破壊してアルツハイマー型認知症になることを説明していた。佐藤はウイルスの抽出に成功したことを、司会者が説明した。
石神は自分が研究室から複数の薬品を持ち出していることを知り、困惑を隠せなかった。ホテルを出た彼は会社に電話を掛けるが、その番号は使われていなかった。会社の場所も名前も分からなくなった彼は、バーを営む伊吹という友人のことを思い出した。石神は伊吹のマンションへ行き、「ウチに行ってくれないか。美由紀が今日、帰って来る。確かに言ったんだ」と告げる。石神が地図を描くと、伊吹は左利きだったはずなのに右手を使っていることを指摘した。
ジウォンは鎌倉のアートスクールへ赴き、1年ほど前まで石神が来ていたことを校長から聞く。しかし東京へ行ってからは、誰も連絡を取っていないのだと彼は語る。石神の写真を見せられたジウォンは、困惑の表情を浮かべた。伊吹が外出した後、ギテクたちがマンションに押し掛けて来た。石神は薬品を使って電子レンジを爆発させ、窓から脱出した。伊吹が伊藤を連れて戻って来る様子を、石神は野次馬に紛れて密かに見ていた。
地下鉄に乗った石神は、男性の乗客が読んでいる新聞に伊藤の記事を見つけた。石神は反射的に記事を破り、その場から立ち去った。石神は美由紀に会いたくなり、マンションへ赴いた。しかし部屋には平沢という夫婦がいて、半年前から住んでいることを語る。ジウォンは石神と合流し、親友の部屋へ連れて行った。ジウォンは石神に、一番の親友だと言っていた名波に会ったが「石神武人なんて知らない」と言われたことを話した。しかし石神は名波という名前を出した覚えが無く、「伊吹って言いませんでしたか」と質問した。
石神は突如として、記憶に関する専門的な解説をジウォンに語った。しかしジウォンから「何を言ってるんですか」と言われると、石神は「僕、今なんて?」と口にした。ジウォンはイラストレーターである証拠として、絵を描くよう求めた。石神が描いた似顔絵を見た彼女は、職業に関する説明を信用した。「アルファ広告ではいつから働いていたんですか」というジウォンの質問で、石神は自分が勤務していた会社名を思い出した。
ジウォンは石神に自宅へ移行と持ち掛け、車に乗せた。石神は彼女に、「元々、記憶力は良くないんです。交通事故に遭ってから記憶が途切れ途切れで」と述べた。マンションに入った石神はルミノール反応を調べ、間違いなく血痕があったこと、妻が急所を狙われたことを知った。ベランダに出たジウォンは、携帯電話を発見した。ギテクと手下がマンションに乗り込み、石神を捕まえた。ジウォンは彼らに気付かれず、外へ逃げ出した。
ギテクは石神を車に乗せ、「俺たちは貴方を守ろうとしているんです。貴方に何かあったら俺たちが殺される」と言う。さらに彼は、石神に会いたがっている人物がいること、そこへ送り届けるのが役目であることを語った。石神は隙を見て逃走し、マッチを見て伊吹のバーを思い出す。石神はジウォンの車でバーへ行き、伊吹に伊藤の記事を見せた。石神が「お前もグルなのか」と詰め寄ると、伊吹は伊藤が来て「石神が何かの病気に罹っている」と告げたことを明かした。さらに彼は、伊藤から「石神がウイルス感染で死ぬかもしれない。兆候があったら連絡してほしい」と要請されていたことも話した。
ジウォンは携帯を調べ、それがハン・ユリという女性の物だと知る。彼女は石神に、会うはずだった情報提供者がハン・ユリであることを告げる。ジウォンはベランダで携帯を見つけたことを話すが、石神には何も分からなかった。ジウォンは彼に、ユリが「行方不明になった韓国人夫について伝えたいことがある」と言っていたことを明かした。それから彼女は、石神が2つの家庭を持っており、死体を見て混乱したせいで2人の妻を1人だと思い込んだのではないかと述べた。
元々は別人で記憶が変わったのではないかと指摘された石神が感情的になって喚くと、そこに韓国語が混じった。驚いたジウォンから指摘を受けた石神は、別人の記憶が入り込んだことを認識した。ジウォンはアートスクールへ赴き、石神の写真をファックスで彼に送った。そこに写っている石神は、全くの別人だった。石神がゲノム医薬品研究所へ行くと、研究員の名波が「ジヌ」と呼び掛けた。彼と話した石神は、自分がオ・ジヌという韓国人であることを知った。
名波は石神に、彼が天才科学者であること、1年前まで研究所で働いていたのに失踪したことを話す。石神は研究所で、脳細胞を破壊する遺伝子ウイルスを組み替えると遺伝子を吸収して保存する性質にすることも出来ると発見していた。それが可能であれば、遺伝子を操作したウイルスを体内に注入して記憶情報を吸収させた後、取り出して保管しておくことも出来るということになる。ジヌは交換教授として来日していた時、その才能に着目した佐藤が主任研究員として招聘したのだった。
石神は名波と話し、ハン・ユリが自分の妻であること、日本名が西原ユリであることを思い出した。改めて西原家を訪れた石神とジウォンは、ジヌとユリが住んでいたアパートの場所を聞き出した。アパートへ出向いた2人は、写真を撮っている男に気付いた。それは地下鉄で石神が不審を抱いた男だった。石神たちが捕まえて問い詰めると、彼はユリの依頼を受けた不倫専門の調査員であることを明かした。
調査員の「1ヶ月前、奥さんにバレただろ」という言葉を聞いた石神は、地下鉄でユリに声を掛けられたが無視したことを思い出す。その時の石神は既にジヌとしての記憶を失っていたため、ユリが妻だと分からなかったのだ。その記憶を取り戻した石神は、消えた死体がユリであることも知った。アパートに入った石神とジウォンは、ユリの死体を発見する。すぐに石神は、ユリがマンションに侵入したこと、記憶を取り戻させようとして蝋燭を立てたこと、現場に隠れていた犯人が死体を運び去ったことを理解した…。脚本&監督はキム・ソンス、原作は司城志朗、製作総指揮はチャ・ウォンチョン、共同製作は藤岡修&キム・ヨンジュン、共同製作総指揮はイ・サンモ&キム・ヨンドン&チェ・ピョンホ、製作はイ・グヌク&ヤン・クァンドク、撮影はチェ・サンムク、照明はユ・ジェギュ、美術はイ・ジンホ&イ・ジヨン、アート・アドバイザーは花谷秀文、衣装スーパーバイザーはチェ・ユンスン、アクション監督はチュ・ヨンミン&イ・ゴンムン、編集はパク・キョンスク、音楽は川井憲次。
出演は西島秀俊、キム・ヒョジン、真木よう子、浜田学、中村ゆり、伊武雅刀、パク・トンハ、イ・ギョンヨン、戸田昌宏、板東工、パク・ヘジュン、菜葉菜、堀内正美、笠原紳司、東里、亀田理紗、メメ、麻美ゆま、アン・ビョング、ペク・キウォン、パク・ピョンヨル、イ・ギョンテ、イ・ドンミン、チュ・ヨンミン、高見健、カン・ユミ、藤本信介、稲井育代、宮崎信哉、イ・ウジュ、ハ・スンナム他。
第15回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞した司城志朗の小説『ゲノムハザード』を基にした作品。
韓国と日本の合作映画として製作され、大半のシーンは日本で撮影されている。脚本&監督は『美しき野獣』のキム・ソンス。
石神を西島秀俊、ジウォンをキム・ヒョジン、美由紀を真木よう子、伊吹を浜田学、ユリを中村ゆり、佐藤を伊武雅刀、ギテクをパク・トンハ、名波を戸田昌宏、玄崎を板東工が演じている。
ちなみに、石神が電子レンジを爆破させて逃げ出した後、シャワー中の女の横を気付かれないよう通り過ぎるという、何の意味があるのか良く分からないサービスショットがあるのだが、そこでシャワーを浴びているのは麻美ゆま。配給会社の人は、たぶん『ゲノムハザード』というタイトルでは内容が伝わりにくい、それだと大勢の観客を呼び込むのは難しいと考えてサブタイトルを付けたんだろう。
『ゲノムハザード』だと内容が伝わりにくいとは思うので、サブタイトルを付けることは否定しない。
ただ、「ある天才科学者の5日間」はマズいでしょ。もはやネタバレの領域に入ってるでしょ。
石神がイラストレーターとして登場し、奇妙な感覚に捉われている辺りで、既に「実は天才科学者で、5日間の物語なのね」ってのが透けて見えちゃうでしょ。もっと凄いのは、映画の予告編で「石神は記憶を上書された天才科学者であり、その記憶は5日後に全て消える」ってことも明かしてるということだ。
それが物語の根幹に関わらない要素だったり、それを明かした後にもドンデン返しや意外な真相が隠されていたりするなら、観客を釣るための餌としてネタバレしちゃうのも作戦として有りだと思うのよ。
だけど、その辺りって本作品において、かなり重要な要素のはずでしょ。
それをバラした上で、どこに勝算があったんだろうか。しかも、ご丁寧なことに、映画の序盤から画面の隅にカウンターが何度も表示されるのよね。
前述した情報を頭に入れておけば、ちょっと勘のいい人なら「ああ、記憶が消える5日間のタイムリミットを出してるのね」ってことが分かってしまう。
そのタイムリミット表示は何の効果も無いし、ただ邪魔なだけ。石神が「記憶が消える」と気付くのは随分と後になってからだけど、それを彼が悟った時に、こっちは「とっくに知ってましたけど」という感想になってしまうのよ。
本来は石神の気付きと同時に、こっちも気持ちとしては盛り上がりたいトコなのに、すんげえ冷めてるのよ。石神はオ・ジヌという天才科学者なので、「なぜか知らないが薬品の関する知識が豊富で、薬品を調合して傷を手当てしたり、敵を攻撃したりする」という部分に関しては納得できる。
しかし、アクションの能力に長けているってのは、何の説明も付かないぞ。
ずっと研究所に籠っているインドアなはずの科学者なのに、なんでアクションの能力まで会得しているんだよ。
西島秀俊はスタント・ダブルに頼らず自らアクションシーンをこなしたらしいけど、そんなことより「石神の能力値がおかしい」ってのが引っ掛かるわ。遺伝ウイルスに関するトンデモ設定は、なかなか厳しいモノがある。
そこを観客に受け入れてもらうには、「周囲を繊細かつ丁寧な事実で固めることにより、ウイルスの設定に現実味を持たせる」という方法と、「開き直って全てを荒唐無稽なファンタジーにしてしまう方法の2つが考えられる。
しかし本作品は、どっちにも振り切れていない。
どちらかと言えば前者寄りなんだろうけど、リアリティーを持たせるための意匠は全く足りていない。石神がコーヒー店から逃げ出して車で大学へ向かった時、その行方をジウォンは知らされていない。にも関わらず、石神が大学で佇んでいるとジウォンが現れ、一味がジャケットに入れてあった追跡装置を渡す。
ギテクたちが石神を見つけ出せずに苦労している中で、彼女は簡単に見つけているのだ。まるでジウォンの方が石神に追跡装置を付けているかのような行動だ。そうじゃなければ、彼女は異常なぐらい勘がいいってことになる。
そこだけに留まらず、ラブホテルを抜け出した石神が平沢夫婦に追い払われて当ても無く佇んでいる時も、ギテクたちから逃げ出して伊吹のバーを思い出した時も、やはりジウォンは簡単に彼を見つけ出している。
これが例えば、「実はジウォンには裏があり、石神の居場所を簡単に突き止められる理由があった」という設定が終盤に明かされるなら、そういうのも全て納得できる形になるだろう。
しかし、そういう設定は何も無いのだ。石神は深夜の大学で研究室に侵入する際、何の苦労もしていない。警備員はいないし、鍵も掛かっていない。
研究室だから危険な薬品も保管されているはずだが、警備システムはユルユルだ。
石神がラブホテルで転寝して目を覚ますと、テレビでは伊藤が遺伝子ウイルスについて喋っている。
誰がテレビを付けたのかはサッパリ分からないし、仮に「石神が付けたまま転寝してしまった」と解釈するにしても、「目を覚ましたタイミングで伊藤が出演している番組が放送されており、遺伝子ウイルスについて話している」というのは、あまりにも都合が良すぎる展開である。石神は自分のマンションだと思い込んだまま、平沢夫婦の部屋へ行っている。そしてジウォンもカメラを回して石神に喋らせた時、そこが彼のマンションだという情報を聞いている。
ってことは、2人とも石神が実際に住んでいたマンション(最初に彼がユリの死体を発見した部屋)の場所を知らないってことだ。にも関わらず、2人はマンションに辿り着いている。
どうやって場所を知ったのかは、サッパリ分からない。
ジウォンはリストを持っていてバツを付けて行くので、幾つかのマンションを回って辿り着いたということなんだろう。でも、そのリストに載っているマンションの情報は、どういう方法で得たのか。それもサッパリ分からないのだ。
石神はマンションに関する情報を全く覚えていないはずなんだから。マンションにギテクの手下が来た際、石神が彼と揉み合っている間に、ベランダにいたジウォンは気付かれずに外へ逃げ出している。
だが、ベランダにいたんだから、普通に考えれば部屋を通過してドアを開けないと外へ出ることは不可能なはず。彼女がどうやってマンションの外へ出たのか、そのルートがサッパリ分からない。
1階ならベランダから外へ出られるだろうけど、そうじゃないはずだ。だから飛び降りることになるわけだが、それは無理だろう。
そしてベランダ伝いに隣の部屋へ移動したと仮定しても、そこの窓が施錠されていたら中に入ることは出来ないでしょ。後半、石神は「ユリがマンションに侵入し、火の付いた蝋燭を立てることで記憶を取り戻させようとしたが犯人に殺された。石神が帰宅した時に犯人は潜んでいて、彼が玄関でギテクたちと話している隙に死体をベランダから外へ投げ、血痕を拭き取って隠蔽した」という推理を語る。
でも、それは色々と無理があり過ぎるだろ。
ベランダから外へ死体を投げ捨てたら、地面に激突して損壊するだろ。
「幸運にも植木や芝生がクッションの役割を果たした」とかいう、すんげえ都合のいい設定だったりするのか。ガンジンはゲノム医薬品研究所に監視カメラを設置しており、そこに写し出された「重傷を負った本物の石神を佐藤が運び込み、そこにジヌが来て揉み合いになり、誤ってウイルスが注射される」という映像を偽者の石神(オ・ジヌ)に見せる。
だが、そもそも彼が研究所に監視カメラを取り付けている時点で、かなり無理があるでしょ(偽者の石神が「あそこにカメラは無いはず」と言ってるので、研究所が取り付けたカメラではない)。
「ジヌたちのウイルス研究を警戒していた」という理由で設置したことは受け入れるにしても、どうやって取り付けたんだよ。
それを設置できるってことは、ゲノム研究所にスパイがいたのかよ。韓国との合作ということで、主人公を「日本人の記憶が注入された韓国人」にするなど韓国との関連性を強める内容に改変してある。
だが、その改変による皺寄せが、色んな箇所で歪みとなって表れているように感じられる。
そもそも、「たまたま韓国から日本へ取材に来ていたテレビ局の報道局ディレクターが、たまたま石神と遭遇する」という導入部からして、相当に無理をしていると感じてしまう。時間が経つにつれて石神はオ・ジヌとしての記憶がどんどん戻り、終盤に入ると「ほぼオ・ジヌ」という状態に変化している。だからこそユリの死について、「俺の妻が殺された」と激昂しているはずだ。
だが、それなのに喋る言葉はずっと日本語なのである。
もちろん日本で研究員をしていたから、日本語に堪能なのは理解できる。だが、日本人ではないジウォンたちと喋る時も日本語で、佐藤の前で感情的になった時も日本語のままってのは、どうにも違和感が強い。
もはやオ・ジヌの人格になっているはずなんだから、「ベースは韓国語」に変化するのが自然じゃないのかと。終盤に入って舞台がソウルになるのも、「石神はオ・ジヌという韓国人である」という設定に絡んでの展開であり、韓国のプロダクション主体で製作されているってことが大きいんだろう。
ただ、「米国の大手製薬会社が石神の才能に目を付けていて、その製薬会社に韓国人のユ・ガンジンが協力しており、手下たちに彼をソウルまで連行させた」という設定は、「めんどくせえなあ」と思ってしまうわ。
あと、「それにしてもソウルへ行く必要なんて無くね?」と思うし。ガンジンが日本へ来れば済む話でしょ。
石神をソウルへ連行しようとしたらビザやパスポートが必要だし、色々と手間は掛かるし、どう考えてもガンジンが来日する方が楽でしょ。終盤、激しいカーチェイスのシーンが描かれ、石神(オ・ジヌ)が高速道路を歩きながら去ると画面が切り替わって「東京」という文字が表示される。そして石神は研究所へ行き、佐藤と対峙する。
ってことは、カーチェイスのシーンはソウルだったってことだよね。だからこそ、画面が切り替わると「東京」と表示したんだよね。
でも、あれだけ激しいカーチェイスをソウルでやった男が、簡単に飛行機で日本へ戻れているってのは、不可思議だぞ。そもそもパスポートだって取り上げられていたんじゃないのか。
っていうか、そもそも石神は一味から逃亡して佐藤の元へ行きたかったんだから、日本へ戻ってから逃亡しろよ。なんでソウルで暴れてんだよ。(観賞日:2015年5月15日)