『クリスマス・ウォーズ』:2020、アメリカ

金持ちの息子である小学生のビリー・ウェナンは、サンタクロース宛ての手紙を書いた。病気を抱える祖母のアン・マリーはビリーに声を掛け、「さっき連絡があったわ。仕事があってクリスマスにお父さんは帰って来ない」と告げた。ビリーは残念な気持ちを隠し、笑顔を浮かべた。彼は女中のレジーナに手紙を渡し、投函するよう頼んだ。ビリーは祖母にミルクを持って行くようレジーナに頼み、4回連続で最優秀賞を獲得している科学展に参加するため小学校へ向かった。
農場で暮らすクリス・クリングルは、缶を狙って射撃の練習をしていた。妻のルースが声を掛けると、彼は「今日の注文は手配した」と言う。ルースが「注文数は減る一方ね」と漏らすと、クリスは郵便局で小切手を確認してくると告げた。ドナルドはスキニーマンにバットを見せ、買ってもらおうとする。それはサンタ工房で作られた物で、ドナルドが11歳の頃のプレゼントだった。彼は「売りたくはないが、娘のキャンプ費用を工面したい」と説明し、査定したスキニーマンは安値で買い取った。
ビリーは科学展で次点に終わり、最優秀賞を貰ったクリスティーンを悔しそうに見つめた。車に戻った彼は、運転手のロジャーに「例の友人に仕事を頼みたい。連絡してくれ」と指示した。クリスはノースピークの郵便局でアメリカ財務省から届いた封筒を確認し、局長から2箱分の手紙が来ていることを知らされた。バーに立ち寄った彼は、店主のサンディーが客のマイクを口説く様子を目にした。サンディーが席を外している間に、クリスはマイクに声を掛けた。彼は「ニコールと子供たちはどうするんだ。円満な家庭を壊す気はあるのか」とマイクを諭し、家に帰らせた。
スキニーマンはタイムズ紙の記者を名乗って小学校に電話を掛け、取材したいと嘘をついてクリスティーンの連絡先を聞き出した。ビリーは祖母の部屋にミルクを運び、白紙の小切手を盗み出した。彼は祖母のサインを偽造し、スキニーマンに報酬を渡した。ビリーは地下室に行き、スキニーマンが拉致して拘束したクリスティーンと対面した。彼は電気ショックでクリスティーンを脅し、「不正をしたと言って、最優秀賞を返上しろ」と要求した。
クリスが帰宅すると、財務省の役人2名がジェイコブス大尉を連れて訪問していた。クリスは小切手が足りないと文句を言い、残金を払うよう役人に要求した。役人が「去年の半分の量しか生産していないから、報酬に反映される」と話すと、彼は「いい子にしかプレゼントは渡さない。クソガキに石炭を贈って何が悪い」と苛立つ。政府との契約では報酬は出来高制になっていることを役人が説明すると、ルースは「電気代も払えない。従業員の給料や食費も掛かるのよ」と憤慨した。役人は「問題を解決する方法がある」と言い、ジェイコブスは陸軍の仕事を受けるよう持ち掛けた。
スキニーマンはクリスティーンを車で家まで送り届け、「バラしたら両親も愛犬も殺す」と脅しを掛けた。クリスはジェイコブスと財務省の役人が帰った後、ルースと話し合った。彼は工場を閉鎖すると通告されても、陸軍の仕事を断っていた。クリスは友人たちに片っ端から電話を掛けて仕事を回してもらおうとするが、どこもダメだった。彼は配達に出掛け、翌朝になって帰宅した。彼は腹に怪我を負っており、手当てしてからベッドに潜り込んだ。
目を覚ましたビリーは、サンタからのプレゼントが石炭だったので激怒した。彼はスキニーマンに電話を入れ、サンタの殺害を依頼して「君も奴に恨みがあっただろ」と告げた。クリスは財務省に電話を入れ、陸軍との契約を結ぶと申し入れた。彼はルースに、「子供が空に向け発砲した。1発は俺に当たった」と話す。クリスは「潮時かもな」と漏らし、「貴方は愛されてるわ」とルースが告げると「肖像権を主張すれば良かった。国内だけで3兆ドルも動くのに、俺たちはスッカラカンだ」と不満を口にした。
スキニーマンはネットでクリス・クリングルについて検索するが、住んでいる場所は分からなかった。ビリーは父から届いたクリスマスプレゼントの箱を開け、クマのヌイグルミだと知って乱暴に投げ付けた。スキニーマンは郵便局の集配員に声を掛け、「サンタ工房宛ての手紙はどこに行く?」と質問する。「H-36だ。局に集められる」と聞いたスキニーマンは、その先を訪ねる。「レディング通りの郵便局で局長に聞いてくれ」と言われた彼は、集配員を射殺して車を奪った。
スキニーマンは集配員に化けて郵便局へ行き、局長に拳銃を突き付けて「サンタの居場所を教えろ」と詰め寄った。局長が「私書箱に配達しているだけで、それ以外は知らない」と話すと、スキニーマンは私書箱を教えるよう要求した。私書箱を聞き出した彼は、局長を殺して立ち去った。クリスは工房に従業員を集め、「最近の若者はクリスマスを軽視している。そのせいでウチは助成金を減らされ、赤字状態だ。だから軍需品の生産を請け負うことにした」と語った。ジェイコブスは戦闘機の計器盤を作る仕事だと説明し、従業員のエルフたちは準備に取り掛かった。
スキニーマンは武器を用意し、車でカナダに入国した。レックスとカーターという男たちがクリスの家を見つけ出し、「試作品を見ました。素晴らしい仕事ぶりです」と告げた。「軍は年単位での契約を望んでいます」と言われたクリスは、「一度きりだ」と断った。「提案を断れば来年も同じ苦境に陥る」と忠告されても、彼の考えは変わらなかった。スキニーマンはサンタに貰った玩具の飛行機で遊ぶ男児と遭遇し、金を出して買い取った。
アラスカに入ったスキニーマンは郵便局へ行き、クリスの友人を装って局長に話し掛けた。クリスの居場所を問われた局長は、「連絡先は知らない」と答えた。速達を出しに来たサンディーがクリスの友人だと知ったスキニーマンは、彼が赤いフォードに乗っていることを聞き出した。ビリーはスキニーマンに電話を掛け、記念品としてサンタの首を持ち帰るよう要求した。スキニーマンは「現実的じゃないな」と言い、コートを持ち帰ることで手を打たせた。
スキニーマンは郵便局に来たクリスを目撃し、狙撃しようとする。しかし大型トレーラーが視界に入ってチャンスを逸したため、クリスを尾行して彼の家を突き止めた。クリスティーンが受賞を返上したので、ビリーの元には最優秀賞のリボンが届いた。クリスはビリーからの電話を無視し、見張りの兵士を始末した。工房に潜入した彼は、兵士やエルフたちに向けて発砲した。エルフたちが慌てて逃げ出すと、スキニーマンは工房を爆破した…。

監督はイアン・ネルムズ&エショム・ネルムズ、脚本はイアン・ネルムズ&エショム・ネルムズ、製作はミシェル・ラング&ロブ・メンジーズ&トッド・コートニー&ナディーン・ドゥ・バロス&リサ・ウォロフスキー、製作総指揮はハンス・ハフシュミッド&トッド・コートニー&アレクサンダー・J・ハフシュミッド&カイル・ストラウド&ライアン・ジョンソン&ウィリアム・V・ブロマイリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバ&ネス・サバン&ピーター・トウシュ&サマンサ・オールウィントン&アラステア・バーリンガム&ブランドン・ジェームズ&ベン・ローゼンブラット&バディー・パトリック&マーティン・スプロック、撮影はジョニー・デランゴ、美術はクリス・オーガスト、編集はトラトン・リー、衣装はジェニファー・ストラウド、音楽はモンド・ボーイズ。
主演はメル・ギブソン、ウォルトン・ゴギンズ、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、チャンス・ハーストフィールド、ロバート・ボックスタール、エリック・ウルフ、スザンヌ・サッチー、マイケル・ダイソン、デボラ・グローバー、エリソン・バトラー、リン・アダムス、エカテリーナ・ベイカー、ナタリー・ダーバイソン、コービン・スミス・カリー、ポール・ホイットニー、ポーリノ・ヌネス、ケイト・ハーマン、ロバート・レイノルズ、ジョン・トカトリディス、ショーン・デヴァイン、ショーン・タッカー、ショーン・ベンソン、ミカエル・コンデ、ロナルド・タン、ピーター・チョウ他。


日本未公開作品『スモール・タウン・クライム −回り道の正義−』のイアン・ネルムズ&エショム・ネルムズ兄弟が監督&脚本を務めた作品。
クリスをメル・ギブソン、スキニーマンをウォルトン・ゴギンズ、ルースをマリアンヌ・ジャン=バプティスト、ビリーをチャンス・ハーストフィールド、ジェイコブスをロバート・ボックスタール、エルフ7をエリック・ウルフ、サンディーをスザンヌ・サッチー、アン・マリーをデボラ・グローバー、クリスティーンをエリソン・バトラーが演じている。

しばらくはクリスがサンタクロースであることを明示せず、フワッとした情報だけで進めていく。
っていうか、実は最後までクリス本人が自分のことを「サンタクロース」と称することは無い。
ただし、導入部の段階で、クリスがサンタクロースなのはバレバレになっている。それを隠して話を引っ張ろうという意識があるわけではない。
でも、それなら核心部分を真っ直ぐに突かず、周囲をなぞるように情報を小出しにしている意味が無い。
最初からハッキリとした形で、「クリスがサンタ」と明かせばいい。

サンタクロースの設定が、ものすごくボンヤリしている。
クリスは政府から請け負う形でクリスマスのプレゼントを作って子供たちの元に届けているが、それは昔から続いていることなのか。サンタの仕事を始めた当時から、政府の仕事としてやっていたのか。
そもそもクリスは、初代のサンタなのか。彼は普通の人間じゃなくて、ずっと昔から生き続けている特殊な存在なのか。
サンタ工房はサンタ関連じゃない仕事も請け負っていたことがあるようだが、それは具体的にどういう仕事だったのか。それは積極的にやっていたのか、それともサンタの仕事だけじゃ厳しいから回してもらった仕事なのか。

クリスはサンタらしい恰好をしていないし、工房の従業員もエルフと呼ばれている小人ではあるが、妖精っぽさは皆無だ。クリスが配達に行く時も、サンタらしい服装に着替えることは無い。
そして配達シーンは無いので、トナカイも出て来ない。それどころか、トナカイを飼っている様子さえ描かれない。
クリスだけで世界中の子供たちにプレゼントを配っているとすれば、どういう方法を取っているのか。
結局、最後までクリスがサンタらしい活動をしている様子は全く描かれないままなのだ。
「サンタがサンタらしくない」ってのを、ネタにしているわけでもないし。

スキニーマンはサンタ殺害を依頼された直後にネットでクリス・クリングルを検索しているが、つまり彼はサンタの正体を知っているわけだ。
それはスキニーマンだから知っているのか、それとも「サンタの本名はクリス・クリングル」ってのは周知の事実なのか。たぶん前者だとは思うが、なぜスキニーマンはサンタがクリスだと知っているのか。
彼は以前からサンタに恨みを抱いていたようだが、それなら依頼を受けるまでクリスの居場所を調べようとしなかった理由は何なのか。
その気になれば突き止めることは出来たはずなのに、今まで恨みを晴らそうとしなかった理由は何なのか。

クリスマスやサンタクロースを巡る風刺や皮肉として作っていることは分かるが、ディティールが粗すぎる。そのせいで、風刺や皮肉としての面白さまで届いていない。
あと、「サンタは政府の請け負いで生活が苦しく、軍需品を作らされる」というサンタ側からの描写と、「サンタを逆恨みした子供が殺し屋を雇う」という子供側からの描写を盛り込んだのは、完全に二兎を追う物ホニャラララになっている。
「サンタは辛いよ」か、「子供たちがクリスマスへの純粋な気持ちを失った」か、どちらか片方に絞るべきだった。
どちらを選んだ方が良さそうかと考えると、前者だと即答できるけどね。

「ビリーが殺し屋を雇ってサンタを始末しようとする」という方向で進めているストーリーは、ただ不愉快なだけになっている。
さすがにクリスティーンは殺さずに済ませているけど、色々とシャレになっていないことが多すぎる。
ブラック・コメディーを狙っているんだろうけど、ただ殺伐としているだけで全く笑いに繋がっていない。「この作品にマジな殺人なんて無くてもいいのに」と言いたくなる。
まあ、「サンタは辛いよ」方面のストーリーにしても決して面白いわけではないんだけど、少しは可能性があるかなと。

根本的な問題として、「どういう客層を狙って作ったのかサッパリ分からない」ってことがある。
サンタクロースを信じる子供たち向けの作品じゃないことは、もちろん言うまでもないだろう。
じゃあ大人の鑑賞に堪えるのかというと、それもキツそうだ。完全ネタバレになるが、殺しを命じたビリーが何の罰も受けず、クリスに脅されるだけで終わっているのもヌルすぎるし。
大人向けとしては毒と風刺が足りていないし、子供向けとしては愛と優しさが不足している。
そういう意味でも、どっち付かずになっている。

「クリスマス・ウォーズ」ってのは勝手な邦題だが(原題は「Fatman」)、スキニーマンがクリスを殺すために動き出すのは前半で描いているんだから、もっと戦いに特化しちゃっても良かったんじゃないかと思うんだよね。
スキニーマンが襲って来るまでに、特に面白そうなことは何も起きないのよ。
ザックリ言うと、クリスの陰気な日常が淡々と綴られるだけなのよ。
スキニーマンの動きも挿入されるが、彼がクリスを見つけ出そうとする様子でサスペンスとしてのハラハラドキドキが味わえるわけでもないし。

スキニーマンがクリスの農場に来るのは映画開始から1時間10分辺りなのだが、あまりにもタイミングが遅すぎる。しかも、まだクリスはスキニーマンの襲撃に気付いていないし。
ただ、ようやくクリスがスキニーマンの襲撃を知って戦いに赴いても、そこから一気に話が盛り上がるわけでもないんだよね。
だって、ごく普通の小太りの男(だから原題は「Fatman」なのだ)であるクリスが、ごく普通の殺し屋と、ごく普通に銃で撃ち合うだけなのだ。
だから、クリスがサンタという設定は、まるで活かされていない。

(観賞日:2023年1月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会