『怪盗グルーのミニオン大脱走』:2017、アメリカ

1985年に最も人気だったテレビ番組は『悪党ブラット』だ。主人公のブラットが世界を支配する野望に燃えて活動するという内容で、子役のバルタザール・ブラットが主演を務めた。バルタザールは世界的に人気子役になったが、番組はシーズン3で終了した。バルタザールが思春期を迎えて急成長したのだ。ハリウッドでの仕事を失った彼は演じた役柄の如き悪党になり、「あの人は今」と呼ばれるようになった。現在、バルタザールはクライヴと名付けたロボットを従え、悪事を企んでいた。
デュモン・ダイヤが積んである船にバルタザールが侵入したため、反悪党同盟は近くの捜査官に現場へ向かうよう指示した。バルタザールはダイヤを盗み出すが、そこへグルーとルーシーが駆け付けた。グルーはバルタザールからダイヤを奪い返し、反悪党同盟のチームを呼び寄せる。チームは船に到着するが、バルタザールは逃亡してしまった。反悪党同盟の会長を務めるサイラス・ラムズボトムは会員を招集し、引退を発表した。驚く会員の面々に、彼は本部から派遣された新しいリーダーのヴァレリー・ダヴィンチを紹介した。
サイラスが別れの挨拶を始めようとすると、ヴァレリーは罵って退場させた。彼女はグルーを呼び出し、バルタザールを取り逃がしたことを非難した。グルーは「ダイヤは盗まれずに済んだ」と主張するが、ヴァレリーはクビを宣告する。ルーシーが反論すると、ヴァレリーは彼女も一緒に解雇した。グルーとルーシーがが帰宅すると、マーゴ、イディス、アグネスは新婚旅行に行っていない2人のためにハワイ風の飾りやディナーを用意していた。
グルーがクビになったことを打ち明けると、ミニオンズは悪党に戻るのだと思って喜ぶ。しかしグルーが悪党に戻らないと宣言したため、ミニオンズのメルたちはブーイングを浴びせる。彼らは一斉にグルーの元を去り、残ったのは現場を離れていて事情を知らないデイブとジェリーだけだった。バルタザールは宝石の専門家であるムッシュ・ポンプーに化け、フランスのパリ博物館を訪れた。彼は「警察本部長からデュモン・ダイヤの真贋を鑑定するよう依頼された」と嘘をつき、職員や警備員たちを眠らせてダイヤを盗み出した。
グルーは自分が役立たずなのではないかと落ち込み、ルーシーが励ましても浮かない顔だった。メルたちはグルーの家を探すフリッツという男と遭遇し、ブーイングを浴びせて去った。次の朝、グルーは朝刊に目をやり、バルタザールがデュモン・ダイヤを盗み出したことを知った。アグネスがバザーを開いて大事なヌイグルミを近所の子供に売っていたので、グルーは驚いた。彼が声を掛けると、アグネスは「仕事が無いんでしょ。私も力になりたいの」と告げた。
フリッツはグルーの家に辿り着き、双子の兄弟のドルーから依頼されたと告げる。父親が亡くなり、フリードニアまで会いに来てほしいと言っているのだと彼が説明すると、グルーは「親父は赤ん坊の頃に死んでいるし兄弟はいない」と笑い飛ばす。するとフリッツは彼に、母が双子の赤ん坊をを抱いている写真を見せた。グルーは母を訪ね、説明を要求した。すると母は、子供が産まれて間もなく離婚したこと、双子を1人ずつ引き取ったこと、二度と会わず秘密にすると約束したことを打ち明けた。
グルーは「兄弟がいた」と喜び、家族と共に飛行機でフリードニアへ向かう。ドルーは大きな豚牧場を経営し、豪邸に住んでいた。ドルーはグルーを歓迎し、大喜びで抱き付いた。ドルーはグルーと瓜二つの顔だが髪はフサフサの金髪で、性格は明るく社交的だった。大富豪のドルーは、何台もの高級車やヘリコプターも所有していた。グルーは不機嫌になり、ルーシーの前で「もう帰る。惨めな気分だ」と吐き捨てる。ドルーは「グルーと兄弟らしいことをしたいんだ」とルーシーに言い、彼女と三姉妹を遊びに行かせた。同じ頃、バルタザールはハリウッドへの復讐心を燃やしていた。
ドルーはグルーを地下の秘密基地へ連れて行き、父が大悪党だったことを教える。彼は「いつも父はお前を褒めてた。偉大な大悪党だって。でも僕は落ちこぼれだった。悪党の才能が無いと思われてた。そうじゃないことを証明したい」と語り、悪党の手ほどきをしてほしいと頼む。「もう悪党に戻る気は無い」とグルーが断ると、ドルーは父が使っていた悪党モービルに乗せて街を疾走した。一方、ルーシーと三姉妹はフリッツの案内でチーズ祭りの会場を訪れていた。イディスとアグネスに甘すぎるルーシーに、マーゴは「ママには厳しさも必要でしょ」と時には注意するよう助言した。
会場のステージでは、子供たちが伝統的なダンスを踊っていた。女の子が男の子の元へ行ってチーズを貰う趣向だが、ニコという少年は誰にも受け取ってもらえなかった。マーゴはルーシーに指示され、仕方なくニコのチーズを貰いに行った。するとニコは、彼女に一目惚した。アグネスはイディスと共に酒場へ行き、ユニコーンの角が飾ってあるのを見て感激する。イディスは「偽物だよ」と言うが、店主は本物だと主張する。客たちは馬鹿にして笑うが、店主は目を輝かせているアグネスに「俺はユニコーンを見た。心の綺麗な子が森に行けばユニコーンが現れ、その子の物になってくれる」と語った。
ドルーが移動販売車からキャンディーを盗むと、自転車の警官隊が現れた。グルーは運転席に移動し、モービルを走らせて逃亡した。空腹で歩き続けていたミニオンズは、モンディアル・スタジオへ向かうピザの宅配バイクを目撃した。バイクを追い掛けてスタジオに突入したミニオンズは警備員と猛犬に追われ、『シング』のオーディション会場に逃げ込んだ。ミニオンズは歌とダンスを披露して観客の喝采を浴びるが、警官隊が来て捕まった。
グルーはドルーから「たった一度でいいんだ。まだ盗みたい物があるはずだ」と言われ、デュモン・ダイヤを盗み出そうと誘う。グルーはアグネスがユニコーンを探しに行くつもりだと知り、実在しないことを教えようとする。しかしアグネスが神様にお願いしている姿を見た彼は、本当のことを言い出せなかった。翌日、刑務所に収監されたミニオンズは、他の囚人たちを完全に掌握した。ブラットはクライブに、『悪党ブラット』のあるエピソードを見せた。そこではブラットが巨大ロボットを操縦し、搭載したダイヤから放たれるレーザー光線でハリウッドを攻撃していた。ハリウッドを宇宙へ飛ばし、ブラットは満足そうに笑った。そのエピソードを現実にするのが、バルタザールの計画だった。
アグネスはイディスと共に森へ出掛け、ユニコーンを誘い出すためにお菓子を置いた。グルーはドルーに、バルタザールの基地からダイヤを盗み出すための作戦を説明した。逃げるための運転手としてボートで待機するよう言われたドルーは、自分も基地へ行きたいと志願する。しかしドルーが大事な役目だと説明すると、彼は渋々ながらも承知した。彼らが出動の準備を整えていると、ニコが豪邸にやって来た。彼は「婚約の証に豚を連れて来ました」と言うが、ルーシーは「婚約は無いわ」と告げる。ニコは「マーゴ、君を忘れないよ」と落胆し、すぐに彼の母親が乗り込んで来た。ニコの母親が激昂してマーゴを罵ると、ルーシーが恫喝して追い払った。その対応にマーゴは感激し、ルーシーに抱き付いた。喜んでグルーに報告しようとしたルーシーは、彼とドルーがボートで出て行く様子を目撃した。
アグネスは左の角が取れたヤギを見つけ、ユニコーンだと思い込む。イディスは事実に気付いていたが、大喜びするアグネスを見て真実は教えなかった。グルーが基地に到着して乗り込もうとすると、ドルーは指示に従わずに付いて行く。ドルーは足手まといになるが、グルーは彼を助けて「俺が付いてる」と励ます。ミニオンズは所内の道具を密かに集め、飛行船を作って脱獄した。グルーはバルタザールを尾行し、巨大ロボットを目にする。ドルーの失態でバルタザールに見つかったグルーだが、ダイヤを奪って逃亡する。グルーとドルーは追い込まれるが、ヘリコプターで駆け付けたルーシーが救出した。「ダイヤを反悪党同盟に持って行って、また雇ってもらおう」とグルーが言うと、ルーシーは喜んだ。しかし騙されていたと知ったドルーはグルーに腹を立て、2人は激しい口論になった…。

監督はピエール・コフィン&カイル・バルダ、共同監督はエリック・ギロン、脚本はシンコ・ポール&ケン・ダウリオ、製作はクリス・メレダンドリ&ジャネット・ヒーリー、製作総指揮はクリス・ルノー、製作協力はロバート・テイラー&ブレット・ホフマン、編集はクレア・ドッジソン、美術はオリヴィエ・アダム、キャラクター・デザイナーはエリック・ギロン&カーター・グッドリッチ、アニメーション監督はブルーノ・デクイアー&ジュリエン・ソレット、音楽はヘイター・ペレイラ、歌曲はファレル・ウィリアムズ。
声の出演はスティーヴ・カレル、クリステン・ウィグ、トレイ・パーカー、ミランダ・コスグローヴ、デイナ・ゲイアー、ネヴ・シャレル、ピエール・コフィン、スティーヴ・クーガン、ジュリー・アンドリュース、ジェニー・スレイト、マイケル・ビーティー、アンディー・ナイマン、エイドリアン・シスカトー、ブライアン・T・デレイニー、カティア・サポネンコ、ケン・ダウリオ、ジュード・アルパース、コリー・ウォールズ、ソフィー・M・シアダトプール他。


シリーズ第3作。
監督は1作目から全て担当しているピエール・コフィンと、『ミニオンズ』のカイル・バルダが共同で務めている。
脚本はシリーズ1作目から3作連続となるシンコ・ポール&ケン・ダウリオ。
グルー役のスティーヴ・カレル(今回はドルーも)、マーゴ役のミランダ・コスグローヴ、イディス役のデイナ・ゲイアー、アグネス役のネヴ・シャレルはシリーズのレギュラー声優陣。ルーシー役のクリステン・ウィグとサイラス役のスティーヴ・クーガン(今回はフリッツも)は、前作からの続投。
他に、バルタザールの声をトレイ・パーカー、グルーの母をジュリー・アンドリュース、ヴァレリーをジェニー・スレイトが担当している。

このシリーズを製作しているイルミネーションにとって大きな誤算だったのは、ミニオンズがあまりにも人気者になり過ぎてしまったということだ。
そのおかげでスピンオフ映画『ミニオンズ』も作られたのだから、それは「嬉しい誤算」と言えるかもしれない。
ただし本家のシリーズを続けて行く上では、喜ばしいこととも言えない。
なぜなら、本来なら「グルーの物語」を描かなきゃいけないのに、多くの観客はミニオンズを見たいと思っているからだ。
つまり製作サイドの意向と観客の希望に、大きな乖離が生じているのだ。

このシリーズは1作目でグルーが悪人から善人に鞍替えしたことで、実質的には物語が完結している。
「グルーは悪党なのに善人のような行動を取る」というトコに面白味があったわけだから、その根幹が崩れた時点で話は終了なのだ。
「グルーが悪人時代を懐かしみ、戻ろうかと逡巡して」ってな感じで話を作るなら、まだ可能性が無いわけではない。
しかしグルーは完全に善意に染まってしまったので、それ以上はキャラの魅力を掘り下げることが難しいのだ。

グルーの「元々は悪党」という要素が死んでいる中、前作では恋愛劇を膨らませることで観客を引き付けようとした。
1作目で三姉妹という家族を得た彼が、次に奥さんを得るという話にしたわけだ。
それが成功していたとは思わないが、製作サイドは「この路線で行こう」と決めたようだ。
そんなわけで、今回は「家族」「妻」に続き、「兄弟」を得る話にしてある。
しかし、そこを充分に描けているのかというと、答えはノーである。

このシリーズは、新しいキャラクターを登場させることで異なる展開を生み出そうとしている。
それも1人ではなく、「善玉」「悪玉」の両方で1人ずつ用意する方針にしているようだ。
2作目では前者が反悪党同盟のルーシー、後者が怪盗のエル・マッチョだった。
そして今回は、善玉のポジションかドルー、悪玉がバルタザールとなっている。
「新キャラで新展開を」ってのはシリーズ物で良くあるパターンだし、その考え方自体が間違っているとは思わない。
ただ、この映画では成功していない。

もう少し正確に評すると、「新キャラで新展開を」ってのが失敗しているわけではなく、2人のキャラクターを出したのが上手くなかったということだ。
ドルーを使って兄弟のドラマを描くか、バルタザールを使って「グルーが名誉回復のために行動する」という話を描くか、どちらか片方に絞り込むべきだった。
両方とも持ち込んで、どちらも中身が薄っぺらい消化不良の状態になっている。
2つの要素を上手く絡ませて、映画に厚みを持たせることも出来ていない。

ドルーとバルタザールだけでなく、ヴァレリーというキャラクターも重要な存在であるかのような形で登場する。
しかし登場シーンが彼女のピークで、それ以降は全くと言っていいほど存在価値を出せていない。
ドルーをクビにしなきゃいけないが、その役目はサイラスに担当させられない(そんな理不尽なことを言うキャラじゃないからね)。
そこで新キャラのヴァレリーを登場させたんだろうけど、クビを宣告したら仕事は終了なのよね。つまり登場シーンで仕事が終わっているわけで、それは使い方が下手すぎるでしょ。

そもそも、ヴァレリーがグルーにクビを宣告する理由がサッパリ分からない。
「バルタザールを取り逃がした」ってのが理由だけど、それはグルーだけの責任じゃなくてチームにも問題はあるはずで。それにグルーが主張するように、ダイヤは守ったわけだし。
かなり理不尽で不可解なので、「ヴァレリーがクビを宣告した裏には何かあるのでは」と疑念を抱いたが、特に何も無いんだよね。そうなると、彼女だけでなく「グルーがクビを宣告される」という手順も含めて「ホントに必要だったのか」と言いたくなる。
どうしてもグルーがクビになる展開を使いたかったのなら、もっと上手く組み込まなきゃダメでしょ。

このシリーズにはミニオンズの他にも、もう1つの魅力がある。それは三姉妹の可愛さだ。そして、これまでの2作によって「ミニオンズと三姉妹が可愛ければ成立する」という事実が明らかになってしまった。
主人公であるはずのグルーは、いなくても大して困らないのだ。
とは言え、ミニオンズは彼に仕えているし、三姉妹は彼に育てられている。なので、登場させなかったら「ミニオンズと三姉妹の可愛さ」を描くのも難しくなる。それを考えると、ホントは背景のような立場で扱ってしまえばいいのだ。
でも「グルーの物語」としてシリーズを始めてしまった以上、そういうわけにもいかないんだよね。
そこは難しい問題だが、いっそのこと本家シリーズは打ち止めにして三姉妹とミニオンズのスピンオフ映画だけを続けるってのも1つの方法じゃないかな。本家よりもスピンオフの方が人気になる『かいけつゾロリ』みたいなケースもあるんだしさ。

「ミニオンズと三姉妹の可愛さだけで成立するが、グルーを主役として扱わなきゃいけない」という条件を満たすために、取るべき方法は1つしか無い。
それは、グルーをミニオンズ&三姉妹と積極的に関わらせることだ。別の表現をするなら、「ミニオンズ&三姉妹をメインの物語に多く関与させる」ってことだ。
ところが製作サイドは愚かにも、そこを完全に分離してしまった。
グルーがドルーと手を組んで動くパート、三姉妹を描くパート、ミニオンズを追うパートを、全てバラバラに配置しているのだ。

一応、三姉妹とミニオンズのパートにも少しだけグルーは参加するが、ほんの申し訳程度だ。彼は基本的に、自分のパートに集中している。
それによって何が起きるかというと、「グルーのパートが邪魔に感じる」という事態だ。
そこにはミニオンズも三姉妹も終盤まで全く絡まないし、何より「シンプルに面白くない」という残念なお知らせがある。
これは「ユニコーンは実在しない生き物」ってことよりも、ハッキリと断言できる事実だ。

(観賞日:2020年6月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会