『クルーエル・インテンションズ』:1999、アメリカ

キャスリンとセバスチャンは、互いの父母が結婚したことで義理の姉弟となった。2人は名門マンチェスター校に通い、両親が不在の豪勢なタウンハウスで暮らしている。2人は親密な関係にあるが、キャスリンはセバスチャンに体を許していない。
セバスチャンは女を誘惑し、落としては捨てるプレイボーイだ。彼は高名な精神科医レジーナを罠に掛け、娘マーシーをモノにしてヌード写真をネットに流した。一方、優等生を装っているキャスリンだが、首から下げている十字架にはコカインが入っている。
夏休み、キャスリンはセバスチャンに、新しい獲物として新入生のセシルを狙うよう勧める。キャスリンを振った男コートが、セシルに乗り換えたのが気に入らないのだ。彼女の母コールドウェル夫人はキャスリンに対し、娘の相談に乗って欲しいと頼みに来ていた。
だが、セバスチャンは簡単すぎると言って、その話を断った。そして彼は、自分が新しく赴任する校長の娘アネットを狙っていることを語った。アネットはトレヴァーという恋人がいるが、結婚まで純血を守ると決めているような女だ。
アネットは夏休み中、セバスチャンの伯母ヘレンの屋敷に滞在することになっていた。キャスリンとセバスチャンは、賭けをすることにした。セバスチャンがアネットを落とすことに失敗すれば、キャスリンは彼の愛車である56年型ジャガーを貰う。セバスチャンが成功すれば、キャスリンが今まで許さなかった自分の体を与えるというものだ。
セバスチャンはヘレンの家に行き、アネットに会った。だが、アネットは某人物からの手紙でセパスチャンの悪評を知っており、警戒心を持っていた。セバスチャンは、密告者がアネットの親戚であるアメフト部員グレッグだと確信した。
キャスリンは、セシルが黒人のチェロ教師ロナルドと惹かれ合っていることを知った。彼女は性的経験の無いセシルにディープキスを教え、ロナルドに試してもらうよう勧める。そしてキャスリンは、セシルとロナルドの関係が発展するよう、お膳立てをした。
セバスチャンは友人ブレインの協力を得て、グレッグのホモ写真を撮影した。だが、密告者はグレッグではなかった。セバスチャンはグレッグを脅迫し、アネットに対して自分を誉める話をさせる。そして、アネットから密告者がコールドウェルだと聞き出させた。
キャスリンは、セシルとロナルドの関係が深まらないことに不満だった。そこでキャスリンはセバスチャンに、セシルを目覚めさせて欲しいと頼んだ。セバスチャンから密告者がコールドウェルだと聞かされたキャスリンは、報復の行動に出ることにした。
キャスリンはコールドウェルに会い、セシルとロナルドの関係を密告した。コールドウェルがロナルドを追い出した後、キャスリンとセバスチャンは彼に会い、セシルに愛を告白するよう勧めた。セバスチャンはセシルに接触し、彼女と性的関係を持った。ゲームが進む中で、1つだけ大きな誤算があった。セバスチャンは、本気でアネットに惹かれ始めたのだ…。
監督&脚本はロジャー・カンブル、原案はコデルロス・ド・ラクロ、製作はニール・H・モリッツ、共同製作はヘザー・ジーガン、製作総指揮はマイケル・フォトレル、共同製作総指揮はウィリアム・タイラー&ブルース・メロン&クリス・J・ボール、撮影はテオ・ヴァン・デ・サンデ、編集はジェフ・フリーマン、美術はジョン・グレイ・スティール、衣装はデニス・ウィンゲイト、音楽はエドワード・シェアマー。
出演はサラ・ミシェル・ゲラー、ライアン・フィリップ、リース・ウィザースプーン、クリスティン・バランスキー、スウージー・カーツ、セルマ・ブレア、ルイーズ・フレッチャー、ジョシュア・ジャクソン、エリック・メビウス、ショーン・パトリック・トーマス、アライナ・リード・ホール他。


ラクロの『危険な関係』を基に、舞台を現代に置き換え、主人公をティーンエイジャーにした作品。
キャスリンをサラ・ミシェル・ゲラー、セバスチャンをライアン・フィリップ、アネットをリース・ウィザースプーン、コールドウェルをクリスティン・バランスキー、レジーナをスウージー・カーツ、セシルをセルマ・ブレアが演じている。

これまでに『危険な関係』は、1959年(ロジェ・ヴァディム監督)、1988年(スティーブン・フリアーズ監督)、1989年(ミロシュ・フォアマン監督、邦題は『恋の掟』)と3度に渡って映画化されている。これが4度目の映画化というわけだ。
『クルーエル・インテンションズ』という英語タイトルをカタカナにしただけの邦題を付けた担当者には、自身の怠慢を強く反省することを要求したい。こんなタイトルでは、どういう内容だか全く読めないではないか。英語にしても、もう少し分かる言葉を選べと。

男女の危険な恋愛ゲームってのを、18世紀パリの貴族社会から現代の学生社会に移しているわけだが、どうしても無理な部分が生じてくる。最も無理が目立つのは、電話や電子メールがあるのに、なんで手紙を使うのかって辺りだろうか。
製作はニール・H・モリッツは『ラストサマー』を手掛けた人物で、同作品からサラ・ミシェル・ゲラーとライアン・フィリップを引っ張って来た。『ラストサマー』といえば、完全なるティーン・エイジ向けホラー映画である。で、この映画も、ある意味では、あれと同列に存在する。ようするに、完全なるティーンズ・ムーヴィーだってことだ。

日本でも、例えばモー娘が主演する名作文学ドラマってのが作られたりする。極端に言えば、ああいうのと同じようなノリの作品だ。もちろん、この映画に出てくるハリウッドのティーンズ・アイドル達は、モー娘とは全く次元が違う所にいるわけだが。
ティーンズ・アイドルを集めておいて、複雑な男女の感情、心の機微、繊細な心理の揺れ動きを表現しようとしても、ちょっと苦しいものがある。そもそも演出にしたって、難しい心理ドラマを見せようなんて意識は、全く無いように感じられる。

シナリオからして、心理描写の妨げになっている。例えばロナルドとセシルに対するゲームの途中、急にセバスチャンがキャスリンの作戦に反対するが、その態度が理解できない。いったい、お前の態度が急変した理由は何なのかと。
それまでの話の流れで、「悪い奴だけど、いい所もある」という描写があったのなら、まあ分かる。しかし、そんな描写は、見当たらないのである。ってことは、話が進む中で、どこかで罪悪感に目覚めたってことだろう。それは、いつ、どこで、なぜなのか。

セバスチャンが、いつ頃からアネットにマジで惹かれ始めたのか、それも良く分からない。ゲームから本気にチェンジするような、ドラマティックなきっかけは見当たらない。ゲームから本気になったという、セバスチャンの態度の変化も分かりにくい。
アネットが「アネットに本気になったのね」と言うセリフを口にして、初めて観客に「ああ、セバスチャンは本気になったんだな」ということが分かるってな状態だ。その後はセバスチャンのニヤニヤ笑いが消えるので、態度の変化は分かりやすい。
しかし、それじゃあダメだろうに。
本当ならば、アネットのセリフが来る前の段階で、セバスチャンがアネットに本気になっており、それを観客も分かっていなければならないはず。そしてアネットのセリフで、セバスチャンは自分が本気になっていると気付かされる、という流れになるべき。
終盤に入って、急にマジモードに入られてもなあ。

ティーンズ・ムーヴィーとしての限界なのか、レーティングのことを気にしたのか、あるいは役者が拒否したのか、性的描写もほとんど無い。サスペンスもエロティックも心理劇も弱いのだから、「ティーンズ・アイドルの一風変わった青春ドラマ」として見るしかない。


第22回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のリメイク】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会