『クリミナル 2人の記憶を持つ男』:2016、アメリカ&イギリス

CIAロンドン支局諜報員のビル・ポープは、尾行に警戒しながら町を歩いていた。ある店に入った彼は、大金の入った鞄を受け取った。彼は自宅に電話を掛け、妻のジル&娘のエマと話した。女の尾行に気付いたビルは、バイクを拝借して逃走した。ビルの動きを追っていた支局長のクウェイカー・ウェルズだが、20分ほど見失ってしまう。ようやくビルの姿を確認した時、彼は金の入った鞄を持っていなかった。ビルがタクシーを拾うと、尾行していたエルサ・ミューラーは無政府主義者のハヴィエル・ハイムダールに連絡する。ハイムダールはパソコンを使い、すぐにタクシー運転手であるウィリアム・ボイドの情報を入手した。
ビルはボイドの携帯電話を借りて支局に連絡し、「追われてる」とメールを送る。ウェルズがセメント工場に行くよう指示すると、すぐにハイムダールはボイドのナビを操作して別の場所に誘導した。待ち受けていたハイムダールの手下たちが銃撃し、ボイドは死亡する。ビルはタクシーを捨てて反撃を試みるが、銃弾が切れて捕まった。ハイムダールは彼を拷問し、ダッチマンの情報を聞き出そうとする。ビルが口を割らなかったため、ハイムダールは始末した。
現場に到着した特殊部隊は、椅子に拘束されたまま死んでいるビルを発見した。ウェルズは部下をフランクス博士の元に派遣し、開発した記憶プログラムでビルの記憶を取り出す仕事を依頼した。フランクスは5年後の人体実験を予定していたが、CIAは48時間以内に生きた者にビルの記憶を移すよう要請した。その器としてCIAが選んだのは、収監されている凶悪犯のジェリコ・スチュワートだった。ジェリコは行動を抑制できず、罪の意識や他人への思いやりが皆無の男だった。
CIAはジェリコを拘束し、デラウェア州ドーバー空軍基地へ移送した。フランクスは輸送機に搭乗し、ジェリコの状態を調べた。ジェリコの頭部には、幼少期の外傷があった。ハイムダールは通信機器メーカーのストーンハープ産業の創立者であり、全ての政府を転覆させると宣言していた。彼の手下のエルサは、元ドイツ軍の兵士だった。輸送機はイギリスのサフォークにあるレイクンヒース空軍基地に到着し、CIAのマルタ・リンチたちは手術の準備に取り掛かった。ジェリコは外傷の影響で未発達の神経細胞が多く残されており、そこにビルから取り出した記憶を移すことになった。
手術の途中でジェリコの脳内温度が上昇したため、フランクスは危険だと判断して中止しようとする。しかしウェルズは死んでも構わないと告げ、手術を続行させた。手術は成功し、ウェルズは意識を取り戻したジェリコが頭の痛みを訴えると「助けてほしければ思い出せ」と詰め寄る。彼が「お前はCIAのビル・ポーブだ。ヤン・ストルークというオランダ人は、軍のシステムを操作してミサイルを発射できる。だが手に負えなくなり、お前に保護を求めた。ダッチマンを殺せと命令が出たが、お前は彼を信用して取引することにした。お前は金を持って奴の元へ行こうとした。どこに匿った」と声を荒らげると、ジェリコの脳内にビルの断片的な記憶がよぎった。しかしジェリコは、「何も思い出せない。俺を誰かと勘違いしてないか?」と反抗的な態度を取った。
ウェルズは手術が失敗したと判断し、部下に「ゴミを始末しろ」と命じる。ヤンはビルが隠れ家に来ないので、外に出て公衆電話で彼の実家に連絡する。電話を受けたジルは、ビルが死んだことを伝えた。車で移送されたジェリコは、護送官が自分を殺すつもりだと気付いた。彼は隙を見て武器を用意し、運転手の首を突き刺した。車は衝突事故を起こし、ジェリコは外に出た。彼は車を炎上させ、町に向かった。ジェリコは金を払わずにチキンバーガーを食べ、男たちを暴行して車を奪った。
深夜、ジェリコはビルの家に侵入し、ジルの口を塞いでベッドに拘束した。「金の入ったバッグはどこだ?」と彼が詰問すると、ジルは「知らない」と答える。ジェリコが金目の物を漁っている間に、ジルは警備会社に連絡する。警備会社から電話が入ると、ジェリコはビルとして対応した。彼はセキュリティー・コードを知っており、エマが誤って連絡したと説明する。その間に拘束を解いたジルは、エマの部屋に入ってドアを封鎖する。ジェリコは車に戻り、そのまま家を去った。
翌朝、ビルの助けが得られなくなったヤンは、ロシアへの亡命を決意した。かつて彼ハイムダールの組織にいたが、今さら戻るつもりなど無かった。彼はロシア大使館に亡命を願い出て条件を提示し、今夜6時にシステムを操作すると通告した。ウェルズはジェリコがホープ家に侵入したことを知り、すぐに見つけ出すよう部下たちに命じた。ジェリコは盗んだ品物を買い取ってもらうが、ビルの記憶に出て来たエマのブラシだけは手元に残した。
ジェリコはカフェに入って割り込み、横柄な態度を取った。彼は男性客の顔面を殴って鼻の骨を折り、従業員や他の客を威嚇して去った。ビルの記憶が脳裏をよぎって頭痛に見舞われた彼は、ジョージ・オーウェルの本を探すために図書館へ赴いた。ウェルズたちはジェリコがビルの名前でネットにログインしたことを知り、部下を差し向けた。既にジェリコは図書館を去っていたが、フランクスの携帯の位置情報を調べたことが判明した。
ウェルズはフランクスに電話を掛け、「ジェリコが行く。そのまま電話を切るな」と指示した。ジェリコはフランクスに詰め寄り、「頭が割れそうだ。何とかしろ」と要求した。ハイムダールはジェリコがフランクスの元へ行ったことを突き止め、薬局での様子を防犯カメラの映像で観察した。フランクスはジェリコから話を聞き、感情が芽生え始めたのだと告げる。48時間でビルの記憶が消えると聞いたジェリコは、「それまでに金を見つける」と告げた。
薬局の外に出たジェリコは、CIAのピートやルイサたちに捕まって連行される。フランクスはウェルズに、「ジェリコにバッグの金をやると約束し、ダッチマンがいた場所に連れて行けばビリーの記憶が蘇る」と話す。ウェルズはダッチマンがロシアと接触し、6時に操作ソフトを使うという情報を知る。彼はジェリコにビルの思い出の映像を見せ、取引を持ち掛けた。ジェリコは海岸へ行くよう指示し、ウェルズやマルタたちは車で出発した。
ハイムダールはパソコンを使い、ダッチマンが空港に現れたように細工した。ウェルズは連絡を受け、マルタに「囚人を送還しろ」と指示して空港へ向かう。空港に着いた彼は、間違いだったと知らされる。ジェリコたちの車が橋に到達すると、エルサが急襲する。マルタを含む護衛の面々は死亡し、ジェリコは近くの車を奪って橋から落下する。彼は車を脱出し、ポープ邸に侵入した。彼は地下室に忍び込み、傷を手当てした。
エマと帰宅したジルは、侵入者の存在を察した。彼女は拳銃を構えて地下室へ行き、ジェリコを発見する。ジェリコはブラシを投げ渡し、ビルの記憶を手術で脳に植え付けられたと説明する。ジルは信じないが、ジェリコはビルしか知り得ない個人的な情報を幾つか提示した。彼が「俺は出て行く。二度と来ない」と言うと、ジルは撃たずに地下室を出た。ヤンはアメリカの原子力潜水艦からミサイルを発射させ、すぐに自爆させた。エマはジェリコと仲良くなり、ピアノの弾き方を教えた。ジルはジェリコの説明を受け入れ、ソファーを使うよう指示して家に泊めた…。

監督はアリエル・ヴロメン、脚本はダグラス・クック&デヴィッド・ワイズバーグ、製作はJ・C・スピンク&ジェイク・ワイナー&マット・オトゥール&マーク・ギル&クリスタ・キャンベル、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ラティー・グロブマン&ダグラス・アーバンスキー&ジェイソン・ブルーム&ケヴィン・キング=テンプルトン&ボアズ・デヴィッドソン&ジョン・トンプソン&クリスティーン・オタール&デニス・チョバノフ、共同製作総指揮はサミュエル・ハディダ&ヴィクター・ハディダ&ロニー・ラマティー、共同製作はポール・リッチー製作協力はラン・モー&S・エスター・ホーンスタイン、撮影はダナ・ゴンザレス、美術はロバート・ヘイズ&ジョン・ヘンソン、編集はダニー・ラフィック、衣装はジル・テイラー、音楽はブライアン・タイラー&キース・パワー。
出演はケヴィン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、アリス・イヴ、ガル・ガドット、マイケル・ピット、ジョルディー・モリャ、アンチュ・トラウェ、スコット・アドキンス、アマウリー・ノラスコ、ライアン・レイノルズ、ララ・デカロ、フレディー・ボッシュ、エマニュエル・イマニ、ハリー・ヘップル、ダグ・コックル、スティーヴ・ニコルソン、ソープ・デリシュ、ジゼラ・マレンゴ、マーク・ケンプナー、マイケル・ボーディー、ジョシュア・ジェームズ、サマンサ・カフラン、デヴィッド・エイヴリー、ジョー・フィドラー、マイケル・ウェバー、キャサリン・グウェン、リチャード・リード他。


『THE ICEMAN 氷の処刑人』のアリエル・ヴロメンが監督を務めた作品。
脚本は『ザ・ロック』『ダブル・ジョパディー』のダグラス・クック&デヴィッド・ワイズバーグ。
ジェリコをケヴィン・コスナー、ウェルズをゲイリー・オールドマン、フランクスをトミー・リー・ジョーンズ、マルタをアリス・イヴ、ジルをガル・ガドット、ヤンをマイケル・ピット、ハイムダールをジョルディー・モリャ、エルサをアンチュ・トラウェが演じている。

冒頭、ビルは尾行に警戒しながら鞄を受け取り、妻子に電話して会話を交わす。
だが、そんな状況で、わざわざ妻子と電話で話す必要性は全く無い。もっと目の前の仕事に集中すべきでしょ。尾行されていることも、ほぼ確定的だと感じているぐらいの状況なんだし。
そういう状況で妻子と会話させるのは、「最初にジルとエマを登場させて、ビルとの家族関係をアピールしておく」という目的があるからだ。
そういうシナリオの都合で、ビルに不自然な行動を取らせているのだ。

ハイムダールはビルを捕まえると、その場で拘束して拷問を始める。でも、それだとCIAがすぐに駆け付ける恐れがあるので、あまり余裕を持って拷問することが出来ない。別の場所に連行してから拷問すれば、じっくりと時間を掛けて拷問し、情報を吐かせようとすることも出来ただろう。
あと、ハイムダールが現場にビルの死体を放置するのはCIAを挑発する目的ではなく、ただ「余裕が無いから死体を残して逃げ出した」って感じに見える。その辺りは、「ビルの記憶をジェリコに移す」という展開を成立させるためだ。
だからビルの死体は五体満足で残され、CIAが回収する必要があるのだ。
実のところ、アクション無しで、いきなり「ビルがハイムダールに捕まっている」という状況から話を始めても別にいいんだよね。
最初にアクションシーンを用意して、観客を引き付けようってのは理解できる。ただ、そんなにプラスが大きいようには思えないのよね。

CIAにとって、ビルの記憶から情報を引き出すことは、ものすごく重要なはずだ。それなのに、よりによってジェリコのような男に記憶を移植するってのは、どういうつもりなのか。
死刑囚であっても、もっと穏便な人間もいただろうに。最も選んじゃダメなタイプを、あえて狙っているボンクラな判断にしか思えないぞ。
手術が成功しても、ジェリコのような男が素直に協力するとは思えない。実際、ジェリコは逃亡して犯罪を重ねているし。そんなのは少し考えれば簡単に予想できることで、そんな計画をCIAが進めるのはアホすぎる。
ウェルズがフランクスに「あんな犯罪者を使うから、こんなことになった」と怒鳴るシーンがあるので、それはフランクスの考えらしいけど、本気で反対ならウェルズが止めることは出来たはずで。
あとウェルズは「死んでも構わないから手術を続けろ」と命じるけど、死んだら意味が無いでしょうに。

ジェリコの手術が終わると、ウェルズが「ヤン・ストルークというオランダ人は、軍のシステムを操作してミサイルを発射できる。だが手に負えなくなり、お前に保護を求めた。ダッチマンを殺せと命令が出たが、お前は彼を信用して取引することにした。お前は金を持って奴の元へ行こうとした」と説明する。
それを全て台詞で説明するのは、ものすごく不細工な処理だ。ある程度は台詞に委ねていいけど、全部はダメだろ。映像も使って、情報を出そうぜ。
っていうか、そこで全て説明する必要性も無いし。
ジェリコの脳内にビルの記憶がよぎる様子を何度も挿入するんだから、そこで事情が明らかになっていく構成でもいいだろ。あとヤンのパートを利用してもいいし。

移送される途中で護送官が殺すつもりだと気付いたジェリコは、逆に始末しようと目論む。
それはいいけど、なぜ運転手を殺すのか。そうなると当然のことながら運転不能になるのだが、激しい事故が起きたらジェリコだって死ぬ恐れがあるでしょうに。
たまたま衝突事故が起きたのにジェリコだけが助かるという都合の良さは、ただ安っぽいだけだ。
ジェリコはビルの記憶がよぎって、ジルをレイプしないとかエマを放っておくという行動を取る。だけど「自分の記憶じゃない」という意識はあるんだから、そんなの気にせずに動けよ。
そこで行動がヌルくなるのは、表現としては理解できるが、しっくり来ないモノがある。

サスペンス・アクションだけで進めてもいいのだが、家族愛や夫婦愛のドラマを盛り込んでいる。
もちろん、ジェリコの脳にビルの記憶が移植される設定なのだから、そういう要素を盛り込むのは当然の流れだ。そして物語に厚みを持たせる上でも、そういう要素を入れるのは理解できる。
ただ、そのせいでジルが厄介なキャラになっているのだ。
ジェリコはジルを縛って脅し、ジルとエマを恐怖に陥れた男なのだ。それなのに、2度目に会った時はジェリコの説明を受けると、撃たないだけでなく警察に通報することもせずに済ませる。
そしてエマが仲良くなった後にはジェリコの説明を全面的に信じ、すっかり受け入れている。そして「ジェリコの姿をしたビル」として、愛するようになるのだ。

だけどさ、外見は完全にビルと別人なんだぞ。それなのに「中身はビルだから関係ないね」と、簡単に割り切れるものなのか。受け入れるにしても、もっと時間が必要じゃないのか。
しかも、ジェリコが最初から「中身はビル」として現れたわけじゃなくて、凶悪な犯罪者として接触しているんだぞ。そういうことがあったのに、なんでジルは簡単に「無かったこと」に出来ちゃうんだよ。
あと、ジェリコがジルとラブラブになることで、彼の犯罪が無かったことにされちゃうのもダメだろ。
「中身がビルに入れ替わったからOK」という問題でもないぞ。ジェリコの罪は、そんなに簡単に許されるモンじゃないだろ。

ハイムダールはジェリコの場所を簡単に割り出して防犯カメラで観察したり、カーナビや空港の認証システムを操作したりする力を持っている。
そんな能力があるのなら、ダッチマンに固執しなくても別にいいんじゃないかと思ってしまう。
そりゃあ軍のシステムを操作できるってのは凄い武器になるけど、コンピュータの様々なシステムを操作できるのも凄いと思うのよ。
あと、それだけ色んなシステムを簡単に操作できるのに、ヤンの居場所は突き止められないのね。

ヤンがロシアと接触してシステムを使うと予告した後、薬局を出たジェリコがウェルズの元に連行された辺りで「ダッチマンの予告時刻まで、あと3時間」とテロップが出るタイミングがある。でも、そんなのは何の意味も無い。
タイムリミット・サスペンスとしては、全く機能していない。それ以降は「あと何時間」とか「あと何分」とか表示されないし、CIAが「予告時刻までに何とかしなけりゃ」と必死で動くわけでもないし。
それに、こっちは「予告時刻になったら何が起きるのか」ってことを全く教えてもらっていないし。
あと、ミサイルが発射されても、すぐにヤンが自爆させるのは分かり切っているし。

ビルとハイムダールには、ヤンを巡って対立の構図がある。しかしビルの記憶を移植されたジェリコが逃亡しても、その図式は引き継いでいない。
何しろ彼はクソみたいな悪党なので、ビルの家に侵入してジルを襲う。ジェリコのキャラを考えれば当然の行動ではあるが、そういうサスペンスは映画が進むべき方向だと思えない。
ってことは、ジェリコのキャラ設定に問題があるのだ。
結局、彼とハイムダールの対決の構図がハッキリと見えるようになるのって、本編の残り20分ぐらいなんだよね。

(観賞日:2022年5月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会