『クリーピング・テラー』:1964、アメリカ

新婚のマーティン・ゴードンは妻のブレットを助手席に乗せ、深夜に車を走らせていた。2人は2週間前に結婚したばかりで、新婚旅行からの帰りだった。マーティンは保安官である伯父のベンと共に、保安官助手として働いていた。幸せ一杯の夫婦は、下降するロケットに全く気付かなかった。森林警備隊のジェフはロケットの降下を飛行機の墜落と思い込み、彼はベンに報告を入れた。着陸したロケットからは怪物が現れ、どこかへ歩いて行った。
パトカーで現場へ向かったベンはマーティン&ブレットと遭遇し、同乗するよう指示した。3人が現場に到着すると、ジェフのトラックが停まっていた。近くを調べた3人は、ロケットを発見した。ベンはジェフの帽子が落ちているのを見つけ、中にいるのではないかと考えてロケットに入った。発砲音とベンの悲鳴が聞こえると、マーティンとブレットはロケットから離れた。マーティンの応援要請を受けて、コールドウェル大佐が部隊を率いて駆け付けた。
隊員2人がロケットの内部を調べ、巨大生物が拘束されているのを発見した。外に出た2人は巨大生物がいたこと、ベンとジェフの姿が見当たらなかったことを大佐に報告した。コールドウェルは保安官事務所に軍司令部を設置し、監視を続けることにした。ワシントンに連絡して上層部の指示を仰いだ彼は、異星人との接触を研究しているブラッドフォード博士が来るまで現場保全に努めることとなった。コールドウェルはマーティンを臨時の保安官に指名し、この一件を飛行機事故として処理させた。
怪物は森にいたカップルに襲い掛かり、逃げ遅れた女が飲み込まれた。マーティンはバーニーに、ベンとジェフがカナダへ出掛けたと公表するよう指示した。ブラッドフォードが現場に到着し、マーティンや兵士たちから話を聞いた。翌朝、夫を見送った主婦のベティーは、怪物に襲われた。川の近くにいたボビー少年と祖父のブラウンも、怪物に襲われた。ブラッドフォードは調査の結果、怪物が太陽系外から来たことを確信した。宇宙船の合金は地球外の物であること、地球に降下するまで怪物が仮死状態だったことも彼は突き止めた。
公園でピクニックを楽しんでいた若者たちは怪物に襲われ、全員が犠牲となった。大勢の人々が消えたことを受けて、マーティンは怪物が他にもいるのではないかと推理した。コールドウェルは彼の報告を受け、郡全体を捜索するよう命じた。コールドウェルは彼の報告を受け、郡全体を捜索するよう命じた。怪物はダンスホールへ行き、そこにいた人々を襲った。マーティンはコールドウェルから連絡を受け、ブレットをパトカーに乗せてダンスホールへ急行した。怪物はデートスポットに出没し、複数のカップルを襲った…。

監督はA・J・ネルソン、原案はロバート・シリファント、 製作協力はカーロス・B・キング&K・アルデン、製作総指揮はディック・フィリップス、撮影はアンドリュー・ジャンザック、 編集はA・J・ネルソン、美術はバド・ラーブ、モンスター・デザインはジョン・ラッキー、音楽はフレデリック・コップ、
出演はヴィク・サヴェージ、シャノン・オニール、ウィリアム・ソールビー、ジョン・カレシオ、ノーマン・ブーン、バード・ホランド、ジャック・キング、ピエール・コップ、ケン・サヴェージ、マーク・フィールド、レス・ラ・マー、メアリー・プライス、ルイーズ・ローソン、マイラ・リー、バディー・マイズ、ルイス・ローソン、ロビン・ジェームズ、レイ・ウィックマン他。


アメリカでは「映画史上で最も酷い映画」と称されることもある伝説的なクズ映画。
マーティン役のヴィク・サヴェージは、後に『白熱』や『サブウェイ・パニック』などを撮るジョセフ・サージェントが初めて監督した1959年の自主映画『Street-Fighter』で脚本&製作&出演を兼ねていたという過去を持つ人。
今回はA・J・ネルソンの変名で監督と編集も兼ねている。
ブレットをシャノン・オニール、ブラッドフォードをウィリアム・ソールビー、コールドウェルをジョン・カレシオ、バーニーをノーマン・ブーン、保安官をバード・ホランド、ブラウンをジャック・キングが演じている。

ストーリー担当者として表記されるロバート・シリファントは、スターリング・シリファントの異母兄弟らしい。表記は無いが弟のアラン・シリファントも携わっていたようだ。
1967年の『夜の大捜査線』と1968年の『まごころを君に』でゴールデン・グローブ賞脚本賞を受賞するスターリング・シリファントだが、この映画が作られた1964年には、既に『未知空間の恐怖/光る眼』などの脚本を手掛けていた。
ヴィク・サヴェージは「そんなスターリングの弟たちがシナリオを担当した」ってのを売りにする目的で、ロバートとアランを起用した。そして、それを宣伝することで投資家から製作費を徴収した。
ただし、公開前から詐欺罪で訴えられたりしたらしい。

冒頭、ナレーションが「男の名はマーティン・ゴードンと。そして愛らしい女はブレット。2人は2週間前に結婚したばかりである。8月下旬、2人は新婚旅行からカリフォルニアの我が家へ帰る途中だった。マーティンの伯父のベンは保安官で、マーティンは保安官助手を務めている。ベンの引退後、保安官となるのがマーティンの夢である。彼の心は今、結婚の幸せに満ちていた」などと語る。
マーティンとブレットの様子が写し出されているのだが、ほとんど台詞は無い。
さらにナレーションは続き、「しかし突如として、新婚旅行は悪夢と化すのだった。彼らは下降するロケットに気付かなかった。保安官に連絡したのは、森林警備隊のジェフだった。飛行機が墜落したので調べに行くと言ったのだ。保安官は後から行くと告げた。保安官助手のバーニーが、病院と航空当局に連絡を取った」と状況を説明しまくる。
保安官事務所でベンとバーニーが喋っている様子が写るのに、会話の音は出さずにナレーションで処理する。

「下降するロケットに気付かなかった」というナレーションの際には、ロケットが画面に写し出される。ただし実際に降下するシーンを撮影したわけではなく、ロケット打ち上げを記録した既存の映像を逆回転させただけ。
だから、縦に降下したはずなのに、着地した後のロケットが写ると横向き(つまり不時着した飛行機みたいな状態)になっているという辻褄の合わない状態が起きている。っていうか、そもそも形が全く違うし。
「ジェフは飛行機が墜落したので調べに行くと言った」ということがナレーションで説明されているが、ロケットの降下を飛行機事故と見間違えるんだから、かなり目が悪いんだろう。
そんなジェフは、一度も登場しないまま「どうやら怪物に襲われたらしい」ってことで片付けられる。降下したロケットから怪物が這い出してくるシーンがあったのに、そいつとジェフが遭遇する手順も踏んでいない。

ロケットから這い出してくる怪物はハリボテ感たっぷりで、とにかく安っぽい。
カーペットを繋ぎ合わせた物を人間が頭からスッポリと被り、ズルズルと引きずっているかのような状態だ。
いや「まるでそういう状態」っていうか、実際にそういうことなのだ。
実は、映画で使用するはずだった怪物のキグルミを撮影直前に盗まれてしまったため、慌ててカーペットを繋ぎ合わせて作った物なのだ。
で、それを学生が動かしているという次第だ。

冒頭で「新婚旅行は悪夢と化す」というナレーションがあったのに、まだ何も起きない内に翌朝になっている。
いやいや、もう新婚旅行は終わってますけど。
で、ベンはマーティンとブレットに遭遇すると「人手が足りない。乗れ」と命じる。
何がどうなって人手が不足しているのかはサッパリ分からない。ただロケットを調べるだけなので、そんなに緊急で人手が必要だとも思えんが。
しかも、車を放置してブレットまで連れて行く必要性は全く無いし。

マーティンたちが森に到着すると、「現場にはジェフのトラックがあった。ジェフの姿は無かったが、3人は調査を開始した」というナレーションが入る。
ここも台詞は全く無い。
「ロケットを見て彼らは驚いた」ってのも、ナレーションで説明する。
しかも、そういう説明を入れるくせにマーティンたちのリアクションは薄くて、そんなに驚いていないのよ。困惑した様子はあるが、やけに冷静だ。

なぜかベンは、ロケットの中に簡単に入れてしまう。しかも下から潜り込むような形で。
どういう仕組みなんだよ、そのロケットは。
で、ベンの悲鳴が聞こえると、ゴードンとブレットは助けようともせずロケットから離れる。しかも、逃げるなら逃げるで、慌てて走り去るべきだろうに、ゆっくりと歩いて車へ行き、すんげえ落ち着き払って応援要請を入れるんだよな。
応援要請を入れるにしても、もう少し焦ったらどうなのかと。

コールドウェルが部隊を率いて駆け付けるが、全部でわずか7名だし、軍のジープでも何でもないトラックの荷台に乗っている。そして、倒れている木を退けてから先へ進むという、まるで無意味な手順を経て現場に到着する。
隊員2人がロケットの内部を調べ、怪物が拘束されているのを発見するが、縛られている怪物を写すだけで、それを見た時の兵士のリアクションは写さない。そして2人は、ものすごく落ち着いた様子でロケットから出て来る。とてもじゃないが、怪物を発見した直後とは思えない様子だ。
そして、その辺りも全く台詞は無く、ナレーションベースで処理される。軍曹が喋っているシーンはあって口は動いているのに、ナレーションベースなのだ。
あと、怪物がいたと報告を受けたのに、なぜか大佐が中に入って確認することは無い。

保安官事務所のシーンも、マーティンとコールドウェルが喋っているのにナレーションで処理される。マーティンとブラッドフォードの会話シーンでも、会話している様子は写るのに、ずっとナレーションによる説明が続く。
その後も、とにかく台詞の分量が異常に少ない。人が襲われるシーンなんて、悲鳴を上げさせるだけでも随分と印象は違うだろうに、そこも大半はBGMとSEだけで片付けてしまう。
ウィリアム・ソールビーによると、ヴィク・サヴェージは経費節約のため、撮影の際に音を録音しなかったらしい。
で、後で音を付ける時に、ほんの一部だけ役者にアテレコしてもらい、大半はナレーションで処理する形を取ったようだ。

怪物が初めて人を襲う際は「最初の悲劇が起きた」とナレーションが語るのに、BGMは陽気でノンビリした曲調だ。
そして怪物が大きな唸り声を上げながら近づいて来るのに、なかなかカップルは気付かない。
ようやく怪物に気付いてもリアクションは薄く、女は全く逃げずに襲われる。っていうか、自分から怪物に頭を突っ込んでいることがバレバレだ。
なんせ怪物は動きが鈍くてモタモタしているので、人間の方から襲われに行かないと成立しないのだ。

ブラッドフォードが現場に到着してマーティンと会話するシーンの後、マーティンがバーニーを自宅に連れ帰るエピソードが描かれる。
マーティンは忍び足で家に入り、台所のブレットを驚かしてキスをする。そんなラブラブの2人を見たバーニーは、ウンザリした様子になる。
マーティンがバーニーに結婚を勧めると、ナレーションは「マーティンとバーニーは長い間、独身仲間だった。バーニーは女遊びを続けており、マーティンがブレットと結婚して家に帰るようになったのが理解できなかった。ブレットから食事に招かれることもあったが、バーニーは彼女を快く思っていなかった。このような人間関係の変化は良くあることだ。結婚によってマーティンは大人になったのだ」と語る。
このエピソード、怪物の襲撃とは何の関係も無い。
何の意味があるのか、サッパリ分からない。

その後、怪物が人々を襲う様子が幾つか描かれる。
まずは若奥様のベティーだが、彼女がベビーベッドに寝ている赤ん坊の熱を測ったり、洗濯物を干している場面がダラダラと描かれる。
そんなベティーの日常風景を描いている中に、どっかを這っている怪物の映像チラッと挟んでいるが、まるで緊張感は無い。「ベティーの背後に怪物が迫っている、でも彼女は気付かない」といった描写で、観客をハラハラさせるような演出も無い。
っていうか、ベティーの正面から、ゆっくりと怪物が近付いて来るのだ。それなのに、やはりベティーも全く逃げようとしない。

次の犠牲者は祖父と孫だが、ここも「祖父と釣りをしていた少年が散歩に出掛け、トカゲを見つけて追い掛ける。祖父が釣りを止めて少年を捜しに行く」という様子でダラダラと時間を浪費する。
あと、そこまでボロ布モンスターの姿をさんざん見せていたのに、そこは怪物の姿を映さず、それを見て驚いたり怖がったりする少年と老人の様子だけで処理するという、今さら何の意味も無い演出をやっている。
次はピクニックの若者たちで、まずは抜け駆けして森に入ったカップルが怪物に襲われる。今回もやはり、逃げる余裕があるはずなのに全く逃げずに殺される。
ギターを弾いていた男は、「そこにいて」と仲間たちに告げる。彼は怪物にギターで殴り掛かるが全く効果が無く、あっさりと襲われる。
そして仲間たちも「そこに留まるように」との指示を律儀に守っていたので、やはり怪物に食われてしまう。

ナレーションが「マーティンたちの捜索中、怪物はダンスホールへ向かっていた」と説明した後、草地をゆっくりと移動する怪物の様子が描かれる。
そして「ダンスホールで楽しんでいる人々」「相変わらず草原を移動している、っていうか全く移動していないようにも見える怪物」「ロケットを調べているブラッドフォード」という映像をダラダラと写して、怪物がダンスホールに現れるまでに5分ぐらい使っている。
あと、その直前まで草地にいたはずの怪物が、次の瞬間にはダンスホールに現れるという瞬間移動をやってのけている。

怪物が現れるとダンスホールの人々はパニックに陥るのだが、なぜか急に「女を連れて行こうとした男がいて、そいつを女の連れである男が殴り倒す」というシーンを挟んでいる。
その後には、また別の男2人が殴り合うシーンも挿入される。
それに何の意味があるんだか全く分からないが、たぶん意味なんて無い。
そんでカットが切り替わるとマーティンがパトカーの中でブレットとイチャイチャしているけど、お前は捜索を命じられたはずだろうに、なんでノンビリ休憩しているのかと。

ようやくコールドウェルの部隊がトラックの荷台に乗って到着すると、いつの間にやら8名に増えている。
ブラッドフォードから怪物を生け捕りにしてほしいと頼まれたコールドウェルは「出来る限り生け捕りにする」と約束するが、一列に並んで怪物に近付いた兵士たちは一斉に発砲する。ちっとも生け捕りにする気なんてありゃしない。
ただし、じゃあ本気で殺そうとしているのかというと、そこも疑問だ。
だって、ショットガンやライフルならともかく、拳銃を使っている奴もいるんだぜ。
怪物を相手にするのに、兵士が拳銃は無いでしょ。ショットガンの弾丸を使い切ったならともかく、最初から拳銃ってさ。

何の策も無く一列に並んで怪物に近付いたもんだから何の効果も無いどころか犠牲者を出してしまい、カッとなったコールドウェルは手榴弾を使うことにする。
でも、「素早く近付いて手榴弾を投げ、素早く退避する」という行動を取ればいいのに、なぜかゆっくりと歩み寄る。
で、途中でバランスを崩してコケてしまうのだが、何がどうなったんだかサッパリ分からない。
その前から右脚を気にする素振りがあるんだけど、それも含めて良く分からん。

怪物が死んだ直後、なぜかコールドウェルは死体を探る。最初からそこに何があるか分かっていたかのように一点集中で手を突っ込んだ彼は機械を発見し、トラックに乗って走り出す。
マーティンとブレットは、すぐに車で後を追う。
この2台が走る様子をダラダラと写して、コールドウェルはロケットに到着する。彼がロケットに入ると、なぜか急に爆発が起きる。
その衝撃で拘束が外れて怪物が出て来るが、マーティンがパトカーで突っ込んで退治する。

コールドウェルは瀕死の状態で、マーティンに「怪物は実験体だった。人間を食べて弱点を分析し、通信機で母星に伝えるのだ」と説明する。
でも、人間を簡単に食べている時点で、もう弱点もへったくれも無いんじゃないの。
あと、実験体として差し向けられたのなら、もう1体が縛られているのは何なのか。
っていうか、実験体だけを地球に送り込むってのは、計画として杜撰すぎるだろ。なんで実験体を監視したり操ったりするための調査員をロケットに乗せておかないのよ。

マーティンはロケットに入り込み、拳銃で機械をガンガンと叩きまくって送信を止めようとするが、特殊合金なのでビクともしない。するとマーティンは、ロケットの細い柱を引っこ抜いて、それで機械を叩き始める。
どうやら、柱は簡単に引き抜けるぐらい弱いのね。
で、しばらく叩いていたマーティンが動きを止めると、「通信機は止まったが、データは送信されてしまった」 というナレーションが入る。
なんちゅう処理だよ。
ホント、最後までグダグダのグズグズだわ。

(観賞日:2015年5月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会