『コロニア』:2015、ドイツ&フランス&ルクセンブルク&イギリス&アメリカ
1973年、チリの首都サンティアゴではデモが多発し、アメリカはアジェンデ大統領を共産主義者として非難していた。サンティアゴでは大統領支持派が大規模なデモを行い、クーデターは時間の問題となっていた。ルフトハンザ航空の客室乗務員として働くレナは仕事でチリを訪れ、同僚やパイロットのローマンたちとバンでサンティエゴに出た。街では大統領支持派グループが演説し、ビラを撒いていた。その中にカメラマンで恋人のダニエル・リストを見つけたレナは、「4日後に」と仲間に告げて車を降りた。
レナとダニエルと再会を喜び合い、彼のアパートへ赴いた。彼女はダニエルと共に、大統領支持派の集会にも参加した。4ヶ月前にチリへ入国して政治活動に参加するようになったダニエルだが、ポスターを作成するなどグループの中心となっていた。レナはダニエルからチリに残ってほしいと頼まれるが、「私は残れない。貴方が戻る時よ」と優しく告げた。帰国の前日、ダニエルは仲間からの電話を受け、軍がクーデターを起こして大統領支持派を逮捕していると知らされた。彼はレナを連れて、急いでアパートを出た。
レナとダニエルは逃亡を図るが、軍隊に捕まって国立スタジアムへ連行された。覆面で顔を隠した内通者による面通しが実施され、組合のリーダーはその場で射殺された。ダニエルはポスター作成者だと気付かれ、車で連行された。彼は拘束されて尋問を受け、拷問に遭った。解放されたレナは大統領支持派の隠れ家へ行き、ダニエルが連行された場所は秘密警察の収容所であるコロニア・ディグニダだと聞く。助け出す方法を彼女が訊くと、仲間たちは「これは大義のための戦いだ。僕たちは身を隠す」と述べた。
レナはアムネスティーへ出向いて相談するが、職員に「コロニアは信頼できる団体だ。政府の承認も受けている。我々には何の情報も無い。大使館に相談すべきだ」と言われる。だが、それは盗聴されていると分かった上でついた嘘だった。職員は音楽を流して盗聴を妨害すると、レナに「表向きは慈善団体だが、コロニアはパウル・シェーファー教皇が率いるカルト団体だ。シェーファーは伝道師だったが、独自のルールに従う世界を作り上げた」と説明した。レナが入所できるか訊くと、職員は「出来ると思うが勧めない」と反対した。その頃、ダニエルは厳しい拷問を受け、シェーファーと面会していた。レナはローマンに「今回のフライトには乗れない」と手紙を残し、コロニアの施設へ赴いた。
1日目。レナはギゼラという女性に案内され、施設へ足を踏み入れた。ギゼラはレナの持参した鞄を見ると、「もう不要よ」と没収した。レナは告解するよう促され、シェーファーの部屋へ通された。シェーファーは上着を脱ぐよう命じ、レナが真実を隠していると指摘した。彼はレナを抱き締め、「神の慈悲を体中で感じなさい」と告げた。ギゼラはレナに、施設では男女と子供は別々に暮らすことを話す。彼女が宿舎として案内した部屋は、6人分のベッドしか無い粗末な場所だった。同部屋の女たちは、レナが挨拶しても無反応だった。しかしドロという若い女だけはレナに話し掛け、「もうすぐ結婚するの」と嬉しそうに話す。ギゼラは6人を立たせて錠剤を渡し、飲み込むよう命じた。レナが何の薬か尋ねても、彼女は答えようとしなかった。
2日目。レナたちは農作業を指示され、ギゼラの監視下で現場へ出向いた。拷問で重傷を負った男が医務室に搬送されると、女医は尋問官に「何らかの障害が残るかもしれない」と注意する。シェーファーは「それでも何かの役に立つ」と不敵な笑みを浮かべるが、尋問官には「人格を破壊するのが美しい拷問だ」と説いた。精神を病んだダニエルはハンスと呼ばれるようになっていたが、医務室に入って来たので女医が追い出した。レナは炎天下の作業で倒れ込み、ギゼラに叱責される。何か飲ませてと頼むと、ギゼラは水を入れたバケツを持って来た。しかし彼女はバケツを傍らに置いただけで水を飲ませず、「一滴でも減らしたら、ただじゃおかない」と言い放った。
9日目。朝から予定が変更され、女子は集会場へ移動するよう指示された。レナは移動する途中、ドロに「なぜ結婚できたの?」と尋ねる。ドロは「大事なお客が来た時、皆で歌って出迎える。その時にディータと出会った。3年前よ」と話すが、レナが「いつ会ってるの?」と訊くと「会ってない」と答えた。37日目。女医はダニエルを鍛冶場へ連れて行き、そこで棟梁を務めるベルントに「教皇が見張れと指示した。単純作業をさせて」と指示した。
レナは農作業の最中、ギゼラから「ドロは結婚するのよ。喜ばしいことだわ。婚約者の話を?」と話し掛けられる。レナは深く考えることもなく、「詳しくは聞いてません。ディータと愛し合っているとしか」と告げた。精神障害の芝居をしていたダニエルはベルントの目を盗み、鍛冶場を調べた。その夜、ドロがギゼラに連行され、気になったレナは密かに尾行した。レナが男子の集会場を覗いていると、ドロはシェーファーから「性根の腐った売春婦の匂いがする」と言われていた。シェーファーは男たちに「悪魔を負い出せ」と命じ、レナを暴行させた。
翌朝、施設には「ドロが急に重篤状態となったので入院させた」というアナウンスが響いた。レナは看護婦のウルセラに接触し、ドロの具合を尋ねた。持ち直したことを聞いたレナは、ドロに謝罪の言葉を伝えるよう頼んだ。彼女はダニエルを見つけるため、わざと罪になる行動を取って男子の集会場へ連行された。しかしダニエルはベルントの隙を見て鍛冶場から懐中電灯を盗み、脱走を図っていた。彼は設置してあったワイヤーを引っ掛け、警報ブザーが鳴り響いた。シェーファーの指示を受け、男たちは脱走者の捜索に向かう。ダニエルは柵を越えようとするが、電流が流れていたので気絶した。現場に駆け付けた男たちは、ダニエルが誤って柵に触れたと誤解した。
130日目。シェーファーは少年たちを集めて上半身裸にすると、合唱を指示した。その内の3人に、シェーファーはシャワーを浴びるよう命じた。その日はピノチェト大統領が視察に来ることになっており、レナたちは礼服に着替えた。混合行進で大統領の後を追ったレナとダニエルは、互いの存在に気付いた。2人は周囲に気付かれないよう接触し、その夜に貯蔵庫で会う約束を交わす。ダニエルは警備の任務に立候補し、貯蔵庫へレナと会った。彼は貯蔵庫の床にある鉄板を見つけ、地下トンネルに入った。トンネルを調べた彼は、自身が拷問された部屋を発見した…。監督はフロリアン・ガレンベルガー、脚本はトルステン・ヴェンツェル&フロリアン・ガレンベルガー、製作はベンジャミン・ハーマン、製作総指揮はルディガー・ボス&ディルク・シュールホフ、共同製作はニコラス・ステイル&クリスチャン・ベッカー&ジェームズ・スプリング、撮影はコーリャ・ブラント、美術はベルント・レペル、編集はハンスヨルク・ヴァイスブリッヒ、衣装はニコール・フィッシュナーラー、音楽はアンドレ・ジェジュク&フェルナンド・ベラスケス。
出演はエマ・ワトソン、ダニエル・ブリュール、ミカエル・ニクヴィスト、リチェンダ・ケアリー、ヴィッキー・クリープス、ジャンヌ・ヴェルナー、ジュリアン・オヴェンデン、アウグスト・ツィルナー、マルティン・ヴトケ、セザール・ボルドン、ニコラ・バルソフ、スティーヴ・カリアー、ステファン・メルキ、ルシラ・ガンドルフォ、ヨハネス・アルマイヤー、ジャイルス・ソーダー、カタリナ・ミュラー=エルマウ、ポール・ハーウィグ、オスカル・アリ・ガルシ、エティエンヌ・ハルスドーフ、ジュールス・ワリンゴ、ヨハネス・フレーリッヒ他。
チリで拷問施設として使われていた“コロニア・ディグニダ”を題材にした映画。
監督は『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』のフロリアン・ガレンベルガー。
脚本は、これがデビューのトルステン・ヴェンツェルとフロリアン・ガレンベルガー監督による共同。
レナをエマ・ワトソン、ダニエルをダニエル・ブリュール、パウルをミカエル・ニクヴィスト、ギゼラをリチェンダ・ケアリー、ウルセルをヴィッキー・クリープス、ドロをジャンヌ・ヴェルナー、ローマンをジュリアン・オヴェンデンが演じている。最初に「事実に基づいた話」という文字が出るが、コロニア・ディグニダが実在していたこと、そこで拷問が繰り返されていたことは事実である。
パウル・シェーファーがカルト組織のリーダーとして君臨していたことや、男女は別々に暮らしていたことも事実だ。
ただし、その事実が露見した経緯は、この映画に描かれた内容と全く違う。
そもそも、レナやダニエルはモデルがいたわけではなく、完全に架空のキャラクターである。どうせ大半の人が容易に推察できるであろう完全ネタバレを書くと、最後にレナとダニエルは施設から脱出する。
しかしながら、それで物語がハッピーエンドを迎えることは無い。なぜなら、2人が無事だっただけで、まだコロニアは存在するからだ。
これが「2人の脱出をきっかけにして真実が明るみとなり、シェーファーと一味が逮捕されて」という流れに繋がればともかく、それは無い。何しろ、ようやく警察が動いた時にシェーファーは手下たちを連れて国外へ逃亡しており、2004年になってようやく逮捕されるのだ。
ただ、そもそも本作品は、コロニアの真実を告白しようとする社会派の映画ではない。あえて「ただの」と冠に付けたくなる恋愛劇を描くのが目的だ。コロニアってのは、そのための背景に過ぎない。
だからコロニアじゃなくて別に構わないし、架空の場所でもOKなのだ。クーデターが起きて国立コロシアムに大勢が連行された時、組合のリーダーは即座に射殺されたのに、ダニエルは車で連行される。
情報を聞き出すのが目的であれば、それは組合のリーダーだって同様だろう。だからリーダーは射殺されるのにダニエルは連行されるってのが、ただの御都合主義にしか見えない。
この映画の御都合主義は、それだけに留まらない。
それ以降も、「コロニアの警備は厳重なはずなのにトンネルの監視はユルユル」とか、「管制塔が離陸許可を取り消したのに、ローマンの独断で離陸できてしまう」とか、色んなトコで無理を感じる描写が出て来る。
後者に関しては、それで国際問題にならないはずがないので、メチャクチャな展開だと感じるし。レナとダニエルを応援する気が全く起きないってのは、大きな痛手だ。
ダニエルはチリに来て4ヶ月しか経っていないのに、大統領支持派の活動に参加している。ポスターまで作って、かなり積極的に動いている。
それがただのアホにしか見えない。
本人なりに「強く心を揺り動かされた」ってことではあるんだろうけど、深く考えた上で大統領を支持しているわけじゃなくて、活動している自分に酔っているだけにしか見えない。政治活動自体が目的と化している、ものすごく浅はかな奴にしか見えない。ダニエルの救出について、仲間たちが「これは大義のための戦いだ」と身を隠すことを決めるのは当然のことだ。
ダニエルを助けようとしたら、自分たちも捕まる可能性が高いんだからね。
もちろんダニエルが捕まったのは不幸だけど、政治活動に積極的に参加している時点で、そういう事態に陥るリスクは覚悟しなきゃいけないわけで。
それに、兵士を見てカメラのシャッターを切ったせいで捕まっているので、それも含めてボンクラにしか見えないし。アムネスティー職員のレナに対する「大使館に相談すべき」という助言は、盗聴されていることを知った上でのコメントだが、しかし内容としては間違っちゃいない。
まずはドイツ大使館に助けを求めるのが、レナが取るべき行動だろう。少なくとも、単独で施設へ潜入するという行動は、最初の選択肢としては絶対に無いと断言できる。
それはダニエルに負けず劣らずのボンクラだ。それは果敢な挑戦ではなく、愚の骨頂である。
「幾つかの策を当たったけど無理だったので」という風に、他の選択肢を塞いだ上での行動じゃないと、共感を誘わない。
せめてコロニアについて調査して情報を集めてからにすりゃいいのに、いきなり出向いているし、どんだけ浅はかなのかと。「レナとダニエルがコロニアで酷い目に遭う」ってのは、この映画の必須条件と言ってもいい。
しかし、ダニエルが最初に拷問を受けるものの、コロニアは「劣悪な環境」とは程遠い印象になっている。それはレナの生活がユルすぎるからだ。
告解で上着を脱がされるのと、炎天下の作業で水を飲むことを禁じられるのと、そのぐらいだろう。畑仕事は大変かもしれないが、それは普通の農家でもやっていることだし。
彼女の追い込まれ方が甘すぎて、「コロニアは酷い場所」というアピールがすっかり弱くなっている。入所から9日目の朝、予定が変更されて女子が集会場へ移動するよう指示される展開がある。
わざわざ「急な予定変更」という手順を取るぐらいだから、集会場で何か特別な出来事でもあるのかと思ったら、何も無い。男子のシーンを挟んで再び戻ると、レナたちが祈っているだけ。何のために予定を変更したのかは、最後まで見ても不明なままだ。
そこは「レナが移動中にドロと話し、ディータと婚約に至った経緯を聞く」というためだけに用意されたシーンと言っていい。
でも、それは宿舎で話せばいいことじゃないのか。最初にドロは結婚することを嬉しそうに話しているので、「宿舎では話せない」ってわけでもなさそうだし。レナはダニエルを見つけるために罪を犯して集会場へ連行されるが、バカでしかない。
ドロがどんな目に遭ったか見ているのに、どんだけ衝動的で後先を考えていないのかと。慎重に行動するとか、熟考して策を練るとか、そういうのが何も無いのだ。
「レナが愛するダニエルを助け出すため、命懸けで行動する」という風に描こうとしているのは良く分かる。しかし、レナが1人で施設に潜入し、仮にダニエルを見つけ出したところで、それで救い出せるはずもない。
実際、最終的に2人は脱出するが、レナは何の役にも立っていない。ダニエルが自力で脱出方法を考え、そのための行動を取るのだ。その中でレナは、何の手助けにもなっていないのだ。(観賞日:2019年1月8日)