『コラテラル・ダメージ』:2001、アメリカ

ロサンゼルス。消防隊長のゴーディー・ブリューワーは、妻アンと息子マットの3人で暮らしている。ある日、ゴーディーは仕事を終え、妻子の待つ高層ビルのカフェへと向かった。だが、彼の目の前でコロンビア総領事館を狙ったテロが発生し、爆発に巻き込まれたアンとマットが死亡する。犯人は白バイ警官に化けたコロンビアのテロリスト、ウルフだった。ゴーディーは爆発の直前、何も知らずにウルフと会話を交わしていた。彼はFBIテロ対策チームのフィップスに、そのことを告げた。
CIAのピーター・ブラントは必ず犯人を捕まえるとゴーディーに告げるが、捜査は一向に進展しなかった。アメリカ政府は国家の目的のために多少の犠牲は仕方が無いというコラテラル・ダメージの考えに基づき、ウルフを見逃そうとしていたのだ。怒りに燃えたゴーディーは、たった一人でコロンビアに乗り込み、仇討ちを果たそうと決意した。
ゴーディーは友人ジャックの紹介で元コロンビア軍の顧問エド・クーンツに会い、アドバイスを貰った。ゴーディーはパナマから国境を越え、コロンビアに入国した。彼はバスに乗り込むが、民間軍に見つかったため他の客と共に逃げ出した。コロンビア入りしていたブラントは、ゴーディーの情報をテロ組織に流してウルフ抹殺のために利用しようとする。
通行証を手に入れるため街に出たゴーディーは、セリーナという女性と息子マウロをチンピラから助けてやった。その直後、彼は不法入国の罪で警察に逮捕された。牢で同房になった修理工アームストロングは、ウルフの組織に仕事で出入りしていた。警察署にウルフが率いるテロリスト達が乱入し、仲間を救出した。その騒ぎに乗じて、ゴーディーはアームストロングを連れて脱出した。
ゴーディーはアームストロングから通行証を貰い受け、彼の代理としてテロ組織のアジトへ向かう。ゴーディーはフェリックスという男に案内され、彼の屋敷へ出向いた。ゴーディーは発電機を修理するように振る舞い、隙を見て爆弾を仕掛けた。動きを嗅ぎ付けたテロ一味が現れたため、ゴーディーはフェリックスの屋敷から逃亡する。
ウルフを見つけたゴーディーは爆弾で殺害しようとするが、セリーナとマウロの姿を目にして慌てて大声を上げた。その結果、ウルフは爆弾から逃れ、ゴーディーは捕まった。セリーナはゴーディーに、自分がウルフの妻だと話した。ウルフは息子を米軍に殺されたことがきっかけで、テロリストになっていた。そして親を失ったマウロを引き取り、養子として育てているのだった…。

監督はアンドリュー・デイヴィス、原案はロナルド・ルース&デヴィッド・グリフィス&ピーター・グリフィス、脚本はデヴィッド・グリフィス&ピーター・グリフィス、製作はスティーヴン・ルーサー&デヴィッド・フォスター、共同製作はジョン・シメル、製作協力はミッチェル・ドートリーヴ&テレサ・タッカー=デイヴィース&ローウェル・ブランク、製作総指揮はホーク・コッチ&ニコラス・メイヤー、撮影はアダム・グリーンバーグ、編集はデニス・ヴァークラー&ドヴ・ホーニグ、美術はフィリップ・ローゼンバーグ、衣装はジェームズ・W・タイソン、音楽はグレーム・レヴェル。
主演はアーノルド・シュワルツェネッガー、共演はジョン・タートゥーロ、ジョン・レグイザモ、イライアス・コティーズ、フランチェスカ・ネリ、クリフ・カーティス、ミゲル・サンドヴァル、ハリー・レニックス、マイケル・ミルホーン、リンゼイ・フロスト、レイモンド・クルツ、タイラー・ガルシア・ポージー、ジュー・ガルシア、リック・ワーシー、イーサン・ダンフ、ホルヘ・ゼペダ、マディソン・メイソン、ドン・フィッシャー、シェリー・マリル他。


『沈黙の戦艦』『逃亡者』などアクション映画を得意とするアンドリュー・デイヴィスが監督を務めた作品。
ゴーディーをアーノルド・シュワルツェネッガー、セレーナをフランチェスカ・ネリ、ブラントをイライアス・コティーズ、ウルフをクリフ・カーティス、フェリックスをジョン・レグイザモ、アームストロングをジョン・タートゥーロ、マウロをタイラー・ガルシア・ポージー、ジャックをミシェル・ミルホーン、アンをリンゼイ・フロスト、フィップスをミゲル・サンドヴァルが演じている。

この映画は当初、2001年秋に公開される予定だった。しかし9月11日に同時多発テロが発生したため、テロリストの登場する内容を考慮して公開時期が延期された。
しかし、どうやら同時多発テロの影響で変更されたのは、公開の時期だけではなかったようだ。たぶん、この映画は主張しようとしていたメッセージ、作品の方向性まで変更を余儀無くされたのだ。
この映画が同時多発テロ以前に主張しようとしていたメッセージや打ち出したかった方向性は、完全に失われているわけではない。例えば、CIAのグラントはテロリスト抹殺のためにゴーディーの情報を流し、敵に殺させようとする(つまりコラテラル・ダメージにしようと企んでいる)醜悪な人間として描かれている。
悪党をテロリストだけに限定せず、アメリカ国内にも用意しているわけだ。

セリーナの口からは、ウルフやマウロの家族が米軍によって殺されたことが語られている。テロリストが民間人を惨殺している一方で、米軍も民間人を殺していることを示しているわけだ。
また、終盤には、グラントたちがコロンビアの村を襲撃して人々を皆殺しにするシーンが描かれる。それもまた、ウルフ殺害のためのコラテラル・ダメージということになる。
ようするに、この映画は本来ならば、世界の警察を自称するアメリカが正義の旗の下に繰り返している暴力行為に異議を唱えようとする、かなり社会派の色が濃い作品になるはずだったのだ。
民間人を殺害するテロリストを批判するアメリカが、そのテロリストを殺すために外国の民間人も巻き添えにすることは正しいのかと問い掛ける内容になるはずだったのだ。

ところが、公開直前に同時多発テロが発生した。
そんな微妙な時期に、テロ撲滅のための暴力行為に疑問を投げ掛けるような映画なんて公開したら、そりゃあコケるのが目に見えている。
それを避けるために、製作陣は強烈な主張をボカして、「超人的な怪力とタフネスを誇るシュワちゃんがテロリストを退治する」という、政治的匂いを薄めたアクション映画に仕立て上げたのだ。
たぶん。

ただし、仮に同時多発テロによる影響を全く受けることが無く、当初の狙い通りのメッセージを真っ直ぐに発信できる内容になっていたとしよう。
そうだとして、それをアーノルド・シュワルツェネッガー主演作でやるべきことなのか、という疑問はある。
それは「チャック・ノリス主演作なのに恋愛劇」みたいなモンじゃないか(その例えは間違っているような気も)。

 

*ポンコツ映画愛護協会