『コラテラル』:2004、アメリカ

ある夜、ロサンゼルスのタクシー運転手マックスは、女性検事アニーを客として乗せた。マックスは近道があると告げ、忙しそうに電話を するアニーに持ち掛けられて賭けをした。マックスの言った通り、その道を選んだことは正解だった。マックスはユーモアを交えた会話で、 アニーを笑わせた。マックスはアニーに、リムジンサービスを始める夢があることを語った。アニーはマックスに電話番号の書かれた名刺 を渡し、ダウンタウンでタクシーを降りた。
次に乗ってきた客は、ヴィンセントというスーツ姿の男だった。不動産の仕事で5ヶ所に行く必要があるため、回って欲しいと彼は言って きた。それは規定違反だが、600ドルの報酬を持ち掛けられてマックスは承諾した。最初の目的地であるビルに到着してヴィンセントを 降ろした後、マックスは車を停めるため裏の路地に入って待機した。
マックスが待っていると、ビルから太った男が落下し、タクシーのボンネットに激突した。その男は、銃で撃たれて死んでいた。ビルから 出てきたヴィンセントは、自分が男を撃ったことを説明した。彼はマックスを脅し、トランクに死体を入れさせた。マックスはタクシーを 渡して立ち去ろうとするが、ヴィンセントは運転の続行を要求した。
ヴィンセントの指示で次の目的地へ向かう途中、マックスはパトカーにサイレンを鳴らされた。先程の出来事でフロントガラスが割れて いたため、警官2名が停車を命じたのだ。マックスは警官たちからトランクを開けるよう言われ、ヴィンセントは銃を抜く用意をした。だが、 そこへ事件発生の連絡が入ったため、警官たちはマックスを行かせることにした。
2番目の目的地に到着したヴィンセントは、マックスの両手をハンドルに縛り付けてペントハウスへ向かおうとする。だが、配車係のレニー から連絡が入ったため、ヴィンセントはマックスに応対をさせた。レニーは警察からの連絡でフロントガラスが破損したことを知り、弁償 を要求してきた。ヴィンセントは客の検事補だと名乗り、保険で賄えると言ってレニーを黙らせた。
レニーとの通信を終えた後、ヴィンセントはペントハウスへ入っていった。その間にマックスは大通りに向かって叫び、必死に助けを 求めた。だが、やって来たのはチンピラ2人で、マックスの財布とヴィンセントが置いていったバッグを奪って立ち去ろうとする。そこへ ヴィンセントが戻り、2人を射殺して財布とバッグを奪い返した。
最初の事件現場に、ロサンゼルス市警察のファニング刑事と部下のワイドナーが駆け付けた。ヴィンセントが殺したのは、フィリックスと いう男が率いる犯罪組織の情報屋ラモンだった。近くの老人が、タクシーが停まって2人の男がいたことを目撃していた。ファニングは、 オークランドで起きた事件のことを連想した。タクシー運転手が3人を殺害し、自殺したという事件だ。しかしファニングは、その事件の 犯人が別にいると推理していた。
ヴィンセントはマックスを引き連れ、ダニエルという男が営むジャズクラブへ赴いた。ヴィンセントはダニエルと言葉を交わし、かつて マイルス・デイヴィスが来た時のことを聞いた。ヴィンセントが「クリアカンとカタルヘナの連中にも教えてやろう」と言うと、ダニエル の顔色が変わった。ヴィンセントは3人目の標的であるダニエルを射殺し、店を後にした。
ヴィンセントとマックスがタクシーに戻ると、再びレニーから連絡が入っていた。マックスの母親が何度も連絡してきたらしい。毎日、 マックスは入院している母アイダの見舞いに行っているのだ。ヴィンセントは「習慣を守らねば怪しまれる」と告げ、マックスと共に病院 を訪れた。ヴィンセントがアイダと話している隙に、マックスは彼のバッグを奪って病院から飛び出した。ヴィンセントが後を追うが、 マックスはバッグを高架下のハイエゥイに投げ捨て、データの入ったパソコンは粉々になった。
ファニングは病院の死体置き場を訪れ、検死医から話を聞いた。そこには30分間で3つもの死体が運ばれており、同じパターンで殺害 されているという。ラモンの死体が無いか調べに来たファニングだが、それは見つからなかった。しかし彼は、ラモンの顧問弁護士 クリスチャン・クラークの死体を発見しただった。ペントハウスでヴィンセントが殺害した男だ。
ヴィンセントはマックスに指示し、エル・ロデオという店にタクシーを向かわせた。そしてヴィンセントは、自分に成り済まして雇い主の フィリックスと接触し、標的に関するデータのバックアップを受け取るよう命じた。マックスは怖がりながらも店に行き、入り口で警備 しているフィリックスの部下にヴィンセントだと名乗り、中に案内された。
FBI捜査官ペドロサと部下たちは、監視カメラでエル・ロデオを観察していた。そこへファニングとワイドナーが現われ、事件について 説明した。ファニングは、ルーフの曲がったタクシーがカメラに映っていることに気付いた。そこへダニエルが死んだという連絡が入り、 ペドロサは驚いた。ダニエルは、FBIがフィリックス逮捕のために用意していた証人だったのだ。
マックスはフィリックスに面会し、ハッタリをかましてデータを入手した。だが、フィリックスはマックスに疑いを抱いていた。彼は 部下に対し、クラブ「フィーヴァー」へ先回りして、何かあれば始末するよう命じた。ヴィンセントはマックスに、クラブ「フィーヴァー」 へ向かうよう告げた。そこに、4人目の標的ピーター・リムがいるのだ。
一方、ペドロサはマックスが連続殺人の犯人だと決め付け、仕留めるために行動を開始した。「12年もタクシー運転手をやっていた男が 急に殺し屋になるとは思えない」というファニングの意見は、即座に却下された。店に到着したヴィンセントは、ピーターに向かって歩く ようマックスに命じた。駆け付けたペドロサは、マックスを仕留めるよう部下を配置した…。

監督はマイケル・マン、脚本はスチュアート・ビーティー、製作はマイケル・マン&ジュリー・リチャードソン、製作総指揮はフランク・ ダラボン&ロブ・フリード&ピーター・ジュリアーノ&チャック・ラッセル、撮影はディオン・ビーブ&ポール・キャメロン、編集はジム ・ミラー&ポール・ルベル、美術はデヴィッド・ワスコ、衣装はジェフリー・カーランド、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はトム・クルーズ、ジェイミー・フォックス、ジェイダ・ピンケット=スミス、マーク・ラファロ、ピーター・バーグ、ブルース・ マッギル、イルマ・P・ホール、バリー・シャバカ・ヘンリー、リチャード・T・ジョーンズ、クレア・スコット、ボーディー・ エルフマン、デビ・メイザー、ハビエル・バルデム、エミリオ・レヴェラ、ジェイミー・マクブライド他。


『ヒート』のマイケル・マンが監督を務め、トム・クルーズが初めて悪役を演じた作品。
ヴィンセントをトム・クルーズ、マックスをジェイミー・フォックス、アニーをジェイダ・ピンケット=スミス、ファニングをマーク・ラファロ、ワイドナーをピーター・バーグ、 ペドロサをブルース・マッギル、アイダをイルマ・P・ホール、フィリックスをハビエル・バルデムが演じている。
また、最初の空港でのシーンで、ヴィンセントとバッグを交換する男をジェイソン・ステイサムが演じている。

見終わって最初に頭に浮かんだのは、「分かってねえなあ、マイケル・マン」という言葉だった。
マイケル・マン監督は、この映画を「人間の心理に切り込んだ男同士のドラマ」として描こうとしている。「夢が叶わないのは何もやろう としないからだ、踏み出さないからだ」というヴィンセントの挑発的な言葉を受けて、マックスは今までの流されるままに生きてきた人生 を省みて、失敗を恐れず踏み出そうと決める。ヴィンセントはマックスの心に潜んでいた別の人格でもあり、ヴィンセントによって刺激 されたマックスが人間的に変化し、一歩踏み出す。そういう話に、マイケル・マン監督は仕上げている。
しかし、粗だらけのシナリオは、それを台無しにするに充分な破壊力を発揮するのだ。
どう考えたって、これはおバカなB級アクション映画として仕上げる他に無い映画なのである。
それを熱い男同士の人間ドラマとして仕上げようとしているので、「分かってねえなあ、マイケル・マン」と感じたのだ。

そもそも、「殺し屋ヴィンセントがマックスを脅し、タクシーで標的のいる場所を回っていく」という根幹の部分に穴がある。
誰がどう考えたって、自分で車を使って移動した方が都合がいいに決まっている。
一応、「タクシー運転手を犯人に仕立て上げるため」という言い訳らしきものは匂わせてある。しかし、オークランドの事件(たぶん ヴィンセントの仕業なのだろう)で、既にファニングに疑惑を持たれているし、素人の運転手がプロの殺しを連続して実行するなんてのは 、不自然に思われて当然だ。

とにかく、ヴィンセントが凄腕のプロとは思えないほど阿呆なのだ。
ヴィンセントはタクシーに死体を転落させるというヘマを、いきなりやらかす。
そんな大きな物音を立てれば近所の人々に気付かれるだろうに、「静かに暗殺」という手口を知らないのか。
そもそもマックスに「俺が殺した」とあっさり白状するのも阿呆にしか見えないし。プロの殺し屋なのに、サイレンサーを使うことも 無いし。

フロントガラスが割れてルーフが曲がっているタクシーなんて目を引くに決まっているのに、ヴィンセントはそれに乗り続け、警官に目を 付けられている。
事件発生の連絡が入ったから見逃してもらえたが、その偶然が無かったらヴィンセントは大勢の人がいる道路で警官2名を射殺するつもり だった。そうなれば目撃者もいるだろうし、マックスに全ての罪を被せることも出来なくなるだろう。
2番目の目的地では、ヴィンセントは殺しに行っている間にタクシーに残したバッグをチンピラに奪われそうになっている。
タイミング良く戻ってきたからいいものの、少し遅れていたら大事なデータの入ったパソコンを失うところだった。
病院では、時間を気にしていたくせに、アイダの話を積極的に聞いてやり、その間にバッグを奪われる不手際をやらかしている。

クラブ「フィーヴァー」では、ヴィンセントは大勢の人の前で変装もせず平然と捜査官を始末し、派手に銃撃戦をやらかす。
そうなると、もはやマックスに罪を被せることなど不可能だ。にも関わらず、まだ彼はマックスにこだわり、車を運転させる。
もう用済みなんだし、マックスを始末して逃亡すればいいだろうに。
もしかして、運転が出来ない設定なのか。
ヴィンセントは「人間なら必ず持っているべきものが1つ欠けている」という設定で、それは「心」ということなんだろうけど、そうじゃない。
彼に欠けているのは知能だ。

ヴィンセントの設定に限らず、粗で満ち溢れたシナリオだ。ちょっと話しただけのアニーを助けるためにマックスが命懸けで行動する 不自然さだって、以前から知り合いだったという設定にでもしておけば解消されただろう。
シナリオが穴だらけなのだから、監督じゃなくて脚本家が悪いんじゃないのかと思うかもしれない。
しかし、マイケル・マンも、監督に決まった後でシナリオに手を加えているのである(ついでに言えば、その前にフランク・ダラボンも 改訂に関わっている)。
自分が脚本を書き直した上で、そのシナリオにそぐわない演出にしているのだから、そりゃあマズいだろう。

プロのヴィンセントが、アマチュアのマックスと対等な立場で普通に戦い、敗北するという結末もいかがなものかと。
銃の腕前で敗北してどうするのか。
いや、それよりも「マックスが銃の腕前でヴィンセントに勝利してどうするのか」と言い換えた方が適切だろう。
そこは、銃の技術では勝てないが、知恵やタクシー運転手としての経験を生かして勝つ形にしておけよ。

シナリオだけでなく、主演俳優ミスキャストも痛かった。
トム・クルーズでは、冷酷な殺し屋に見えないのである。
彼以外にはエドワード・ノートンやコリン・ファレルが候補として挙がっていたそうで、彼らであれば殺し屋がフィットしたかもしれない。
だが、ある意味では、それでもミスキャストだ。
なぜなら、彼らはハリウッドのトップスターだからだ。
これはB級映画なので、A級俳優はそぐわない。
ってことは、大作メジャー映画として製作された時点で、失敗だったということだな。

繰り返しになるが、悪いのはシナリオではない。
これがジェイソン・ステイサム主演のインディーズ映画で、例えばデヴィッド・R・エリス監督辺りが「B級アクション」として撮って いれば、「穴は多いけどそれなりに楽しめる」という評価になっていたかもしれない。
調理の方法や飾り付けのやり方、プレゼンテーションの方法などに問題があるのだ。
大衆食堂で家庭的な味付けの煮物があったら、大抵の客は普通に満足して食べるだろう。
しかし、それが高級料亭で出す料理だとすれば、同じ味付けではダメだ、もっと質の高い煮物が必要だということになるだろう。
そういうことよ。
……って、どういうこと?

 

*ポンコツ映画愛護協会