『クルーレス』:1995、アメリカ

16歳のシェールは、父のメルと豪邸で暮らしている。メルは訴訟専門のやり手弁護士で、メイドのルーシーは彼を怖がっている。しかし、シェールは全く恐れておらず、朝から「ビタミンCが必要なのよ」とジュースを飲むよう促す。シェールは「今夜はジョシュが来る」とメルに言われ、「どうして?」と嫌がる。メルは5年前に離婚しているが、その相手の連れ子だったのがジョシュだ。つまりシェールにとって、彼は義理の兄に当たる。
シェールはメルが買ってくれたジープで高校へ向かうが、まだ運転免許は取得していない。彼女はオシャレ好きな親友のディオンヌを途中で拾い、高校に着いた。ディオンヌは恋人のマレーについて、自分への干渉が過ぎることへの文句を言う。そこにマレーが現れ、「なんで電話しないんだ?週末はどうしてた?」と尋ねる。ディオンヌは浮気の証拠を突き付け、マレーと口論になった。そんな2人を横目に、シェールはその場から立ち去った。
授業が始まり、シェールとクラスメイトのアンバーは担任教師のウェンデル・ホールから「アメリカは全ての難民を受け入れるべきか」というテーマでディベートを指示された。賛成派を指定されたシェールが父の誕生日パーティーに例えて饒舌に語ると、聞いていなかった生徒たちが拍手した。困惑するホールから反論を指示されたアンバーは、「難民問題をパーティーと混同しているのに、どうやって?」と呆れた。ホールは成績表を生徒たちに配り、シェールはディベートの評価がCだったのでガッカリした。
帰宅したシェールは、壁に飾られている母の絵に向かって話し掛けた。母のベティーはシェールが幼い頃、脂肪吸引手術の事故で死んでいる。キッチンにはジョシュがいて、シェールは彼と嫌味を飛ばし合う。ジョシュはロサンゼルスで暮らすこと、もう部屋を借りたことを話す。ジョシュはメルから企業の顧問弁護士になるよう勧められているが、環境問題に取り組みたいと考えている。成績表を見せるよう父に言われたシェールは、「まだダメ。低い点を付ける嫌な先生がいるの。実力を評価していないから受け入れられない。点を上げてくれるよう交渉する」と告げた。
「そんなこと出来るのか?」とジョシュが馬鹿にしたように言うと、シェールは余裕の笑みで「出来るわ。毎学期やってるもの」と述べた。しかし他の先生には策略が成功していたが、ホールには全く通用しなかった。シェールは気分転換のため、ジョアンナと買い物に行く。「あいつはチビでブスで幸せじゃないから、他人を不幸にしたいのよ」というジョアンナの言葉を受けて、彼女は「彼を幸せにする作戦を考えればいいんだ」と閃いた。
47歳で独身のホールには健康的なセックスが必要だと考えたシェールだが、学校には魅力的な女性教師が見当たらない。オシャレに無関心で冴えない風貌のトビー・ガイストが変身したがっているのだと感じたシェールは、「変えるのは私だけ」と確信する。彼女はホールの名前を使い、ガイストにラブレターを送る。手紙を読んで嬉しそうな彼女を見たシェールとジョアンナは、作戦は成功だと喜んだ。ホールは生徒のパラダズムやトラヴィスたちに、遅刻の回数を通達した。ダントツの一番だったトラヴィスは、堂々とスピーチした。
シェールはホールに、「この学校で知性があるのは先生だけだと、ガイスト先生が言っていた」と嘘を吹き込む。メルはシェールが無免許運転で違反切符を切られていたことを知り、厳しい態度で説教する。「これからは免許の無い者とジープに乗ってはいかん」と注意されたシェールは、「分かったわ」と承諾した。ディオンヌも免許を持っていないので、彼女は仕方なくジョシュに車への同乗を頼む。ジョシュは「そろそろ学校に行かないと。緑の会のミーティングがあるんだ」と言い、慈善活動の重要性を語る。シェールが「私は寂しい先生たちのロマンスを手伝ってるわ」と得意げに反論すると、彼は「それは自分のためだろ。君が自分のためじゃないことをやっているのを見たら、僕はショックで死ぬね」と告げた。
シェールは学校でディオンヌと合流し、ホールにコーヒーを渡してガイストと一緒に飲むよう勧めた。それから2人はガイストの元へ行き、身だしなみを手早く変化させた。中庭のベンチでホールとガイストが一緒にいる様子を見たシェールとディオンヌは、作戦の成功を確信して喜んだ。ホールとガイストは交際するようになり、クラス全員の成績が上がった。シェールはクラスメイトから感謝され、成績表を見たメルは「良くやった」と称賛した。満足したシェールは、他にも役に立つことがやりたいと思うようになった。
体育教師のストーガーがテニスの授業をやっている時、校長が転校生のタイを連れて来た。彼女の野暮ったいファッションを見たシェールは、変身させようと決めた。シェールはタイに声を掛けて校内を案内し、生徒たちについて解説する。「エルトンのグループが一番の人気よ。高校生とデートするなら、あのグループから選びなさい」と彼女が助言すると、タイは「シェールの彼氏は?」と質問する。シェールは「やめてよ」と顔をしかめ、高校生は相手にしていないことを告げた。
タイは食堂でトラヴィスと遭遇し、彼が火星人マーヴィンを好きだと知って「それなら描けるわ」と自分の絵を見せた。トラヴィスは彼女の絵を気に入り、「最高だ」と褒めた。シェールとディオンヌの元へ戻ったタイは、「クール・ガイと会った」と嬉しそうに話した。彼女がトラヴィスからドラッグを貰ったことを話すと、シェールは「パーティーで付き合い程度にドラッグとをやるのと常用するのは違うわ」とドラッグから足を洗うよう忠告した。
シェールは「貴方を変身させてあげるわ」と言い、タイが遠慮するとディオンヌが説得した。任せることを承諾したタイが「ヤク中じゃない友達は初めてなんだ」と口にすると、シェールとディオンヌは戸惑いの表情を浮かべた。2人はタイの髪の色を落とし、メイクを整え、服を選んだシェールはビデオを見ながらエアロビに励むようタイに指示し、1週間に1冊は本を読むよう勧めた。その様子を見ていたジョシュは、微笑を浮かべた。
ジョシュはシェールと2人になると、「驚いたよ」と口にする。シェールが「私が人のために尽くすと言い出したから?」と尋ねると、彼は「いいや。君が自分より馬鹿な子を見つけたからさ」と告げる。「彼女を地獄から救うの」とシェールが話すと、ジョシュは「君は母親を亡くしているから、母親代わりに面倒を見ているだけさ」と指摘した。登校したシェールは、エルトンにパーティーの招待状を渡された。彼女はタイがトラヴィスに興味を抱いていると知り、彼を相手にせずエルトンを恋人にするよう勧めた。シェールはタイに、エルトンが好意を抱いているようだったと嘘を吹き込んだ。
シェールはクラスメイトを集めて写真を撮影し、タイにエルトンの隣へ近付くよう指示した。エルトンはタイの肩に手を回すよう促され、それに従った。シェールはタイに花を持たせ、彼女だけの写真を撮影した。するとエルトンが歩み寄り、「絵になってる。美人に見える」と感想を口にした。「僕にも一枚くれる?」と彼が言うので、シェールは快諾した。夕食の時にディオンヌからの電話を受けたシェールは、「マレーが見つけたんだけど、エルトンのロッカーに貴方が撮ったタイの写真が貼ってある」と知らされた。
シェールはタイを連れてパーティーに行き、エルトンの前ではモテているように振る舞うよう助言した。トラヴィスは誤ってシェールの靴を濡らしてしまい、謝罪してマリファナを差し出した。タイがトラヴィスと楽しく話していると、シェールはエルトンに向けてアピールするよう指示する。タイは音楽に合わせて激しく踊るが、マリファナを吸っていたせいで気を失ってしまう。シェールはエルトンにタイを運んでもらい、彼女をテーブルに寝かせる。トラヴィスが心配して駆け付けるとシェールは「大丈夫よ」と追い払い、エルトンにタイを介抱させた。回復したタイがエルトンに誘われて踊りに行ったので、シェールは満足した。
シェールはメルからの電話で20分以内に帰宅するよう命じられるが、ディオンヌはマレーと喧嘩になっていて送ってもらえない状況だった。彼女はクラスメイトのサマーを見つけ、送ってもらうことにした。タイも近くなので同乗することになると、エルトンはシェールを送って行くと言い出した。シェールはエルトンに、タイを送り届けるよう促す。しかし彼は頑固な態度を見せ、半ば強引にシェールを自分の車に乗せた。
シェールが「貴方は新しい恋人を作った方がいい」と言うと、エルトンは「分かってるさ」とキスを迫る。シェールが驚いて拒絶すると、彼は「僕に夢中なんだろ」と告げる。「タイのことを言ってるんでしょ。彼女の写真をロッカーに貼ってるし」とシェールが話すと、エルトンは「あれは君が撮った写真だからだ」と言う。エルトンが「僕とタイは不釣り合いだ」と執拗にキスを求めるので、シェールは「やめてよ」と怒鳴って車を降りた。
エルトンは「こんな夜更けにどうするんだ」と車に戻るよう促すが、シェールが「ほっといて」と冷たく拒むので走り去った。シェールはタクシーを呼ぼうとするが、拳銃を持った男に脅された携帯電話と鞄を奪われた。シェールは公衆電話を見つけ、ジョシュに電話して助けを求めた。恋人のヘザーと一緒にいたジョシュは、車で迎えに来た。シェールとエルトンに振られて嘆くタイをジョアンナと一緒に慰め、レストランに連れて行く。タイは恋人とのセックスについて軽い口調で語り、シェールが処女だと知って驚いた。シェールは「ピッタリの人が現れるまで待ってるの」と説明し、ジョアンナも自分は処女だとタイに告げた。エルトンと踊った曲が流れるとタイは泣き出してしまい、シェールは代わりの相手を一刻も早く見つける必要があると考えた。
高校で彼氏を探すなんてナンセンスだと思っていたシェールだが、転校生のクリスチャンに熱を上げる。そこで彼女は男からだと見せて自分にプレゼントを幾つも贈り、いかにモテるかをクリスチャンにアピールした。時には肌を見せるなどして彼女が誘惑を繰り返していると、クリスチャンは週末のパーティーに誘って来た。シェールは「義理の兄の友人がパーティーをやる」と言い、その誘いを快諾した。土曜日、シェールを誘いに来たクリスチャンの生意気な態度を見て、メルの仕事を手伝っていたジョシュは「いけ好かない奴」という印象を抱いた。メルは彼に「手伝いは構わないから」と言い、パーティーへ行くよう勧めた。
パーティー会場ではバンドが演奏し、大勢の若者たちが楽しく踊る。シェールがクリスチャンと楽しんでいると、タイが現れた。エルトンがアンバーと踊るのを見たタイがショックを受けるので、シェールは元気付けた。シェールが再びクリスチャンと踊り始めたので、タイは一人ぼっちになった。するとジョシュが声を掛け、ダンスは下手だがタイと一緒に踊った。パーティーは終わり、タイは眠り込む。疲れたシェールは帰ろうとするが、クリスチャンは「バンドの連中が最新の情報をくれそうなんだ」と言う。そこでシェールは、ジョシュに車で送ってもらうことにした。シェールは夜遅くまで仕事をしているメルのため、テイクアウトを買って帰宅した。
木曜日、シェールが父のの出張の支度をしていると、クリスチャンから電話が掛かって来た。「ビデオを持って行くから一緒に見よう」と誘われ、シェールは喜んで準備を整えた。「忘れられない夜にする」と決めた彼女は、気合を入れてメイクを施した。処女を捧げるつもりで誘惑するシェールだが、クリスチャンはビデオ鑑賞に集中した。シェールがワインを勧めてセックスを歓迎する態度を示すと、彼は怪訝な表情を浮かべて「何だか疲れた」と言い出した。彼は「親友だよな」と告げ、帰ってしまった。
翌日、シェールはジョアンナに相談し、一緒にいたマレーから「クリスチャンはゲイだぞ」と教えられた。シェールはクリスチャンと友人と付き合おうと決め、タイも誘ってモールへ出掛けた。タイはスニーカー売り場で出会った青年たちに、ふざけて下の階に落とされそうになる。タイが悲鳴を上げると、クリスチャンが駆け付けて彼女を助けた。学校が始まると「タイがモールでギャングに撃たれた」という情報が広まっており、タイは一躍人気者になった。すっかり調子に乗ったタイはトラヴィスを冷たくあしらい、そんな彼女の様子を見たシェールはモヤモヤした気持ちになる…。

脚本&監督はエイミー・ヘッカリング、製作はスコット・ルーディン&ロバート・ローレンス、共同製作はバリー・バーグ&アダム・シュローダー、製作協力はトウィンク・キャプラン、撮影はビル・ポープ、美術はスティーヴン・ジョーダン、編集はデブラ・シャイエット、衣装はモナ・メイ、音楽はデヴィッド・キティー、音楽監修はカリン・ラットマン。
出演はアリシア・シルヴァーストーン、ポール・ラッド、ステイシー・ダッシュ、ブリタニー・マーフィー、ダン・ヘダヤ、ジェレミー・シスト、ブレッキン・メイヤー、ジャスティン・ウォーカー、ウォーレス・ショーン、トウィンク・キャプラン、ジュリー・ブラウン、ドナルド・フェイソン、エリザ・ドノヴァン、アイダ・リナレス、サバスティアン・ラシディー、ハーブ・ホール、スーザン・モハン、ニコール・ビルダーバック、ロン・オーバック、ショーン・ホランド、ロジャー・キャブラー、ジェイス・アレクサンダー、ジョシュ・ロゾフ、カール・ゴットリーブ、ジョセフ・D・ライトマン、アンソニー・ベニナティー他。


『初体験 リッジモント・ハイ』『ベイビー・トーク』のエイミー・ヘッカリングが脚本&監督を務めた作品。
翌年にTVシリーズ化され、1999年まで放送された。
シェールをアリシア・シルヴァーストーン、ジョシュをポール・ラッド、ディオンヌをステイシー・ダッシュ、タイをブリタニー・マーフィー、メルをダン・ヘダヤ、エルトンをジェレミー・シスト、トラヴィスをブレッキン・メイヤー、クリスチャンをジャスティン・ウォーカー、ウェンデルをウォーレス・ショーン、トビーをトウィンク・キャプラン、ストーガーをジュリー・ブラウン、マーレイをドナルド・フェイゾンが演じている。

この映画、シェールのナレーションや会話の中で、著名人の名前が多く登場する。
シェールは自分とディオンヌの紹介で「昔はスターで、今はコマーシャルに出てる歌手と同じ名前」と言うが、これは歌手のシェールとディオンヌ・ワーウィックのこと。
シェールはディオンヌとマレーの関係について、「ドラマティックだけど、ちょっと異常。アイクとティナ・ターナーの映画の見すぎじゃないかな」と感想を語る。
彼女はジョシュの音楽の趣味を馬鹿にしており、クールについて持論を語る彼に対して「じゃあ貴方の好きなケニー・Gはどう?」と嫌味っぽく言い放つ。
つまり若者にとってケニー・Gは、ちっともクールじゃなくて馬鹿にされる類の音楽ってことだ。

シェールからジープへの同乗を頼まれたジョシュは、「そろそろ学校へ行かないと。緑の会のミーティングがあるんだ。マーキー・マークに記念の木を植えてもらうかも」と語る。
マーキー・マークってのは、マーク・ウォールバーグがラップグループ「マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチ」として活動していた頃の芸名。
シェールはタイに、シンディー・クロフォードのビデオでエアロビをするよう助言する。
ジョシュはシェールと一緒にメルの仕事を手伝っている時、髪形を見て「『長くつ下のピッピ』だな」と言う。
その作品を知らないシェールに「『長くつ下のピッピ』って?」と訊かれると、「メル・ギブソンがやってない役」と答える。

シェールがタイだけの写真を撮影していると、エルトンが来て「絵になってる」「美人に見える」「僕にも一枚くれるか」などと言う。
これを聞いて、シェールは「エルトンがタイに興味を抱いている」と思い込む。
それが誤解なのは後で判明するけど、そんな風に思うのは当然でしょ。後から「エルトンはシェールが自分に惚れていると思い込んでいた」と明かされても、まるで腑に落ちない。
彼女とカップルになろうとしているのなら、なんでタイを褒めて彼女の写真をロッカーに貼るんだよ。「シェールが撮った写真だから」という説明では、全く納得できないぞ。
「エルトンはシェールが自分に惚れていると誤解して行動していた」という設定を成立させたいなら、もっと上手く観客を騙さないとさ。種明かしの後で「辻褄が合わないだろ」と感じさせちゃったら、どうにもならないでしょ。

シェールはタイがマリファナをやっていると知って忠告するが、トラヴィスから渡されると自分も平気で吸っている。
別にヒロインがヤクに手を出したらダメとは言わないけどさ、そこで簡単にマリファナを吸うぐらいなら、なんでタイがやっていると聞いた時に強い拒否反応を示すんだよ。
「タイには似合わないから、やめさせようとした」ってことなのか。
あと、そこでシェールがマリファナを吸う必要性って、全く無いのよね。そのせいで何かトラブルが起きるわけでもないし。

「冴えない田舎者だったタイをシェールは変身させようとするが、自分の全く関与しないトコで彼女が人気者になる」という筋書き自体は、コメディーとして何の問題も無い。
ただ、「タイがモールで男たちに落とされそうになる」という出来事がきっかけで人気者になるのは、ものすごく無理があるだろ。
それが「ギャングに撃たれた」という間違った噂として学校で広まり、みんなが詳細を聞きたがるのは理解できるよ。でも、それと 「人気者になる」ってのは、また別の話であって。
なんで学校のイケてるグループがタイを買い物に誘うような変化が起きてるんだよ。
そして、それに乗じてタイがトラヴィスを冷たくあしらうなど、あっという間に「高飛車な女」に変貌するのも無理があるだろ。たった1日で、そんなに急激に変化するのかよ。

すっかり人が変わったようになったタイはシェールの家を訪れ、エルトン関連の品物を全て燃やす。「最高に素敵な人を見つけたの」と彼女は言い、ジョシュに惚れたことを語る。
でも、それは話の流れとしておかしいだろ。モールではクリスチャンに助けられたんだから、ゲイと知らず彼に惚れるなら分かるけど。「ジョシュに惚れたから元気になった」という形にしたいのなら、モールの一件は挟まない方がいい。
あと、トラヴィスに対して高慢な態度を取っていたタイだけど、そこでシェールにジョシュとの交際を反対された時は、つい失礼なことを口にするけど、すぐに謝るんだよね。つまり、「すっかり高飛車な女に変貌した」とは言い切れない状態になっているわけで、それはキャラの動かし方として中途半端だなあ。
結局、「タイが人気者に」という描写は一瞬だけで、後が全く続かないし。

そんで、もちろんジョシュはタイじゃなくシェールとカップルになるんだけど、いつの間にヘザーと別れていたんだよ。それについて言及するシーンって、どこにも無かったはずだぞ。
っていうか、そこの決別を描かないのなら、最初からヘザーと付き合っている設定なんて用意しなきゃいいでしょ。
まさか「付き合っていたわけじゃない」という設定でもあるまいに。
ただ、ここまで色々とケチばかり付けてきたが、実はそんなの、些細なことなんだよね。
いや、もっと言っちゃうと、「全く問題ない」と無視してもいいぐらいなのだ。

ある一定の年代の人なら、主演を務めたアリシア・シルヴァーストーンがキラキラ輝いていた時期を良く知っているだろう。
彼女は初めて出演した映画『ダリアン 美しき狂気』でMTVムービー・アワードの最優秀悪役賞などを受賞したが、それよりエアロスミスのミュージック・ビデオで知った人の方が多いだろう。
彼女は『Cryin'』『Amazing』『Crazy』という3曲のMVに立て続けに出演し、一気に知名度を高めた。
そして、この『クルーレス』によって、彼女の人気はピークに達する。

この映画が公開された頃、まだアリシア・シルヴァーストーンは19歳だった。アイドル的な人気を誇る若手女優として、将来を嘱望されていたと言っていいだろう。
そして彼女には、大作映画のオファーが届く。それが1997年に公開された「バットマン」シリーズの第4作、『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』である。
しかし、この映画が酷評は浴びて興行的に失敗し、アリシア自身もゴールデン・ラズベリー賞で最低助演女優賞を受賞してしまった。
同年に主演した『エクセス・バゲッジ/シュガーな気持ち』の評価も芳しい物ではなく、アリシアの人気は下降してしまった。
その後、その人気が復活することは無かった。

ってなわけで、これはアリシア・シルヴァーストーンが輝きを放っていた短い期間を満喫できる作品だ。
彼女が輝いていた時期をリアルタイムで体感していた人なら、この映画を見る価値は充分にあると言っていい。心地よいノスタルジーに浸ることが出来るからね。
最初は、「決して多くはないだろうけど今でも彼女の熱烈なファンという人も、見て損は無い」と書こうとしたんだけど、全く意味が無いのでやめた。
そういう人は、間違いなく観賞済みだろうからね。

大まかな内容としては、「ヒロインは自分の近くにいる男を恋の相手として全く見ていなかったけど、彼のことが好きだと気付く」という話である。
「どこかで見たことがあるような」と感じる人も少なくないだろう。
そんな既視感に溢れた、ベタ中のベタと断言できるような内容だ。
「イケてる高校生活を送るポジティブなヒロインが、恋に友情にと奔走する、軽くて明るい青春ストーリー」ってな感じの作品で、たぶん当時の日本で同じような映画を撮るとしたら、牧瀬里穂あたりが主演に起用されていたかな。

大まかな内容を見た時、「1980年代だったらジョン・ヒューズが脚本か監督を務めていたような映画だな」と感じた。
その場合、ヒロインはモリー・リングウォルドだね。「短い時期だけアイドル的人気を誇ったけど、それが長く続かなかった」という意味では、何となくアリシア・シルヴァーストーンと重なる部分があるし。
っていうか、この映画に限らず、どの時代にも「ジョン・ヒューズ的な匂いのする青春学園ドラマ」ってのは作られているんだよね。
それだけジョン・ヒューズは偉大ってことだわな。

かなり話がズレてしまったが、ともかく本作品は、これは完全なる「アイドル映画」であって、アリシア・シルヴァーストーンのキュートな魅力を存分に伝えることが一番の目的だ。
だから、この映画を見て貴方が「アリシアは可愛い」と感じたら、それで目的は達成されている。
どれだけ話が陳腐であろうと、どれだけバカバカしさに辟易しようと、それと引き換えに「でもアリシアは可愛かった」という感想さえ引き出すことが出来れば、それは映画として成功していると言ってもいいのだ。
払った犠牲が大きくても、映画としての価値は下げたとしても、アリシアの魅力をアピールできれば何の問題も無いのだ。

(観賞日:2020年11月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会