『クローサー』:2004、アメリカ&イギリス
街を歩いていたダンは、向こうから歩いて来たアリスという女性が車にはねられる事故を目撃した。慌てて駆け寄った彼は、アリスを病院へ運んだ。ロビーで治療の順番を待つ間、ダンとアリスは会話を交わす。ダンはジャーナリストであること、死亡欄を担当していることを語った。治療を終えて病院を出たアリスは、ニューヨークから冒険旅行のために出て来たばかりだと話す。彼女は何の荷物も持っておらず、宿も決まっていなかった。
ダンはアリスとバスに乗り、自分の仕事について詳しく語った。「ニューヨークでは何を?」と質問した彼は、「ストリッパーよ」という答えに驚いた。バスを降りた2人は、会話を交わしながら歩き続ける。ダンが「なぜ旅に?」と訊くと、アリスは「男のせいよ」と答える。「彼を捨てたのか」と問われた彼女は、「もう愛してないわ、さよなら。それだけ」と言う。新聞社のビルに着いたダンは、アリスに別れを告げた。アリスが「恋人いるの?」と尋ねると、彼は「いるよ。名前はルースで、言語学者」と答えた。
ダンはフォトグラファーのアンナがスタジオを兼ねて住んでいるアパートへ出向き、ポートレートを撮影してもらう。「本、良かったわ。いつ発売?」とアンナが訊くと、彼は「来年だよ。どこで読んだ?」と言う。アンナが「出版社がゲラを送って来た」と話して女主人公にモデルがいるのか尋ねると、ダンは「アリスって子だ」と答えた。アンナは彼に、ポートレート個展を開くことを語った。ダンが本の感想を尋ねると、彼女は「愛とセックスの描写が正確だった」と語った。ダンがキスをすると、アンナは拒まずに受け入れた。しかしダンがアリスと同棲中だと知り、すぐにアンナは離れた。
ダンから「君は結婚してるの?」と問われたアンナは、「別れた」と答える。ダンはアリスが近くのカフェで働いていること、もうすぐ来ることを話した。「アリスが可哀想。不誠実よ」とアンナが言うと、ダンは「彼女はとても可愛い。別れたくない」と告げた。アリスが来ると、ダンはアンナを紹介した。ダンはアリスが席を外した隙に、アンナに「また会おう」と持ち掛ける。アンナは「貴方は彼女の物」と断るが、彼は「会いたい」と食い下がった。アンナはアリスから、ポートレートを撮ってほしいと頼まれた。ダンは先に去り、アンナはアリスの写真を撮る。ダンの浮気に気付いていたアリスがそれを指摘すると、アンナは「私は泥棒じゃない」と弁明した。
ダンはセックスチャットでアンナの名前を騙り、医者のラリーを騙した。ダンはセックスが大好きな女を装い、翌日に水族館で会う約束を取り付けた。次の日、水族館に赴いたラリーは、アンナを見つけて名前を呼んだ。アンナが反応したので、ラリーは興奮した様子で話し掛ける。困惑したアンナはラリーの言葉から、彼が騙されていることに気付いた。アンはラリーの話を聞き、犯人がダンだと確信した。「なぜ君の名前を?」とラリーが訊くと、彼女は「私が好きなのよ」と告げた。
アリスはダンに、「私は捨てられるのを待ってる」と言う。「捨てるなんて。愛しているんだよ」とダンが告げると、アリスは「一緒に連れてって。私を恥じてるの?」と口にする。ダンは「独りになりたいんだ」と説明し、アンナの写真展には一緒に行こうと持ち掛けた。彼はアリスを伴い、個展の会場に赴いた。アリスがダンから離れて自分のポートレートを眺めていると、ラリーが声を掛けた。個展の感想をラリーが尋ねると、彼女は「全部が嘘。悲しげな他人が美しく撮られているだけ。でも人間は嘘が好き」と語る。ラリーは「その嘘つきは僕の彼女だ」と言い、「付き合いは長いの?」と訊かれて「まだ4ヶ月だ」と答えた。
アンナはダンに話し掛けられ、彼が騙した相手であるラリーと交際していることを教える。ダンはアリスから「汽車の時間よ」と言われ、「日曜には戻る」と告げて彼女をタクシーに乗せる。しかしダンは駅へ行かずに個展の会場へ戻り、アンナが出て来るのを待った。「1年も会ってない」とアンナが言うと、ダンは「物陰から見てた。君も僕を捜してた」と語る。そんな2人の様子を、客と話していたラリーが気付いて観察した。ダンが「僕に恋をしてる」と告げると、アンナは「してない」と否定した。ダンは苛立ちを示し、その場を後にした。アンナはラリーから「奴と深刻な話?」と問われ、「お父様が亡くなったの」と嘘をついた。アンナは失礼なことを言ってしまい、すぐラリーに謝罪した。
夜遅くに帰宅したダンは、アリスに「アンナと寝た。あのオープニングから1年になる」と告げた。出張から帰宅したラリーは、アンナを見て「妻が出迎えてくれた。君は僕の女神だ」と嬉しそうに言う。アンナは平静を装うが、セックスを求められると「お風呂に入ったわ」と断った。アリスはダンを激しく責めるが、愛する気持ちを捨て去ることが出来なかった。彼女はダンの隙を見て、アパートを飛び出した。ラリーはアンナに「向こうで商売女を抱いた」と打ち明け、謝罪して別れを切り出した。
アンナが「私は平気よ」と言うと、ラリーは「何か変だ」と指摘する。アンナは彼の質問を受け、「ダンを愛してる」と告白した。ラリーは「奴と寝たから、匂いを消すために風呂に入ったのか」と激怒するが、急に泣き出してアンナに抱き付いた。アンナがラリーの追及を受け、家でもダンとセックスしたことを話す。ラリーが詳細を尋ねると、アンナは声を荒らげながら説明した。彼女が逆ギレして怒鳴り散らすと、ラリーは「勝手に出て行け。このイカれた売女」と罵った。
ラリーがストリップクラブに行くと、ピンクのウィッグを着けたアリスがジェーンという名前で働いていた。ラリーは金を払って彼女と個室に行き、「いつから?」と尋ねる。アリス「3ヶ月前から」と答え、自分からダンの元を去ったことを話す。ラリーは本名を教えるよう要求して金を渡すが、アリスは「ジェーンよ」と繰り返す。ラリーは腹を立てるが、アリスが出て行こうとすると「君が好きだ」と言う。「彼女に見捨てられた」と泣き出したラリーは、アリスに「僕が君の面倒を見る」と持ち掛けた。アリスは「彼女への復讐なの?」と言い、冷たく突き放した…。監督はマイク・ニコルズ、原作はパトリック・マーバー、脚本はパトリック・マーバー、製作はマイク・ニコルズ&ジョン・コーリー&ケイリー・ブロコウ&スコット・ルーディン、製作総指揮はセリア・コスタス&ロバート・フォックス、共同製作はマイケル・ヘイリー、共同製作総指揮はダンカン・リード&ジェームズ・クライトン&ポーラ・ジャルフォン、製作協力はメアリー・ベイリー&ポール・A・レヴィン、撮影はスティーヴン・ゴールドブラット、美術はティム・ハトレー、編集はジョン・ブルーム&アントニア・ヴァン・ドリムレン、衣装はアン・ロス。
出演はジュリア・ロバーツ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、クライヴ・オーウェン、ニック・ホッブス、コリン・スティントン他。
パトリック・マーバーの舞台劇を基にした作品。
監督は『バードケージ』『パーフェクト・カップル』のマイク・ニコルズ。
原作者のパトリック・マーバーが、映画初脚本を手掛けている。
アンナをジュリア・ロバーツ、ダンをジュード・ロウ、アリスをナタリー・ポートマン、ラリーをクライヴ・オーウェンが演じている。
ゴールデン・グローブ賞の最優秀助演男優賞(クライヴ・オーウェン)&最優秀助演女優賞(ナタリー・ポートマン)、ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀助演男優賞(クライヴ・オーウェン)、英国アカデミー賞の最優秀助演男優賞(クライヴ・オーウェン)などを受賞した。エンドロールで表記される出演者は前述したメイン4名の他、タクシー運転手役のニック・ホッブスと税関職員役のコリン・スティントンを含めて合計6名だけ。
他にも出演者はいるが、全てエキストラの扱いだ。実際、その程度の出番しかない。メインの4人以外は、ほぼ背景のような状態となっている。
原作が舞台劇であることを考えると、「なるほどね」と腑に落ちる部分はある。
場所が幾つも移り変わるし、屋外のシーンもあるけど、舞台劇っぽさは強い。オープニングのシークエンスでは、ダンとアリスが会話を交わしながら街を移動する様子が描かれる。
「初めて出会った男女が意気投合し、ずっと喋りながら街を歩き続ける」という部分から、何となく『恋人までの距離(ディスタンス)』を連想した。しかし、あの映画とは全く違っていた。
この作品には、会話の心地良さなんて微塵も無い。
キュートな魅力とか、穏やかな気持ちとか、絶妙なバランス感覚とか、爽やかな気分とか、そういうモノは何も含まれていない。
その代わりに、不快感をドップリと詰め込んだような映画だ。冒頭、ダンとアリスが反対方向から歩いて来る。ダンのカットで、車が急ブレーキを掛ける音が響く。カットが切り替わると、アリスが車の前で倒れている。周囲の人々が取り囲む中、ダンは慌ててアリスに駆け寄る。ところが病院のシーンになると、アリスはピンピンしていて元気なのだ。
「車にはねられたはずなのに、どういうことなのか?」と混乱してしまう。
少し後のシーンで足からの出血が見えるので、たぶん「車にはねられたけど、思い切りぶつかったわけじゃないから軽傷で済んだ」ってことなんだろう。でも、無駄に分かりにくくなっているんだよな。
そもそも「車にはねられる」ってのは、必要不可欠な出来事でもないし。ダンがアリスの質問を受けてルースという恋人の存在を語った後、シーンが切り替わると彼がアンナにアパートで写真を撮ってもらっている。
その時点ではアンナの名前が出ていないので、「これがルースなのかな。でも言語学者だったはずたよな。学者だけど、ダンの恋人として写真を撮影しているのかな」と混乱してしまう。
その後、ダンがアリスをモデルにした本を書いたこと、彼女と同棲していることを語って、「冒頭の出来事から月日が経過している」ってことが理解できるようになる。アンナがアリスからダンとの浮気を指摘された後、ダンがセックスチャットをしているシーンになる。このシーンも、どうやら前のシーンからは随分と月日が経過しているようだ。
でもダンがセックスチャットをしている時点では、「アンナに写真を撮ってもらった夜」であるかのように思えてしまう。誤解しやすい状況になっているため、しばらくは余計な混乱が生じる。
結果的には「月日が経っている」ってのが分かるようになるけど、その伝え方が恐ろしく下手だわ。
いや、その後の編集も見ている限り、どうやら意図的に時間的な跳躍を分かりにくくしているようだ。だけど、そんな風にしている目的がサッパリ分からないのよ。私のようなボンクラには、デメリットしか感じられない。
そこまで極端に時間の跳躍を分からなくしてまで、何を得ようとしたのか。何を生み出そうとしたのか。
もしかすると、「人間関係が変化する経緯を大胆に省略して恋愛劇を描く」という趣向を思い付いて、「これは今までに無かった革新的なアイデアだ」と感じたのかもしれない。だけど、仮にそうだとしても、そこで思考停止しているんだよね。そして「策士策に溺れる」といった状態に陥っている。
あと、「なぜ今まで同じようなことをやる人がいなかったのか」ってのを考えた時、たぶん魅力的なドラマにならないからじゃないかと思うよ。ダンがアリスと同棲しているってことは、冒頭の出来事があった直後にルースとは別れたんだろう。「でも今はアリス一筋」ってことなら何の問題も無いが、彼はアンナを口説いてキスをする。
「不快感をドップリと詰め込んだような映画」と前述したが、それを牽引するのがダンというキャラクターだ。
こいつはクズ中のクズで、冒頭のエピソードで抱かせた印象を次のパートで一気に吹き飛ばしてくれる。
彼は浮気することに何の罪悪感も無いので、近くにアリスがいても平気でアンナを口説く。だからってアリスを捨てるつもりはなくて、こっちはこっちでキープしておいてアンナとの浮気を楽しもうとする。ダンはアンナが指摘するように、不誠実で汚い人間だ。だからアンナに拒絶されると、セックスチャットで彼女の名を騙るという卑劣な行動に出る。
それにしてもジュード・ロウって、良くも悪くも、ゲス野郎がものすごく似合う役者だよね。
ただ、じゃあ他の面々は大丈夫なのか、ちっともゲスくないのかというと、そうではない。
アンナはなんだかんだと言いながらも、ダンと関係を持つ。ダンに比べりゃマシだが、彼のようなクズと平気で寝るんだから、なかなかのアバズレだ。ダンが「僕に恋してる」と指摘した時、アンナは否定した。だけど、その通りだったのだ。
いや厳密に言うと、「それは恋」ではないかもしれない。ただ単に、「関係を持ちたい」という性欲オンリーだったかもしれない。
この映画では4人の男女の関係が変化する様子が描写されるが、そこに「愛」は見えないのよね。関係が変化する上で生じているのは、常に「欲」だけなのよね。
そんな連中に、もちろん全く魅力なんて感じないし、共感も同情も湧かない。幾ら謝罪の言葉を口にしたり「君を愛してる」とフォローしたりしても、アリスを除く3人に関しては、ただ不誠実で自分勝手な連中としか思えない。罪の意識があることを言及しても、何の助けにもなっていない。
途中で改心するような展開があるかというと、そんなのは無い。ダンとアンナは最後までクズのままだし、ラリーは話が進むにつれてどんどんクズ度数が増していく。
私はガチガチのモラリストではないから、浮気や不倫を描いた全ての映画を嫌悪し、全否定しているわけではないのよ。
でも、この作品に登場する連中は、「唾棄すべきクソども」としか感じない。そんなクズどもの中で、アリスだけは最後まで純粋にダンを愛し続けている。
ただ、そもそもダンみたいなクズ野郎への思いを断ち切れずにいるってのを描かれても、そんな恋愛は全く応援できないんだよね。
それはともかく、そんなアリスも久々に会ってヨリを戻そうとしてきたダンが相変わらずの身勝手なクズ野郎だと悟り、ようやく愛想を尽かして街を離れる。
しかし、そこに虚しさや悲しみの深い余韻が残るのかというと、何も感じないのであった。ちなみにナタリー・ポートマンは今回、後半に入ってストリッパーの仕事に戻るキャラを演じている。ストリップクラブで働くシーンではセクシーな下着姿になっているが、ヌードにはなっていない。
実はヌードのシーンも撮影したのだが、本人がマイク・ニコルズに頼んでカットしてもらっているのだ。
その頼みを快く引き受けてヌードシーンをカットしたマイク・ニコルズの優しさは素晴らしい。
でも、いざ公開されるとなった時に「やっぱり嫌だ」と怖じ気付いてカットを頼むぐらいなら、最初からストリッパー役なんて引き受けちゃダメだよ。その役を引き受けた時点で、「ヌードになる」ってのは確定事項みたいなモンでしょ。(観賞日:2020年8月15日)