『恐竜小僧/ジュラシック・ボーイ』:1994、アメリカ

お話は、ちょっと未来の昔話から始まる。西暦2050年。1993年に創設された児童擁護施設「迷える少年の家」の院長を務めるクリフォード・ダニエルズ神父は、素行の悪い孤児たちにも優しく接していた。彼は脱走を図ったロジャーから、「僕が何かやりたいと思うと、必ず大人がダメだと言う。バスケ部にも入れてもらえなかった」と不満を聞かされる。そのことでロジャーは腹を立て、体育館を爆破していた。クリフォードは彼に「君や私のような人間が腹を立てると破壊力が凄いんだ」と言い、自分の幼少期について語り始めた。
10歳の頃、クリフォードは両親と飛行機でハワイに向かっていた。彼はステフェンと名付けた恐竜のオモチャで遊び、前の椅子を激しく揺らして乗客の女性に注意される。クリフォードは全く悪びれずに「何のことですか?」とシラを切り、ステフェンに「意地悪なオバサンだね」と話し掛ける。彼は父であるジュリアンの鼻にステフェンを突っ込んで強引に起こすと、ロサンゼルスの恐竜ワールドに連れて行くようと頼んだ。
「行っただろ。ホノルルの直行便だ」と父が告げるとクリフォードは「誕生日に恐竜ワールドへ行けないなんて」と訴えるが、彼の誕生日は半年前だった。「いつも恐竜ワールドのことばかりだ」とジュリアンが苛立つと、クリフォードは「また発作だ」と茶化した。彼は父の許可を得て、機長に会いに行くことにした。飛行機の真似をした彼は、乗客の頭に次から次へと手をぶつけた。クリフォードは機長から「ロスに着陸するのは緊急時だけだ」と聞き、エンジンを切って緊急着陸させた。
クリフォードにはロスに住むマーティンという叔父がいて、彼は有名な建築家だった。マーティンは会社の託児所で働くサラと婚約中で、サプライズで崖の近くに新居を購入した。しかし子供が生まれることを想定していないと一目で分かったので、サラは全く喜ばなかった。彼女はマーティンが子供を欲しがっていないことを知っており、「前の夫と同じよ。彼も子供が嫌いだった」と述べた。マーティンは本音を隠し、慌てて子供嫌いを否定する。彼は「身内なら可愛いよ。僕の甥とか」と言うが、クリフォードとは洗礼式で会ったきりで、名前も年齢もハッキリとは覚えていなかった。
ロスで空港に降りたジュリアンは全く反省していないクリフォードに憤慨し、「明日の講演がパーになる」と声を荒らげる。クリフォードがマーティンの家に泊まることを持ち掛けると、ジュリアンと妻のテオドラは名案だと考える。マーティンはジュリアンからクリフォードを預かるよう電話で頼まれ、喜んで引き受けた。彼は空港へ行き、クリフォードと会った。マーティンが恐竜ワールドのアトラクションを設計したので無料で入れると聞き、クリフォードは喜んだ。
クリフォードは他の乗客のマウンテンバイクとステレオとサーフボードや犬を盗み、自分の物だと嘘をついてマーティンの車に乗せた。彼はマーティンの前で、いい子のフリをした。マーティンはサラの家に立ち寄り、クリフォードを紹介した。帰宅したマーティンは、深夜2時までクリフォードがドーナツを食べながらテレビを見ているので「もう寝なさい」と告げる。彼はテレビを消し、「明日は忙しいぞ。恐竜ワールドへ行く」と述べた。
「嘘はつかないね。僕は怒る何をするか分からない」とクリフォードが言うと、マーティンは「嘘じゃない」と約束した。クリフォードは勝手に指輪を持ち出しており、「これは何?」とマーティンに訊く。マーティンは慌てて「祖母の結婚指輪で高価なんだ」と告げ、返すよう要求する。クリフォードが「僕のひいお婆ちゃんなら、僕にも権利がある。サラと結婚する時に使う」と語ると、マーティンは「それは無理だよ」と言って奪い返した。
翌日、マーティンはクリフォードを会社へ連れて行き、サラに挨拶して「これから恐竜ワールドに連れて行く」と話す。サラはマーティンに、エリス社長に会うよう勧めた。サラとマーティンが「エリスはカツラ」という噂について話していると、そこへエリスがやって来た。マーティンが挨拶すると、クリフォードは「最高のカツラですね。さっき叔父さんが言ってた」とエリスに話した。マーティンは慌てて、エリスに「聞き間違いだ。言ってません」と釈明した。
エリスはサラに「後で電話していいかね?」と告げ、彼女が去ってから「魅力的な女性だ」と口にした。エリスは大規模な交通システムの建設を担当しているマーティンに、2日で全面的に見直すよう指示した。マーティンは無茶な要求に困惑するが、「君なら大丈夫だ」とエリスは軽く告げた。マーティンは仕方なく、クリフォードに予定を延期することを伝える。しかしクリフォードは納得せず、マーティンが運転する車のハンドルを強引に切ろうとした。
「チョコレートが食べたい」とクリフォードが騒ぐので、マーティンは彼を車で待たせて店に入った。隣に車を停めた一家が恐竜ワールドへ行くことを知ったクリフォードは、便乗しようと目論んだ。彼は恐竜スーツで顔が隠れている長男のケヴィンがトイレへ行くのを見て、後を追う。彼は恐竜スーツをケヴィンから買い取り、彼に化けて車に乗り込む。戻って来たマーティンは策略を知り、クリフォードを叱責した。しかしクリフォードは全く悪びれず、「チョコレートはあった?」と尋ねた。
マーティンはクリフォードを家に連れ帰り、今日は部屋で謹慎するよう命じた。サラからマーティンに電話が入ると、クリフォードは子機を使って盗み聞きする。その日はサラの両親の結婚記念日で、35周年記念パーティーが開かれることになっていた。サラはマーティンに、クリフォードも連れて来るよう告げた。クリフォードは約束を破ったマーティンに復讐するため、密かに録音しておいた彼の音声テープを編集して爆弾魔の犯行予告に仕立て上げた。
マーティンはクリフォードを連れて、パーティー会場へ赴いた。サラの父であるパーカーはマーティンを快く思っておらず、露骨に不快感を示した。クリフォードはサラの前で、マーティンを恐れている芝居をした。クリフォードはタバスコをグラスに注いで酒に見せ掛けると、マーティンに渡した。サラの母のアナベルが来ると、彼はマーティンが乾杯のスピーチをすると告げた。マーティンはタバスコを大量に飲んでしまい、スピーチの途中で言葉を失った。
マーティンはクリフォードを厨房に連れ込み、激しい怒りをぶつける。クリフォードが嘲笑したのでマーティンは殴り掛かろうとするが、サラが来たので慌てて誤魔化した。サラは託児所を開設するためサンフランシスコへ行ってエリスと一泊することを、マーティンに話した。マーティンは心配するが、サラは「社長だもの。断れないわ」と全く気にしていなかった。クリフォードはリップクリームと騙して口紅をマーティンに渡し、大勢の前で彼を笑い物にした。
口紅を落とすためトイレへ行こうとしたマーティンは、駆け付けた刑事たちに爆弾テロ計画の犯人として逮捕された。警察署に掛かって来た予告メッセージを聞いたマーティンは、クリフォードの仕業だと悟った。容疑が晴れて釈放されたマーテインは帰宅し、クリフォードに怒りをぶつける。クリフォードは他の人間の犯行だと主張するが、もちろんマーティンには通用しない。マーティンが「お前を親元に送り返す」と通告すると、クリフォードは泣き真似で許してもらおうとする。マーティンはテーブ偽造の告白文を書くこと、サラに「僕らは親友」と証言することを条件に、親元には送り返さないと告げた。
しかしクリフォードはマーティンを騙してサンフランシスコ行きの列車に乗せ、大勢の若者を家に招いてパーティーを開く。家に電話を掛けたマーティンは招待されたブライアンという若者から、クリフォードが恐竜ランドへ連れて行くじ条件でパーティーを開かせたことを聞く。すぐに戻ろうとしたマーティンだが、サラがエリスとレストランでディナーを取っている現場を目撃する。サラがエリスからネックレスを贈られる様子を見て、彼は腹を立てた。気付いたサラが理由を付けて店の外に出ると、マーティンは批判の言葉を浴びせる。サラは反論し、クリフォードについて尋ねた。マーティンは「化け物と一緒の方がマシだ。あいつは悪魔のような奴だ。君は本性を知らない」と言うが、サラは彼に非があると決め付けて非難した…。

監督はポール・フラハーティー、脚本はジェイ・ディー・ロック(ウィリアム・ポーター)&ボビー・フォン・ヘイズ(スティーヴン・カンプマン)、製作はラリー・ブレズナー&ピーター・ジャン・ブルージ、撮影はジョン・A・アロンゾ、美術はラッセル・クリスチャン、編集はペンブローク・ヘリング&ティモシー・ボード、衣装はロバート・デ・モーラ、音楽はリチャード・ギブズ。
出演はマーティン・ショート、チャールズ・グローディン、メアリー・スティーンバージェン、ダブニー・コールマン、G・D・スプラドリン、アン・ジェフリーズ、リチャード・カインド、ジェニファー・サヴィッジ、ブランディス・ケンプ、ベン・サヴェージ、ドン・ギャロウェイ、ティム・レイン、スーザン・ヴァロン、ジョシュ・シール、ケヴィン・モックリン、ティモシー・スタック、マリアンヌ・ミューラーリール、カーステン・ホルムクイスト、メーガン・クローナー、ジェシー・ストック、クレイトン・ダグラス二世、ジェニファー・ナッシュ、リンダ・ホフマン他。


『サボテン・ブラザース』のマーティン・ショートと、『ベートーベン』のチャールズ・グローディンが共演したコメディー映画。
監督は『ジョン・キャンディの 迷探偵ハリーにまかせろ?!』のはポール・フラハーティー。
脚本は『バック・トゥ・スクール』『君がいた夏』のジェイ・ディー・ロック(ウィリアム・ポーター)&ボビー・フォン・ヘイズ(スティーヴン・カンプマン)。
クリフォードをショート、マーティンをグローディン、サラをメアリー・スティーンバージェン、ジェラルドをダブニー・コールマン、パーカーをG・D・スプラドリン、アナベルをアン・ジェフリーズが演じている。

冒頭、「昔から子供たちはワクワクする冒険が大好き。けれど大人たちにとっては悪夢に近いこともある。これは、そんな話」という文字が画面に出る。
そして本編で描かれるのは、「子供が自由奔放に暴れ回り、周囲の大人たちが多大な迷惑を被る」という話である。
そんなプロットだけでもヤバそうな雰囲気がプンプンと漂っているのだが、さらに状況を悪化させるのがキャスティング。
なんとクリフォードを演じるのが、前述したようにマーティン・ショートなのだ。

知らない人のために書いておくと、マーティン・ショートは1950年生まれの俳優。つまり、この映画が撮影された当時、子役でも何でもなくて、既にオッサンだったのだ。
そりゃあ小柄で童顔ではあるけど、さすがに「10歳の少年」は無理がありまくりだ。
もちろん、そんなことは分かった上で、あえて「マーティン・ショートが10歳の少年を演じている」ってのも含めての喜劇として考えていたんだろう。でも残念ながら、ただ「見ていてキツい」と感じるだけで、何のプラスも無い。
「マーティン・ショートが演じていることで笑いに繋がっている」と感じる箇所なんて、物の見事に1つも無いのである。

それどころか、むしろマーティン・ショートが演じていることが、不快感や嫌悪感を助長する結果に繋がっている。
彼がヘラヘラしながら楽しそうに様子で周囲の大人たちに迷惑を掛ける様子が描かれると、「どこで何を笑えばいいのか?」と首をかしげたくなる。
しかし厄介なことに、この映画は「マーティン・ショートが自由に動いて大人たちに迷惑を掛ける」という部分を喜劇としての軸に据えているのだ。
なので、最初から最後まで、微塵も笑えずイライラさせられるだけになっている。

まだホントに10歳の少年で、しかも「純朴で何の悪気も無い好奇心旺盛なだけの少年」に見える子役がクリフォードを演じていれば、それで少しは印象が良くなる部分も大いにあっただろう。
だからマーティン・ショートを起用したのは、致命的な失敗だと断言できる。
ただし、じゃあ「純粋に見える10歳の少年」が主人公な面白い喜劇になったのかというと、それは別問題。
仮に配役が違っていても、あくまでも「不快感や嫌悪感が解消される」という可能性が生じるだけだ。決して喜劇としての質が上がるわけではない。

根本的な問題として、「クリフォードが自由気ままに暴れて周囲に迷惑を掛ける」というのを延々と見せられても、そこに笑いを見出すことは難しい。
マーティン・ショートの演技にも大いに問題はあるが、そもそもキャラクター設定の段階で間違えているからだ。
「純朴で何の悪気も無い好奇心旺盛なだけの少年」ではなく、クリフォードは悪意や作為に満ちた狡猾な少年なのだ。
「自身の欲望に純粋」とは言えるが、その欲望を満たすためには平気で悪事を働くのだ。

クリフォードの行動は、決して「可愛げのあるイタズラ」程度で済むレベルではない。
飛行機のエンジンを切って緊急着陸させるのは、一歩間違えば大惨事になっていた重罪だ。
他の乗客のマウンテンバイクとステレオとサーフボードや犬を盗んで自分の物にするのも、何の言い訳も出来ない卑劣な犯罪だ。
その後もクリフォードは、犯罪行為を繰り返す。それに見合う罰を受けることも無く、贖罪を済ませることもなく、クリフォードは不敵な笑みで罪を重ねていく。

サラがシャワーを浴びている時にクリフォードがニヤニヤしながらステフェンを浴室に入れるとか、「素敵なバスローブですね」と言ってニヤニヤするとか、そういうのも不愉快なだけ。
勝手に指輪を盗み出して「サラと結婚する時に使う」と言うのも、「子供の軽い気持ち」として微笑ましく受け止めることは絶対に無理。
この辺りはマーティン・ショートがやることによって「性欲が剥き出しの不快な奴」になっている部分が大きいが、仮に子役であっても同じキャラ設定だったらキツいのは変わらないと思う。
少なくとも、コメディーとして受け取ることは無理だろう。

恐竜ワールドの予定が中止になると、クリフォードがマーティンに嫌がらせを繰り返す展開になる。
それまでも充分にクリフォードは不快だったが、さらに輪を掛けて酷いことになる。
エリスから無茶な仕事を押し付けられて、予定が延期になるのは仕方がない。クリフォードが犯罪としか言えないような行動を取ったのだから、叱責を受けて謹慎を命じられるのも仕方がない。
なので、まるでクリフォードの肩を持つことは出来ないし、その復讐にカタルシスなど皆無。
さすがの私も、それを楽しめるほど歪んだ人間ではない。

ここまで長々と批評を書いて来たが、とどのつまりは「クリフォードがクソ野郎すぎてヘドが出る」ってのが全てだと言っていいだろう。
ここまで不愉快な主人公も、珍しいんじゃないか。
ずっとクリフォードは卑劣なクズで、彼のせいでマーティンはサラに振られ、会社をクビになる。
例えるなら、『ホーム・アローン』のマコーレー・カルキンから若さと無邪気さと可愛げを取り除いたようなキャラなのよ。
なぜマーティン・ショートがゴールデン・ラズベリー賞にノミネートされなかったのか、不思議なぐらいだ。

残り時間も少なくなってマーティンは復讐に乗り出し、恐竜ランドでクリフォードを恐怖に落ち仕入れる。ここで機械トラブルが起きてクリフォードがピンチになるとマーティンが救助し、「クリフォードが反省して心を入れ替えました」という結末になっている。
だけど、最後の最後で急に舵を切って綺麗なハッピーエンドを用意しても、そこまでのマイナスがデカすぎて全く取り戻せていないからね。
例えるなら、快楽のために何人も殺した奴が反省の手紙を書いて、「それで全てが許されました」という結末を用意するようなモンだからね。
熱心なクリスチャンなら受け入れられるかもしれないけど、ワシはそこまで寛容になれないわ。

(観賞日:2021年5月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会