『CHLOE クロエ』:2009、アメリカ&フランス&カナダ
産婦人科医のキャサリン・スチュアートは、バレエダンサーの患者を診察した。患者は妊娠を望んでいないが、避妊していなかった。彼女が「セックスが苦手で経験が乏しい。絶頂を感じたことが無い」と打ち明けると、キャサリンはアドバイスして手引書を渡した。彼女の夫で大学教授のデヴィッドは講義を行い、女子学生のミランダから「私たちと食事をどうです?」と誘われた。デヴィッドが「誘ってくれて嬉しいが、今日は誕生日で、もうすぐ帰りの飛行機に乗る」と言うと、生徒たちは『ハッピー・バースデイ』を合唱した。
キャサリンは友人たちを集め、デヴィッドの誕生日を祝うサプライズ・パーティーを準備していた。親友のフランクはトリナという女性を伴って出席した。スチュアート夫妻の息子であるマイケルは恋人のアンナを連れて帰宅し、キャサリンに挨拶もせずに2階の自室へ向かう。デヴィッドはキャサリンに電話を掛け、「飛行機に乗り遅れた」と告げる。「次の便は2時間後だし、もう君は寝てる」と話す彼の近くに、ミランダの姿があった。キャサリンは電話を切って夫が飛行機に乗り遅れたことを話し、パーティーの続行を促した。
翌朝、キャサリンが起床すると、デヴィッドは帰宅していた。デヴィッドはパーティーのことで謝罪し、「今夜も遅くなる。カリキュラム講習会だ」と告げた。キャサリンは下着姿のアンナが部屋から出て来るのを目撃し、マイケルが彼女を泊まらせてセックスしていたことを知る。キャサリンに注意されたマイケルは、「パパは知ってる」と告げる。キャサリンは「泊まらせたことを、みんな黙ってたのね」と腹を立て、「こんなことは、もう駄目よ」と釘を刺した。
デヴィッドが放置してあった上着のポケットで、携帯電話が鳴った。勝手に着信を確認したキャサリンは、「昨夜はありがとう」というミランダのメッセージと、デヴィッドが彼女の肩を抱いている写真を見た。夜、キャサリンとデヴィッドはレストランへ行き、フランクとトリナの4人で会食する。デヴィッドがウェイトレスに優しい態度を取ることを、キャサリンは素直に看過できなかった。トイレに入った彼女は、個室の隣にいる女性が困っていることを悟る。トイレットペーパーが無いと聞いた彼女は、自分の個室の分を渡した。
個室から出て来たクロエという女性は、手を洗っているキャサリンに礼を述べた。彼女が髪留めを差し出して「落とした?」と訊くので、キャサリンは「いいえ」と答える。クロエが「受け取って。持っていて」と言うと、キャサリンは「夫の所へ戻るわ」と告げて去った。彼女が席に戻ると、フランクは娼婦探しのゲーム持ち掛けた。キャサリンは適当に相手をしながら、クロエが連れの男性の元へ戻る姿を目にした。帰りの車で、キャサリンはデヴィッドのウェイトレスに対する態度や、飛行機に乗り遅れたことに嫌味を浴びせた。
翌日、キャサリンはクロエが娼婦だと知り、バーに呼び出した。彼女は「夫が浮気してると思う」と言い、誘惑したらどんな態度を取るか知りたいと説明して仕事を依頼した。次の朝、クロエはデヴィッドが行き付けにしているカフェへ行き、砂糖を貸してもらう名目で声を掛けた。その後、彼女はキャサリンと落ち合い、学生かと問われて「日本語を勉強してる」と答えたことを話す。クロエが「何も無かった。ナンパの気配も無く、優しかった」と言うと、キャサリンは報酬を渡し、もう一度だけ誘惑してほしいと依頼した。
その夜、キャサリンはマイケルの部屋から聞こえる声で、アンナとネット通話で口論していることを知った。アンナは卒業を控えて今までの付き合いを清算したいと言い、マイケルに別れを告げた。キャサリンはデヴィッドの部屋へ行き、マイケルが振られたことを伝えた。「あの子に聞いたのか?」と問われた彼女は、「私には何も教えてくれない」と不満を口にした。デヴィッドは穏やかな態度で、「あの子は立ち直る。大丈夫だ」と告げた。
翌朝、クロエから呼び出されたキャサリンは、「精神的に不安定だっただけかも。今回のことは全て忘れて」と頼んだ。するとクロエは、「それは無理。ご主人に話し掛けて、一緒にランチを食べた」と話す。さらに彼女は、デヴィッドからキスを求められたこと、人気の無い植物園へ移動してキスしたことを語る。キャサリンは狼狽し、「こんなことを頼んで失敗した」と去ろうとする。しかし自転車に乗ったクロエが転倒して膝を擦り剥くのを見た彼女は、戻って手当てしてやった。
クロエはキャサリンに、デヴィッドのペニスを手でしごいて射精させたことを詳しく語った。キャサリンが「病気を持っていないか、検査結果を見せてほしい」と言うと、クロエは承知した。翌日、クロエはキャサリンのクリニックへ出向き、待合室にいたマイケルが息子だと知って話し掛けた。音楽を勉強中だと聞いた彼女は、レイズド・バイ・スワンズを勧めた。
キャサリンが診察を終えると、クロエは診察結果を見せに行く。彼女は午後にデヴィッドと会うことを教え、クリニックを去った。午後、キャサリンがカフェで友人たちと会っていると、クロエからメールが届いた。ホテルに呼び出されたキャサリンは、その部屋でデヴィッドと性的関係を持ったことをクロエから詳しく聞かされた。クロエの匂いに気付いたキャサリンは、「その香水は?」と尋ねた。クロエは「ローションよ」と答え、キャサリンの手に塗った。キャサリンが「首を吊って死にたい」と傷心していると、クロエは彼女にキスをする。キャサリンは「ダメよ」と狼狽し、逃げるように去った。
キャサリンはマイケルのピアノコンサート会場へ行き、先に来ていたデヴィッドの隣の席に座った。コンサートの後、デヴィッドが匂いに気付いて「香水だね」と言うと、キャサリンは「ローション」と告げる。デヴィッドが「好みが合う」と口にすると、キャサリンはクロエの元へ赴いてホテルで肉体関係を持った。クロエと共にホテルを出た彼女は、車で自宅の近くまで行く。「夫に会わないで」とキャサリンが言うと、クロエは髪留めを取り出して「母が持っていた物よ。貰ってほしい」と告げた。「わざと落としたの?」と質問された彼女は、「話したかったから」と述べた。
キャサリンが帰宅すると、デヴィッドが「今のは誰だ?浮気してるのか」と問い掛けた。キャサリンが「貴方はどうなの?やり方が巧妙よ。教え子と親密にメールするのを見て平気だと思う?」と反論すると、彼は「学生と交流して信頼を得てる」と主張した。キャサリンは「女と見れば誰とでも馴れ馴れしくする。全員と寝たの?」と喚き、デヴィッドと激しい口論になった。そこへマイケルが来て2人を批判し、「こんな家、もう嫌だ」と声を荒らげた。
翌日、キャサリンがクリニックに行くと、クロエから何度も「電話して」というメッセージが届いていた。キャサリンがパソコンを開くと、クロエがホテルで撮影した2人の写真が届いていた。給湯室に隠れていたクロエは、キャサリンに電話を掛けて会いに来た。キャサリンは「ビジネスはもうおしまいよ」と言い、親密な交際を続けようとするクロエを冷たく拒絶する。クロエが悲しそうに抗議すると、彼女は出て行くよう要求した。クリニックを去ったクロエは、マイケルの元へ赴いて誘惑する…。監督はアトム・エゴヤン、原作はアンヌ・フォンテーヌ、脚本はエリン・クレシダ・ウィルソン、製作はアイヴァン・ライトマン&ジョー・メジャック&ジェフリー・クリフォード、製作総指揮はジェイソン・ライトマン&ダニエル・ダビッキ&オリヴィエ・クールソン&ロン・ハルパーン、共同製作はシモーヌ・アードル&ジェニファー・ワイス、製作協力はアリ・ベル&エリン・クレシダ・ウィルソン、撮影はポール・サロシー、美術はフィリップ・バーカー、編集はスーザン・シプトン、衣装はデブラ・ハンソン、音楽はマイケル・ダナ。
出演はジュリアン・ムーア、リーアム・ニーソン、アマンダ・サイフリッド、マックス・シエリオット、R・H・トムソン、ニーナ・ドブレフ、ミシュー・ヴェラーニ、ジュリー・カーナー、ローラ・デ・カートレット、ナタリー・リシンスカ、ティファニー・ナイト、メーガン・ヘファーン、タムセン・マクドノー、キャスリン・クリートマー、アーリーン・ダンカン、アダム・ワックスマン、クリスタ・カーター、セヴァーン・トンプソン、サラ・カッセルマン、デヴィッド・リール、ミルトン・バーンズ、キャシー・マローニー、カイラ・ティングレー他。
アンヌ・フォンテーヌが監督を務めた2004年の映画『恍惚』のリメイク。
監督は『スウィート ヒアアフター』『秘密のかけら』のアトム・エゴヤン。
脚本は『セクレタリー』『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』のエリン・クレシダ・ウィルソン。
キャサリンをジュリアン・ムーア、デヴィッドをリーアム・ニーソン、クロエをアマンダ・サイフリッド、マイケルをマックス・シエリオット、フランクをR・H・トムソン、アンナをニーナ・ドブレフが演じている。キャサリンはデヴィッドの携帯電話を勝手に見た時点で、ミランダとの浮気を疑っている。ほぼ確信に近いと言っていいだろう。
そこまでの感情になっているのに、なぜ「娼婦を雇って誘惑させる」という行動に出るのか、その理由がサッパリ分からない。デヴィッドの浮気を確かめたいのなら、普通に私立探偵を雇って調査してもらえばいいじゃないか。
仮にクロエの誘惑にデヴィッドが乗ったとしても、それで浮気が確定するわけでもないぞ。「ミランダとは何も無かったけど、クロエの誘惑には心を乱された」という可能性も考えられる。なのでクロエの行動は、目的を考えると支離滅裂だ。
っていうか、もはや何が目的なのかさえ怪しくなる。
「ショックで冷静な判断力を失っていた」とでも解釈すべきなのか。だとしたら、かなり苦しい筋書きだ。表面上はミステリーが存在するが、致命的な問題を抱えている。それは、デヴィッドがミランダと浮気していないことが何となく分かるという問題だ。
決定的な証拠があるわけではないが、講義のシーンでのデヴィッドとミランダの会話や、デヴィッドが飛行機に乗り遅れたことを電話で話すシーンの描写などから、そう感じさせるのだ。
そのため、クロエがキャサリンに「デヴィッドがキスを求めて来た」とか「ホテルでセックスした」と喋っても、「これは嘘だろうな」と推測できてしまうのだ。
もちろん、こっちの勘が外れていれば、上手く欺いたってことになる。
でもネタバレだが、その予想はピタリと的中しているのだ。もう1つの問題として、「クロエがキャサリンに嘘をつく理由は何なのか」ってのも、何となく予想が付いてしまうってことがある。最初からクロエはキャサリンに関心があって、彼女の気を引くことが狙いなんだろうなと。
それはトイレで最初に2人が会った時のシーンから、何となく推理できてしまう。そしてクロエがマイケルに接触する辺りで、確信に近くなる。
ともかく最初から簡単にネタが割れている状態なので、後は「女性2人の心理的な駆け引き」か何かで引っ張っていくしかない。でも、そんな力は無い。
なので結局、「キャサリンがアホすぎた」という印象ばかりが強くなってしまう。キャサリンはクロエからデヴィッドとホテルで関係を持ったと言われた後、「いつも一緒だったわ。例え1時間でも彼と離れられなかった。以前はそうだった。私も若かった」などと語る。
それぐらい熱烈にデヴィッドを愛していたのに、些細なことでデヴィッドの浮気を確信する。つまり全く彼を信用していないってことだが、そこまで熱が冷めてしまったのか。
でもキャサリンの言葉や行動からすると、彼女の気持ちは全く冷めていないんでしょ。じゃあデヴィッドの方がキャサリンに冷たくなったのかというと、そういう様子も無いんだよね。
では、どういうことなのかと。
とにかく、キャサリンの言動には色々と整合性の取れない部分を感じてしまうんだよね。その後、キャサリンがクロエと肉体関係を結ぶのは、「なんでそうなるの?」と言いたくなる。まるでワケが分からないのだ。
デヴィッドがローションの匂いを嗅いで「好みが合う」と言ったことで、キャサリンの「彼がクロエと浮気している」という思い込みが、さらに強くなったんだろうってのは何となく分かるのよ。
ただ、そこから「だからクロエと肉体関係を持つ」という行動に出るのは、方程式として何も理解できないのよ。
ここは物語として重要なポイントなのに、説得力ゼロで突拍子も無い展開になっている。終盤、キャサリンはカフェにデヴィッドを呼び出し、全て隠さずに真実を話すよう要求する。
デヴィッドは正直に「パーティーが嫌だから、わざと飛行機に乗り遅れた」と告白するが、ミランダと浮気していると思い込んでいるキャサリンは「嘘をついている」と激しく責める。
そこへ偶然にもクロエが現れ、彼女を見たデヴィッドが全く動揺せず、「今のは誰だ?」と問い掛けたことで、ようやくキャサリンは「クロエが嘘をついていた」と気付く。
しかし彼女は、デヴィッドに真実を打ち明けようとしない。怒ったデヴィッドが店を去ると慌てて後を追い、ようやくクロエに誘惑の依頼をしたことを明かすが、関係を持ったことは隠す。キャサリンは夜の営みが無くなっていたことを語るが、それもデヴィッドが悪いのではなく、自分から避けるようになったのだ。
「昔とは違う自分の姿を見たくなかった」と泣きながら吐露するが、それで同情心を誘われることは全く無い。
クロエはキャサリンを「必要な時はお金で言いなりにして、不要になったら捨てるなんて身勝手よ」と責めるが、その通りだと感じる。
全てはキャサリンの自業自得であり、クロエが可哀想なだけの話になっている。(観賞日:2022年9月27日)