『きみがくれた未来』:2010、アメリカ&カナダ

高校生のチャーリー・セント・クラウドはヨット部主将を務め、数々の大会で優勝してきた。11歳になる弟のサムを乗せて参加した大会でも、テス&ジュリー組やコナーズ&レイサム組を破って優勝した。夕暮れ時、サムが海へ出る複数のヨットを眺めて「どこへ行くの?」と口にしたので、チャーリーは「世界中の色んな場所だ。いつか行こう。日没の大砲を合図に船出するんだ」と告げた。チャーリーはスタンフォード大に合格したが、看護師をしている母のクレアが女手一つで家計を支えていることを考え、1年間働いてから進学しようと考えていた。しかしクレアは「人生は待ってくれないのよ」と言い、そのまま進学するよう促した。
卒業式でスポーツ奨学金を受け取ったチャーリーは、友人のサリヴァン&グリーンと言葉を交わす。サリヴァンたちは海兵隊に入ることが決まっており、今夜のパーティーに来てくれとチャーリーに告げた。チャーリーは野球チームに入ることを望むサムのため、「入学まではバイトの後、練習に付き合ってやる。日没の大砲が合図だ」と告げた。母が急に夜勤を入れたため、チャーリーはサムの子守りを頼まれた。サムがボストン・レッドソックスの試合をテレビ観戦する間に、チャーリーが夕食を用意した。
チャーリーが車でパーティーに行こうとすると、サムは「僕の子守りだろ」と言い、友人のトミーとテレビ観戦したいので送ってほしいと頼む。チャーリーが車で出発すると、サムは兄の大学行きを寂しがった。「まめに帰って来るよ」とチャーリーが言うと、サムは「パパもそう言ってた」と話す。チャーリーは「僕はお前を捨てていなくなったりしない」と約束した。彼は渋滞を抜けるために路線変更しようとするが、後ろから猛スピードで突っ込んで来た。その直後に前方から車が来て、チャーリーの車に激突した。
救命士のフロリオたちが駆け付けた時点で、チャーリーの心臓は停止していた。しかしフロリオが処置を施すと、彼は奇跡的に息を吹き返した。チャーリーはサムの死を知って激しく狼狽し、フロリオが必死で落ち着かせた。葬儀の日、チャーリーは司祭から、棺にグローブを入れるよう促される。しかしチャーリーは弟の死を受け入れられず、その場から逃げ出した。森に入ったチャーリーの前に、死んだはずのサムが現れた。「遅いよ、約束したのに」と言われたチャーリーは、「そうだな。約束だ」と述べた。
5年後、チャーリーは大学へ行かず、ヨット競技とも距離を置いていた。彼は墓地管理人宿舎で暮らし、ボスのウーリーと共に働いていた。ウーリーから結婚記念日のパーティーに誘われたチャーリーは「行くよ」と言うが、その気は無かった。テスは死んだ父の墓が荒れているのを見て、文句を付けに来た。チャーリーは何の感情も示さず、「分かった、すぐやるよ」と告げた。テスは少し気になる様子で立ち去るが、チャーリーは彼女のことを全く覚えていなかった。
中尉となったサリヴァンが軍服で墓地に来たので、チャーリーは会話を交わす。母親のことを問われた彼は、「引っ越した」と答える。サリヴァンはチャーリーに、「グリーンのことは聞いたか。地雷だった、酷い死に方だった」と言う。チャーリーは「埋葬される時は綺麗な姿だった」と告げる。少し離れた場所にいたウーリーは、チャーリーが独りで喋っている様子を目撃した。サリヴァンはチャーリーに「現実を見ろよ」と言い、自分の墓から立ち去った。
チャーリーは玩具店へ行き、ラジコン飛行機を購入した。アルバイトの女子店員2人は彼に興味を抱き、「今度、ヨットに乗せて」と言う。チャーリーは「いいよ」とOKし、店を去る。2人は喜ぶが、同僚の女子が「無駄よ。この5年、彼は海に出てないわ」と教えた。日没が訪れ、チャーリーは森へ赴いてサムにラジコン飛行機を見せた。彼はサムと練習し、サリヴァンと会ったことを話して「淡々としてた。グリーンもいるしな」と言う。「お前は行くな。ずっと、このままだ」と彼が話すと、サムは笑顔で「うん」と告げた。
町へ出たチャーリーは、偶然にもフロリオと遭遇する。フロリオは「俺は君を救った」と言うので、チャーリーは彼の素性に気付いた。フロリオは癌を患っていることを明かし、「充実した人生だった。心残りは何も無い。それに奇跡を見たしな」と語る。「君の心臓は完全に停止していた。無意味な奇跡は無い。君が生かされた理由があるはずだ」と彼が言うと、チャーリーは「まだ僕には見えなくて」と口にする。フロリオは「墓地で働いていたら無理だ。まだ若いんだから、外に出て自分の人生を歩め」と説いた。
フロリオと別れたチャーリーは、テスが最年少で単独世界一周ヨットレースに挑戦することを知った。情報が掲載されている雑誌を買ったチャーリーは、「自分がレースに出たら」という想像をサムに語る。宿舎に戻ったチャーリーは、舵のデザインを描いた。夜のヨットハーバーへ出掛けた彼は、テスの船をスケッチする。そこへウーリーが現れ、パーティーに来てくれたと誤解して歓迎した。ウーリーはチャーリーを店へ連れて行き、妻のシンディーに会わせた。シンディーはチャーリーに、友人のレイチェルを紹介した。
パーティーが開かれている店のテラス席では、テスがコーチのティンクと話していた。ティンクは「低気圧が近付いている。危険だからテスト航海は中止しろ」と忠告するが、テスは「嵐を避けるから平気よ」と述べた。店内に目をやったテスは、チャーリーの姿に気付いた。チャーリーの元にはコナーズがレイサムを伴って現れ、馬鹿にするような言葉を浴びせた。チャーリーはコナーズに掴み掛かり、顔面にパンチを浴びせてKOした。
ヨットハーバーへ赴いたチャーリーは、船の整備をしているテスと遭遇した。「私のこと、忘れてるでしょ。選抜クラスで一緒だった」とテスが話したので、ようやくチャーリーは彼女が同級生だったことを思い出した。チャーリーは少し迷った後、自身がクジラの尾びれをモチーフにデザインした舵の絵を見せた。チャーリーは操舵性が向上することを話した後、「レースの幸運を祈るよ」と告げて立ち去った。テスはテスト航海に出発し、チャーリーは森でサムの練習に付き合う。大雨が降る中、兄弟は泥んこ遊びで盛り上がった。
チャーリーは朝の墓地で、頭から軽く出血しているテスと遭遇した。チャーリーは彼女を宿舎へ連れて行き、傷を手当てした。「あの事故のせいで、ヨットも大学も辞めたの?」とテスに問われたチャーリーは、「その話は、また今度」と言及を避けた。テスは「じゃあ私が半年後に戻ったら」と言い、宿舎を後にする。チャーリーは「まだ間に合う。何とかなる」と呟いて後を追い、「僕は自炊派なんだ。今夜、ウチで食事しないか」と誘った。
夜、チャーリーはピザを作り、テスに振る舞った。幾つものボンボール箱が積んであるのを見つけたテスは、「引っ越し?」と尋ねる。「弟の荷物なんだ」とチャーリーは言い、箱の1つを指差して「あの中はレッドソックスのカードばかりだ」と告げる。「なぜボストンのチームを応援?」とテスが訊くと、チャーリーは「弟は、パパがいたからって」と答える。「本当に?」という質問に、彼は「いや、3Aのテストを受けただけだ。そのまま失踪した」と述べた。
チャーリーがキスすると、テスは「もうすぐ私は出発するのよ」と言う。チャーリーが「知ってる」と言うと、テスは「帰るわ」と述べる。しかしチャーリーが気になって外へ出ると、テスは「私を見つけて」と暗がりの中から声を発した。チャーリーはテスを見つけてキスを交わし、体を重ねた。翌朝、チャーリーはテスと2人でヨットに乗り、久々に海へ出た。「サポート・チームに入って」とテスに頼まれたチャーリーは、「無理だ。出来ない」と断った。
日没の大砲が鳴ったので、チャーリーは慌てて森へ向かった。チャーリーが謝罪すると、「思った通りだ。僕のこと、忘れ始めてるよね」とサムは言う。チャーリーは否定するが、サムは泣きながら「一人きりだと、消えちゃう気がするんだ」と漏らす。「行かせたい?」と問われたチャーリーは「まさか」と言うが、サムは「じゃあ、なんで彼女がいるの?」と指差した。チャーリーが振り向くと、そこにはテスが立っていた。
「ごめんなさい、悪気は無かったの」とテスが釈明すると、チャーリーは「約束なんだ。毎日、日没の大砲で弟と会う。大切な存在なんだ。失いたくない。君と一緒にいると弟が遠くなる」と述べた。テスが「過去に囚われては駄目」と諭すと、チャーリーは「離れられない。さよなら、いいレースを」と別れを告げた。テスは寂しそうな表情で、彼を置いて森を去った。翌朝、ダイナーへ赴いたチャーリーは、テスが3日前の嵐で行方不明になっていることを知った…。

監督はバー・スティアーズ、原作はベン・シャーウッド、脚本はクレイグ・ピアース&ルイス・コリック、製作はマーク・プラット、製作総指揮はマイケル・フォトレル&ライアン・カヴァナー&ベン・シャーウッド&ジャレッド・ルボフ&アダム・シーゲル、撮影はエンリケ・シャディアック、美術はアイダ・ランダム、編集はパドレイク・マッキンリー、衣装はデニス・ウィンゲイト、音楽はロルフ・ケント。
出演はザック・エフロン、アマンダ・クルー、キム・ベイシンガー、レイ・リオッタ、ドナル・ローグ、チャーリー・ターハン、オーガスタス・プリュー、デイヴ・フランコ、マット・ウォード、マイルズ・チャルマーズ、ジェシー・ウィーラー、デズリー・ズロウスキー、エイドリアン・ハウ、ジル・ティード、ヴァレリー・チャン、グレイス・シャーマン、ブレンナ・オブライエン、ティーガン・モス、ジュリア・マックスウェル、ポール・シュヴロー、ポール・デュシャール、レニュー・バクシ、ダーレン・ドリンスキー他。


ベン・シャーウッドの同名小説を基にした作品。
監督は『10日間で男を上手にフル方法』『セブンティーン・アゲイン』のバー・スティアーズ。
脚本は『ロミオ&ジュリエット』『ムーラン・ルージュ』のクレイグ・ピアースと『ドメスティック・フィアー』『炎のメモリアル』のルイス・コリックの共同。
チャーリーをザック・エフロン、テスをアマンダ・クルー、クレアをキム・ベイシンガー、フロリオをレイ・リオッタ、ティンクをドナル・ローグ、サムをチャーリー・ターハン、ウーリーをオーガスタス・プリュー、サリヴァンをデイヴ・フランコ、コナーズをマット・ウォードが演じている。

導入部の段階で、「こんなに欲張って大丈夫なのか、上手く片付けられるのか」と不安になった。
チャーリーはヨットに情熱を傾け、サムが野球チームに入りたがっているので練習に付き合ってやる。その時点で、既に「ヨット」「野球」という2つの要素がある。
卒業式のシーンにおけるテスの様子を見ると、どうやらチャーリーが気になっている様子だ。ってことは、ここで恋愛劇を作るんだろうという予想も付く。
他に、「失踪している父に対するサムの気持ち」とか、「母とチャーリー&サムの関係」という要素もある。

「事故でサムが死ぬ」という情報は見る前から入っていたので、そこから前述した要素を全て処理できるのか、難しいんじゃないかと序盤に感じた。
まあ家族に関わる部分に関しては、罪悪感とか喪失感といった部分を利用すれば、上手く絡ませることは出来るだろうと思った。
ただし、恋愛劇とかヨットへの情熱という部分は全く別物なので、それも含めて片付けるのは厳しいんじゃないかと思った。
そして実際、ちっともうまく片付けることが出来ていない。
しかも家族関連の要素でさえ、処理できていないのだ。

5年後になると母親は全く登場せず、電話の声が1度入るだけ。事故の後、彼女がチャーリーやサムに対して何を思っているのかは全く分からない。
例えばチャーリーが「弟を死なせたことで母にも負い目を感じている」ということがあって、母が「貴方が悪いんじゃない。自分を責めては駄目」と告げるようなシーンでもあれば、それがドラマの中で活きてくるはずだけど、母親は完全に存在意義を失っている。
父親に関しては「失踪した」という情報しかないので、チャーリーの「父親はサムを見捨てて失踪したけど、自分は絶対に見捨てない」という特別な感情もイマイチ伝わらない。
ぶっちゃけ、「父親は失踪した」という要素をバッサリと省いても、全く支障は無い。

それと、「5年後」という設定も、いかがなものかと思ってしまう。
もちろん、弟が死んだことで受けた心の傷や喪失感が、そんなに簡単に消え去ることは無いだろう。自分のせいで死なせてしまったという負い目があれば、なおさらのことだ。
しかし、単に「心の傷が未だに残っている」というだけならともかく、5年後もサムの幽霊と野球の練習をする日課が続いているってのは、「さすがに引きずり過ぎだろ。そろそろ気付けよ」と言いたくなる。
チャーリーにもサムにも、「そろそろ相手を解放してやれよ」と言いたくなる。

5年後に飛んで、すぐにチャーリーがサムと練習するシーンが描かれるのかと思いきや、その前にサリヴァンの幽霊が登場する。
しかし、そもそもサム以外の幽霊が登場する時点で、「手を広げ過ぎだわ」と感じる。
そこでサム以外の幽霊を登場させるのは、後の展開に向けた伏線という意味もあるんだろう。ただ、「サムが死んで、チャーリーは霊媒体質になったのかよ」とツッコミを入れたくなる。
そうじゃなくて、見える幽霊はサムに限定すべきだよ。そして「死なせてしまった罪の意識があるし、死んだことを受け入れられないからサムの幽霊が見える」という形にしておくべきだわ。

フロリオという男は、ものすごく御都合主義な存在になっている。ただの救命士なのに、町で偶然にもチャーリーと再会し、導くような言葉を口にするって、「なんだ、そりゃ」と思ってしまう。
いっそのこと、「神の使いなのかもしれない」みたいな匂わせ方をした方が、ファンタジーとして受け入れられたかもしれない。
でも、ホントに「たまたま再会する救命士」というだけなんだよな。
それと、チャーリーと話すのが1度だけってのは弱いよ。役割を考えても、あと1回ぐらいは登場させた方がいい。

フロリオは「セカンド・チャンスを与えられた意味を考えろ。神の贈り物を無駄にするな」と説くが、変なことは言っていない。
そして、最終的に「チャーリーが生かされた理由を見つけ出すことで、過去の呪縛と決別する」というゴールに至る流れも間違っていない。
ただ、その「生かされた理由」ってのがテスへの恋愛感情と繋がっているので、「そこなのかよ」と言いたくなる。
そういうゴールにするなら、もっと序盤からチャーリーとテスの関係を強く結んでおくべきじゃないのかと。

ところが前半のチャーリーはテスと強い結び付きが無いどころか、5年ぶりに再会しても全く覚えていないのだ。つまり高校時代の彼は、テスのことなんて全く眼中に無かったってことになる。
単純に恋愛劇だけを考えれば、それでも一向に構わない。
しかし話の中身を考えると、そこは単純な恋愛対象では困るのだ。
なんせ最終的にチャーリーは「サムよりもテス」という重大な決断をするのだから、彼にとってテスはソウルメイトのような存在じゃないと困るのだ。

高校時代からチャーリーがテスと付き合っていたとか、恋人じゃないにしても互いに意識していたとか、あるいは幼馴染だったとか、まあ何でもいいけど、それなりの関係性があれば、5年後に「久々の再会」から惹かれ合うようになるのは受け入れやすい。
しかしチャーリーは5年後になって初めてテスを意識し、「まだ間に合う」ってことで夕食に誘うのだ。
つまり、ヨットも大学も辞めて人付き合いも避け、自分の殻に閉じ篭もって来たチャーリーが、まるで記憶に無かった相手に惹かれ、サムより彼女を選ぶようになるという筋書きになっているわけだ。
でも、それは受け入れ難いわ。

大体さ、それだと「5年も引きずっていたサムへの思いは、その程度だったのか」と言いたくなるのよ。そんなに簡単に断ち切れるのなら、5年も要らなかったんじゃないかと言いたくなる。
そこの問題を解消するには、やはりチャーリーとテスの関係を、もっと強固にすべきであって。そのためには、やはりサムが死ぬ前からチャーリーとテスの繋がりを太くしておくべきであって。
そして、サムの死で受けたチャーリーの心の傷や悲しみを、テスが理解しているという形にした方がいいと思うのよ。
ただ、そうなると5年もチャーリーを放っておいて久々に再会するってのは変だし、やっぱり5年という間隔はネックだなあ。

ティンクが「低気圧が近付いているから危険だ」とテスト航海の中止を促すのは、どう考えてもネタ振りだ。しかしテスがテスト航海に出るシーンの後、彼女は普通に戻って来ている。
ただし、チャーリーが墓地にいると墓の前で寝ていた彼女が体を起こすという登場だし、なぜか頭に怪我を負っているし、どうも奇妙なことになっている。
で、終盤に入り、「実は嵐で行方不明になっていた」ということが判明する。
つまり、チャーリーが嵐の翌朝から別れを告げるまでに会っていたテスは、幽霊(後で死んでいないことが分かるので生き霊だね)ってことなのだ。

「嵐の翌日からのテスは幽霊でした」という展開に意外性や驚きがあるのかと問われたら、答えは「イエス」だ。
しかし、その展開を歓迎できるのかと問われたら、答えは「ノー」だ。
そんなサプライズ、まるで要らないわ。そこまでも色々と文句はあるけど、せめて普通に恋愛劇を構築してくれと言いたくなる。
だってさ、言ってみりゃチャーリーは妄想の中でテスと深い仲になっただけであって、本物の彼女とは浅い関係のままってことになるのよ。
サムと決別して選択する相手が、そんな薄い関係性でしかないってのはダメでしょ。

(観賞日:2015年9月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会