『カオス・ウォーキング』:2021、アメリカ

西暦2257年、新世界。思考はノイズと呼ばれ、周囲の人間に伝わるようになっていた。トッド・ヒューイットは愛犬のマンチーと森を訪れ、他人を気にしない時間を満喫した。そこへアーロン牧師が来たので、トッドは他のことを考えてノイズを制御しようとする。アーロンは「ノイズを隠すな。心を開け」と説教し、トッドを軟弱者だと罵った。プレンティスタウンに戻ったトッドは、首長の息子のデイヴィーから馬鹿にされた。デイヴィーが挑発するので、トッドはノイズで蛇を出現させて脅かした。
そこに首長のデヴィッド・プレンティスが現れて息子を諫め、トッドに「蛇は見事だったな」と告げる。トッドは「すぐにスパクル監視隊の一員だ」と言われ、認められていると感じて嬉しくなった。トッドは町外れの農家で暮らしており、同居人はベンとキリアンという2人の養父だった。ベンとキリアンはデヴィッドを快く思っておらず、トッドのノイズを聴いて「洗脳されている」と感じた。一方、地球から来た偵察船は、新世界の大気圏に突入しようとしていた。乗員たちは「入植者は生きてると?」「そしたら喜ぶぞ。数年遅れの第2波だ」などと会話を交わし、突入準備に入ろうとする。しかし異変が発生し、乗員のヴァイオラは男たちの思考が聞こえるようになったので困惑した。このままでは死ぬと察した彼女は、非常用シェルターで脱出した。
トッドは発電機を見るため納屋へ行き、泥棒を目撃した。逃げる泥棒を追って森に入った彼は、不時着した宇宙船を発見した。トッドは町に戻ってデヴィッドに知らせようとするが、ノイズのせいで町民にも宇宙船の存在を知られた。デヴィッドはデイヴィーたちを連れて森へ行き、トッドは「生存者が泥棒に入った」と説明した。「どんな男だった?」と訊かれた彼は、「顔は見えなかった。でも、なぜかノイズが無かった」と答えた。するとデヴィッドは、デイヴィーに「女を捜せ」と命じた。
トッドは女を見たことが無く、デヴィッドの言葉に驚いた。デヴィッドはヴァイオラを見つけ、家へ連れ帰った。彼はヴァイオラと2人になり、「この星に来てから、思考がノイズとして漏れるようになった。だが上手く制御できる者もいる」と言って制御した。ヴァイオラが「私の思考も?」と尋ねると、デヴィッドは「聞こえない。女には作用しなかった」と答えた。「女の人は?」というヴァイオラの質問に、彼は「先住生物のスパクルに襲われ、女は皆殺しにされた」と説明した。
デヴィッドが星に来た目的を訊くと、ヴァイオラは「第1波との交信が途絶え、偵察に来た」と話す。「本船が来るんだな。大きさは?」と問われた彼女は、「最大規模よ。4千人が乗ってる」と述べた。住民が騒がしいので、デヴィッドはデイヴィーにヴァイオラの見張りを任せて家の外へ出た。デイヴィーは「口を利くな」という父の命令を無視した上、ヴァイオラの荷物を勝手に調べた。彼が不用意に装置を触ったため、エネルギー弾が発射されて家の壁に大きな穴が開いた。その隙に、ヴァイオラは姿を消した。
ヴァイオラは軒下に隠れ、デヴィッドがアーロンに「本船を奪えば、この星を支配できる。人工冬眠から目覚める前に奇襲する」と話す声を耳にした。トッドはヴァイオラの鞄を密かに盗み出し、家に戻った。納屋に隠れているヴァイオラに気付いた彼は、そのまま隠れているよう促した。デヴィッドの指示を受けた住民のドウズがヴァイオラの捜索に来ると、トッドはノイズを制御して「誰も来てない」と嘘をついた。ベンとキリアンは嘘に気付くが、その場はトッドに話を合わせた。
ベンとキリアンは納屋でヴァイオラに会い、敵意は無いことを説明した。家に戻った2人は、今後の対応について相談する。トッドが彼女を助けたい考えを示すと、ベンはキリアンに「これはチャンスだ」と告げる。キリアンはトッドに「彼女を助けたかったらファーブランチへ行け」と言い、ベンは地図を開いて場所を教えた。彼はトッドに今すぐ出発するよう指示し、「プレンティスタウンの名前は伏せろ。それは禁句だ」と忠告した。
デヴィッドやデイヴィーたちが家を訪れ、ヴァイオラの居場所について質問した。トッドのノイズが漏れたせいで、納屋にいることが露呈した。ヴァイオラはバイクを使って脱出し、ベンとキリアンはトッドを馬に乗せて後を追わせる。彼らは発砲してデヴィッドの手下たちを妨害するが、キリアンがデイヴィーに撃たれて死んだ。トッドは森へ逃げるヴァイオラを追い掛け、馬は倒れて息を引き取った。彼は警戒するヴァイオラに、「安全な場所まで連れて行く。ファーブランチだ」と呼び掛けた。
デヴィッドはベンのノイズで、ヴァイオラがファーブランチへ向かったことを知る。彼は部隊を編成し、追跡を開始した。ヴァイオラはトッドに、「宇宙船で生まれ、ここまで64年も掛かった。祖父母の頃、地球の環境が悪化して旅を決めた」と語った。トッドは向こうの森から立ち昇るノイズに気付き、「スパクルだ。西に迂回しよう」と告げた。彼はスパクルについて「人間を滅ぼすエイリアンだ」と説明し、自分の母も殺されたと述べた。ヴァイオラは彼に、両親が病死したことを打ち明けた。
トッドはスパクルの村を発見し、迂回しようとする。スパクルを目撃した彼はヴァイオラと共に身を隠し、ノイズを制御しようとする。しかしスパクルに見つかり、引きずり出された。トッドはナイフを使って戦い、スパクルを殺そうとする。しかしヴァイオラが「やめて」と叫ぶと、彼はスパクルを見逃した。トッドはファーブランチに到着し、女性も住んでいると知って驚いた。入植地の首長は、ヒルディーという女性だった。
どこから来たか問われたトッドは、ベンの忠告通りに隠そうとする。しかしヴァイオラが「プレンティスタウンよ」と言ったため、トッドは住人のマシューたちから激しい敵意を向けられた。プレンティスタウン出身のマシューは、トッドに出て行くよう要求した。ヒルディーは彼らを諫め、ヴァイオラとトッドを自宅に呼び込んだ。ヴァイオラが事情を説明して「移民船と交信しないと取り残される」と話すと、ヒルディーは「最初の入植地のヘイヴンに行けば交信できる」と述べた。
デヴィッドは側近のチャーリーたちを偵察に向かわせ、ヴァイオラとトッドがファーブランチにいることを確認した。アーロンが先走って馬で向かうと、デヴィッドはチャーリーたちに追い掛けさせた。トッドはヴァイオラに、ベンが鞄に入れた亡き母の日記を見せた。彼は字が読めないことを打ち明け、アーロンが入植地にあった本を全て焼いたことを語った。アーロンは住人に、ノイズがあれば文字は不要だと説明していた。
ヴァイオラはトッドに代読を申し入れ、トッドの母のカリッサが記した日記を開いた。カリッサたちはデヴィッドの説得で、周囲のノイズが届かない場所に入植地を作った。男は女にノイズを聞かれることに、苛立ちを覚えるようになった。男たちはデヴィッドとアーロンに操られ、女性を外出を制限した。アーロンは「ノイズが無いのは魂が無い証拠」と言い出し、カリッサは死を覚悟したことを記していた。日記の内容を知ったトッドは、男たちが母を含む女を皆殺しにしたのだと悟った。
デヴィッドたちはファーブランチに乗り込み、ヴァイオラの引き渡しを要求した。デヴィッドは「彼女は何もかも奪うつもりだ。その前に宇宙船を奪おう。我々と戦ってほしい」と呼び掛けるが、ファーブランチの住民は信じなかった。マシューは「お前は嘘つきだ」と怒って発砲しようとするが、銃弾を受けて死亡した。住民は勝ち目が無いと感じ、ヒルディーの説得に応じず武器を捨てた。ヴァイオラとトッドは逃亡を図るが、アーロンに見つかって倉庫に追い込まれた。
デヴィッドはベンに「娘を連れ出せば、トッドには何もしない」と言い、仕事を命じた。ベンが倉庫に行くと、トッドは日記を読んだことを伝えた。ベンは「お前を救うだけで精一杯だった」と弁明し、今こそ守ると口にする。倉庫を出た彼は、ヴァイオラの幻影で時間を稼ぐ。その間にヴァイオラとトッドは裏口からファーブランチを脱出するが、すぐにアーロンが追って来た。ヴァイオラとトッドはボートを使い、川を逃げる。ヴァイオラとトッドが何とか逃げ切ると、アーロンは2人の見ている前でマンチーを惨殺した…。

監督はダグ・リーマン、原作はパトリック・ネス、脚本はパトリック・ネス&クリストファー・フォード、製作はダグ・デヴィッドソン&アリソン・シェアマー&アーウィン・ストフ&ジャック・ラプケ、製作総指揮はレイ・アンジェリク&エリック・フェイグ&アイアン・チェン&パリス・カシドコスタス=ラトシス&ジェイソン・クロース、共同製作協力はワン・ヤンチョン&シェン・シェン&スー・フオ、撮影はベン・セレシン、美術はダン・ウェイル、編集はドク・クロッツァー、衣装はケイト・ハウリー、視覚効果監修はマット・ジョンソン、音楽はマルコ・ベルトラミ&ブランドン・ロバーツ、音楽監修はジュリアン・ジョーダン。
出演はデイジー・リドリー、トム・ホランド、マッツ・ミケルセン、デヴィッド・オイェロウォ、デミアン・ビチル、シンシア・エリヴォ、ニック・ジョナス、レイ・マッキノン、カート・サッター、ベサニー・アン・リンド、ヴァンサン・ルクレール、ブレイン・クラッカレル、フランソワ・ゴティエ、タイロン・ベンスキン、フランク・フォンテイン、ドン・ジョーダン、パトリック・ガーロウ、ミレーヌ・ディン=ロビック、ジュリアン・リッチングス、マイケル・ダイソン、グレン・マイケル・グラント、マックスウェル・マッケイブ・ロコス、スティーヴン・マッキンタイア、ピート・シーボーン、ジャン・ミシェル・パレ他。


パトリック・ネスの小説『心のナイフ』を基にした作品。
原作は「混沌(カオス)の叫び」シリーズの1作目であり、映画もシリーズ化を想定して作られている。
監督は『ザ・ウォール』『バリー・シール/アメリカをはめた男』のダグ・リーマン。
脚本は原作者のパトリック・ネスと、『COP CAR コップ・カー』『スパイダーマン ホームカミング』のクリストファー・フォードによる共同。
ヴァイオラをデイジー・リドリー、トッドをトム・ホランド、デヴィッドをマッツ・ミケルセン、アーロンをデヴィッド・オイェロウォ、ベンをデミアン・ビチル、ヒルディーをシンシア・エリヴォ、デイヴィーをニック・ジョナス、マシューをレイ・マッキノン、キリアンをカート・サッターが演じている。

時代は未来で、舞台は地球から遠く離れた惑星だが、センス・オブ・ワンダーを感じさせるような作品ではない。文明は発展しておらず、ガジェットや装置などのワクワク感は無い。
未来チックな設定としては、「ノイズ」という武器だけで引っ張ろうとしている。だが、それを使ったストーリーにも映像演出にも、面白さは感じない。
デヴィッドは早い段階で本性を現すので、「スパクルが女を皆殺しにした」という話も嘘なんだろうってのが何となく分かる。それが嘘だと分かれば、「女を殺したのはデヴィッドなんだろうな」ってのも何となく見える。
だから「実は」という仕掛けは、完全に不発。

基本的にはノイズとして思考が漏れるんだから、わざわざ口を開いて喋る必要は無いはずだ。言いたいことがあれば、心の中で思うだけで相手に伝わるんだからね。
なので、わざわざ声に出して喋るのは、どういうことなのかなと思ってしまう。
心で思う時と、声に出す時と、その使い分けの基準が良く分からない。長年に渡って「ノイズ有り」の世界で暮らしているんだから、ノイズだけでコミュニケーションを取る日常生活になっていても不思議じゃなさそうだけどね。
あと、ノイズで蛇や人間などの幻影を出現させる能力に関しては、どういう理屈なのかサッパリ分からない。

ヴァイオラは移民として新世界に来たのに、トッドの家へ泥棒に入るのは不可解だ。それだと、最初から新世界の人間を怪しんで警戒していることになるんじゃないか。
だけど、まだ彼女は新世界について何の情報も持っておらず、「入植者は第2波を歓迎する」と思い込んでいるはず。
幾ら「急にノイズが聞こえるようになって困惑した」という事情があるにしても、それは何の理由にもならないし。
「ノイズが聞こえるようになったから泥棒に入る」ってのは、どういう理屈かサッパリ分からないし。

デヴィッドの説明が嘘なのは明白なので、スパクルの存在からして作り話なのかと思ったら、普通に「言葉の通じないクリーチャー」として登場する。
そんなスパクルは全く敵意の無い生物ではなく、トッドを見つけると引きずり出す。
なので、設定として中途半端に感じる。女を殺したのは嘘でも、危険な存在なのは確かなんじゃないかと思ってしまう。
あと、スパクルが登場するのって、そのシーンだけなんだよね。だったら、そんなキャラなんか要らないでしょ。

話に目新しさは無く、どこかで見たような要素の組み合わせにしか感じない。
それを丁寧で上質に仕上げているわけではなく、どうやら原作にあったテーマも完全に消えているらしい。
思考が漏れているのならトラブルは絶えないだろうし、大きな争いが起きたり、場合によっては殺し合いに発展する危険性も感じる。
しかし、今までプレンティスタウンで、そこまでの事態が起きたような様子は無い。大半の住民はノイズを制御できていないのに、それにしては平穏に暮らしている。

女がいないってことは、プレンティスタウンでは子孫を残すことが出来ないわけだ。しかし、それについて住民が考えているようには全く見えない。
でも、そのまま放置したら滅びることは確定しているんだから、可及的速やかに対応策を考える必要があるはずで。
それなのに、真剣に議論することも無いんだよね。
っていうか子孫が残せないことは確定事項なのに、それでも「ノイズを聞かれるのが苛立つ」ってことで女を皆殺しにするのが阿呆にしか思えんし。

(観賞日:2023年6月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会