『カストラート』:1994、フランス&イタリア&ベルギー

1740年、スペイン王フェリペ5世の宮殿。王のお抱え歌手であるカルロ・ファリネッリの元に、兄のリカルド・ブリスキがやって来た。3年ぶりの再会だ。カルロはカストラート。カストラートとは、ボーイソプラノを保持するために去勢された男性歌手のことだ。
18年前、カルロとリカルドはナポリにいた。カルロの声に注目したマエストロと呼ばれる天才作曲家ヘンデルが、自分の劇場で歌わないかと誘ってきた。だが作曲家であるリカルドは、弟は自分の曲しか歌わないと告げて誘いを断る。
数年後、コンビを組んでオペラを作り、大きな名声を得るようになったカルロとリカルド。だがカルロは悪夢に苦しんでいる。馬に乗って走り続ける夢だ。カルロは10才の時に落馬し、それが原因で去勢されてカストラートになったのだ。
やがて2人はロンドンに行き、そこでも大成功を収める。しかしカルロは兄リカルドの作る装飾音に頼った技巧だけの曲に嫌気が差していた。リカルドの作曲家としての才能の限界に、カルロだけでなく、リカルド自身も気付いていた。
やがてカルロの心はリカルドから離れていく。カルロを愛するアレクサンドラは、彼のためにヘンデルの楽譜を盗み出す。リカルドと会ったヘンデルは、リカルドが秘薬を使ってカルロを去勢したという真実を知る。ヘンデルの曲を歌って大喝采を浴びたカルロに、ヘンデルは真実を明かすのだが…。

監督はジェラール・コルビオ、脚本はジェラール・コルビオ&アンドレ・コルビオ、製作はヴェラ・ベルモン、撮影はウォルター・ヴァン・デン・エンデ、美術はジャンニ・クワランタ、音楽はクリストフ・ルセ。
主演はステファーノ・ディオニジ、共演はエンリコ・ロ・ヴェルソ、エルザ・ジルベルシュタイン、ジェローン・クラッベ、カロリーヌ・セリエ、ジャック・ボーデ、グラハム・ヴァレンティーネ、ピエール・パオロ・カポーニ、オメロ・アントヌッティー、マリアンヌ・バスレール他。


聴衆の喝采を浴び、名声や名誉を得る中で、去勢された人間という自分に葛藤するカルロ。最初は弟を加護する存在だったが、凡庸であるがゆえに天才たる弟にすがるようになっていくリカルド。
そんな彼らの苦悩の物語。

彼らよりも見ているこちらが苦悩するような、奇妙な思考回路の持ち主ばかりが登場する。リカルドはアレクサンドラを妊娠させて、「お前に普通の人生を返す」「これも音楽と同じ“共同作業だろ”」だってさ。
しかもカルロ、兄と恋人をセックスさせて、それで子供が出来て喜んでるし。
思わず笑うね。

カルロがオペラを歌うシーンがかなり多く登場する。カストラートの声を再現するため、カウンター・テナーの男性歌手デレク・リー・レイギンと女性ソプラノ歌手エヴァ・ゴドレフスカの歌声をサンプリング合成している。
たぶんこの作品においては、物語の面白さよりもカストラートの歌声の方が重要なのだろう。

で、その歌声は、聞く者全てを感動させるほどに美しく響くはずなのである。
しかし、機械で合成された声が心まで響いてくることは無かった。

 

*ポンコツ映画愛護協会