『キャスト・アウェイ』:2000、アメリカ
宅配便会社のフェデックスで配達員をしているレイモンは、ベッティーナ・ピーターソンという彫刻家の工房を訪れた。レイモンは荷物を受け取り、トラックに積み込む。その荷物はロシアのモスクワへ運ばれ、ベッティナの夫であるディックに届けられた。別の荷物を受け取った少年のニコライは、すぐにフェデックスのモスクワ営業所へ向かった。彼が営業所に到着すると、システム・エンジニアのチャックが時間内に仕分け作業を終える重要性を従業員の前で語っていた。
チャックはニコライから荷物を渡されると、お礼としてチョコバーとCDプレイヤーをプレゼントした。彼は「これはメンフィスを発つ時、自分宛てに送った荷物だ」と従業員たちに告げ、中身がタイマーであることを教えた。タイマーは87時間が経過したことを示しており、彼は「メンフィスからロシアまで87時間だぞ。恥ずかしいと思わないか」と告げた。雪のせいでトラックが立ち往生していることを部下のユーリから聞かされたチャックは、赤の広場へ急行した。彼は部下たちに指示し、別のトラックへ荷物を移させた。
チャックは恋人のケリーに連絡し、留守電に「早く会いたい。パリで便を乗り換えて、18時間後にはメンフィスへ戻れる」と吹き込んだ。貨物機に搭乗したチャックは、同僚のスタンと会った。スタンの妻が癌を患っていると知った彼は、いい医者がアトランタにいることを教えた。メンフィスへ戻ったチャックはケリーの勤務する大学を訪れ、彼女にキスをした。クリスマスの食事会に出席したチャックは、仲間たちから結婚について問われた。離婚歴のあるケリーとの交際は順調だが、まだ結婚はしていなかった。
チャックはケリーが学位論文の面接試験を年明けに控えていると知り、彼女と過ごす時間を増やすためにスケジュールを調整した。南米へ出張する直前、チャックはケリーと空港でクリスマスプレゼントを交換した。ケリーは亡き祖父が使っていた懐中時計、チャックは日記帳やポケベルをプレゼントした。貨物機へ向かおうとしたチャックは「もう1つプレゼントがある」と小さい箱を渡し、後で中身を確かめるよう告げて貨物機に乗り込んだ。
チャックは貨物機で南米へ向かうが、嵐のせいで予定の針路から大きく外れてしまう。機体が激しく揺れてエンジンが発火し、チャックと操縦士たちは救命胴衣を着用する。操縦士は機体を立て直すことが出来ず、海に不時着する。チャックが脱出した直後、貨物機は炎上する。チャックは救命ボートで嵐の海を漂流し、いつの間にか意識を失った。彼が目を覚ますと、小さな島へ流れ着いていた。宅配の荷物が漂着しているのを見つけた彼は、全て拾い集めた。
チャックは他に誰かいないかとジャングルに向かって呼び掛けてみるが、応答は無かった。彼は砂浜に大きく「HELP」と書くが、助けは来ないまま夜が訪れた。翌朝、チャックは波で文字が消えることに気付き、木を使って「HELP」の形を作った。宅配の荷物が漂着したので、またチャックは全て拾った。ココナッツの実が幾つか落下したので、彼は石で割って水分を摂取した。洞窟を見つけた彼は呼び掛けてみるが、返事は無かった。
チャックは山に登って周囲を見回し、海に浮かぶ死体を発見した。彼が現場へ走ると、それは操縦士のアルだった。チャックは遺体を陸に引き上げ、靴と懐中電灯を回収した。彼は遺体を土に埋め、墓を作った。夜中に船を目撃したチャックは大声で助けを求めるが、気付いてもらえなかった。翌朝、彼は救命ボートで漕ぎ出すが、大波に飲まれて転覆した。チャックは脱出を諦め、島に戻った。彼が洞窟で夜を過ごしていると、懐中電灯の電池が切れた。
チャックはココナッツの実で喉を潤すが、手持ちが無くなった。彼は荷物を開け、中身を確認した。ビデオテープや離婚同意書、祖父から孫への誕生日カード、ウィルソン製のバレーボール、スケート靴、女性物の服など様々な物が入っていた。天使の羽が描かれている箱だけは、開けずに取っておいた。チャックは荷物の中身を利用して、釣りの道具を作った。彼は魚やカニを獲って食べようとするが、生のままでは無理だった。
チャックは火を起こそうとするが、なかなか成功しなかった。両手から出血してしまい、彼は絶叫した。チャックはバレーボールに血で顔を描き、人間に見立てて話し掛けた。ようやく彼は火を起こすことに成功し、大喜びした。チャックはカニを焼いて食べ、バレーボールに向かって「ココナッツはウンザリだ」と告げた。彼はバレーボールに、ウィルソンという名前を付けた。奥歯の痛みが辛くなったチャックは、スケート靴と石を使って抜くことにした。彼は覚悟を決めてスケート靴に石を叩き付けるが、あまりの痛さで失神した。
それから4年、チャックはウィルソンを話し相手に、無人島での生活を続けていた。ある日、ベイカーズフィールドで使われていた簡易トイレの板が流れ着いた。それを拾ったチャックは、脱出に使えると考える。彼は筏を作るために丸太を集め、枝を剥がしてロープを作る。1ヶ月半後の4月に波と風が強まれば、脱出のチャンスがあると彼は感じていた。それまでに彼は丈夫なロープを編み、筏を組み立て、食糧を蓄えようと決意した。
チャックは1年前に使ったロープを回収し、それも使うことにした。それは彼が絶望して首吊り自殺しようと思い立った時、テスト用の人形を崖から吊るすために使った物だった。テストの結果、崖に体が激突して苦しむことが判明し、彼は自殺を断念していた。チャックは作業の最中、ウィルソンに苛立ちをぶつけて洞窟から投げ捨てた。我に返った彼は慌てて洞窟を飛び出し、ウィルソンを見つけて詫びた。いよいよ筏は完成し、チャックは取っておいた荷物とウィルソンを積んで海へと漕ぎ出した…。監督はロバート・ゼメキス、脚本はウィリアム・ブロイルズJr.、製作はスティーヴ・スターキー&トム・ハンクス&ロバート・ゼメキス&ジャック・ラプケ、製作協力はスティーヴン・ボイド&シェリルアン・マーティン、製作総指揮はジョーン・ブラッドショウ、撮影はドン・バージェス、美術はリック・カーター、編集はアーサー・シュミット、衣装はジョアンナ・ジョンストン、視覚効果監修はケン・ラルストン、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はトム・ハンクス、ヘレン・ハント、ニック・サーシー、ジェニファー・ルイス、ジェフリー・ブレイク、ピーター・フォン・ベルク、クリス・ノース、ラリ・ホワイト、ヴィン・マーティン、ギャレット・デイヴィス、ジェイ・アコヴォーン、クリストファー・クリーサ、マイケル・フォレスト、ヴィヴェカ・デイヴィス、ナン・マーティン、ポール・サンチェス、セミオン・スダリコフ、ドミトリ・S・ボードリン、デヴィッド・アレン・ブルックス、フレッド・スミス、ミシェル・ロビンソン、トミー・クレスウェル他。
『コンタクト』『ホワット・ライズ・ビニース』のロバート・ゼメキス監督が、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のトム・ハンクスと再びコンビを組んだ作品。
脚本は『アポロ13』『エントラップメント』のウィリアム・ブロイルズJr.。
チャックをトム・ハンクス、ケリーをヘレン・ハント、スタンをニック・サーシー、ユーリをピーター・フォン・ベルク、ベッティーナをラリ・ホワイトが演じている。
トム・ハンクスはゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の男優賞やNY批評家協会賞の男優賞を獲得した。チャックが無人島へ流れ着くまでの時間は、完全にフェデックスのプロパガンダ映画である。
まず冒頭、ベッティーナの家にフェデックスのトラックが到着する。当然のことながら、トラックの荷台にあるフェデックスのロゴマークが大きく写し出される。
フェデックスの箱に入った荷物はトラックに積み込まれ、ロシアにいるディックの元へ運ばれる。
それとは別に、チャックが自分宛てに送った荷物がニコライの元へ届き、それを営業所へ持って行く様子が描かれる。
もちろん、ここでも箱に印刷されたフェデックスのマークが写る。モスクワ営業所では、チャックが「いかに仕分け作業を迅速に完了させるべきか」を熱く説いている。つまり、「フェデックスの社員は、こんなに真剣に仕事をしていますよ」というアピールになっている。
メンフィスに戻ったチャックがパーティーに出席するシーンでは、「いかに多くの荷物を配送したか」という自慢合戦がある。これまた、フェデックスの素晴らしさをアピールするシーンである。
チャックがケリーと空港で話すシーンでは、車の背後に貨物機やコンテナがバッチリと写り込む。だから、そこに印刷されたフェデックスのマークが観客に刷り込まれるようになっている。
チャックが南米行きの貨物機に乗り込むまで、ほとんどの時間はフェデックスのマークが画面に写り込んでいる。チャックが無人島へ流れ着き、ようやくプロパガンダは終了するのかと思いきや、まだ終わらない。
なぜなら、そこにフェデックスの荷物が漂着するからだ。
しかも初日だけでなく、翌日も流れ着く。それをチャックは、全て丁寧に拾い集める。
普通であれば、何か役に立つ物は無いか確認するために箱を開けるだろう。サバイバル生活に突入したんだから、それは当たり前の行動だ。
しかし、チャックは普通の人間ではない。彼はフェデックスの社員なのだ。フェデックスの社員であるチャックが荷物を集めてから取った行動は、「手を付けない」である。
では何のために彼が荷物を集めたのかというと、それは「救助された時、それを届けるため」である。だから彼は、全ての荷物を回収し、それまで保管しているのだ。
「バカじゃねえのか、そんな悠長なことをやっている場合じゃねえだろ」と思うかもしれない。「フェデックスの社員として、それを大切に預かっておくのは立派な行動だ」と思ってくれる観客は、どれぐらいいるんだろうか。苦笑するぐらい不自然な行動である。
しかし、そこで無理をしてでも、フェデックスのイメージ戦略の方を優先しているのである。チャックはアルの死体を探り、靴と懐中電灯を自分の物にしている。死体の持ち物は平気で奪うのに、荷物には手を付けないのだから、その徹底ぶりは天晴れだ。
ところが、そこまでフェデックス社員としての矜持を頑固に守り続けていたチャックは、とうとう荷物を開けてしまう。
さすがに限界が来たってことだろうから、そこは理解すべきなんだろう。ただ、そこまで手を付けずに保管していたのだから、いっそのこと最後まで保管するだけにして、脱出する時も「全ての荷物を筏に積んで海へ出る」という展開にでもした方が良かったんじゃないかと思うぐらいだ。
まあ、すんげえバカバカしくて笑っちゃうだろうけど。ともかくチャックは荷物を次々に開けていくのだが、なぜか天使の羽が描かれた箱だけは手を付けない。
その絵はベッティーナが描いた物だが、なぜ彼女の荷物だけは開けずに取っておくのか、それだけでなく筏で脱出する時には持って行くのか、その理由が全く分からない。
どうやら製作サイドとしては、「天使の羽が描かれているから」ってことで納得してもらいたいようだ。
いや無理だわ。何の説得力も感じないわ。
「天使の羽が描いてあるから、チャックにとって守り神みたいな物。だから開けなかった」と解釈しなきゃいけないのか。それは観客に要求する負担がデカすぎるだろ。チャックが箱を開けると、その1つにはバレーボールが入っている。それを確認する際、デカデカとウィルソンのロゴマークが画面に写し出される。
そしてチャックはバレーボールを飾り、ウィルソンと名付ける。
ここで2つめの会社のプロパガンダが発生している。
ただし、ウィルソンは無人島に飾られているものの、ずっとロゴマークが見えているわけではない。また、チャックが名前を呼ぶシーンも、そんなに多いわけではない。また、キャラクターとして、それなりに存在意義や必要性が感じられるようになっている。そもそもチャックが話し相手にする道具がバレーボールじゃなきゃダメなのか、その名前が「ウィルソン」であることが必要不可欠かと問われたら、答えはノーだ。だが、そこまでプロバガンダの道具としての自己主張が強いとは感じない。
しかしフェデックスの方は、押しの強さがハンパない。映画を観賞する上で、かなり厄介な障害物になっている。
そんなフェデックスの強引な自己主張は、ウィルソンがチャックの話し相手になってからは、しばらく消えている。
しかしチャックが筏を作って海に出る時、天使の羽が描かれた荷物も積み込むことにより、またフェデックスのプロパガンダが復活している。チャックは無人島に到着して以降、何度か怪我を負っているし、なかなか火が付かなくて時間が掛かる様子も描かれている。
だけど、彼が精神的に極限まで追い込まれているとか、そういう印象は受けないんだよね。悲壮感とか、焦燥感とか、そういうのはイマイチ伝わらない。それなりに飢えや喉の渇きは感じているんだろうけど、早い段階でココナッツの実を見つけて水分は確保しているし、腹が減って今にも死にそうというほどの描写は無い。
また、チャックはサバイバルの素人なのに、それなりに無人島生活に適応している。
無人島に到着して早々に、もう「死の危険」は見えない状態で落ち着いている。映画開始から1時間25分ほど経過した辺りで唐突に「4年後」へ飛ぶのだが、前述した状況があるため、「年月が経過し、チャックは島での生活に慣れた」という変化の度合いが弱くなっている。
それを全く感じないわけではないが、そっちよりも「大きく変貌したチャックの見た目がギャグみたい」という印象の方が遥かに強い。
また、「2年後に簡易トイレの板が漂着するまで、脱出に挑戦しなかったのか」ってのも引っ掛かる。
トイレの板が無くても、筏を作るアイデアは他に浮かびそうなモノでしょ。4年間も脱出に挑戦しなかったのが引っ掛かるだけことも含め、「4年間も経過させる必要性があったのか」という部分に疑問が湧く。例えば、1年ではダメだったのかと。
ただ、その答えは「1年ではダメなんです」ってことになってしまう。
というのも、完全ネタバレになるが、「チャックがアメリカへ戻ると、彼の生存を諦めたケリーが他の男と結婚していた」という展開が用意されているからだ。
ケリーがチャックを諦めて他の男と結婚するためには、4年ぐらい年月を経過させておく必要があるってことなのだ。しかし、そういう事情があることを考慮しても、なお「4年の時間経過は要らないんじゃないか」と言いたくなる。
その理由は、「ケリーが他の男と結婚している」という展開を変えればいいんじゃないかと思うからだ。
そこを「ケリーがチャックは生きていると信じて待ち続けていた」ってことにしたらベタベタで予定調和のハッピーエンドなので、それを避けようとするのも分からなくはない。
ただ、ケリーを他の男と結婚させてしまうと、「愛する女性と再会するために必死で生き続け、必死で帰国したけど、いいことなんて何も無い」という虚しさと寂しさだけが残っちゃうのよね。
この映画で、ベタなハッピーエンドを拒絶して、何の得があるんだろうかと。しかも、もっと厄介なのは、ケリーを他の男性と結婚させたことによって「チャックが無人島から必死の思いで帰国する目的」の片方が消滅してしまい、もう1つの方だけが残ってしまうってことだ。
その「もう1つの目的」ってのは、「天使の羽の描かれた荷物を無事に届ける」ってことだ。
「ケリーの元へ帰る」という目的が失われたため、チャックにとって残されているのは「ベッティーナの荷物を無事に届けること」だけになってしまうのだ。
それによって、この映画は「フェデックスのプロパガンダ」で締め括られる形になる。
だから前述した「何の得があるんだろうか」という疑問の答えは、「フェデックスが得をする」ってことになる。(観賞日:2017年2月13日)
第23回スティンカーズ最悪映画賞(2000年)
受賞:【最も苛立たしいプロダクト・プレイスメント】部門[フェデックスとウィルソン]