『カーズ/クロスロード』:2017、アメリカ
ピストン・カップにエントリーしたライトニング・マックィーンは、師匠であるドック・ハドソンの言葉を思い出して集中力を高めた。メーターたちが応援する中、彼はレースに出場して友人のキャル・ウェザーズやボビー・スウィフトたちと順位を争う。マックィーンは各地のサーキットを転戦しながら勝利を積み重ね、スポンサーである「ラスティーズ」のダスティー&ラスティーを喜ばせた。キャルのスポンサーであるダイナコのテックスも自分の方に来ないかと冗談で誘うほど、彼は強かった。
だが、あるレースでトップ争いを繰り広げていたマックィーンとボビーは、ゴール直前で新人のジャクソン・ストームに大逆転された。チック・ヒックスが司会を務める番組でも、ストームの勝利は大きく取り上げられた。番組に出演したアナリストのナタリー・サートゥンは、ストームは次世代のハイテクレーサーだとコメントした。次のレースではストームと同じく次世代のレーサーが6台もエントリーし、旧世代のレーサーたちがクビになった。ストームはマックイーンに挑発的な言葉を浴びせ、9連勝を飾った。
記者たちの取材を受けたマックィーンは「ただのスランプだよ」と告げるが、キャルの引退を聞かされて驚いた。毎週のようにベテランが引退し、代わりに若手が登場する流れが続いた。マックイーンが知らない間に、キャルだけでなくボビーもレースの世界から姿を消していた。シーズン最終戦、ストームの挑発に憤慨したマックイーンは、彼に次ぐ2位で残り40周のピットインに入った。グイドにピット作業を急がせた彼はトップでコースに戻るが、すぐにストームが来て追い抜いた。必死で後を追うマックイーンだが、タイヤがバーストして大事故を起こしてしまった。
4ヶ月後、マックィーンはラジエーター・スプリングスに戻り、ドックが事故を起こした時のレース映像を見る。サリーが訪ねて来ると、彼は「ドックは引退させられた。自分で決められなかった。同じ目に遭うのは嫌なんだ」と吐露する。「このままレースに出て同じ走りをしても勝てない」と彼が語ると、サリーは「じゃあ新しいことに挑戦すればいい。失敗を恐れちゃダメよ。貴方にはチャンスがある」と述べた。やる気を取り戻したマックイーンは、フローのカフェへ赴いた。彼は集まっていたフィルモアやラモーンたちに、「変わらなきゃいけない時が来たと気付いた。今までで最高のシーズンにしてみせる」と復帰を宣言した。
最新のトレーニングが必要だと考えるマックイーンに、ラスティー&ダスティーはラスティーズ・レーシングセンターを新設したので訪問するよう告げた。彼はルイジ&グイドとレーシングセンターへ赴き、ラスティー&ダスティーに会った。すると彼らはラスティーズを売却したことを語り、新社長となったスターリングを紹介した。スターリングはマックイーンを歓迎し、ハイテク設備を案内した。センターにはデビューを目指す若手レーサーたちが集まり、トレーナーであるクルーズ・ラミレスを指導を受けていた。
クルーズはマックイーンの指導に取り掛かり、再生プロジェクトへの意欲を示した。しかし早くシミュレーターを使いたいマックイーンは、クルーズのトレーニングに対して露骨に不満を見せた。マックイーンが勝手にシミュレーターを使おうとすると、クルーズは「近道は無いのよ」と諭した。それでもマックイーンが耳を貸そうとせず、その様子を見ていたスターリングはシミュレーターの使用を許可した。しかしマックイーンはシミュレーターを上手く扱えず、暴走の挙句にクラッシュしてしまった。
スターリングはマックイーンを呼んで彼のキャラクター商品の数々を見せ、「これは君の遺産だ」と告げる。スターリングは「来てくれて嬉しかった。きっと返り咲くと思っていた。でもレースに戻れるレベルじゃない」と言い、引退を勧告した。「次の段階に移るべきだ」と彼は話すが、マックイーンはレースへの強い意欲を訴える。そこでスターリングは、来シーズンの初戦となるフロリダで勝てなければ引退という条件を提示した。
マックイーンがルイジ&グイドとビーチで特訓しようとすると、クルーズが来てランニングマシーンを用意する。マックイーンはマシーンを拒否し、ビーチを疾走した。スピードの計測を頼まれたクルーズは、音声アシスタントのハミルトンを使うことにした。彼女は計測するためマックイーンの隣を走ろうとするが、砂地に不慣れなので付いて行けなかった。マックイーンは砂地での走り方を教えるが、クルーズはなかなか上達しなかった。
ダートコースのあるサンダーホロウ・スピードウェイが近くにあることを知ったマックイーンは、そこへ向かうことにした。マスコミに姿を見られると困るため、彼は変装してサーキットに入る。マックイーンが偽名でエントリーすると、クルーズも参加することを決める。マックイーンは予想していたレースと違うので逃げ出そうとするが、フェンスは閉じられてしまった。マックイーンとクルーズは強制参加させられ、荒っぽいレーサーたちと戦う羽目になった。
王者のミス・フリッターに目を付けられたクルーズが襲われそうになると、マックイーンが助けに入る。マックイーンを狙ったフリッターがコースから飛び出したため、クルーズが優勝した。その直後、マックイーンの正体が露呈したため、観客が大騒ぎした。サーキットを後にしたマックイーンは、優勝を喜ぶクルーズに怒りをぶつける。彼が「トレーナーの面倒を見るのに自分の時間が取れない。君はレーサーじゃないから分からないんだ」と声を荒らげると、クルーズはレーサーになる夢を断念した過去を明かした。彼女はマックイーンに憧れてレーサーを目指したが、初レースで「世界が違う。私はレーサーじゃない」と感じて諦めたのだ。
クルーズはマックイーンに別れを告げ、トレーニングセンターに戻った。チックの番組を見たマックイーンはストームが記録を更新したことを知る。取材を受けたスターリングはマックイーンへの信頼を口にするが、ナタリーは勝てる見込みが1.2%だと辛辣にコメントした。マックイーンはテレビ電話でメーターと話し、練習を重ねてもスピードが上がらないのだと弱気に漏らす。ドックにスモーキーという師匠がいたことを思い出したマックイーンは、彼と会うことにした。
マックイーンはクルーズを呼び寄せ、トーマスビル・スピードウェイへ向かった。古びたサーキットに入ったマックイーンは、クルーズを誘って一緒に走る。そこへスモーキーが現れ、仲間のいるバーへマックイーンたちを連れて行く。店には伝説のレーサーたちが集まっており、マックイーンは楽しく会話を交わした。マックイーンはスモーキーから、彼の過去に関する真実を知らされた。ドックはレーサーを引退した後、マックイーンの成長を見守ることが自身の幸せになっていたのだ。スモーキーはマックイーンに、若くないことを認めて頭を使うよう説いた。スモーキーはクルーズをスパーリング・パートナーに指名し、マックイーンの訓練を開始した…。監督はブライアン・フィー、原案はブライアン・フィー&ベン・クイーン&エイアル・ポデル&ジョナサン・E・スチュワート、脚本はキール・マレー&ボブ・ピーターソン&マイク・リッチ、ストーリー監修はスコット・モース、製作はケヴィン・レハー、共同製作はアンドレア・ウォーレン、製作総指揮はジョン・ラセター、編集はジェイソン・ハダック、プロダクション・デザイナーはウィリアム・コーン&ジェイ・シャスター、撮影はジェレミー・ラスキー、音楽はランディー・ニューマン。
出演者はオーウェン・ウィルソン、クリステラ・アロンゾ、クリス・クーパー、ネイサン・フィリオン、ラリー・ザ・ケーブル・ガイ、アーミー・ハマー、レイ・マグリオッチ、トニー・シャルーブ、ボニー・ハント、リー・デラリア、ケリー・ワシントン、ボブ・コスタス、マーゴ・マーティンデイル、ダレル・ウォルトリップ、イザイア・ウィットロックJr.、ボブ・ピーターソン、グイド・カローニ、トム・マグリオッチ、ジョン・ラッツェンバーガー、カイル・ペティー、ルイス・ハミルトン、ロイド・シェアー、ジュニア・ジョンソン、レイ・エバーナム他。
シリーズ第3作。前2作にstoryboard artistとして参加していたブライアン・フィーが、初監督を務めている。
脚本は『カーズ』のキール・マレー、『カールじいさんの空飛ぶ家』のボブ・ピーターソン、『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』のマイク・リッチ。
マックィーン役のオーウェン・ウィルソン、メーター役のラリー・ザ・ケーブル・ガイ、ルイジ役のトニー・シャルーブ、サリー役のボニー・ハントらは、レギュラーの声優陣。
今回からの参加組は、クルーズ役のクリステラ・アロンゾ、スモーキー役のクリス・クーパー、スターリング役のネイサン・フィリオン、ストーム役のアーミー・ハマーなど。ベテランが次々に引退し、それと入れ替わりに若手が登場するってのは、レースの世界では当たり前のことだ。
もちろん、今まで一緒に戦って来た仲間が去るのは寂しいだろうし、自分も引退を勧告されるのは辛いだろう。でも、アスリートの世界では、年を取って今までのような力が発揮できなくなれば、引退するのは仕方が無い。
実力の世界なんだから、それは誰の身にも起きることだ。
そもそも、ベテランにならなくても解雇されることだって幾らでもあるわけで。むしろベテランまで続けられるのは幸せな部類と言ってもいい。前半、クラッシュしてラジエーター・スプリングスに戻ったマックイーンは、ドックの「修理を終えて戻ったが、まだ走れるのにチャンスを与えてもらえなかった」という言葉を思い出す。
今のマックイーンは、その頃のドックと全く同じ状況にある。
シーズン最終戦でも彼は、まだ優勝への意欲に燃えていた。つまり、「まだ自分はやれる」という思いが強いはずだ。
なので、「復帰を目指して特訓を積む」という流れになるのかと思いきや、「引退を考えるがサリーの言葉で撤回」という手順を踏む。結果的には復帰を目指すことになるんだけど、「引退を考える」という手順が邪魔だ。
そこで「自分の引き際は自分で決めよう」という思いに至ったのなら、さっさと引退しちゃえばいい。
そこで「チャンスがあるんだから新しいことに挑戦して復帰を目指そう」という現役へのこだわりを見せたのであれば、そのまま最後まで「現役としてのマックイーン」を描くべきだ。
それなのに、終盤になって「やっぱり引退」という展開に突入するので、「だったら序盤でチャンスがあっただろ」と言いたくなる。ストームは悪役扱いされているけど、マックイーンに対して「貴方に勝てて光栄です」とか「貴方の最後のシーズンにしますよ」などと口にするのは、そんなに悪いことではない。
ベテランの大物に対して、これからトップを目指そうとする若手が挑戦的な態度を取るのは別に珍しくもないことだ。
それに彼は卑怯な方法を取るわけではなく、正々堂々と走って勝利を重ねている。
なので、態度は生意気だが、それだけで悪玉扱いするのは大いに疑問が残る。っていうか、ストームのキャラクターって、実は「生意気な若造」だった以前のマックイーンそのものなんだよね。
なので、マックイーンとストームを「師弟の関係」として配置し、「ストームの成長物語」を描いた方がいいんじゃないかと思うのよ。
かつてマックイーンがドックとの出会いによって精神的に成長したように、ストームも「強いけど精神面で欠陥の多いレーサー」だったのがマックイーンの指導によって「中身も優れた本当の意味での王者」に変化するドラマを描けばいいんじやないかと。もうマックイーンは引退を考えるほどのベテランになったのに、すっかりワガママな性格に戻っている。
1作目では生意気でワガママ放題のキャラだったが、映画を通じて「レーサーとして精神的に成長しました」という展開になっていたはず。そして2作目でも、メーターの相棒として成長した姿を見せていたはず。
今回は「マックイーンの成長」を描かなきゃいけないから性格に難のあるキャラに戻したのかもしれないけど、それだと「1作目や2作目から後退してるじゃねえか」と。
ジジイになって、頑固者になっちゃったのかと。でも、そこまでの老人ってわけでもないはずでしょうに。スターリングが引退を勧告すると、マックイーンは激しく反発する。スターリングの「もう引退してスポンサーの商品を売るための広告塔として働くべきだ」という提案は、まるで批判すべきことのように描かれている。
だけど、それって決して間違っているわけじゃないぞ。
スターリングはマックイーンのセンターでの行動を観察し、「レーサーとして復帰するに値しない」と判断したのだ。彼はマックイーンにリスペクトを抱き、最新設備を整え、優秀なコーチも用意した。それなのに、身勝手な行動で台無しにしたのはマックイーンだ。
そんな奴に対して怒りもせず、穏やかに「次へ移ろう」と持ち掛けるんだから、ものすごく心優しいスポンサーだよ。
なんで最終的に、彼を悪玉として扱っちゃうのかと。マックイーンは時代遅れのロートルで、新世代のハイテクレーサーに負け続ける。しかし彼は頑固者で、クルーズの指示に従おうとしない。
なのでビーチのシーンも「クルーズの指示に従わず昔ながらの訓練でスピードを上げようとするが、思うように成果が出ない」という内容になるんじゃないかと予想した。
ところが実際には、「クルーズに砂地の走り方を教えていたせいで一日が無駄になる」という中身だ。
それは話の流れを考えると、明らかに間違った方へ舵を切っている。
そのタイミングで、なぜクルーズがマックイーンに迷惑を掛けるエピソードを盛り込んだのかと。サンダーホロウ・スピードウェイのエピソードも、そんな内容にしている意味がサッパリ分からない。
「マックイーンかクルーズに怒りをぶつける」という展開にしたかったのは分かるよ。でも、そこでクルーズを優勝させても、「だから何なのか」と言いたくなる。
それに、そんなエピソードを用意しなくても、「マックイーンがクルーズに怒りをぶつける」という展開を作る方法なんて幾らでもある。
例えば、「マックイーンが特訓を重ねても全く成果が出ず、クルーズに八つ当たりする」という形でもいいでしょ。マックイーンはクルーズが去った後、呼び出して機嫌を取るような行動を取る。それまでは身勝手で傲慢だったのに、急に大人の行動を取る。キャラがブレブレになっているとしか思えない。
その原因は、話の軸が定まっていないことにある。
マックイーンがレーサーとして復帰するための物語として進めていたのに、終盤になって急に「引退する」という方向へ舵を切る。
引き際については序盤から触れていたし、何の伏線も無かったわけではない。それでも、やはり唐突さは強い。
サーキットへ向かう直前には「マックイーンが特訓で自信を付けていたが、クルーズに追い抜かれてショックを受ける」という描写があって、それがマックイーンの決断に繋がるんだろうけど、「そんなタイミングで、そんなシーンを描いていること自体が間違い」と強烈に感じるし。マックイーンの描写だけでなく、クルーズの扱いについても大いに問題がある。彼女には「レーサー志望だったが、世界が違うと感じてトレーナーに転身した」という設定がある。しかし終盤になって、急にレーサーとして行動することになる。
これまた伏線が皆無だったというわけではないが、唐突さが強い。
そもそもクルーズは、トレーナーとして充実した生活を送っているように見えた。レーサーを断念してから随分と経っているし、もう未練は全く無いように見えたのだ。
それなのに、終盤に入って急にマックイーンが彼女をレーサーにするので、「それは余計なお節介じゃないか」と言いたくなる。
クルーズがマックイーンと一緒に行動する中で、「レーサーへの未練」を感じさせる様子なんて全く無かったはずでしょうに。そもそも、レースにエントリーしていたのはマックイーンなのに、途中でクルーズに交代するって、それはルール違反じゃないのか。それが許されるなら、もはや何でも有りの無法地帯になっちゃうぞ。
「マックイーンが以前のドックの立場になり、教え子の成長を見守ることが幸せだと感じるようになる」という展開にしたいのなら、マックイーンの変心を描くタイミングが遅すぎる。前半の内に迷いや揺らぎを見せておいて、クライマックスに関してはエントリーの時点でクルーズに代役を任せるべきなのよ。
あと、クルーズはレーサーとしての訓練なんて少ししか積んでいないのに、それで優勝するってのも全く納得できない結末だわ。
「クルーズは優勝できなかったけど健闘し、これからマックイーンの指導で強くなっていくことを予想させる」ってことで充分でしょうに。根本的な問題として、「何故こんな内容にしたのか」ってことに首をかしげたくなる。
誰がどう考えたって、これはファミリー映画だろう。つまりメインとなる観客は、ローティーンの子供たちのはず。
「ベテランの引き際」というテーマが、そんな子供たちの心に響くのかと考えた時に、ふさわしいとは到底思えないのだ。
「大人の観賞にも耐える映画」「大人も楽しめる映画」として作るなら、それは大いに歓迎できる。
でも、「メインのターゲットが大人」ってのは違うでしょ。日本のオタク向けアニメじゃあるまいし。(観賞日:2020年2月21日)