『キャプテン・アメリカ 帝国の野望』:1990、アメリカ

1936年、イタリア。少年が家族の前でピアノを演奏していると、ナチスの部隊が窓を破って乗り込んだ。隊長は「その子供の優れた才能が必要なのだ」と言い、大人たちを射殺して少年を連れ去った。ロレンゾ要塞に集まったナチス幹部たちは、実験によって知力と体力が2倍になったネズミを将校から見せられる。将校は少年を送致に繋ぎ、実験を始めようとする。実験の責任者であるテレサ・ヴァセリ博士は「子供を使うなんて約束が違う」と抗議し、実験の中止を求めた。捕まりそうになった彼女は、窓から飛び出して逃走した。
7年後、1943年。ナチスは少年を最強の人間に改造する実験に成功し、レッド・スカルを誕生させていた。アメリカ政府は亡命したテレサの力を借り、対抗できる最強の人間を生み出そうと考える。カリフォルニア州レドンド・ビーチに住むスティーヴ・ロジャーズは大勢の志願者から選ばれ、母や恋人のバーニー、親友たちに別れを告げた。バーニーは寂しさを吐露し、スティーヴに抱き付いた。スティーヴはテレサの用意した車に乗り、米軍の施設へ向かった。
1週間後、ルイス大佐やカービー議員たちが見守る中、テレサはスティーヴの改造を開始した。フレミングは見物の面々に、「彼の名前は秘密です。私と博士しか知らない。コード・ネームはキャプテン・アメリカ」と告げた。改造手術は成功し、テレサはフレミング中尉からローズヴェルト大統領側近のアーリックを紹介される。しかしフレミングとアーリックはナチスのスパイであり、テレサは撃ち殺された。スティーヴはアーリックを倒すが、撃たれて深手を負った。
ドイツがロケットをアメリカに撃ち込む計画が判明し、手術を終えたばかりのスティーヴはフレミングと共に輸送機で出撃した。ドイツに降り立ったスティーヴは、敵の基地に突入して戦った。するとレッド・スカルが待ち受けており、スティーヴは全く歯が立たずに捕まった。レッド・スカルはスティーヴをロケットに縛り付け、ホワイトハウスへ撃ち込むと宣言する。発射直前、スティーヴはレッド・スカルの左手を掴んで道連れにしようとする。レッド・スカルは自分の左手首を切断し、スティーヴだけがロケットと共に発射された。
父の仕事でワシントンに来ていたトム・キンボール少年は夜中まで起きていたため、母から早く寝るよう注意された。ベッドに入った彼は、「僕、大統領になるんだ」と母に告げた。両親が寝たのを確認したトムは、密かに部屋を抜け出した。ホワイトハウスの写真を撮っていた彼は、飛来するロケットに気付いた。スティーヴがロケットの尾翼を蹴ってホワイトハウスへの直撃を阻止する様子を、トムは目撃した。ロケットはアラスカに墜落し、キャプテンは雪に埋もれた。
オハイオ州スプリングフィールドの自宅に戻ったトムは、友人のサム・コラウェッツに写真を見せてロケットの一件を語った。ロケットに乗っていた人物の特徴を問われたトムは、青いマスクに白いAの文字が書かれていたことを説明した。学校新聞を編集しているサムは興奮し、「特ダネになるぞ」と口にした。成長したトムは1960年代に入り、ヴェトナム戦争で志願兵として出征した。1970年代には、アフリカの貧困を救う目的で平和部隊に参加した。
1980年代、トムは国会議員に選出され、1990年代には大統領に就任した。トムはローマで開かれるサミットに出席し、環境破壊で各国間の話し合いを提案することになった。彼の環境保護法案に、フレミングは真っ向から反対した。フレミングはロレンゾ要塞で秘密結社の会合に出席し、一刻も早くトムを始末すべきだと主張した。過去に秘密結社はケネディー大統領やキング牧師も暗殺していたが、首領のレッド・スカルは「面倒だし金が掛かる。その代わりに得た物も少ない」と告げる。そして彼は暗殺の代わりに、発明した脳移植機を使ってトムを操る考えを明かした。
西ドイツのアラスカ基地に所属する隊員たちは、氷漬けのスティーヴを発見した。基地に運んだ隊員たちが今後の扱いを検討していると、スティーヴは氷を割って復活した。隊員たちが驚いていると、スティーヴは基地から無言で立ち去った。氷の中から人間が発見されたという新聞記事とスティーヴの写真を見たトムは、少年時代に目撃した人物だと確信した。彼はワシントン通信社の記者になったサムに電話を掛けて、「ホワイトハウスを救った男が見つかった」と語った。サムは「秘密を解く鍵だ。そいつはレッド・スカルに会っているかもしれない」と言うが、トムはレッド・スカルや秘密結社の存在を陰謀論だと一蹴した。
ローマに入ったレッド・スカルは、スティーヴの復活を新聞で知った。彼は娘のヴァレンティーナに「きっとキャプテン・アメリカが邪魔しに来る」と告げ、始末を任せた。ヴァレンティーナはカナダ北部を放浪していたスティーヴを見つけ出し、手下2人とバイクで追跡した。スティーヴは盾を投げ付けてバイクを横転させると、ヴァレンティーナは拳銃を発砲する。そこへサムが車で駆け付け、スティーヴを乗せて逃走した。
サムはスティーヴに「レッド・スカルは生きてる。整形手術で顔を変え、強力な国際カルテルの中心人物になってる。奴は次に大統領の暗殺を狙ってる」と語り、協力を要請した。しかし時代の変化を理解できないスティーヴは、黙って聞いているだけだった。スティーヴはサムを騙して車を奪い、積んであった資料に目を通した。ガソリンが切れると彼は車を乗り捨て、トラックの荷台に隠れてアメリカに入る。故郷のレドンド・ビーチに戻った彼は、車から降りて来た若い女性を見て「バーニー」と抱き付こうとする。すると女性は彼を殴り付け、自宅にいる母を呼んだ。家から出て来たのは年を取ったバーニーで、若い女性は娘のシャロンだった。
バーニーはジャックという男と結婚していたが、スティーヴを見た瞬間に誰なのか気付いた。バーニーはスティーヴに抱き付き、家に招き入れる。彼女はスティーヴの生存を信じていたこと、だから戻って来ても大丈夫なように今の家で暮らし続けていたことを語った。彼女が38歳まで結婚せずに自分を待ち続けてくれたことを知り、スティーヴは感激した。ヴァレンティーナはサムを盗聴してキャプテンの居場所を割り出そうとしていたが、レッド・スカルは取り逃がした娘に冷たく接した。
サムは人間改造計画の資料を調べ、バーニーの住所を知った。彼がトムに電話を掛けて情報を伝えると、盗聴していたヴァレンティーナはレドンド・ビーチへ向かった。シャロンはスティーヴにアパートの部屋を用意し、一緒にビデオを見た。サムはバーニーの家を訪ねるが、そこへヴァレンティナの一味が現れた。ヴァレンティーナはサムを始末し、キャプテン・アメリカの居場所を吐くようバーニーに迫った。連絡を受けたシャロンが帰宅すると、重傷を負ったジャックが救急車で運ばれるところだった。
ジャックはシャロンに、「奴らはキャプテンの居場所を聞いていた。でもママは言わなかったよ」と伝えた。バーニーは殺害されており、シャロンはショックで泣き崩れた。スティーヴはトムがローマのホテルから武装集団に誘拐された事件を知り、シャロンに「奴らが君のママを殺した」と告げる。スティーヴはテレサの日記を見つけ出そうと考え、シャロンに「実験室はカフェの下だった」と言う。シャロンの車で捜索した彼はカフェを発見し、トイレの壁を破壊して実験室に入った。
スティーヴは机の引き出しに入っていたテレサの日記を入手するが、ヴァレンティーナの手下たちが乗り込んで来た。スティーヴは一味を退治し、カフェを脱出した。日記を読んだシャロンは、「少年の名は知らないが、ポートヴェネリのトレアンジェリから連れて来られた」という文章を見つけた。レッド・スカルはロレンゾ要塞にトムを監禁し、脳移植の準備として薬を注射した。「何か目的があるのか」とトムが訊くと、彼は「俺が大統領になる」と答えた。スティーヴとシャロンはイタリアに飛び、トレアンジェリへ向かった…。

監督はアルバート・ピュン、キャラクター創作はジョー・サイモン&ジャック・カービー、原案はスティーブン・トルキン&ローレンス・J・ブロック、脚本はスティーブン・トルキン、製作はメナハム・ゴーラン、製作総指揮はスタン・リー&ジョセフ・カラマリ、製作協力はスティーブン・トルキン、撮影はフィリップ・アラン・ウォーターズ、美術はダグラス・レナード、編集はジョン・ポール、衣装はハイジ・カチェンスキー、特殊メイクアップ効果はグレッグ・キャノン、音楽はバリー・ゴールドバーグ、音楽監修はイヴェン・J・クリーン&ポール・ブローシェク。
出演はマット・サリンジャー、ロニー・コックス、ネッド・ビーティー、スコット・ポーリン、キム・ギリンガム、ダーレン・マクギャヴィン、マイケル・ヌーリー、メリンダ・ディロン、フランチェスカ・ネリ、ビル・マミー、カーラ・カソーラ、マッシミリオ・マッシミ、ウェイド・プレストン、ノーバート・ヴァイザー、ガレット・ラトリフ、バーナーダ・オマーン、トンコ・ロンザ、ガリアーノ・パホー、ミラン・クリストフィッチ、オータン・ナリス、マリオ・コヴァチ、ゾラン・ポルペク、キャサリン・ファレル、ミア・ベゴヴッィチ、マッコ・ラグス、ドナルド・スタンデン他。


マーベル・コミックのスーパーヒーロー、キャプテン・アメリカの生誕50周年を記念して製作された映画。
正確な邦題では「帝国」の前にハーケンクロイツのマークが入る。それで「ナチス帝国」と読ませるらしい。しかし文字化けする媒体もあるからなのか、現在では多くのデータで「帝国の野望」と表記されている。
監督は『サイボーグ』『キックボクサー2』のアルバート・ピュン。
脚本は、これが初長編映画となるスティーブン・トルキン。
スティーヴをマット・サリンジャー、キンボールをロニー・コックス、サムをネッド・ビーティー、レッドスカルをスコット・ポーリン、バーニー&シャロンをキム・ギリンガム、フレミングをダーレン・マクギャヴィン、ルイスをマイケル・ヌーリー、スティーヴの母をメリンダ・ディロン、ヴァレンティナをフランチェスカ・ネリ、若き日のフレミングをビル・マミーが演じている。

今では「マーベル・シネマティック・ユニバース」で世界的な大ヒット作を次々に生み出すようになったマーベル・コミックだが、かつてはライバルのDCコミックスに大きな差を付けられていた。
DCコミックスは1978年から始まった『スーパーマン』、1989年から始まった『バットマン』が、それぞれヒットしてシリーズ化された。
一方、マーベル・コミックは1986年に『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』、1989年に『パニッシャー』が公開されたが、どちらも酷評を浴びて興行的に失敗した。
そういう流れがあるのだから、この映画もヒットさせるために慎重を期する必要があったはずだ。

ところが、なぜかマーベル・コミックが手を組んだのは、キャノン・フィルムズの総帥だったメナハム・ゴーラン。
キャノン・フィルムズが資金繰りの悪化で崩壊して彼は代表を辞任し、21世紀ピクチャーズを設立して本作品を製作した。
そして監督に起用されたのは、B級映画ばかり撮っていたアルバート・ピュン。
そのメンツでヒット作を送り出すなんてのは、そりゃあ無理な話である。製作費にしても潤沢とは言えないし、DCコミックスの後塵を拝するのも当然だろう。

出演者の顔触れを見ても、そんなに力を入れて作っていないことが分かるよね。
かなりの映画ファンじゃないと、まるで知らない出演者ばかりだ。
主演のマット・サリンジャーからして、「アンタは誰だよ」という人物だし。
ちなみに『ライ麦畑でつかまえて』で有名なJ・D・サリンジャーの息子だけど、完全に「親の七光り」を受けまくっている二世だ。
俳優としては『ナーズの復讐』『キングの報酬』に出ていたものの、まあハッキリ言って無名だ。

とは言え、『スーパーマン』シリーズで主演を務めたクリストファー・リーヴだって、第1作の頃は無名の役者だった。
ただ、その代わりに脇役でマーロン・ブランドやジーン・ハックマン、テレンス・スタンプといった大物を揃えていた。
それに比べて本作品は、周りの俳優が弱い。
『ビバリーヒルズ・コップ』『ロボコップ』のロニー・コックス、『ネットワーク』『スーパーマン』のネッド・ビーティー、TVドラマ『事件記者コルチャック』のダーレン・マクギャヴィン、『フラッシュダンス』『ヒドゥン』のマイケル・ヌーリーといった面々だが、『スーパーマン』や『バットマン』に比べて明らかに小粒だ。

冒頭、ナチスは最強の人間(つまり超人兵士)を作るために、才能のある子供を拉致して実験している。
だけど、なぜピアノの才能がある少年を連行するのかは謎だ。
ナチスにとって欲しい人材って、間違いなく「兵士として役に立つ可能性が高い子供」のはずでしょ。だから、何よりも運動能力を優先した方がいいでしょ。
せめて運動能力を二の次にするとしても頭脳明晰な少年を探すべきであり、どう考えても音楽の才能は戦争で勝つための優先事項じゃないでしょ。

テレサは「子供を使うなんて約束が違う」と言うけど、そんな装置が置いてあるのに人間が実験台に使われないはずがないでしょ。あと、じゃあ大人が実験台なら別に構わないと思っていたのか。それも違うでしょ。
そもそも、ネズミで知力と体力を倍増させる実験を行った時点で、次は人間ってのは分かり切っているわけで。少年が連行された時点で「約束が違う」と言われても、「今さら善人ぶっても遅い」と言いたくなる。
で、そんなテレサは急に科学者らしからぬ運動能力を発揮して窓から飛び出すのだが、ナチスが本気を出せば簡単に始末できるはず。ところが、なぜかナチスは少し発砲しただけで済ませてしまい、テレサを逃がしてしまう。
なんでだよ。重要な機密を握ったまま逃げられたら厄介なんだから、絶対に始末しなきゃダメだろ。

ルイスはスティーヴの実験の際、「超人ではないが、我が国のシンボルになる」と言う。
いやいや、超人じゃないのかよ。
ただシンボルとしての人物を誕生させるだけなら、そんな大層な実験をして改造する必要は無いだろ。ただ目立つコスチュームを着せて、宣伝用に使えばいいだろ。
で、そんな実験を終えたテレサを殺したアーリックは始末されるが、なぜかフレミングはスパイとして全く疑われない。
最終的に嫌疑が腫れるとしても、キッチリと取り調べるべきだろ。

入院していたスティーヴはドイツの計画を知り、出撃を決める。そこからシーンが切り替わると、彼はキャプテン・アメリカの姿になって輸送機に乗っている。
でもコスチュームの上にコートを着てフードを被っているので、見えているのはマスクの一部分だけ。そんな半端な姿なので、「スーパーヒーローの登場シーン」としての高揚感が微塵も無い。
ちなみにキャプテンのコスチュームが派手なのに、「その色をテレサが好きだったから」という設定だ。
そんなテレサ、なぜか実験の書類を残さなかったため、計画はスティーヴだけで終了する。資料を残さなかった理由は「安全のため」と説明しているけど、なかなかの都合の良さである。

ナチスの基地に乗り込んだキャプテンは、円形の盾を使って戦う。盾は防具のはずなのだが、なぜか彼は攻撃の道具として使う。そもそも、基地に向かうシーンまで「盾が武器として用意されている」という設定に触れていなかったので、唐突な印象を受ける。
キャプテンが初めて登場し、スーパーヒーローとして活動する重要なエピソードなのに、色んなトコが雑だ。
そんなキャプテンが敵の基地へ乗り込むと、レッドスカルが待ち受けている。冒頭で拉致されたピアノの得意な少年が、レッドスカルになっているのだ。
しかしピアノの才能がどういう形でレッドスカルとしての行動に活かされているのか、それは全く分からない。

キャプテンはレッドスカルに全く歯が立たないという弱さを露呈し、眠らされてしまう。気が付くとロケットに縛り付けられており、そのまま発射される。br> ロケットに人間を縛り付けて発射するってのをコメディーじゃなくてマジに描いているのだが、「1990年だったら、まだ何とかギリかな」と受け入れられるかどうかは貴方の器の大きさ次第だ。br> で、レッドスカルは道連れにされるのを防ぐため、自分の左手首を切断する。でも、そこはキャプテンの腕を切り落とせば済むことだよね。br> ちなみにキャプテンもレッドスカルも、改造人間とは言え生身に近いのに、ロケット噴射のダメージは全く受けていない。

ロケットがホワイトハウスに近付くと、キャプテンはガンガンと思い切り尾翼を蹴り付ける。すると尾翼がヘコんで飛ぶ角度が変わり、ホワイトハウスの上を通過する。
そもそもロケットが飛行機のような形をしている時点で違和感はあるし、そんな方法で悪党の計画を阻止するのも「スマートじゃないなあ」と感じる。
で、ロケットはアラスカに墜落するのだが、なぜか爆発しない。
結果論ではあるが、不発弾だったら方向を変えなくても大した被害は出なかったんじゃないか。

キャプテンがアラスカの雪に埋もれた後、帰郷したトムがサムにロケットの件を話す。そこから1950年代、1960年代、1970年代、1980年代、1990年代の新聞記事が次々に表示され、トムの成長の経緯がナレーションで語られる。
でも、そこまで詳しくトムの経歴を追う必要は全く無いんだよね。
いきなり1990年代に飛んで、「トムが大統領になっている」ってのを描いてしまえば事足りるんだよね。
彼が平和部隊に参加したとか、国会議員になったとか、そんなの何の意味も無い情報なのよ。

氷漬けになっていたキャプテンは1990年代になって発見され、氷を割って復活する。発見したドイツの隊員たちが氷を割ったわけではなく、自らの力で簡単に飛び出すのだ。
そんな力があるのなら、雪に埋もれた直後に脱出できたんじゃないかと思ってしまうぞ。なんで今まで意識を取り戻さなかったんだよ。
あと、そこで「キャプテンの復活」ってのを大々的に盛り上げるのを見ると、「そこから映画をスタートさせてもいいんじゃないか」と思ったりするんだよな。
そこまでに何があったのかは、回想として後から挟む形にしてさ。

戦前のレッド・スカルは赤いマスクを被っていたが、戦後のシーンでは素顔で登場する。彼は秘密結社の会合のシーンで、「戦後、レッド・スカルの人生は惨めだった。その時、助けてくれた皆の恩は忘れていない」と語る。
でも具体的に、どんな風に惨めだったのかは何も教えてくれない。
そして、助けてくれた面々を従える秘密結社の指導者になった経緯も全く分からない。レッド・スカルは強化戦士として改造されたはずであって、リーダーとしての才覚ってのは全く別でしょ。
あと、そんなレッドには娘がいるのだが、いつの間に結婚して子供まで作ってんのよ。

レッド・スカルがキャプテンの殺害指令を出すと、なぜか一味はカナダ北部にいる彼を簡単に見つけ出す。まあ目立つコスチュームではあるけど、それにしても早いな。
そして、なぜかサムも簡単にスティーヴを見つけ出す。アラスカで見つかったから「カナダにいるんじゃないか」と推理して捜索するのは理解できるにしても、ヴァレンティたちナたちがヘリコプターで捜索している現場に通り掛かる都合の良さと言ったら。
あと、ヴァレンティたちナはバイクでキャプテンを追い掛けるけど、そのままヘリコプターを使った方が良くないか。バイクを走らせても、その状態だと攻撃は出来ないし。
それにバイクで追うぐらいなら、気付かれない内にライフルで狙撃した方が得策じゃないか。

スティーヴはサムに助けてもらっても、礼の一つも言わない。そしてサムが「ヴァセリ博士の資料にレッド・スカルの記録があるはずだ。
見つけられないか」と問われると、記録は存在しないという事実を教えようとしない。
彼は「車に酔いそうだから停めてくれ」と嘘をつき、車を降りて小走りで少し距離を取る。心配したサムが歩み寄ると、ダッシュで車に向かう。
彼はサムを置き去りにして、車を奪って逃走する。
なんちゅうケチくさいスーパーヒーローなのか。

テレサは実験の記録を何も残さなかったが、なぜか日記はマメに付けていたらしい。
で、その日記を見つけるためにスティーヴは実験室を捜索するのだが、日記だったら自宅に置いてる可能性が高くないか。個人的なことも書いてあるなら、実験室には残さないでしょ。
あと実験室に置いてあったとしても、普通に考えりゃフレミングが盗み出すでしょ。
あと、なんで実験室はカフェの地下だったのか。政府公認の実験だったんだから、ちゃんとした施設で行われていたんじゃないのか。

アルバート・ピュン監督にアクション演出の才能は全く無いが、それが最も顕著に表れているのが実験室のシーンだ。
とにかく室内が暗いため、何がどうなっているのかサッパリ分からない。
そんな中でカットを細かく割り、色んなアングルからキャラを捉えているのだが、そういうのは明るいトコで整理した上でやらないと全く効果が出ない。
ただし明るい場所でのアクションシーンも面白いわけではないので、勘違いしないように。
だってアルバート・ピュンだからね。高望みは酷ってモンだ。

ローマに入ったスティーヴは、車を運転するシャロンに「気分が悪い。ちょっと停めてくれ」と頼む。サムの時と同様、シャロンを騙して置き去りにしようという作戦だ。ただし今回は、彼女を危険に巻き込みたくないという配慮からの行動だ。
で、観客は彼の狙いが分かっているのだが、そこは「君を危険に巻き込むわけにはいかない」と言ったスティーヴが単独でトレアンジェリへ向かう展開にしておけばいい。
ところが少年が住んでいた天使の家にスティーヴが到着すると、すぐにシャロンが現れるのだ。
どうやらタクシーを呼んで追ったという設定のようだが、だったら「スティーヴが騙して置き去りにする」という手順は無意味だわ。

トレアンジェリで少年の住んでいた家を見つけたスティーヴとシャロンは、古いテープレコーダーを入手する。それを電気店に持ち込んで再生してもらうと、少年かせ拉致された時の音声が記録されている。
テープレコーダーが残っているのも、たまたま襲撃時に録音スイッチが入っていたのも、その音声が残っているのも、かなり都合のいい設定だ。
ただ、そんなことより問題なのは、「それが分かったところで何の意味も無い」ってことなのだ。
その音声を聞いたところで、レッド・スカルの居場所が分かるわけじゃないからね。
つまりスティーヴとシャロンの行動は、目的を考えると完全に「骨折り損のくたびれもうけ」なのである。

行き詰まったスティーヴとシャロンがオープン・カフェで話していると、ヴァレンティーナと手下が来て襲い掛かる。しかしスティーヴが自転車を拝借し、シャロンを乗せて海に飛び込むと、なぜか一味は念入りに捜索せず簡単に諦めて去ってしまう。
しばらく待っていれば浮上してくるはずだが、それを待てないぐらい気が短いようだ。
それだけでなく、なぜかヴァレンティーナはカフェに鞄を残しており、その中にはご丁寧に身分証まで入っている。そこからスティーヴたちは、レッド・スカルの居場所を知ることになるのだ。
レッド・スカルがスティーヴを取り逃がしたヴァレンティーナに冷たくしていたけど、ホントにボンクラなのよね、この娘。

ちなみに、廃墟となった実験室やトレアンジェリの町で敵に襲われた時、スティーヴはキャプテン・アメリカの格好をしていない。しかし彼は盾を使って攻撃し、敵を蹴散らしている。
そういう様子を見せられると、「キャプテン・アメリカのコスチュームって必要なのか」と言いたくなる。
何かの理由で素性を隠さなきゃいけないのなら、スーツはともかくマスクはあった方がいいだろう。でも、そういう理由は無いんだから、派手なコスチュームって邪魔なだけじゃないのか。
一応は「スーツは耐火服になっている」という設定だけど、そんなに上手く活用されているとも思わないし。

スティーヴとシャロンはレッド・スカルの城へ向かうが、一味に追われる。するとシャロンはスティーヴを置き去りにして車を走らせ、囮になって一味に捕まる。
だけど、どうせスティーヴも城に行くんだから、シャロンが囮として捕まっても全くの無意味でしょ。
そこで一味を倒さなかったら、城に乗り込んだ時に倒さなきゃいけないわけだし。
シャロンが一味に捕まったら、スティーヴは助けるための行動を取らなきゃいけないわけだし。

レッド・スカルは脳移植の準備としてトムに薬を注射しているが、そこから「準備完了」となるまでに、ものすごく時間が掛かっている。
だったら準備が整うまではトムを厳重に監禁して見張りも付けておくべきだろうに、簡単に脱出されている。何しろ、何度か蹴り付ければ破れる程度の鉄格子に入れているだけだし、見張りもいないし。
すぐに見つけ出しているけど、それでボンクラな印象が払拭されるわけではない。
ヴァレンティーナもボンクラだったけど、組織全体としてボンクラなのね。

キャプテンは城から飛び降りたトムを助け、洞窟に隠れているよう指示する。しかしトムは「キャプテンだけに任せておけない」と言い、一緒に戻って行動する。
だけど戦闘能力が高いわけじゃないし、向こうの狙いはトムなんだから、ただの足手まといでしょ。
一応は「囮になってキャプテンを手助けする」というシーンを用意しているけど、ほぼ役に立っていない。
NATO司令官に電話を掛けて救援を要請しているけど、キャプテンの力になりたいのなら、そういう形でサポートすりゃいいのよ。

ところが、なぜかキャプテンがレッド・スカルとタイマンで戦うシーンで、「トムがレッド・スカルの側近と戦う」という様子を並行して描くのよね。
なんでトムをキャプテンのサイドキックみたいな扱いにしてんのよ。それだけじゃなく、シャロンがヴァレンティーナを殴り付け、拳銃を奪い取るシーンもあるし。
いやいや、クライマックスなんだから、そこはキャプテンだけを活躍させろよ。
レッド・スカルとヴァレンティーナの最期もマヌケだし、さすがはアルバート・ピュン、ある意味、期待を裏切らない出来栄えである。

(観賞日:2020年7月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会