『カプリコン・1』:1977、アメリカ&イギリス

ヒューストンのNASA(米航空宇宙局)では、人類史上初の有人火星宇宙船であるカプリコン・1の打ち上げが目前に迫っていた。軍医であるバローズの診察を受けた船長のチャールズ・ブルベイカー、船員のピーター・ウィリスとジョン・ウォーカーは準備を整え、宇宙船へ向かった。設けられた見物席にはピーカー知事夫妻やプライス副大統領夫妻など大勢の人々が集まり、打ち上げの時を待っていた。ブルベイカーたちはカプリコン・1に乗り込み、システムを点検した。特に異常は無く、ハッチが閉じられた。
しかしブルベイカーたちが発射に備えていると、計画責任者であるケロウェイ博士がハッチを開けた。彼はブルベイカーたちに「降りろ。緊急事態だ、さっさと従うんだ」と命じた。ブルベイカーたちは困惑しながらも宇宙船から降りるが、その後もコントロール・センターでは打ち上げ準備が続行されていた。ブルベイカーたちがケロウェイの用意した飛行機でセンターを離脱した後、カプリコン・1は無人の状態で打ち上げられた。しかし発射を見守った人々は、ブルベイカーたちが乗っていると思い込んでいた。
ブルベイカーたちを格納庫へ連れて行ったケロウェイは、宇宙探査計画が金の無駄遣いだとして批判の対象になっていること、大統領から「議会が計画を潰そうとしているので絶対に失敗するな」と言われていたこと、その大統領が打ち上げの見学に来なかったことを語った。その上で彼は、費用を惜しんだせいで生命維持装置が欠陥品だったことが2ヶ月前に判明したと告げる。「事実を報告すれば計画は中止になる。16年間の苦労が水の泡だ」と彼は述べた。
ケロウェイがブルベイカーたちを別の部屋に連れて行くと、そこは大きなスタジオになっていた。カプリコン・1のレプリカや火星のセットを目にしたブルベイカーは、すぐに何をさせたいかを理解した。この捏造計画を知るのは限られたメンバーだけであり、乗組員の声や医療データは司令船から送られて来るようになっていることをケロウェイは説明した。彼はブルベイカーたちに、「船内と火星上陸のテレビ中継だけで芝居をすればいい」と話す。
さらにケロウェイは、「計算機にも細工をして、予定地より200マイル離れて帰還することにした。近くの島でヘリコプターに搭乗し、カプセルまで移動する。回収チームが来るまでに時間は充分ある」と告げる。協力的な態度を示さないブルベイカーたちに、ケロウェイは「宇宙探査計画を続行するためだ。国民は信じる物を失っている。公表されたらショックは大きい」と話す。ブルベイカーが「アンタの考えは間違ってる」と批判すると、ケロウェイは「もはや私の手を離れて大きな組織が動いている」と告る。家族が人質になっていることを知らされたブルベイカーたちは、従わざるを得なくなった。
新聞記者のコールフィールドや同業の友人であるジュディーたちはブルベイカー宅を訪れ、彼の妻であるケイのインタビューを取った。カプリコン・1との交信状況をチェックしていたコントロール・センターのウィッターは、計算より早く電波が届いていることに違和感を抱き、バーゲン博士に報告した。「すぐ近くから届いているかのようなんです」と彼が言うと、バーゲンは「計器の故障だろう。良くあることだ。修理させよう」と告げた。
乗組員の妻たちがセンターに集まり、宇宙船との交信が行われた。着陸成功という知らせを受け、センターでは拍手が起きた。その様子は全米にテレビ中継され、多くの国民が視聴した。ウィッターは数値の異常を確認し、ケロウェイに知らせた。理由を知っているケロウェイは、「調べさせよう」と軽く告げた。ブルベイカーたちが火星に上陸してアメリカ国旗を掲げる映像がテレビに写し出されると、大統領のメッセージが流れた。格納庫に設置された副調整室では、スタッフが火星らしい映像にするための細工を施していた。
ウィッターはバーで友人のコールフィールドと会い、交信電波の異常について報告したら計器の故障にされたことを語った。興味を抱くコールフィールドだが、知らない男からの電話を受けている間にウィッターは姿を消す。一方、翌日に家族との交信を控え、ブルベイカーはウィリスとウォーカーに「事実を告げた方が救われる」と告げる。しかしウィリスとウォーカーは「テレビ中継て暴露するのか?それで何の意味がある?俺たちは消されるし、家族はどうなる?」と賛同しなかった。
次の日、3人の宇宙飛行士が妻と交信する様子が、テレビで放送された。ウォーカーはベティー、ウィリスはシャロン、ブルベイカーはケイという風に、3人は順番に妻と話す。ケイはブルベイカーに、息子のチャールズ・ジュニアが書いた作文を読んで聞かせた。その作文は、「パパは火星に行ったけど寂しくない。パパは皆のためになることをするために宇宙へ行った。たから僕は悲しくない。パパは偉くて僕は大好きだ」という内容だった。
ブルベイカーが「言いたいことがある」と口にしたので、副調整室のスタッフは万が一の時に交信を切断する準備をする。ケロウェイが電話で「指示を待て」とスタッフに告げる中、ブルベイカーは「家に帰ったら去年のようにヨセミテに行こうと、息子に伝えてくれ」とケイに告げた。するとケイは少し困惑したような表情を浮かべてから、「分かったわ。愛してる」と口にした。その様子を、センターに来ていたコールフィールドが見ていた。
コールフィールドはウィッターの部屋を訪れるが、見知らぬ女性が住んでいた。コールフィールドは過去に何度も来た部屋だったが、女性は「ここは私の部屋よ」と主張した。その帰り道、車のブレーキが急に効かなくなり、コールフィールドは危うく事故死しそうになった。やがてカプリコン・1が地球に帰還し、回収される日が訪れた。ブルベイカーたちは格納庫を出て、飛行機で島へ向かう。そんな中、耐熱シールドの欠陥が発覚し、センターはカプリコン・1に連絡を入れる。だが、もちろん乗組員からの応答は無かった。
ブルベイカーたちを乗せた飛行機は連絡を受け、格納庫に戻った。ケロウェイは記者会見を開き、カプリコン・1が消滅したことを発表した。会見の様子を見ることは許されなかったブルベイカーたちだが、自分たちが死んだことになったと察知した。彼は仲間2人に対し、「ここにいたら殺される」と逃亡を促した。3人は封鎖されていた部屋のドアを壊し、格納庫から脱出した。彼らは飛行機を奪い、格納庫から飛び立った。
ブルベイカーは仲間たちに、「人のいる場所へ行くんだ。新聞かテレビに俺たちのことを知らせたら勝利だ」と言う。しかし燃料が切れたため、荒野に不時着した。非常用セットを見つけた3人は、それぞれ別方向を目指して移動することにした。ブルベイカーは「捕まったら照明弾を打ち上げるんだ」と告げ、仲間たちに別れを告げた。一方、コールフィールドは中継の映像を確認し、「ヨセミテへ行こう」と夫が言ったた時のケイの表情を何度も再生した。
コールフィールドはケイの元を訪れ、夫との交信で妙な表情を見せたことについて質問した。するとケイは、家族が行ったのはヨセミテではなくフラット・ロックだったことを語る。ケイは些細なことだと捉えており、「夫が勘違いしたのよ」と告げた。コールフィールドがフラット・ロックへ赴くと、そこは西部の町を再現したオープン・セットになっていた。一方、ケロウェイは捜索隊を差し向けており、ウォーカーが捕まった。ブルベイカーは、打ち上げられた照明弾を目にした。
コールフィールドは再びケイの元へ行き、「御主人は去年のことを忘れるような人じゃない。何か意図があったはず」と告げ、フラット・ロックでの出来事について尋ねた。ケイは旅行の時に撮影した8ミリ映像をコールフィールドに見せ、「夫は随分と感心していた。作り事の世界が本物に見える。あれだけの技術があれば簡単に騙せるって」と話す。一方、荒野ではウィリスが捕まり、ブルベイカーは照明弾を目撃した。
コールフィールドはローリン部長に「スクープを掴んだ」と訴えるが、相手にされなかった。24時間の猶予を貰ったコールフィールドだが、自宅にFBIが乗り込んで来た。麻薬所持で逮捕されたコールフィールドは、すぐに罠だと悟った。ローリンは会社の名誉を守るために身許引受人となるが、釈放されたコールフィールドにクビを宣告した。コールフィールドはジュディーに協力してもらい、閉鎖された基地の存在を知る。基地を訪れたコールフィールドは、ブルベイカーのペンダントが落ちているのを発見した…。

脚本&監督はピーター・ハイアムズ、製作はポール・N・ラザルス三世、製作協力はマイケル・ラックミル、撮影はビル・バトラー、編集はジェームズ・ミッチェル、美術はアルバート・ブレナー、衣装はパトリシア・ノリス、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はエリオット・グールド、ジェームズ・ブローリン、ブレンダ・ヴァッカロ、テリー・サヴァラス、カレン・ブラック、ハル・ホルブルック、サム・ウォーターストン、O・J・シンプソン、デヴィッド・ハドルストン、デヴィッド・ドイル、デニース・ニコラス、ロバート・ウォーデン、リー・ブライアント、アラン・ファッジ、ノーマン・バートールド、ジョン・セダー、バーバラ・ボッソン、ルー・フリッゼル、ジェームズ・カレン、ポール・ピサーニ、ハンク・ストール、ミルトン・セルツァー、ダレル・ツワーリング他。


『破壊!』のピーター・ハイアムズが監督&脚本を務めた作品。
コールフィールドをエリオット・グールド、ブルベイカーをジェームズ・ブローリン、ケイをブレンダ・ヴァッカロ、ジュディーをカレン・ブラック、ケロウェイをハル・ホルブルック、ウィリスをサム・ウォーターストン、ウォーカーをO・J・シンプソン、ピーカーをデヴィッド・ハドルストン、ローリンをデヴィッド・ドイル、ベティーをデニース・ニコラス、ウィッターをロバート・ウォーデン、シャロンをリー・ブライアントが演じている。

「宇宙へ行ったはずの飛行士たちが、実は地球に作られたセットで芝居をしていただけだった」というのは、本作品独自のアイデアというわけではない。この映画では「有人火星探査計画が捏造だった」という設定だが、本作品の公開以前からアポロ計画については同様の疑惑があった。
つまり「人類は月面に着陸しておらず、セット撮影だった」という説を唱える人々が、一部に存在したのだ。
現在に至っても、それを根強く信じている人々は存在する。
ただし、科学者からは全く相手にされていない説だし、個人的にも、「宇宙に行ったはずの飛行士がセット撮影していた」というのは、シリアスに描くよりコメディーにした方が良さそうなネタじゃないかと思う。

とは言え、「有人火星探査計画が捏造だった」というプロットをシリアスに描くことが絶対的にダメというわけではない。
やり方次第では、ハラハラドキドキの魅力的なサスペンスに仕上げることも充分に可能な素材だと思う。
しかし本作品の場合、「やっぱりコメディーにしておけば良かったんじゃないか」と感じさせる出来栄えになっている。
何がダメって、ディティールが色々と粗すぎるのである。

まず引っ掛かるのは、生命維持装置の欠陥が判明したのは打ち上げの2ヶ月前だったということ。
つまり、「打ち上げ直前になって問題が発覚し、慌てて隠蔽計画を練った」ということではないのだ。2ヶ月の準備期間があったのだ。
それにしては、あまりにも計画が杜撰すぎやしないかと。
宇宙飛行士に芝居をしてもらわなきゃならんというのに、打ち上げ直前に連れ出して初めて事情を説明するというのは、心の準備をしてもらう時間を全く与えないってことになる。
どうせ家族を人質に取って命令に従わせるのだから、「ギリギリになってから事情を明かし、協力せざるを得ない状況に追い込む」という意味合いも無い。むしろ、目ざとい記者や科学者にバレないように、細かい芝居を練習させる時間を与えた方が得策じゃないかと思うのよ。
何度も練習を重ねていれば、その中で「この時はこのように動いた方がいい」とか「ここでこういう動きをするのは火星だと不自然に見える」とか、そういう問題も見えて来るだろうし、本番までに修正することも可能になるし。

ブルベイカーたちが捏造計画への協力を強要された後、しばらくは彼らが物語の中心から消える。彼らは「センターから見ている映像」の中にしか登場せず、主にセンターの様子が描かれる。
しかし、それだと「捏造計画がバレるかもしれない」という危機感や緊張感が全く生じないんだよね。
それを生じさせてサスペンスを盛り上げるには、嘘をついて芝居をしている側からの様子を描く必要がある。
「上手く演じないと嘘が露呈してしまう」という緊張感や危機感を持っているのは、そこにいる面々なんだから。

ケロウェイは捏造がバレることを恐れてドキドキしているだろうけど、ずっと彼をフィーチャーして話を進めているわけでもない。
それに、たまに彼の姿が写っても、そこに緊張の色は見えないし。
一応、BGMは緊迫感を煽ろうという感じなんだけど、かなり淡々と進んでいくんだよな。
ずっとスタジオの様子で進めると、それはそれで陳腐になっちゃう可能性が高いので、センターやテレビ中継を見ている人々の様子も盛り込みつつ、ブルベイカーたちの姿も描くという形にしておいた方が良かったんじゃないか。

火星上陸の中継があった後、コールフィールドが調査に動き出すという流れになる。トップ・ビリングはエリオット・グールドであり、だからコールフィールドが主人公のポジションで動き出すってのは真っ当な筋道だ。
しかし、彼を物語の中心に配置するタイミングが少し遅い。火星上陸のシーンより前に、「コールフィールドが主役」とアピールした方がいい。
そして火星上陸のシーンを「バレたら大変」というサスペンスを重視しない描写にするのなら、テレビ中継を見ているコールフィールドに重点を置く形にすればいい。
いっそのこと、そこで「なんか良く分からんけど違和感がある」とコールフィールドが感じる内容にしてもいいだろう。

あと、そもそも「予算をケチったせいで生命維持装置に欠陥があった」と2ヶ月前に発覚したのなら、そこから打ち上げまでに欠陥を修復したり欠陥の無い生命維持装置を用意したりすることは出来なかったのかとも思う。
それと、生命維持装置だけでなく耐熱シールドにも欠陥があったわけで、そもそも打ち上げ計画が杜撰すぎるでしょうに。
そんな杜撰な計画なら、中止になっても仕方が無いだろ。
そりゃあ予算の無駄遣いと言われても、反論の余地が無いわ。

耐熱シールドの欠陥が分かった時点で、ケロウェイはブルベイカーたちを乗せた飛行機を格納庫へ戻させる。
だが、そうなれば「宇宙船は帰還に失敗し、自分たちは死んだことになる。いたら邪魔だから消される」とブルベイカーたちが気付くのは容易に想像できる。
それにしては、ブルベイカーたちの監視がヌルすぎる。ただ部屋に閉じ込めてドアを開かなくしているだけなんだぜ。
そのドアも簡単に壊されるし、武装した警備の連中が目を光らせているわけでもない。だからブルベイカーたちは、格納庫から簡単に脱出できてしまう。

っていうか、そもそも既に用済みとなっているわけだから、せめて拘束しておけよ。
っていうか、まず「帰還に失敗した場合」の備えが無さすぎるんだよ。ちゃんと準備をしておけば、帰還失敗が明らかになった時点でブルベイカーたちを始末するための行動を直ちに取れただろうに。
コールフィールドの動きを察知した後の対処も甘すぎるし。FBIまで使って、麻薬所持の濡れ衣を着せて逮捕させたのに、あっさりと釈放になっちゃうから全く意味が無いし。
車のブレーキに細工&オープン・セットでの狙撃と、2度に渡って殺そうとしたのに、なんで3度目は逮捕&すぐ釈放というヌルい手段にランクダウンしているんだよ。

ブルベイカーたちが逃げ出すのは、もうすぐ物語が半分ほど過ぎようとしている辺りだ。
つまり、まだコールフィールドが「探査計画に何かあるのでは」という疑念をほとんど抱くことが無い状態で、もう「宇宙船は帰還に失敗し、ブルベイカーたちが逃亡する」という展開へ移行してしまうのだ。
そして、そこからは単純なサスペンス・アクションに突入する。
だけど、それは「せっかく使える要素を充分に使わないで捨てている」と感じる。

もっと捏造計画が進められる様子に時間を多く使って、「嘘がバレないように注意しながら芝居をするブルベイカーたち」「真実に見せ掛けるために細工を施すケロウェイたち」「疑念を抱いて調査するコールフィールド」という様子を厚く描写する構成にした方がいいと思うんだよねえ。
逃亡劇に突入すると、もはや「火星有人探査を捏造する」という仕掛けの意味が無くなってしまう。ケロウェイの策略の中身は、極端に言えば「何だっていい」ってことになってしまうのだ。ブルベイカーたちが荒野の逃避行をしている様子なんて描かれても、そこに面白味は無いし。
水が欲しくて幻覚を見るとか、独り言をブツブツと喋りながら崖をよじ登るとか、洞窟にいた蛇を石で殴り殺して食料にするとか、そんなのを描かれても「いやもう捕まるなら捕まるで、さっさとしてくれよ」と言いたくなっちゃうし。
それが単なる時間稼ぎ、もしくは脇道に逸れているとしか思えないんだよな。なんでサバイバル映画になっちゃってんのかと。

(観賞日:2014年9月23日)


1978年スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[O・J・シンプソン]

 

*ポンコツ映画愛護協会